燃ゆる龍、覇道の道征く   作:紳爾零士

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第34話

…史上初、まだ無名の歌姫のライブはドレスローザで決行する。その数時間前、バンドラはエレジアに滞在していた。

 

「…ウタが…ライブを…。」

 

「そうだ。…せめて、アンタには聞いてほしいってさ。」

 

音楽の国の王…ゴードンは堪える。

ウタは歌を辞めたわけではない。寧ろ、前にも増して歌うようになっていた。シャンクス達との別れにより、縋るものがそれ以外無かったから。人前で歌うことはゴードンもウタも思い出したくない現実を思い出してしまう。あの日、守れなかった命が。あの日、起こしてしまった惨劇がまだゴードンとウタに絡みついてるように感じてしまう。

 

「私は…。」

 

…次にいつトットムジカが現れたら。

エレジア以外では起こらないとは言えない。音楽家として、楽譜を捨てることができない毎日。燃やすことも破り捨てることも考えた。だが、それでゴードンの心は乾くばかりで…。

 

「…なぁ、ゴードン。もう許してやれよ。自分を。」

 

「…許せるわけがないだろう。エレジアの国民全員の総意だ。私はそれを一身に背負っているッ!!」

 

「だが、お前が思い詰めることでウタはさらに苦しむぞ。…彼女は今、自由に羽ばたこうとしている。たった二人の父親として、見守ってあげてくれ。」

 

…何も知らないバンドラはそう付け足す。

幾ら、ゴードンでもあの日のことは許せない。だが、たった1日。娘の歌を聞くだけなら…国民達もその咎から許してくれるだろう。

 

「…わかった。連れて行ってくれ。」

 

「あぁ。」

 

風を起こしてドレスローザへ。

最短かつ最速で向かう。ドレスローザへと着くと、船を止め、バンドラとゴードンはステージのある花畑へと向かう。天気は晴れ。青空と柔らかに吹く清風に心を落ち着かせ、花の匂いがやさしく香る。そんな日だった。

 

バンドラはゴードンは港の食事処に待たせ、そこへと飛んでいく。見ればそこでは歌姫が今なお、いつもの服に着替え、喉を整えるところだった。

 

「バンドラっ!!」

 

バンドラが来たことにウタは喜ぶ。

ライブまであと数時間。バンドラはステージ横のスタッフルームで座るヤマトの横に座った。

 

「…あと数時間か。ウタちゃん、大丈夫かな。」

 

ヤマトは自分よりも幼いウタを心配する。

赤髪海賊団だったときとは違い、誰か特定の人間がいるわけじゃない。今回はこの広いドレスローザの民全員が国王を魅了したウタの歌を心待ちにしているのだ。バンドラは腕を組んでニヤリと笑う。

 

「あの子なら大丈夫さ。」

 

ウキウキとしているウタの姿を見て、バンドラが言う。それは優しい声だった。ヤマトもそうだねと返す。この数日間ならウタの歌の素晴らしさをよく知る二人が言うのだ。間違いない。

 

時間が経ち、会場が人々でごった返す。

 

「キュロスっ!!ほらっ!!」

 

「待ってくれッ!!スカーレットッ!!」

 

少し離れたところで、ウタを信じてくれた元大国軍隊長キュロスとその嫁であるスカーレットがやってくる。スカーレットは手に娘…レベッカを抱き、花畑の無い椅子のある場所へ座った。

 

リクドルド3世とヴィオラ、モネ…そしてその妹シュガーの姿も確認できる。ゴードンはバレないように遠くで聞いていた。

 

聞こえる声にウタは正直緊張していた。

耳の良いウタは隅々までその声が聞こえる。…私は集まってくれた彼らに応えられるだろうか。そんな不安が少女の成長途中の小さな胸の鼓動を早める。バンドラはそんなウタの背中をポンっと優しく叩いた。

 

「大丈夫。不安がるな。…お前の歌の凄さは俺たちが一番知っている。」

 

「…バンドラ。」

 

「ウタちゃんっ!!頑張ってっ!!」

 

「…ヤマト。」

 

にっと微笑むバンドラと胸の前でギュッとガッツポーズをするヤマト。そのいつもと同じ二人にウタはある種救われた気分になった。

 

「うっし。ヤマト、行くぞ。」

 

「うん!!」

 

…ここまで来ればバンドラ達はただの足手纏いでしかない。バンドラとヤマトはスタッフルームから去って行った。

 

