燃ゆる龍、覇道の道征く   作:紳爾零士

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遅れて申し訳ない。


第298話

「うぃ〜…ひっく。つまらねえなぁ…。」

 

…船の前に倒れていくは、死屍累々。ヒョウモンダコの魚人、ヒョウゾウは酔い覚まし…いや、酔いながらとっくり片手に人間の奴隷を切り裂いていた。

 

彼にとっては生きた人間も、刀を鍛えるための肉人形。

 

「荒れてるね。ヒョウゾウくん。」

 

「ヒック…あぁ?何者だぁ…?ガキ。」

 

ヒョウゾウは目の前の子どもに斬りかかろうと刀を振り上げた。しかし、その刀は子どもに触れる前に子どもの後ろから出てきたマネキン人形のようなものに捕まえられ、止まる。

 

「ぐっ…ぐっ!?」

 

…刀は全くもって動かない。

少年は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「麦わらのルフィ、彼もまた台風の目か。船長の道程の邪魔はさせない。」

 

黒色の目の向こうは闇。

顔に縫い目のある少年は不敵に笑い、前を見る。

 

そこにはこのクーデターの主犯たる2人の魚人がいた。

 

「…テメェ、俺の同胞に何しやがる。」

 

ホオジロザメの魚人はギロリと少年を睨んだ。その目の奥に狂気を孕んで。少年は両手の指を顔の前でつけ、笑っていた。

 

「私たちは君にネプチューン王朝を崩してもらわねば困るんだ。これだけ壮大な実験をしてるんだから。」

 

そう言って、マネキンが作り出した椅子の上で足を組んで肘置きに肘を置く。魚人の形をしたマネキン達がだんだんと周りの船員の有象無象に恐怖心を植えつけた。

 

少年は…三日月型に口元を歪め、笑う。

わらわらと生えてきた無機質な腕は、ホオジロザメの魚人を掴んで離さない。

 

「…野心、向上心、失意、殺意、憎悪、嫌悪…エトセトラ…。」

 

ボソボソと呟き、後ろを向く少年。

のけぞるその姿は生きているようで…操られているような…不気味さを感じさせる。

 

「愛、憂い、郷愁、儚い。…ホーディ。君には期待してるんだ。…モンキー・D・ルフィは私の…いや、俺の道程に邪魔なんだよ。」

 

…ホオジロザメの魚人…ホーディ・ジョーンズとの顔の距離をつめ、そういう少年。少年の雰囲気がそのとき、笑みが消え、冷たく鋭い殺気へと変わる。ホーディはその様子を無表情で睨む。

 

「…海賊王になると世間に波乱を生む。その発言の意味を考えない無鉄砲さ。あれを壊さないとマグロディズマが海賊王になれない。友達だから、アイツの夢は俺の夢なんだ。だから…邪魔だけはさせない。」

 

「…ふん。」

 

「…そういえば、来てるらしいねぇ。最近、話題の彼。」

 

そう言って少年は一つの手配書を見てニヤリと笑った。そこにはバンドラの姿が写し出されていた。

 

「強いよ?どうする?」

 

「四皇?…笑わせる。そんな馬鹿どもは、この俺が成り上がるための足がけにしてやるさ。」

 

そう言って歯を剥き出しにして笑うホーディ。その笑みに対し、少年は…無表情となる。

 

「ジョークにしては程度が低いね。…言っておくけど君たち程度じゃ、彼が逆立ちしてても勝てないよ。ワザワザの実を極めた男。…ワザワザの実について調べ上げたんだけどさ。…面白いんだよ。あの実。」

 

「…あ?」

 

「ワザワザの実の災いを起こすだけに能わず。…相手の技を盗み、それを昇華、誇張する力を持っている。大袈裟に『災い』なんて言ってるだけで、ネズミ花火とかでもやろうと思えば、山火事を作り出せる。やろうと思えば、魚人空手をしながら、波を凍らせることも、電撃を纏わすこともできる。…他に色々あるのに使わないのは、彼が本質を理解していないからかもね。」

 

…要約すれば、ワザワザの実は二つの特色を持っている。『技、現象のコピー』と『災害レベルまでの昇華、誇張』。

 

