「バンドラ…死んじゃうの?」
ウタの心配そうな声が周りに響く。ロビンは心配させないように笑ってわからないと返した。それが本当に笑顔になっているかはわからないが。
「まさか…遊びでここまでなるとはな。」
「もう遊びの範疇を超えてるよ。ありゃ、殺し合いじゃないか。」
その声にキングは静かにブラックマリアの方を見る。…確かにそれ以外の形容の仕方はない。
「ウォロロロロッ!!久しぶりだッ!!その力を見るのは…ッ!!『金剛鏑』ッ!!」
「ガフッ…!!確かにな…ッ!!でももう…止まらねえッ!!『天つ風・
地面を這いずるような風がカイドウの放つ飛ぶ打撃と当たり、相殺する。
その直後、バンドラの頭部にカイドウの金棒がぶち当たった。
バンドラはそのまま飛ばされ、地面を転がる。
「バンドラ…!!」
ヤマトが悲痛な声を出す。
ヤマトにとって、おでんもバンドラも自分を救い出してくれた存在。自分の憧れの存在。…その両方が自分の父に…。
バンドラは地面に風の爪を突き刺し、勢いを消す。するとまるで獣のように天へとバンドラが咆哮を上げた。
「もう限界かッ!?この勝負…貰ったァァッ!!」
金棒に黒雷を纏う。何度も見た強靭無慈悲な一撃が血だらけのバンドラを襲う。
「『雷鳴八卦』ッ!!」
「『
それをバンドラは金色に光り輝く雷を纏った狂骨の刃で受け止め、弾いた。
その直後、カイドウの胸が横一閃に避け、血が噴き出す。
「ぬっ!?」
「『
バンドラが地面に掌を置く。するとバンドラを中心に二つの風柱が現れて、カイドウを飲み込んだ。
カイドウは即座にそこから弾き出るも、湾曲する風とは別に上から何かが落ちてきていた。
「…隕石だと…!?」
無差別に降り注ぐ無数の隕石。
カイドウはそれを八斎戒で弾きながら、走る。
「…これはやりすぎだな。」
揺れる甲板。荒れる海。
キングは腕を組んで静かにただ見ていた。ウタは耳を押さえて、そのウタをロビンが守るように抱いていた。
「…ハァ…ハァ…。」
…バンドラはもう限界に近かった。その能力に慈悲などない。そもそも災害とは人の命を奪うものなのだ。ワザワザの実は多芸ではあるもののその全てがセーブしないと…人は簡単に壊れてしまう。
「…もうだめだ。ダメだよ…我慢できないッ!!」
「ヤマト坊ちゃんッ!!」
その姿を見て真っ先に飛び出したのは…ヤマトだった。船から降り、器用に海に触れないように渡っていく。その手には建を限界まで握りしめて。
「ハァ…ハァ…ぐっ…。へへっ…そろそろ…マズイかもな…。」
「ウォロロロロッ!!俺はまだまだやれるぜ?」
「…バケモンめ…。アンタにゃ勝てた試しがねえ…。」
キッと前を向くバンドラ。刃には炎が纏っていた。それを思いっきり振り上げる。
「『晴天・修羅獄門龍』ッ!!」
燃える龍はカイドウへ。カイドウはそれを飛ぶ打撃で打ち消した。
「ガッ!?」
かと思われた。が、カイドウの肩から鮮血が飛んだ。炎の温度が上がり、周りと同化し出したのだ。その姿はまるで陽炎。見えない斬撃と言っていい。
「ぐっ…!?」
次にカイドウを襲うのは鎌鼬。吹き荒れる突風はその島の山々を削り取り、消し去らんとする。その直後だった。
「『鳴鏑』ッ!!」
「ごふっ…!!」
…バンドラの背後から空気のようなものが飛んできた。バンドラはそのまま、背後を向く。するとそこには…健をがっしりと握ったヤマトの姿があった。
「何しにきやがった…ヤマトッ!!」
カイドウの声にヤマトはバンドラを見て言った。
「バンドラを助けにッ!!」
「馬鹿野郎がッ!!今のアイツは正気じゃねえ。アイツを止めるにゃ気絶させるしかねえんだぞッ!!テメェにそれができるのか、ヤマトッ!!」
