…ほんとにそろそろネタが。もう…ヤマトくんちゃん…ゴールしようかな…。やらないけど。
…アラバスタ。とある病室。
ウタが倒れた原因は、ライブを楽しみすぎての水分不足。まだ小さかったウタはそれを怠っていたのだ。
バンドラは病室の椅子に座り、頭を抱えていた。それは沢山の感情が入り混じっていたからだろう。ウタを叱ってしまったこと、こうなる前に気が付かなかったこと…そして、引いては自分が七武海にならなかったこと。全てが自分の我儘から始まったとバンドラは考えていた。
ロビンは影からその様子を見守り、ヤマトは横でバンドラと一緒に座っていた。
「…やっちまった。」
沈黙を破ったのは、悲痛な声だった。ヤマトが優しく「何が?」と問う。バンドラは顔も上げず、ゆっくりと言った。
「俺がもっとしっかりしていれば…俺がもっとちゃんと見てれば良かった…。それに…ウタの大事なものを…否定しちまった。」
「…ウタちゃんもバンドラのことはわかってるよ。自分の為に言ってくれたって。」
ヤマトは優しく柔らかい声でそう言った。
…ヤマトはバンドラの肩にいつものように頭を乗せる。
「…俺は…アイツに顔向けできない。任せろなんて…一丁前に…言っちゃってさ。馬鹿だ…。」
「…えいっ。」
ヤマトはバンドラの前にゆっくりと出ると、バンドラの額を指でこづく。バンドラは額を抑えながら、むっと怒るように表情を変えた。
「…今のバンドラはボク、嫌いだよ。うじうじしてて、昔のボクを見てるみたい。」
「…。」
「ウタちゃんは多分、そんなこと思ってないよ。君がウタちゃんを信じなくてどうするんだ。ボクは嫌だっ。ウタちゃんとバンドラが仲悪くなるの。」
「……ガキかよ…。」
バンドラは右手で顔を隠して、震えるものの明るい声で言った。ヤマトはそんなバンドラの頭を優しく撫でる。
「…ほんと、仲良いわね。」
ボソリとロビンがそう言って笑った。
「…んん…あれ…?」
…外は真っ暗。窓の隙間からゆったりとした風が室内に吹いてくる。ウタはゆっくりと顔を上げると、自分のベッドに上半身を預けて寝ているバンドラとヤマトの姿があった。
「…うぅ…。」
まだ頭が痛む。そして、気持ちの悪い感触が頭を駆け巡る。…自分はどうしてここで眠っていたのか。先程までステージに…。
「あっ。」
…ウタの中の記憶が蘇った。
確か、途中で気持ち悪くなって…頭がぐらぐらして…倒れたところにバンドラが来た…。ウタはそこでバンドラに怒鳴られたことを覚えている。
ウタの中ではただただ今が気持ち悪かった。
髪はいつものように留めておらず長い。脇や首周りはベトベトとして、ムワッとした少し臭い匂いが鼻に突き刺さる。
「…。」
ウタはバンドラをただじっと見ていた。
静かに…ただじっと。
シャンクスが少しおちゃらけた風に怒ったことはあった。ルフィが子どもらしく怒ったことはあった。…だけど、あそこまで怒鳴られたことは…ただの一度もなかった。
「…う…た…。」
「…バカバンドラ。」
自分にとっては兄のような…弟のような…父のような…叔父のような…そんな不思議な存在。膨らみかけの小さな胸が…トクッと痛くなる。
「…最後まで…歌いたかったなぁ…。」
…気持ちとは裏腹にそういう言葉しか出ない。
最後まで歌いたかったのは事実である。だが、バンドラの言うことにも一理ある。昔だったら、絶交だった。自分の好きなことを邪魔されたのだから。
「…ん…んん…。」
ウタは自分の歌を止めた罰と言わんばかりにバンドラの頭をわしゃわしゃと掻きむしる。ウタはクスリと笑いながら、バンドラにイタズラをしていく。
