記念じゃないですが、まぁ……ね?ちょっとやり過ぎたかも。
…酒は呑んでも呑まれるな…という言葉があるのをご存知だろうか。酒の飲み過ぎで己を見失うようなことは避けねばならないという意味合いを介している。
「…もっと…。」
「…やめろ…ヤマト…。」
かの百獣のカイドウも、酒を飲んで毎回のように上戸が変わるという困った特性がある。時には泣き上戸、時には怒り上戸…と。
「やだ…もっと…。」
「馬鹿っ。おい…。」
…酒癖は遺伝するのだろうか。
ロビンがウタに見えないように手で目を隠す。流石のロビンでもこの状況は許容できない。
「もっとギュ〜してよッ!!」
「いつもより近えんだよッ!!」
知らない人から見れば、酒の絡みで歳の近い男女が乳繰り合ってるように見えるだろう。ヤマトがバンドラを押し倒して、ガバッと手を上げて抱きつこうとしている図である。
何を隠そうヤマトもそうなのだ。
許容量を少しずつ飲めば、こんなことにはならない。だが、ヤマトも父と同じく沢山の酒を飲めば、上戸がコロコロ変わる。今のものに名前をつけるとするならば、『甘え上戸』だろう。
顔はいつもより赤くなっていて、にへらと笑顔を浮かべている。いつも通りではないかと思うものの、バンドラからしたら凶器である。
「ちゅーしよっ!!もういいれしょ〜?」
「馬鹿ッ!!子どもが見てるだろッ!?」
「…ウタちゃん。見ちゃダメよ。あれは良くない大人達だわ。」
ロビンも少し頬を赤らめながら、そう言う。ウタもそれをわかっているのか無言で頷いた。
「あっ、こら、ヤマトッ!!脱ぐなッ!!」
「えぇ…?いいじゃん…男同士なんらからさぁ…。」
「ダメなもんはダメだッ!!」
ただでさえ脇が露出している服を着ているヤマト。その少ない布に手をかけ、脱ごうとする。バンドラは自身の危機とウタの教育上良くないとその腕をギュッと掴んで止めた。
…先ほども言ったように父・カイドウは上戸がコロコロと変わる。殺戮上戸なんてのもあるが流石にヤマトにそんなものはない。つまりは…そう。
「うぅ…?」
「げっ!?」
ヤマトの目からポロポロと大粒の涙が流れ出た。バンドラはその様子を見て、驚愕の表情を示す。
「ひっぐ…ボク…悪い子…?バンドラ…ボクのこと…きらい?」
…泣き上戸である。
子どものようにバンドラの上で泣きじゃくりながら、喚く。バンドラはロビンに助けの眼を向けるも、ロビンは諦めたように眼を逸らした。
「そ、そんなことねえって!!なっ!?」
「そっか…嫌いなんだぁ〜…!!ボクのこと…!!」
ヤマトの顔がどんどんと暗くなる。大声でびーびーと泣くヤマト。
「うわぁぁぁんっ!!」
「わかった、わかったっ!!嫌いじゃないッ!!好きだッ!!大好きだッ!!」
半ば諦めたかのようにそう言うバンドラ。
言質は取ったと言わんばかりにポカンとするヤマト。即座に笑顔に戻り、まるで…いや、まさに犬のようにバンドラの胸元にぐりぐりといつもより強い力で頭を擦り付ける。
「んぅぅ〜っ!!」
満足そうに声を上げるヤマト。
バンドラは良かったと思うも束の間。ヤマトは顔を上げてバンドラを見る。その顔は…ムッと怒っていた。
「大体可笑しいんだよ。ボクが居るのに他の女の子と話しちゃってさっ。別に良いけど、なんでボクのことは邪険にするのに他の子とは楽しく話すの…?」
ヤマトのオレンジ色の目からハイライトが消える。バンドラは心底嫌な予感がしていた。
「…もう我慢できない…。バンドラは…ボクのものだ…。」
「ひぇっ…!!」
ヤマトがふふふっと低く笑う。
…名前をつけるとするならば、病み上戸とでも言おうか。酔ったことによってバンドラに対する愛情が振り切れてしまっているのだ。
