燃ゆる龍、覇道の道征く   作:紳爾零士

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第277話

…ポーラタンク号、船内。

 

「無理無理無理ぃッ!!魚の内臓とか触れないっ!?」

 

…レイジュは青ざめながら、包丁を握っていた。

 

ことの始まりはレイジュが外科手術も学びたいと言ってきたことに起因する。ローは考えた。人の身体を捌くにはまずは生物の体を捌くことに慣れねばならない。ローは医者だ。故に中途半端な手際で人の命を扱うことに関しては黙認できない。であるから、先ずは慣れさせるためにと魚を用意し、捌かせているのだが…。

 

「なら無理だ。諦めろ。」

 

「そんな冷静に言うなッ!?ぎょ、ギョロって…しかも…ピクピクしてるぅ…!!」

 

…レイジュ本人もびっくりだったが、あまりグロいものに耐性がないらしい。毒殺を好むレイジュ。人の身体を捌いたり、人を両断したりといったことには全くではないが、縁遠い。

 

まな板の上の魚はすでに絶命しているにもかかわらず、ピクピクと筋肉が稼働していた。ジトーと冷たい視線を向けるローに、ほぼ涙目で睨むレイジュ。

 

「ど、どうしたらいいのよ…ッ!?」

 

「先ずは血を抜け。ドバドバ出てるぞ。血ぐらいなら触ったことぐらいあるだろう。」

 

あわあわと慌てるレイジュにローはため息混じりに指示を飛ばす。ぎこちない動きのレイジュをローは後ろから見ているのみであった。

 

このままではポーラタンク号の調理場が血の池地獄になってしまう。医療行為ならば、血を抜くなんて御法度だが、今回の目的はあくまで肉を捌く感触に慣れること。ピーピーと騒ぐジェルマの長女の姿にローは何度目かのため息を吐く。

 

海の戦士ソラで見たジェルマとはここまで腰抜けだったのかと。いや、バンドラ(あの男)と出会って腑抜けになってしまったのかと…。

 

「う、あうっ…ヌメって…!!」

 

「天帝屋の役に立ちてえんだろ。ジェルマの話を教えることと俺の仕事を手伝う代わりにお前は医療の知識と覇気を学ぶ。お前が提示した条件だ。」

 

「…意地悪な人ね。ひゃっ!?(血が)ビュッてっ!?吹き出して…!?」

 

「五月蝿え。」

 

ローは髪を荒っぽく掻きむしるとポーラタンク号の操縦室へと歩いていく。

 

「ちょ、ちょっと!?待ちなさいよっ!!」

 

「待たねえ。」

 

レイジュは血を何とか拭き取るとドタドタとローの後ろを追いかけていく。潜水艦たるポーラタンク号は真っ暗で静かな海底を優雅に泳いでいた。

 

「…海賊島ハチノスはまだか。」

 

「キャプテンっ!!もうすぐだけど…そんなとこ行って何するの?」

 

「…そうか。いや、気にしなくても良い。」

 

ローは操縦室の後ろの壁に背中を預けて、ふぅ…と息を吐いた。ローの目の前にはハートの海賊団の航海士、白熊ミンクのベポが立っていた。くいくいっとローが手招きをするとトコトコとベポが歩いてくる。そのベポの身体をローはギュッと抱きしめ、息を吸っていた。

 

「あら、貴方も可愛いところあるわね。」

 

「誰かさんのせいでストレスが溜まるからな。」

 

「むっ。やっぱ可愛くない。バンドラの方が全然可愛げあるわ。」

 

口元を膨らまし、ローを睨むレイジュ。

ローはベポに口と鼻を埋めながら、隈のある目でレイジュを見ていた。

 

今のレイジュはハートの海賊団の船員服を着ており、彼女のボディーラインは少しは出ているもののいつもの服装よりかは抑えられていた。

 

…そういえばとローは思い返す。レイジュはよくバンドラの話をしているが、親兄弟の話よりも頻度は多い。そりゃ船長なのだからといつもは聞き流していたのだが…。ふと、聞いてはならない気もするが気になったのでローはベポを抱きしめたまま、口を開いた。

 

「…お前、もしかして医療の知識を得たいのって…。」

 

その言葉を聞いた瞬間、レイジュが意味ありげにニヤリと笑う。聞きたい?…と聞く顔には僅かに影が差し、ローとベポの背に何か冷たいものが走った。まるで開けてはならないパンドラの箱を開けてしまったかのように…。

 

「んふふっ。だって…船医になればずっと一緒に居られるじゃない。それに、怪我した時は触り放題なのよ?服の下も、どこでも…。船医の特権だわ。私はね?優位に立ちたいの。怯えてる時のバンドラって…良いのよ?」

