燃ゆる龍、覇道の道征く   作:紳爾零士

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第36話

…エレジアを超え、偉大なる航路へ。

ゴードンとは別れ、船は次なる目的地を目指す。

 

「…。」

 

バンドラは少々顔を顰めていた。

あのドレスローザを超えて以来、何故かヤマトの機嫌が悪いのだ。バンドラが話しかけてもプイッと横を向く。

 

「…ヤマト?」

 

「…。」

 

この調子の二人をウタは気まずく思っていた。

バンドラが後ろを向かなければ、引っ付きたそうにヤマトは見るのに、バンドラがそちらを向けば無視をする。

 

しかし、歯痒いのはそういう面ではない。

バンドラは普通なのだが、ヤマトが時折、しょぼんとしながらバンドラを見るのだ。悪く言えばグズグズと根に持っているその様子が。

 

「…ねぇ。二人とも仲直りしなよ。」

 

ウタはその沈黙を破った。

 

二人は不機嫌そうなウタを同じタイミングで向いた。

 

「ヤマトも言いたいことあったらさっさと言いなさい。」

 

「うっ…あっ…。」

 

歯切れが悪くほぼ嗚咽に近い音を口から出すヤマト。指を合わせて、もじもじとしていた。バンドラはため息を吐く。

 

「光月おでんなら、もっとちゃんと言うだろうなー。」

 

「ううっ…。」

 

わざと聞こえるように言うバンドラにヤマトはきっと睨む。ウタは大人げないなと思いつつも、呆れたように笑った。

 

「わかったよッ!?言えばいいんだろッ!!言えばぁぁッ!!」

 

顔を真っ赤にして大きな声でそう言うヤマト。

バンドラとウタは耳を手で押さえた。五月蝿かったのだ。しかも多少、覇王色の覇気が出ていたのか、ビリビリと船内が震えていた。

 

「…可笑しいんだよ。ボク。なんか…バンドラのこと、好きなのに嫌い。」

 

「「は?」」

 

モジモジとしながらそう言うヤマト。

バンドラとウタは開いた口が塞がらないと言わんばかりに口を開けて、見合わせる。何を言っているのか、全くわからない。

 

「なんか、兎に角可笑しいのッ!?…どうしちゃったのかなぁ…。」

 

胸を押さえてそう言うヤマト。

…これは何の病気なのかと。あの時、モネがバンドラにキスしたとき、ヤマトは胸の微かな痛みを感じていた。ギュッと心臓を軽く握られるような痛み。

 

光月おでんも…自分の憧れの彼もこんなことを思ったのかとも思える。海に出るとこんなことがあるのか…程度に思っていた。

 

「…大人になったっつうことじゃあねえの?」

 

バンドラが頭を抱えてそう言う。

 

「そうなのかな。…ごめん。バンドラ。意地悪して。」

 

「…ん、あぁ。」

 

くわっと欠伸をしてそう言うバンドラ。

ヤマトはゆっくりとバンドラの元へと近づく。肩と肩がくっつく。

 

ゆっくりと風を起こし、真っ暗な海原をゆったりゆったりとすすむ。

 

「私、シャワー浴びてくるから。」

 

ウタが気を利かしたのか、それとも偶々か。

ウタがお気に入りの白と桃色の寝巻きを持って、船内唯一のシャワールームへと入って行った。

 

…船内にはヤマトとバンドラの少々気まずい空気が流れていた。

 

「…バンドラ?」

 

「ん?」

 

ヤマトの吐息がバンドラの首元に当たる。

バンドラは微笑み、横を向くとヤマトがごろんっとバンドラの膝の上に転がった。

 

「あははっ。」

 

先程とは打って変わり、ぱぁっと輝くような笑みを浮かべるヤマト。バンドラは内心、少しびっくりしていたがそんなヤマトの頭に手をポンっと置いた。

 

「ウタよりガキだな。」

 

「むっ。子ども扱いするな。ボクは光月おでんだぞっ。立派な侍なんだ。」

 

「そうかい。」

 

むすっとした顔をして、バンドラを見るヤマト。

バンドラはタバコを蒸しながら、遠いところを見ていた。

 

「…ボク、なんか可笑しいんだ。」

 

「んぁ?…さっきもそんなこと言ってたな。」

 

コックリと首を盾に振るヤマト。

思い詰めたように、目を下に晒し、浮かない顔をしていた。

 

「んっ…何…?」

 

バンドラはそんなヤマトの頬を手で触れる。

ヤマトも最初は怪訝そうな顔をしていたものの、満足そうな顔で目を細めてすりすりと手に擦り寄る様はまさに愛犬のようだった。

 

「って違うッ!!」

 

「…どうしたんだよ。」

 