例えば、エースの『火拳』を使おうと思えば、そっくりそのままバンドラを使うことができる。違うのは重さのみだろう。言うなれば、猛者と戦えば戦うほどバンドラが強くなる。カイドウと戦い、天神災害を顕現したのはカイドウの圧倒的なパワーを子どもながらに模倣したのち、出力を100%にしたから。だから、カイドウでも傷を負った。しかし、そんな理屈はカイドウには関係ない。

 

カイドウは戦いながら学ぶ生物。相手が強いか、自分を殺すに値するかを。極でリミットをようやく100%以上…102%ほどまで引き上げることが出来るようになったものの、制御可能とはいえ、全力で戦い続ければいつかガタが来る。筋肉痛のようなもので使い続ければ、その出力になれ、もっと強くなれるのだが、その本質をバンドラは100%理解していない。

 

仲間を守るために使っているだけなのだ。

 

「ネタはとっくに…。船長はドフラミンゴと共に、あの化け物を攻略する方法は考えてある。…先ずは大事な人質だ。もし、自分の命よりも愛し、自分よりも大好きな仲間のことをもし永久に忘れるとするならば。一時でも忘れるとするならば…。」

 

そう言って口角をにいっとあげる少年。そこからは見た目のあどけなさなどは一切なく、純粋ゆえに悪鬼のもの。純最悪そのものだった。ホーディですら、その異様な覇気に、汗を流す。

 

「ホーディくん。…君がもし、ここで生き残れば、エネルギーステロイド(そんなもの)よりもいいものをあげよう。全ての人間を嘲笑できる力を。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺せェッ!!」

 

同刻、ネプチューンのいる城へと向かおうとするバンドラたちを迎え撃つように傾れ込むのは、新魚人海賊団の面々。従来であれば、10万ほどの人数だったが、その数は10万をゆうに変えていた。

 

「面倒だな。」

 

バンドラはそう言いながら、キッと前を睨む。

すると目の前に控えていた魚人たちはほとんど…いや、全員、その場に倒れ伏した。

 

「…これが、皇の覇王色。」

 

その芸当に隣を走るエースは息を飲んだ。エースとて覇王色を放つことはできる。しかし、エースでは半分以上を気絶させる程度だろう。この男…バンドラはそれをまるで呼吸をするかのように、当たり前に成した。まるであの白ひげを見ているかのように。

 

「なんじゃあ!?大地が揺れよった…!!この緊急事態に何しに来よった…!?天帝ッ!!」

 

「面倒なのを呼んだみてえだ。」

 

足の動きを急激に止め、ブレーキをかけるバンドラ。その向こうには恰幅のいい魚人がそこに立っていた。

 

「…アンタならわかんだろ。そこを退け。ジンベエ。」

 

談笑を許す暇など今の魚人島にはない。

まさに戦乱。怒号とあたりから立ち込める血の匂い、硝煙の匂いはその戦いの大きさを示していた。

 

「ネプチューンとの此度の約束を果たしに来たんだ。アンタならわかんだろうが。」

 

「…この戦乱を呼び寄せたのは人間じゃ。人間がホーディを唆した。ホーディはネプチューン王朝を転覆し、人間を皆殺しにするつもりじゃ。魚人が人を隷従させる。…そんな世界を作るつもりじゃ。ええか。それを唆したのは…五皇のうちの誰か。」

 

そう言うとジンベエの目がキツくバンドラに突き刺さる。異様なまでの殺気の中、バンドラ以外は慌てる。相手は七武海…海峡のジンベエだ。

 

「やめろッ!!ジンベエッ!!バンドラがそんなことするわけ…ッ!?」

 

「…ワシもそれは知っとる。じゃが、少しの疑念がある以上、他の里のものは納得できんのじゃ。だから、エースさん。すまんの。…アンタらをここから先に通すわけにゃいかん。もし、行くのならば。」

 

静止するエースの声をよそに、バンドラは狂骨を引き抜く。鞘に掠れた純鉄の音があたりに響き、静かにゆらゆらと揺れるような地鳴りが響き渡った。

 

「すまねぇな。いつもなら、殴り合いで決めるところだが…急用ゆえに全力で行かせてもらうぞ。…ネプチューンとは約束があるんでな。」

 