 

「知るかッ!!」

 

…ローが声を上げる。

ベポもローも少し…いや、だいぶとレイジュに対して恐怖心があった。背筋が凍るような感覚は例え、仇敵と接敵したときであっても、なかったであろう感覚であった。…しかし、次の瞬間…レイジュの顔は優しい微笑みへと戻る。背中で指を絡め、振り向き、ローの方を見るレイジュ。

 

「それに…何もできないって嫌なのよ。ウチの船長は身体を張ることを厭わない。だから、誰かが優しく手当てしてあげないとすぐにへたれてしまう。それが出来るのは私くらいでしょ?」

 

「…知らねえ。」

 

「むぅっ。やっぱり可愛くないわね。」

 

目までベポに埋め、こもったような声でそう言うロー。レイジュはじとっとした目で頬を膨らませてそっけない態度のローを見ていた。

 

「で?今はどこに向かってるの?」

 

「…お前には関係ないことだ。」

 

「まぁいいわ。別に興味はないし。」

 

そう言ってベポのところへとトコトコと歩いていくレイジュ。モコモコとした白い塊と化したベポを背もたれに伸びをするレイジュにローはおい…と低い声で言うがレイジュは気にも留めていなかった。

 

「…ねぇ。トラファルガー。」

 

「なんだ。」

 

「…例えば、数時間程度…睡眠を阻害するけれど毒性のない薬とか…作れないかしら。」

 

ボソリとそう呟くレイジュにローはジトーとした目で睨む。

 

「…何に使う気だ。不健全な使い道はやめろよ。」

 

「私をなんだと思ってるのかしら。やるとするならバンドラによ。」

 

「…やるのかよ。」

 

いかんせん、バンドラが不運だと思うロー。ジトーとした眼差しの冷たさをさらに強めるものの、レイジュの思い詰めたような顔を見て、顔をベポから上げた。

 

「もし可能性があるとするならネズキノコだ。だが、あれは食べたものの睡眠欲を阻害する効果はあるものの、人の性格の凶暴性を高め、死に至らしめる。劇薬だぞ。」

 

「…それは毒かしら。毒なら中和すれば良いわ。効能を睡眠欲阻害のみにして、毒性を完全に抜いてしまえば服用薬として使えるんじゃないかしら。」

 

「…さぁな。なんにせよ、触らぬ神に祟りなし…ってやつだ。しかし、なんでいきなり…。」

 

さぁね…とはぐらかすレイジュ。

ローは聞いたものの興味がそこまでなかったのだろう、すぐに立ち上がり、操縦室のハクガンの元へと歩いていく。レイジュは首をコキッと鳴らすと、耽るように天井を眺めた。

 

「…ウタがウタウタの実の力をなんのしがらみもなく使えるようになるには…覚醒が必須か。でも、能力者じゃないからさっぱりだわ。…後、シュガーの力を最大限活かすには…例えば…たしか、ミンク族に会ったとかバンドラ言ってたわよね。…丸薬とかそう言うのでミンクの力が使えるようになれば…ヤマトには関係なさそうだけど。」

 

「何言ってるの?レイジュ。」

 

ボソボソと呟くレイジュにベポが小首を傾げる。レイジュはふっと微笑むとなんでもないと言いながら、ベポの頭を優しく撫でた。

 

「なんでもないわ。ただ、いつまでもバンドラの力に頼ってちゃダメだと思ってね。ドーピングじゃないけれど、私がみんなの戦力アップの手助けでもできたらなって。」

 

「なんか凄いけどあんまり1人で抱え込んじゃダメだよ?」

 

「ふふっ。ありがとう。貴方はどっかの誰かさんと違って可愛いわね?ウチにも動物が欲しい…いや、いっぱい居たわ。白い犬も白い猫も…なんなら、黒い龍も居たわ。みんな可愛い…。何してるのかしら。みんな。」

 

そう言ってレイジュはベポの頭を撫でながら、視線を上に上げた。




この前の後書きにレイジュを書き忘れてたことをお詫びします。
レイジュは何もしなくても戦えます。基本は毒に関する知識を使ったり、薬剤に関する知識を使ったりする感じのキャラです。戦いに使ったり、夜の戦いに使ったり?…バイアグ…こほんこほん。…よくこの人、バンドラと逸れて我慢できてるなぁ…。

あと、ウタはものすごい強化します。No.3の一応今はエース(スムージーは今はビッグマム海賊団からの借り物的な立ち位置)と同等ぐらい。強さのベクトルが違いますが。流石に四皇娘息子ズは強くいきたいです。では。
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