「出来るかどうかじゃないッ!!やるんだッ!!」
…ヤマトはギュッと健を両手で掴む。
カイドウとバンドラはその様子をギロリと睨んで見ていた。
「…こんなとき…光月おでんなら…!!大切な人が苦しんでるのにッ!!見過ごすわけがないだろッ!!」
「下手すりゃあ死ぬんだぞッ!!ヤマトッ!!」
「五月蝿いッ!!…ボクはもう大切な人が目の前から居なくなるのは嫌なんだッ!!こんな遊びに命まで持ってきて…可笑しいじゃないかッ!!」
ヤマトの目に涙が浮かぶ。
バンドラはなんとか力を入れて、自分の能力を数分発動しないようにするので精一杯だった。カイドウが八斎戒を下へと振り下ろす。
「…ボクは約束を果たしにきたッ!!バンドラを助けにッ!!」
「…おい、カイドウ…。もう限界だ。そろそろ…最後にしてくれ。」
「チッ…。ヤマトッ!!足引っ張ったら承知しねえぞッ!!」
ヤマトは口角を小さく上げ、うんと頷く。すると待っていたかのように地面が揺れ、上が雷雲に埋め尽くされた。
「うぉぉぉぉッ!!」
バンドラはボロボロの掌を地面に置く。
すると上から地鳴りと共に巨大な雷と無数の岩が落ちてくる。
ヤマトとカイドウはそれを避けながら、バンドラへと向かっていく。2人とも鏡写しになるように金棒を握る。二つの金棒は黒雷を纏っていた。
「「『雷鳴八卦』ッ!!」」
二つの金棒がバンドラへと当たる。
バンドラはふっと笑うと、膝から前へと崩れ倒れた。ヤマトがバンドラへと駆け寄り、そのバンドラの身体を優しく抱き上げた。
「…サンキュー。…怪我…無かったか…?」
「うん。大丈夫だよ。」
「…そうか。」
小さい…とても小さい声でそう言うバンドラにヤマトはふっと微笑んだ。バンドラはゆっくりとヤマトの頬に触れる。血がついていない方だった。ヤマトはそれに目を細めて満足そうに微笑んだ。
「…もう、あんなに…大掛かりなことする体力残っちゃねえわ…。」
…始まりはいつも通り。
カイドウとケンカをするだけだった。だが、ひさびさに出した全力は…限度を超えてボロボロになってしまった。
「…ヤマトぉ…身体中痛えからこのまま運んでってくれぇ…。」
「あはは。わかった。」
そう言ってヤマトはバンドラを背負う。
ヤマトの方がバンドラよりも背丈が大きいのだが、その背中は弱々しくなったバンドラから見ればいつもよりも大きく見えた。
「ははっ。」
「…あ?…どうした。」
「バンドラに頼られて…嬉しい。」
そう言ってにぱっと笑うヤマト。
バンドラは口をぽかんと開けていたが…すぐにふっと微笑むとそんなヤマトの唇へ自身の唇を重ねた。
キングとカイドウは興味なさそうに船へ。
ブラックマリアはニヤリと笑い、ロビンはまたやってるよ…というふうにジトーと見ていた。ウタに関しては口を押さえて、後ろの髪が上がっていた。
「…ふあ…えっ…?」
ヤマトは何が起こったかわかっておらず、ぽかんとしていた。…が、理解した直後に顔が徐々に真っ赤になっていく。
「あら、取られちゃったかな?」
「…みんな見てる前でなにやってるんだか。」
「……ずるい。」
ブラックマリアは笑い、ロビンははぁ…とため息を吐く。ウタに関しては何故か、プクッと頬を膨らませて、そっぽを向いていた。
「おらぁ!!ヤマト、帰るぞッ!!」
「う…うんっ!!」
ヤマトは眠ったバンドラをしっかりとおぶり、船へと帰っていく。バンドラを見ながら、ヤマトは少し顔を赤らめて笑っていた。
はい、やりました。僕がやりました。
カッコいいのと可愛いののギャップがすごいと思うの、坊ちゃんは。
…あと、そう言えば最近ウタちゃん空気だったな…と。てか、うるぺーもいるんだよねぇ…。何してんだ、コイツら。
では次回。