燃ゆる龍、覇道の道征く   作:紳爾零士

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再うぷです。理由は後書きに。細かいところですが、変えさせて頂きました。


第4話

…それはあまりに突然だった。

空から飛んできたニュース・クーの不手際で、世界経済新聞の一部が空へと飛ばされる。

 

「あのカイドウと戦ってきたんだ!!なんて言ったら、ウタのやつなんて言うかな?ルフィは世間知らずだし、カイドウの名前、知らねえだろう。」

 

愉快に微笑み、そう言うバンドラ。

事実、旅の話は海に憧れる彼らにはとても刺激になる。シャンクスやベックマン、ヤソップやルゥの話をよく笑顔で聞くルフィとウタの姿は時間が経った今でも、随分と鮮明に思い出されるものだった。

 

空は快晴。

青々と広がる海と空。優しく拭く風と波は新世界とは思えないほど穏やかだった。バンドラもいつものように海の中で気流を起こし、ゆっくりではあるが確実に進んでいた。

 

「ん?…なんだ?新聞か。」

 

そこへ、必然か、偶然か。

先程、ニュース・クーの落とした今日の世経の新聞が小舟へ着陸した。バンドラは濡れた手を温風で乾かすと、その新聞をつかみ上げた。

 

「…。」

 

船を動かすのをやめ、新聞を両手で掴むと食い入るようにその新聞を見る。大きな見出しにはこう書かれていた。

 

『音楽の島 エレジア壊滅 首謀者は赤髪海賊団』

 

「…二人を除いて全員死亡…。」

 

バンドラはその新聞を起用に六折りにすると、風の勢いを増して起こし、船の速度を上げる。

 

…シャンクスに問いたださなければいけなかった。シャンクスがそんなことをするわけがない。バンドラはそう考えていた。それ以外は考えていなかった。幸い、もうすぐ偉大なる航路である。そこを抜ければ後は直ぐだ。

 

一足飛びとはまさにこのことだった。

先程とは打って変わって、爽やかな風が無くなる。バンドラは少し焦っていた。見聞色がうまく使えないほどには。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…フーシャ村。

初めてついた時には、フーシャが回り、さわやかな風が吹いていた町だったが、今は何故か、どんよりとした嫌な空気が漂っていた。

 

バンドラはレッドフォース号の近くに船を停めると、村の中にあるマキノの酒場へと行く。そこには、赤髪海賊団の面子が全員勢揃いであった。

 

「あら…。バンドラさん、いらっしゃい。久しぶりですね。」

 

「マキノさん。酒を。」

 

正直言って、愉快な酒場の姿はどこにもなかった。バンドラは何もなかったかのように装い、シャンクスの横へと座る。ここに来て、嫌な予感が的中したのだと頭を抱えた。

 

シャンクスを見るとその横顔に何処となく寂しげだった。

 

「…新聞、見たか。」

 

「あぁ…。」

 

話を切り出したのはシャンクスだった。低く、消えそうな声でそう言うシャンクス。バンドラはただ相槌を打つのみだった。

 

「はい。」

 

「ありがとう。」

 

笑顔で受け取るバンドラ。マキノから貰った酒をゆっくりと飲み干す。どかっと机の上に乱暴にジョッキを置く。

 

「…音楽の島エレジア壊滅。…何があった。」

 

「…俺たちがやった。新聞の情報に嘘はない。」

 

「俺に嘘をつくな。…俺の信じるお前に嘘をつくな。」

 

バンドラはシャンクスの方を見る。

すると、シャンクスは表情ひとつ変えず、バンドラの方を目だけ向けた。

 

「…あの子が関係しているのだろう。少しだけだったが居てわかった。お前の近くを死んでも離れないほどのあの子が居ないのが唯一の理由だ。」

 

「ふっ…。本当、女の話になるとお前は…「違うッ!!」…。」

 

シャンクスは言葉を失った。バンドラは拳を握りしめ、シャンクスを悲痛そうな顔で見た。マキノはバンドラの大きな声に耳を閉じて、びくりと肩を震わせた。

 

「…女だとか、子どもだとか…そう言う話ではない。俺はお前の娘だから言っているんだ。陽気なお前らが騒いじゃないところを見ると…苦肉の策だったんだろう。」

 