「ブラックマリアさんが言ってたよ?…男はすぐ他の女のとこ行っちゃうから…すぐさま自分のものにしなきゃ…ダメだって…。」
耳元で囁くヤマト。
いつもの元気な様子は明後日の方向へと消えて、その様子は男をとって食らおうとする蜘蛛…又は蛇そのもの。
ペロリとヤマトがバンドラの首筋に舌を這わせる。
「ま、待て。それ以上したら、ダメだッ!!」
「なんで?…やっぱりボクのこと嫌いなんだ。」
ぷくりと頬を膨らませるヤマト。
眉は下がり、落ち込んでいるようにも見える。
「いいさ、いいさ。いつも引っ付いてるから女として見てないんだろ?ひっく…。もういいさ。」
そう言って酒瓶を呑むヤマト。
「ボクはバンドラのこと、こ〜んなに好きなのにッ!!君はボクのこと、邪険にするんだッ!!巫山戯るなッ!!」
眉間に皺を寄せて、怒るヤマト。
なおもバンドラの上から動かず、涙を浮かべながらそう言う。
「…何が起こってるの?」
「ダメよ。ウタちゃん。貴女は汚れないままでいて。」
「そこっ。俺たちは汚れちゃいないっ。」
ロビンがウタの目をしっかりと隠す。
ウタには聴覚情報しか入ってこないため、逆に何が起こっているか気になって気になって仕方がない。
「…うへへ…。もっと…ギュ〜しよ…?」
そう言ってバンドラの身体に重なるように腕を回すヤマト。バンドラは強く拘束されて、動けない。
「…せめて、座らせてくれ…。」
「逃げるでしょ?…逃げるよね?バンドラはこの先ずっと…ボクと一緒にいるんだ。そうだよね?」
また目のハイライトが消えて、目の奥が暗くなるヤマト。バンドラはそんなヤマトの頭をポンポンと優しく叩いた。
「アホか。俺がいつお前を離すつった?」
穏やかな笑みで返すバンドラ。
ヤマトはその顔にキラキラとした目で見ていた。ヤマトはよほど嬉しかったのか、バンドラの頬に頭をすりすりと擦り付ける。
「バンドラ〜!!好きぃ〜っ!!」
「…はいはい。」
心底疲れ果てたと言わんばかりに顔に現すバンドラ。ロビンもほっとしたように安心した顔をした。
「バンドラぁ…ちゅー…しよ?」
「…え?…や、ヤマト…さん?」
ヤマトがバンドラに歯を見せて笑う。酒を飲んで紅潮した肌と月明かりによって、普段よりも色っぽく見えるヤマト。ヤマトは目を閉じて、唇をバンドラへ近づける。
「んっ…!!」
バンドラとヤマトの唇が重なる。
酒の勢いということもあるが、バンドラも冷静さを失い、いつものように躱すことが出来なかった。
ウタは赤く火照る顔を隠してその隙間からその様子を見ている。ロビンも口元を隠して驚いていた。
「ぷはっ。………おい、ヤマト?」
「…ぐぅ…。」
ヤマトがバンドラにもたれかかり、眠っていた。バンドラは顔を頭を押さえて、ため息を吐く。
「……タバコ、吸ってなくて良かった。」
「そこ?」
ロビンが首を横に傾けてそう言った。ウタはもはや言葉を失っていた。
…次の日。
「バンドラ〜っ。」
いつも通りバンドラに抱きつき、ニコッと笑うヤマト。バンドラは昨日のことを覚えているかと聞くとヤマトは小首を傾げた。
「…覚えてねえか。」
ボソリと呟くバンドラ。
ヤマトはバンドラの頬にチュッとキスを落とす。
「ハハッ。」
「お前…覚えてんだろ…。」
悪戯っ子のように笑うヤマトにバンドラはじとーとした目で見る。その日はウタからバンドラとヤマトが引っ付くの禁止と言われ、ヤマトは心底落ち込むのだが…それはまた別のお話。
もし、ヤマトとカイドウの酒癖が一緒だったらというif設定。ヘラるのはウタちゃんとハンモックだけでいいよぉ…。
うちのヤマト坊ちゃんがどんどんヤマトお嬢様になっちゃう。助けて。