燃ゆる龍、覇道の道征く   作:紳爾零士

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第276話

「…ぁ…あ?」

 

シルヴィアが目を覚ましたのは翌々日の夜のことだった。全身に裂傷と爆傷、火傷を負い、手、足、肋…十六箇所の骨折に毎時間、死の淵を彷徨っていたと言える。軽い毛布のスベスベとした肌触りと真っ白の電灯の灯りに照らされるシルヴィアの身体。起きたものの瞼は重く、視界は狭い。更には身体を起こそうとすれば、節々から鈍痛が響く。前線復帰にはまだ遠かった。

 

「…ん…ぁあ?」

 

ここが海軍の医務室であるということも理解できないほど霞がかった頭の中。ぼやける視界の中で必死に目を凝らすと、近くに彼がいることがわかった。

 

「…ボウズ…。」

 

「…お前、なんで俺を守った。」

 

開口一番。バンドラが口にしたのはその言葉だった。

 

事実、バンドラは死んでもよかった。いや、良くなったのだろう。自身の中で見た海兵へのヒーロー像とは程遠い…まさにリアル。それを体験したのだ。バンドラは自身の胸に残る疑問をぶつけた。シルヴィアは困ったように微笑み、ゆっくりと話し出す。

 

「…アタシはさ…。息子を…失ってんだよね…。この仕事に着いたのも…息子が死んだから…夫が死んだからだよ。…海賊に殺されたんだ。」

 

「…。」

 

「その日から毎晩のようにうなされたよ。…アタシが死ねばよかった。息子の身代わりになればよかったって。…でも、アイツら…お前は良い女だから生かしてやるってさ。…クソ喰らえってぶん殴ったら、ボコボコにされてさ。…でも、生き残った。『母さん、母さん』って泣き叫ぶ息子の顔が頭に浮かぶよ。

 

けど、いつまでも後ろ向いてはいられない。アタシみたいな人をできるだけ少なくしなきゃなんないって考えたら…居ても立っても居られなくて…お鶴さんに拾ってもらったよ。ここまで来たのは執念だ。」

 

そう言うシルヴィアの顔は清々しく微笑んでいた。

シルヴィアはバンドラの方へゆっくりと視線を向ける。バンドラはズボンに皺ができるほどギュッと掴んでいた。シルヴィアははぁ…とため息を吐くと、バンドラの頭にぽんっと手を置いた。バンドラは少し驚いたように目を見開く。

 

「…アタシの息子もな。海軍をヒーローだと思ってたよ。悪者に襲われた時、いつだって子どもが呼ぶのはヒーローさ。でも、あの子にヒーローは訪れなかった。…バンドラ。アタシに悔いはないよ。だって生きてるじゃないか。儲けもんだよ。」

 

「……。」

 

「…アタシの前では強がらなくて良いんだ。お前はまだ子どもなのだから。」

 

歯を見せてにっと笑うシルヴィア。

その顔を見るや否や、バンドラの視界が少し霞み、湾曲する。熱い液体がバンドラの頬を伝う。

 

「親に捨てられた子は誰に縋ることもできない。だから、アンタが逃げる場所に私がなれたら良いと思ってる。…アンタは何も悪いことはしてないんだから。」

 

「…っ…。」

 

「こんな世界に生きてるんだ。多少の火傷なんて屁でもない。だが、アタシが死んだら…アンタはひとりぼっち。だからね?…アンタも好きな女の1人や2人、見つけな。何人でも良い、アンタが信用できる仲間を見つけな。…それまでアタシは死なないから。」

 

そう言って微笑むシルヴィアにバンドラは声を押し殺して泣く。ポロポロと流れ落ちる涙。地面に落ち、跳ねる水滴。シルヴィアは泣くなと笑っていた。それを医務室の扉の先でセンゴクが微笑んで聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そして現在。

 

「…だからな。ビビ。」

 

ベッドの横で座るバンドラに対して、ビビが小首を傾げる。バンドラは穏やかな笑みを浮かべ、ビビの頭を優しく撫でた。

 

「お前は…いや、お前たちは俺にとって大事な…信用のできる仲間だ。お前が努力して、強くなろうとしているのは知ってる。」

 

…真夜中まで木刀を振り続け、ビビは倒れた。水分もそうだが、疲労の蓄積が大きい。今のビビも身体を起こす力はあるものの、バンドラの頭を撫でる手に伝わるのは生々しい熱。赤く紅潮する顔は先ほどよりも多少は薄くなったものの、まだ元気には程遠かった。

 

キョトンとするビビに優しく低い声でバンドラは言葉を紡ぐ。

 

「…アラバスタを守るという気概は十分わかる。だが、守る為に力をつけているのにそれで倒れちゃ…ちゃんちゃらおかしい話だ。」

 

「え…えっと…それは…。」

 

「大丈夫。責めてるわけじゃねえ。お前がアラバスタを好きなのはわかってる。でも、無茶だけはするな。お前が一声かければ、俺達も…ルフィ達もお前のために動くんだから。」