わざと周りに聞こえるようにそう言うバンドラ。

 

「…俺たちは海賊だ。若いあの子には…この事実は酷すぎる。それに、海軍は俺たちを許さない。」

 

「だから、置いてきたと?エレジアに。」

 

「それしかなかったんだッ!!」

 

…次に声を上げたのはシャンクスだった。

怒りに身を任せ、シャンクスが声を上げると次にバンドラの胸ぐらを掴んだ。

 

「俺たちが喜んであの子をあそこに置いて行ったと思うかッ!?あの子を本当に邪険にしていたと思うかッ!?」

 

「そうは言ってないッ!!…安心したよ。お前も人の親だった。」

 

「…ッ!?」

 

…怒りを露わにしたシャンクス。しかし、目からは涙が流れていた。シャンクスはバンドラの穏やかな顔を見て、襟元から手を離すと再び、椅子に座った。

 

「…すまないな。マキノさん。」

 

謝るシャンクスにマキノはいえ…と返す。

 

「すまない。バンドラ。」

 

「いや、俺も。…その場にいなかったからとはいえ、軽率だった。」

 

バンドラはまた酒を頼むとそれをちびちびと呑む。

バンドラの頭には、あの子…ウタの声が響き渡った。

 

「…ルフィにこのことは?」

 

「言うわけないだろう。…ただ、勘のいい子だ。すぐに居ないとわかって、絶交だとさ。」

 

「あの子が?…出来るわけないだろう。」

 

半笑いで同意の意を返すシャンクス。バンドラもふっと微笑む。いつもの二人に戻った感じがして、マキノやその場にいた赤髪海賊団のメンバーもほっとしていた。

 

「…なぁ、バンドラ。俺たちはいつか、あの子の歌を聴きに行く。世界の歌姫になったら…。」

 

「…ダメだな。」

 

「そう…思うか。」

 

シャンクスの方へ身体を向けて、バンドラは真剣そのものの顔で言った。

 

「それじゃあ遅すぎる。幼い彼女が”それ”を起こしたのだろう?そして、彼女はそれを知らず、育ての家族に捨てられたと思っている。子どもは親を見ている。親のいない子どもは何に縋る?世間が彼女に期待し始めたらそれこそ、暴走の火種になるぞ。」

 

…ふと、バンドラの言ったことはシャンクスの核心をついていた。バンドラはエレジアで何が起こったかは知らない。ただ、最悪の事態を常に考えているだけだった。

 

「…約束がある。きっと、また彼女の歌を聴きに行くと俺は約束した。」

 

「…迎えに行くのか?お前が。」

 

「言ったろ?…あの子が俺を求める時、俺はあの子の元へ駆け寄るって。お前達の覚悟を無駄にするわけじゃねえが。それをするには俺が適任さ。」

 

打って変わって、悪戯に笑うバンドラにシャンクスはフッと柔らかく微笑み、頬杖をつく。

 

「甘いよ。お前は。」

 

「あぁ。」

 

シャンクスがそう言うと満面の笑みでバンドラが答える。シャンクスはホッとしたように微笑んだ。

 

「ふふ。良いですね。」

 

「おっ?マキノさん、惚れた?」

 

「ええ。ちょこっとだけ。」

 

そんなマキノに対していつもの調子でガッツポーズをするバンドラ。そんなバンドラをシャンクスが頭をぶん殴る。

 

「コラァッ!!真面目な話してんだろうがいッ!!」

 

「イッテェッ!!何しやがるっ!!せっかくマキノさんが俺とデートしてくれるつってんのに。」

 

「しません。」

 

「ええー。そんなぁ…!!」

 

笑顔で答えるマキノにバンドラは肩を下ろして落胆する。その瞬間、どっと重い空気で満ちていた酒場がドッと湧き立った。元の赤髪海賊団に戻った瞬間であった。

 

「ふぅ。少しタバコでも吸ってくるか。」

 

「…おう。ありがとよ。」

 

「いやいや。」

 