「…わっ。」
「…お前…人が寝てるって時に…。」
数分間、バンドラの頭に悪戯をしていると流石に起きたバンドラがウタの腕を掴んだ。その様子をロビンは優しく見守っていた。バンドラは腕を離して、ため息を吐く。
「…良かった。お前、相当魘されてたから。」
「…ごめんなさい。バンドラからお水、飲むように言われてたのに。ライブが楽しくて。」
ウタは頭を深く下げる。
バンドラはウタに頭を上げるように言った。
「…俺もすまない。ウタのことを考えればもっと…色々することがあった。」
「バンドラは私の為に色々してくれたよ?…ライブも聞かんだけどさせてくれたし、エレジアからも連れ出してくれた。」
段々とウタの顔に月光が射す。
さっき見た顔とは打って変わり、真っ赤な顔は白く綺麗に変わっていった。ウタは優しく柔らかい笑みを浮かべる。
「バンドラはいつだって、私の恩人だよ。今日も…助けてくれた。」
「…当たり前だ。俺は…。」
「シャンクスの娘だから……助けてくれたの?」
「…違うよ。」
不貞腐れたように左手で頬杖をついて窓の方を見るバンドラ。ウタはその様子を見て、クスリと笑った。
「俺はウタだから助けた。約束は守る男だ。」
「…ありがと。私ね。助けてもらうの…2回目なんだ。」
そう言ってウタは天井を見た。
ウタの頭にあるのはかつての山賊のこと。幼い自分の幼馴染が山賊から少しだけ…たった少しだけ守ってくれたのを覚えていた。
「ほお?…あの小僧が?」
「うん。山賊は全く相手にしてなかったけどね?それで私が足蹴って逃げてきた。」
歯を見せてにししと笑うウタ。
女の子なんだから…とバンドラは苦笑いをしていた。
「んぁ…?はっ!?ウタちゃんっ!!」
数刻、話していた2人。
朝日が少し見えてきた頃、ヤマトが漸く起き始める。ヤマトはいつものようにウタに飛び込み、抱きつこうとする。
バンドラはそれを首根っこを掴んで止めた。
「やめんか。まだ病み上がりだ。」
「ぐぬぬ〜…。じゃあこっち。」
止められたヤマトはいつもの通り、隣にいたバンドラにピタッとくっつく。バンドラは少し暑苦しいと言わんばかりに顔を歪めながらも、ヤマトを剥がそうとはしていない。
「あら、私も中に入れてくれない?」
ロビンが優しい笑顔で病室へと入ってくる。バンドラは近くにあった椅子を引き摺って持ってくる。ロビンがバンドラに礼を言い、お淑やかにその椅子に座った。
「凄かったわね。ウタ。貴女の歌、舐めてたわ。」
「ふっふー。そうでしょ?私、歌だけは自信あるからねー。」
胸を張ってそう言うウタ。ロビンはそうねと口元に手をやって、笑っていた。
「私の夢は私の歌でみんなを救うことなんだからっ!!みんなを幸せにする。それが私の目指す新時代だよ。」
「ふふっ。貴女の歌なら出来るわよ?」
ウタはホントと目をキラキラと輝かせながらロビンを見る。ウタにとって初めてお姉さん的な存在だといえる人間。ウタはとても嬉しくなっていた。
「ロビン、私のお姉ちゃんみたいっ!!」
「あら、ホント?嬉しいわ。」
「えっ!?ボクはっ!?」
バンドラに引っ付いていたヤマトがぴょんっと飛び上がり、ウタを見る。
「ええー?ヤマトは妹じゃんっ。」
「うぇぇっ!?そんなバカな…。」
ウタの言葉にバンドラとロビンもうんうんと頷いた。ヤマトはプクッと頬を膨らませると、何故かバンドラだけをポコポコと叩き始めた。
「痛い痛い。」
「むぅ。もう知らないっ。」
その様子を見て、ウタとロビンはくすくすと笑っていた。