ばっとヤマトが起き上がり、地面に手をつき、バンドラを見ていた。正確にはバンドラのタバコを咥えていた唇を見ていた。ヤマトの脳裏には一つの考えがチラリと映る。

 

————『キス』って気持ちいいのかなぁ…と。

 

「おい。俺の顔になんか付いてんのか?」

 

「ん?目と鼻と口…。」

 

「そういう意味じゃねえよ。」

 

ジトーとした目でヤマトを見るバンドラ。

タバコの煙が毒なので、タバコを消して、ヤマトの方を向く。ワノ国出向時と格好が変わらないため、大きく胸元が開いた着物から谷間が見えていた。

 

「ねぇ。……キスって気持ちいいのかなぁ。」

 

「………は?」

 

ほぼ独り言みたいな声の小ささでヤマトがそう言った。開いた口の塞がらないバンドラ。ヤマトからそういう言葉が出てくるとは予想外だったのだろう。ヤマトもぽっと顔に赤が刺す。

 

「…聞き間違え…か?」

 

…ブンブンと首を横に振るヤマト。

バンドラは頭に左手を当てて、抱える。どうしてこうなった…と。

 

「…緑のお姉さんとか、ヴィオラさんとかとキスしてた。」

 

「あぁ…あれか…。」

 

バンドラは口元まで手を待ってくる。

…あれはバンドラにとっては挨拶みたいなもので特別な意味はない。しかし、年端もいかない少女にとっては刺激的だったようである。

 

「…いいか。キスっつうのは愛するもん同士でやるもんであって、遊び半分でやるもんじゃ…。」

 

「…でも、気になるもんっ。」

 

ただでさえバンドラと近いのに詰め寄るヤマト。

バンドラから見れば、まだ穢れのない純真のヤマト。艶やかな唇が目の前に映る。

 

その唇から逃げるようにバンドラはヤマトの唇に手を当てた。

 

「…馬鹿。タバコ吸った後だ。苦いぞ…?」

 

「うっ…。確かに臭い。」

 

鼻の利くヤマト。先程までバンドラの吸っていたタバコの匂いが香り、眉間に皺を寄せるヤマト。バンドラは大口を開けて笑った。

 

「綺麗な肺を汚すんじゃないよ。」

 

「っ。」

 

ヤマトの口にキャンディーを放り込むバンドラ。

ヤマトは最初、驚いていたもののコロコロと舌の上で転がすうちに目を細めて、満足げに笑った。

 

「…てか、なんでそんなこと思い始めたんだ。」

 

バンドラは率直に聞く。

ヤマトはガリガリと飴玉を噛み砕き、飲み込むとにへらと笑った。

 

「だって、おでんだってお嫁さんと会ったのは冒険の途中だって書いてあったんだっ。それもまた、冒険の楽しみだとお父さんも言ってた。」

 

娘に何を吹き込んでいるんだとバンドラは頭を抱えた。恐らく、ヤマトはその意味を理解していない。ため息を吐くバンドラ。そして、バンドラは考えるのをやめた。

 

「えっ?」

 

バンドラはヤマトの顎を指で掴み、ゆっくりと前へと持ってくる。ヤマトも何が起こっているのかわからず、目をぐるぐると回しながら顔を赤く染めていた。バンドラはヤマトの額に唇を落とす。その瞬間、ヤマトは目を閉じた。

 

「んっ…。」

 

「ふっ。おでこでビビってるお前が、口なんかできるわけねえだろうがっ。」

 

歯を見せ笑いながらそういうバンドラ。

ヤマトは額を抑えながら、目に少し涙を浮かべてバンドラを睨んでいた。

 

「び…ビビってなんかないっ!!ボクは光月おでんになるんだっ!!」

 

「ふん。どうだか。」

 

口では何とも言いつつも、バンドラは微笑んでいた。再びタバコに火をつけると、感慨深いようにゆっくりと吸う。

 

「…ありがとう。バンドラ。なんか、モヤモヤが晴れたよ。」

 

「……ふぅ…。そうかい。」

 

そう言って、バンドラははにかんだ。




ヤマト

本編時空→カイドウと喧嘩、おでんに憧れるも誰も助けてくれず、エースと出会い、色々あって男っ気が増す。

今作時空→カイドウと喧嘩、おでんに憧れるが、自分を助けてくれたバンドラにも似て非なる感情を覚える。男女50%ずつぐらい。

という感じ。伝わらない気がする…。
ヤマトとのイチャコラを書くと元々なかった文章力が更に低くなる感じがするのはなぜか…。可愛いと思ってくれたら助かるラスカル。

次はウォーターセブン行って義手うんたらか、フーシャ村…?シャボンディ…魚人島。そこそこのタイミングで原作行かないとね。思い付かなくなったら原作行きます。では。

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