燃ゆる龍、覇道の道征く   作:紳爾零士

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第40話

砂漠の夜はやけに冷える。

バンドラは全員の冷気コントロールを切り、自室へと入る。その仲の良さを見られているからか、何故か全員が同室となった。しかし、女性男性の仕切りはちゃんとではないが、あるにはある程度である。

 

「…ふぅ。」

 

バンドラはタバコを蒸しながら、夜のアルバーナを見る。ドレスローザやホールケーキアイランドなら、夜でも騒がしさが伺えたが、アラバスタはそうではないようで。あるのは穏やかな篝火の光のみ。

 

「…ねぇ。」

 

「おや、珍しい。眠れなかったか?」

 

横にいるのはヤマトと…もう1人。

その黒髪はヤマトと対照的に風に吹かれて、靡く。ウタはライブに向けて休息中である。既に引っ付いているヤマトとは反対側にロビンは柵に腕をかけて、言った。

 

「…何故、私を拾ったの?そのまま、放っておけばよかったのに。」

 

「ええ〜?またその話〜?」

 

ヤマトが嫌そうにそう言った。

彼女の性格上、いつまでも卑屈なロビンを救ってあげたいとも思ったろう。バンドラはふっと笑うと天を見る。

 

「アンタが可愛い姉ちゃんだったから拾っただけのことさ。」

 

「…。」

 

それだけじゃ納得がいかないとロビンはバンドラを睨む。バンドラをつき動かす理由はそれだけなので、バンドラは困ったように眉を動かした。

 

「…こんな夜だ。少し昔話をしようか。」

 

ちょうど良いと笑うバンドラ。

長い間一緒にいるヤマトもその真意はわかっていない。バンドラは、思い耽るように言った。

 

「…オハラがバスターコールにあった時のことを俺は知っている。だからこそ、俺の尻尾も見せてやる。」

 

「…等価交換とでも言うのかしら。」

 

「どうかな?」

 

そう言って不敵に笑うバンドラの顔には怪しげに影が差した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

13年前…新世界ワノ国鬼ヶ島。

討ち入りを決行した侍達の中に彼の姿はあった。

 

「ウォロロロロッ!!死に急ぎやがってッ!!馬鹿者どもがッ!!」

 

金棒『八斎戒』を握る巨山のようなその威圧感を持つ化け物に、侍達は刀を握る。

 

「死ににきたのではないッ!!次の戦いに賭けに来たのだッ!!」

 

誰かが言った。

 

その声を皮切りに侍達は前へと走る。刀を突き刺すも、その肌からは血肉ひとつも見えなかった。

 

「ウォロロロロッ!!痛えじゃねえかッ!!」

 

そう言い叫ぶ化け物(カイドウ)

侍達は後ろに下がるも、それを金棒の追撃が襲う。

 

「ア?テメェ…あん時の泥棒小僧じゃねえか。」

 

その時、カイドウの目にはまだ幼いバンドラが映った。バンドラの目は親の仇を見るように心の底からの殺意で満ちていた。カイドウも同義。此処に来た以上、子どもであろうと関係ない。

 

バンドラはどこで手に入れたのか、名無しの刀を手に向かっていく。

 

カイドウはそんなバンドラに黒雷纏う金棒を振る。

 

「『雷鳴八卦』ッ!!」

 

「うぉぉっ!!」

 

海軍で習ったからか、無意識で刀を黒刀にするバンドラ。

 

しかし、新世界の海賊の技を受け止めることは出来ず、そのまま後ろへ飛ばされる。

 

バンドラはその衝撃を地面に転がって、受け流すも額から血を流していた。

 

「…ハァ…ハァ…。」

 

「坊主、勝てる見込みもねえのに何故俺に歯向かう?」

 

最期の憐れみか、カイドウが金棒を握り、そう言う。バンドラは睨む。

 

「…あの子を外に出す為…。」

 

「あの子…?ヤマトか。あの馬鹿息子のために命張ってくれんのか?嬉しいね…。」

 

言葉ではそう言うが、カイドウは少しもそんなことは思っていない。金棒を握り、今なおも踏み込もうとするその腕。しかし…。

 

「ハァ…ハァ…俺は…あの子を救うと約束した…。負けて…たまるかよ…ッ!!」

 

血が出るほど、左腕を握りしめるバンドラ。

 

大ぶりな金棒に合わせ、刃に電撃を纏わせ振るう。

 

「『刃雷』ッ!!」「『雷鳴八卦』ッ!!」

 

死に物狂いの斬撃。

 

それがカイドウの金棒とあたるもその刃は虚しく砕け散る。

 

「ぐっ…!!」

 

空中で静止しない身体。それにモロに一撃が入る。

 

「ガハッ…!!」

 

口から出るは血の混じった空気。

地面に思いっきり当たり、そのまま倒れる。地面にヒビが入り、バンドラは額からも口からも血を流し、倒れていた。カイドウはその姿に憐れみにも近い表情を覚える。…背後を向けるも、それは早計だった。

 

「…あぁん?」

 

ゆっくりと…ゆっくりと…。

まるでボロ雑巾のようになりながらも、立ち上がるバンドラ。カイドウはその姿を睨み付けるように見た。

 

「…俺は…あの子を外に…出す…ッ!!約束…したんだ…ッ!!」

 