刻々と時間を刻む時計。

やると決めたのだ。幼馴染と二人の父、そして、ちょっぴり変態な兄と姉のような妹のような二人に届くように。歌姫はステージへと立つ。

 

「皆んなッ!!ウタだよッ!!」

 

ライブの始まりを告げる少女の声。

観客は無名の彼女のその声にドッと湧く。圧倒されそうなそれは少女にとって最高の賛美であった。

 

そして、ドレスローザの精鋭達によるバックミュージックと共に歌姫のライブが始まる。

 

「バンドラくん。」

 

「リク王陛下。」

 

バンドラとヤマトはリクドルド3世達の所へとやってきた。リクドルド3世達もその声に耳を傾け、心を通わす。相変わらずのその歌は、子どもの声…上手い程度と侮ることなかれ。世界中でこの少女にしか出せないであろう天使の声は聞くもの全ての心を動かさせる。

 

ここまで来ればウタの独占場。

夢にまで見たライブ。いつもの景色に声と手拍子が足され、ウタの心を満たす。……楽しい、と。

 

「…凄いね。ウタちゃん。」

 

「当たり前だ。未来の…いや、新時代の歌姫だぞ。」

 

そう言ってバンドラは笑った。

ヤマトはバンドラの肩に頭を寄せながら聞く。

 

バンドラがふと後ろを向くと、エレジアの元国王…ゴードンは泣いていた。どれほど自分を責めただろう。いや、これからも責め続けるだろう。…ただ今はこの子の歌を褒めてあげたい。自分の愛したこの歌を。音楽の国の王か、はたまた一音楽家か、それとも父親としてか。言いようもない満足感がゴードンの胸をいっぱいにした。

 

…長い…長いライブは終幕を徐々に迎えようとしている。最後は海賊としてのウタと音楽家としてのウタの代表する曲…『新時代』。

 

幼馴染が応援してくれた自分の目指す新時代。

配信はしてないけれど、風に揺蕩い、あの村へ。とどけようとウタは精一杯歌い切った。歓声、拍手喝采。観客にはバンドラ(泣く者)ヤマト(喜ぶ者)も多種多様な反応を示した。

 

「ありがとうっ!!皆んな、またねッ!!」

 

齢11歳の歌姫による史上初の単独ライブは大成功を収めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ウタ。」

 

スタッフルームにゴードンは向かう。

ウタはその懐かしい顔にハッと笑い、彼の胸へ飛び込んだ。

 

「ゴードンっ!!来てくれたのっ!?嬉しいっ!!」

 

「いや…バンドラ君に連れて来られてね。…素晴らしいライブだった。」

 

十数年間。片時もあの頃のことは忘れていない。しかし、なぜだろうか。自分が段々と虚しく思えてきた。若い少女は過去を知り、それでも戦おうとしている。…それなのに自分は。

 

ゴードンはウタを優しく抱きしめる。

自分から離れ、一人戦う娘に…。歌の対価ではなく、父親として愛情を…。

 

「…ウタ。元気で。」

 

「うん。ゴードンも。」

 

ふっと笑うゴードン。その抱擁を見る者は誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あらら。凄えな。最近の嬢ちゃんってのは。」

 

もう客がいなくなり、静けさのみが残るライブ会場。バンドラとヤマトの前に立つ男は謎の威圧感を放ちながら、寝っ転がっていた。

 

バンドラもその男に威圧感を飛ばす。

ヤマトは慌てていたようにも見えたが、金棒をガシッと握っていた。

 

「何のようだ、海軍大将。」

 

「まーそう怒りなさんなって。昔のよしみじゃないの。」

 

男は指でアイマスクをあげて、笑った。

ヤマトは海軍大将?と小首を傾げる。

 

「…海軍大将、青キジ。海賊にとっては天敵の海軍において、最高戦力と言われている3人の大将のうちの一人だ。」

 

「な、なんでそんな人が…バンドラを…。」

 

「ん?あー…なんだっけ。忘れた。」

 

そう言って後頭部を掻く青キジにバンドラはジトーとした目を向ける。青キジは思い出したと言い、起き上がり、胡座をかいた。

 

「お前、海軍に戻っちゃくれねえの?」

 

「それはセンゴクさんにも言った。立場だけじゃ何も変わらねえんだよ。」

 

「なるほどなぁ。一理あんじゃねえか。…んじゃあ、王下七武海の勧誘が来てるって言ったら?」

 

青キジはそう言うとふっと微笑んだ。




次はすぐ出すかもです。
今回はゴードンとウタがメインなので。

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