 

…そう言って微笑むバンドラ。かつての母代わりの彼女のように…ただ優しくビビの青髪を撫でていた。ビビは下を向く。そこには真っ白なベッドの掛け布団の上に置かれた自身の腕があった。

 

硬い木刀を四六時中…眠る暇も削って振るい続けた手はボロボロで。掌の皮も少し捲れ、赤い血肉が露わとなっていた。血は出ていないものの、風にあたるだけで痛みが走るほど。

 

細くしなやかな指にはタコと切り傷があった。

 

「…まだ…ヤマトさんや…モネさんみたいに…前線を任せてもらえないから…。」

 

ポロポロと流れる涙。ビビは自分が情けなかったのである。彼女の頬を伝い、流れ落ちる涙はその無念の心を示していた。皺ひとつない真っ白な掛け布団を握り、皺を作る。

 

「…私は…ぐすっ…まだ弱いんじゃないかと思って…!!」

 

「…お前は強いよ。だけど、お前以外が強すぎるんだ。…でもね。強くなるチャンスは皆に平等にあるんだよ。それをお前は探しすぎるんだ。だから、結局、体が耐えきれなくなるんだよ。…一緒に強くなろう。でも、今度は…倒れないようにな。」

 

「…うんっ…!!」

 

バンドラの身体にギュッと抱きつくビビ。涙で濡れた顔はぐちゃぐちゃだった。バンドラは静かに目を細め、微笑んでいた。その頭を優しく撫でる。

 

モネ達はその様子をずるく思いつつも、微笑ましく見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ビビが泣き疲れたのか、眠りにつく。バンドラはその様子を見ると一度家の外へと出る。そして、電伝虫の受話器を手に取った。

 

「…俺だ。久しぶりだな。」

 

『…最近じゃあ雲上人…だな。海の皇帝…五皇じゃないか。何の用だ?実食い刀…いや、今は狂骨か。それのメンテナンスか?』

 

「いや、別件だ。ジャッジのやつには前に世話になったし、それにこの一件はお前達が適任だと思ってよ。」

 

『…我々は武器職人ではないのだが…。で、なんだ。何が目的だ。』

 

電話の向こうの人間はひどく呆れていた。

バンドラは目を細めて笑い、夕焼け空を眺めていた。

 

「女でも軽く触れる光り物を2本。用意してもらいたい。刀身にゃ海楼石を仕込んで。」

 

『…正気か。海楼石を仕込めば、そこそこの重さを誇るぞ。軽くするなら普通の鉄鋼を少なめにして、細剣のようにした方がいいだろう。そうすれば密度も変わる。』

 

「レイピア…か。…だが、それじゃあか弱い女の力じゃ肉を食めねえ。」

 

『だったら、ダガーのような短刀か。』

 

バンドラの注文はこうだ。

女が二刀で自身をガードしながらも軽く扱いやすく戦いやすい刃物。電伝虫口の声はそれに難航していたのだ。

 

『…覇気は。』

 

「能力者との戦闘は俺のように暗器を使えばいい。銃も持たせるつもりだ。死んでもらったら困る子だからな。まぁ、他の子達が死んで良いってわけじゃねえけど。」

 

『…なるほど。であれば、片方はワノ国のくノ一のような細く鋭利な刀、もう片方は脇差のような短いもので行こう。脇差といってもサイズは扱いやすい掌サイズだが。何を仕込んでも良いのだな?』

 

電伝虫口の声にバンドラはニヤリと笑った。

 

「こっちがやられねえ程度にな。頼んだぜ?……(シャカ)。」

 

『ふん。金とボディーガードは続けてくれよ。バンドラ。』

 

そう言って(シャカ)の声は無くなった。

バンドラはそれを聞くと電伝虫の通話を切った。

 

「…形から…だな。ビビのやつは間違いなく強くなってる。この先は何が起こってもおかしくない。王女様が見てわかる武器を持ってちゃダメなんだが…まぁ、今は俺のところの構成員だしな。…それに…海軍との、ティーチとの全面戦争にも控えなきゃ行けねえ。」

 

そう独り言をいうや否や、バンドラはビビの元へと歩いて行った。

 




戦闘スタイル(実・武器)
バンドラ…ワザワザの実、狂骨、苦無、煙幕弾、手裏剣などの暗器
ヤマト…イヌイヌの実モデル大口真神、建
ウタ…ウタウタの実
モネ…ユキユキの実、終雪
シュガー…ネコネコの実モデル雪豹、指甲冑、鉤爪
スムージー…シボシボの実、剣
エース…メラメラの実
カリファ…アワアワの実、鉄鋼鞭、棘鞭、銃、投げナイフ
ビビ…二振りの刃物、銃、手裏剣などの投擲武器
レベッカ…剣

って感じです。できるだけ被らないようにしたいんだけど、ただでさえ斧とかは使えないしね。では。
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