「…なんだ?アイツに惚れてでもいるのか?やめとけ。じゃじゃ馬だぞ。その身体じゃ俺と戦っても…精々死ぬまでの時間が延びるだけだッ!!」

 

カイドウの咆哮に空気が揺れる。

バンドラは歯を食いしばると、ボロボロの右手を…ゆっくりと胸に翳した。

 

「ア?何する気だ?」

 

「…ガフッ…『天神災害(ウェザストル)』…ッ!!」

 

…その声と共に、バンドラの周りに空気の渦が発生する。

 

「ウォロロロロッ!!流石に…死んどけッ!!『雷鳴八卦』ッ!!」

 

黒雷纏う金棒。それが前から振るわれる。

 

バンドラは息も絶え絶え…ではあるがその目をカッと見開き、カイドウを睨む。

 

バンドラは掌を前に突き出す。

 

「『雷起こし』ッ!!」

 

その瞬間、ほぼノーモーションでカイドウに電撃が走った。

 

電撃如きでカイドウにダメージがいくわけがない。だが…カイドウの身体が揺らめいたのだ。

 

「ぐっ…どういうことだ…ッ!!」

 

「『大海蛇群(ヨルムンガンド)』ッ!!」

 

蛇を形作った波がまるで大津波のようにカイドウに迫り来る。

 

カイドウはそれを自身の能力で上空に行き、回避。しかし…。

 

「グォォォォッ!?」

 

その身体を稲妻が貫く。

 

「…な、なにッ!?」

 

カイドウの目が変わる。

なんと自分の真下から大きなマグマの柱が上がってくるのだ。下手すれば、周りの全てが燃え消えてもおかしくない。

 

カイドウはそれを避けると、瞬間的に冷え崩れ落ちた。

 

「『熱息(ボロブレス)』ッ!!」

 

バンドラに向かって行き、火の息を放つ。

 

しかし、バンドラはそれを避ける。

 

「小僧…一体テメェはなんなんだ?なぜ、俺にダメージが通る。覇王色でも…纏ってやがんのか…?」

 

「…テメェを殺してぇからだ…ッ!!『極・極上天風嵐(ごく・ごくじょうてんぷうらん)』ッ!!」

 

大竜巻が天へと向かう。カイドウの雷鳴八卦と同じく、周りからバチバチと黒い電撃を発していた。

 

「『龍巻・壊風』ッ!!」

 

それに対して、カイドウも竜巻を放つ。

両者が対面するとそこから火花と電撃を放ち始め、爆散した。

 

「ぐっ…!!」

 

「『氷華銃(フローズン)』ッ!!」

 

バンドラはとてつもない速度でカイドウの腹部へといくと、カイドウの腹部に黒化した蹴りを放つ。

 

カイドウは口から唾の混じった空気を吐き出すと、そのままバンドラを睨む。

 

「……なっ!?」

 

するとその蹴りが入った場所からカチカチと凍り出した。

 

カイドウはそれを人型になり、回避。

 

向かってくる相手に金棒を振るう。

 

「『雷鳴八卦』ッ!!」

 

「俺はあの子を…ヤマトを外に出すッ!!『黒式雷鳴』ッ!!」

 

侍の持っていた刀を握り、カイドウの金棒に向かって振るう。金棒と刃が触れ合わずにぶつかり合う。

 

「ぐっ…小僧…貴様ッ!!」

 

「う…ウォォォォッ!!」

 

目を閉じて怒りのままに刀を振るう。

両方の身体がズズズ…ッと引き摺られる。

 

「…テメェ…ッ!!」

 

一瞬、カイドウの口がニヤリと歪む。

バンドラは血だらけになりながらも…睨みで返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それで、その最強生物さんとの戦いはどうなったの?」

 

ロビンは微笑を浮かべながら、そう言った。懐かしそうに聞くヤマト。バンドラはふっと笑った。

 

「気がついたら、お互いボロボロになってた。」

 

「貴方の能力は…一体。」

 

「自分でも限界はわからねえ。ただ、そこから2日は寝てたらしい。」

 

笑いながらヤマトになぁ?と聞くバンドラ。

ヤマトも大変だったと頷く。そこでロビンに疑問が浮かぶ。

 

「…え?貴女が看病してたの?」

 

2人は声を合わせて、うんと答えた。

 

「だから俺はこいつにゃ頭上がらねえ。カイドウに引き摺られて、ベッドに寝てて気がついたら、こいつが俺のベッドに寝てた。」

 

「もう大変だったんだよ?バンドラは2日間起きないから。ボク、お腹空いても侍だから空かないって思ってみてたしッ!!」

 

当時のことを思い出してプクッと軽く頬を膨らますヤマト。バンドラがごめんなと笑いながら、ヤマトの頭を軽く叩いた。ヤマトはそれに応えるようににへらと笑う。

 

「…貴方達、本当に仲良いのね。」

 

「うんっ!!」「まぁな。」

 

元気よくいい笑顔で言うヤマトとそれに同調するように頷くバンドラ。お互い、同じタイミングで頷いたのをロビンがクスリと笑いながら見ていた。

 

「でも、私は惚気話を聞いてたわけじゃないからね?」

 

「…わかってるよ。ちゃんとこの先も話す。」

 

そう言ってバンドラは話し始めた。


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