そう言って地面を蹴る足に力を入れるバンドラ。直後、地面が窪み、それを中心に地面にヒビが入る。

 

「誰も手ェ出すなよ。…『覇刃・火音(かいん)』…!!」

 

…直後、ジンベエの目の前からバンドラが消える。比喩ではなく本当に。あるのは地面を蹴り出し、走り出した時に発生した少しの砂埃のみ。

 

エースたちは止めることすらできなかった。

 

「『梅花皮(かいらぎ)』ッ!!」

 

ジンベエは見えぬ相手に武装硬化した手を十字に組んで対応。一旦はバンドラを見る手筈だった。

 

その予測通り、ジンベエの前方からバンドラが現れる。心臓を掴まれたような異様な感覚はよそに、足腰に力を入れ、その一撃を受け止めようとする。

 

狂骨を持ち、振り上げるバンドラの両腕は大きく筋肉、そして、血管が隆起していた。黒化した斬撃は空中で火を纏い、刃を伝って炎上する。そのまま振り下ろされた軌跡を炎が描き、ジンベエの腕へと届いた。

 

「ぐぅっ!?」

 

ジンベエはその一撃をなんとか堪える。受け止めた腕は筋肉、血管が隆起し、少し鱗が焦げているように見えた。切れてはいない。しかし、地面はジンベエを中心に大きな円形のクレーターを作り出していた。

 

「…流石。」

 

バンドラは静かにそう言うと何かを察したかのようにバックステップで飛ぶ。次の瞬間、コンマ1秒でバンドラの眉間を穿つがごとく、ジンベエの拳が迫ってきた。…結果、空を切ったものの、空気が爆ぜる音が響き渡る。

 

砂塵を上げながら、地面を滑り、避けるバンドラ。前髪がゆらりと揺れている。

 

「…ぐぅ。これほどまでも。」

 

経験はジンベエの方が上だ。しかし、戦い方、その全てがバンドラが凌駕していた。ジンベエの額から汗玉が流れる。

 

「…煮え切らねえ。アンタほどの野郎が、何故拳を納めねえ?」

 

「…魚人の歴史は差別の歴史。悔しいがな、ここの人々の苦しみ、悲しみ、怒りたるや凄まじいもんじゃ。…ワシはの、この里の奴らを必ず守り切ると決めとるんじゃッ!!たとえどんな障害にも…負けやせぬ…ッ!!」

 

そう言って構えるジンベエ。

恐らくは、バンドラの覇気に他の魚人たちが恐れ慄いているのだろう。だからこその凄まじい怒気。目を見開き、拳を硬く硬く紡ぐ。

 

「…あぁ、そうかい。」

 

それに応えるようにバンドラは息を吐き、刀を横向きに構えた。その声は若干、諦めているかのような…そんな低く息の混じった声だった。

 

「俺はさ。約束は守らなくちゃならねえんだ。…ネプチューン王とはお前ら魚人が…人魚がッ!!日の光を浴びることのできる国を作るって…約束したんだよ…ッ!!」

 

「…なぁ!?」

 

歯をぎりりと鳴らし、目を見開くバンドラ。その咆哮は天へと届き、空気を伝い、爆音と化す。ジンベエはその声に驚くのも束の間、バンドラの剣を持ってない左腕に青赤黄色の電撃が纏わりつく。

 

「悪いが、今の俺は誰にも止められるわけにゃいかねえんだッ!!爆ぜろ…!!『空殺雷鼓』ッ!!」

 

目の前の空気を祓うように左腕を動かす。するとその動きに連鎖するかの如く、天空からいくつもの雷が降り落ちる。ジンベエはそれを走って避けるが、落雷は鬼。逃げ惑うジンベエを逃すまいと上から降り続く。

 

「なんちゅう出鱈目なッ!?」

 

「…俺は終わらねえんで。」

 

その直後だった。

雷が…切られ、蹴られ。バンドラに向かって2人の男が走ってくる。バンドラはニヤリと笑い、その刀と蹴りを狂骨で受け止めた。

 




バトルバトルバトル…。
次回もバトル、その次もバトルです。というか、ホーディとバンドラはやらないからね。やるのは…あのクソババア。では。

スッ…

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