そう言ってバンドラは酒場の外へと出る。

口にタバコを咥え、マッチを擦り、先端につける。長らく吸ってなかったタバコが肺に満ちる。…と同時に懐かしい黒髪坊主を見つけた。

 

「おい坊主。」

 

「…あ、バンドラ。」

 

バンドラはまだ蒸し始めたタバコを消し、ルフィの横に座った。

 

「シャンクスと喧嘩したんだって?」

 

「シャンクスが悪いんだ。…ウタのこと、何も言わねえから…。」

 

泣きそうな声でそう言うルフィ。

その頭にポンっとバンドラは手を置いた。

 

「ルフィ。ウタのことは好きか?」

 

「…うん。」

 

「シャンクスのことは。」

 

「うん。」

 

「…そうか。…好きなら待つんだ。好きなら謝るんだ。それが出来る男はいい男だ。相手は必ず、お前に答えてくれる。」

 

そう言って微笑むバンドラにルフィはよくわかんないと返した。バンドラはこてっと古いお笑いのようにこけるが、晴れ渡った空に向かって大声で笑った。

 

「ど、どうしたんだ!?」

 

「ハッハッハッ!!男はな、嫌なことがあったら大声で笑うんだッ!!ハッハッハッ!!」

 

「こら、変なことをルフィに吐くな。」

 

後ろで全てを見ていたベン・ベックマンがそう言った。二人は同タイミングで後ろを向く。ベックマンはバンドラと逆方向のルフィの横に座った。

 

「なぁ、ルフィ。お頭のこと、許してやっちゃくれねえか。」

 

「嫌だ。シャンクスが悪いんだ。もう絶交したんだ。」

 

プイッと向くルフィ。幼い子どもにはシャンクスという男の葛藤は伝わっていない。ベックマンは少し眉を顰め、バンドラはフッと笑った。

 

「…子どもの相手は大変だな。」

 

「時間が解決してくれるさ。…ベックさん。俺は行くよ。あの子を迎えに。」

 

立ち上がり、そう言うバンドラ。

ベックマンは立ち上がる男の背中を見て、そうかと微笑んだ。

 

「寂しくなるな。」

 

「おう。…ウタを迎えに行く。それから、少しあの子と旅に出るつもりさ。すまねえな。お前らの覚悟に水差すことになっちまって。」

 

「…なにを謝るのはこっちだ。お前に一番大事な役目を預けちまった。…すまねえが、うちの歌姫を頼んだぞ。…バンドラ。」

 

そう言って、ベックマンはバンドラの肩にポンっと手を置く。

 

バンドラは船に乗るとまた船を発進させた。その姿をルフィとベックマンは見届ける。

 

「…ルフィ。お頭のとこ、行くか。」

 

「…うん。謝ってみる。バンドラも言ってたし。」

 

そう言って二人は酒場へと入って行った。




皆様、いつもありがとうございます。
この度、感想欄にて手厳しいご意見を頂きました。確かにそのようなご意見が出るのも致し方のない書き方を致しました。自分としては、『成長して自分の歌の力を知りつつも、バンドラが来て嬉しいが突き放してしまい、でも根っこは赤髪海賊団とシャンクスが好きで会いたいウタ』を時間をかけて書くつもりでありました。しかし、結局、それがあの映画の結末なんじゃないの?止める人間が止められる時に行ってないじゃんという結論の下、今回、行き詰まりもございましたので、変えさせて頂く運びとなりました。
ナミやロビンとも絡めつつ、最終的にウタに行こうかとも思いましたが、考えてみればカイドウと戦えるんだから強えよなと。そりゃそうだと。
てな訳で、エレジア編?ですかね。少しの間お付き合いの程よろしくお願いします。身勝手ではありますが、このような結果になりましたこと心よりお詫び申し上げます。また、少し手厳しいご意見も自分への戒めとして残していくつもりですし、そのようなご意見が出たからと言って、易々とは変えません。あくまで今回のは新たに自分が書きたいものを見つけたからと解釈してください。

赤評価、お気に入り登録、UA10000以上有難うございます。メキメキと増えていくお気に入り登録者にいい意味で戦慄してました…w

これからも皆様に読んでいただきますよう、日々努力していきます。ありがとうございました。では次回。

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