「あー、良く寝た。」
髑髏ドームのとある一室。
バンドラはボロボロ。傷だらけの身体を包帯でぐるぐる巻きになっていた。少年のようににししと歯を見せて笑うバンドラ。
「…良く寝たじゃないわよ。全く。」
隣に居たのはピンク色のお気に入りのパジャマに着替えたウタだった。ジトーとした目でバンドラを見るウタにバンドラは笑って返した。バンドラの鼻には絆創膏が貼られていた。
その横には足をぶっきらぼうに開けながら、背もたれに持たれて寝るヤマトの姿があった。口からは涎が垂れている。
「……ったく。」
バンドラは少し痛む身体を上げながら、ヤマトの涎を指で拭う。ウタはその様子を見ながら少し思うことがあった。
「バンドラってヤマトのこと、好きなの?」
「あ?今更…何言ってんだよ。当たり前だろ。」
バンドラはウタの問いに首を傾げて言った。
無論、食い違っている。ウタの言う『好き』とバンドラの言う『好き』は違う意味なのだ。
「…違うんだけど。じゃ、じゃあ、私のことは?」
「当たり前だ。好きだぞ?」
ウタがむすっとしながら顔を少し赤らめて…そうと素気なく言った。
「…意外だね。バンドラが負けるなんて。最強だと思ってた。」
「最強ねー。」
ウタがそう言うとバンドラは奥歯を見せて笑った。ウタは睨みながら何よと不貞腐れたように言う。バンドラはウタの頭を撫でる。
「俺ァ最強なんて向いてねえよ。お前らと一緒にいられたら、俺はそれだけの力を持ってるだけで良いんだよ。」
「ッ…。」
ニィっと笑う歳よりも若い笑顔にウタは顔を赤らめる。
「…安心したか?」
「え?」
バンドラのその言葉にウタは小首を傾げる。バンドラは優しい笑みを浮かべて、ウタを見た。
「急にそんなこと聞くんだ。…どうせ、俺もお前の元から居なくなるとでも思ったんだろ?」
「は?別にそんなこと思ってないし。」
「なんで怒るんだよ。」
バンドラを見て、むすっとした顔で怒るウタ。
バンドラは呆れたような顔をしていた。
「ったく、素直じゃねえなぁ…。」
…その瞬間、ウタの頭にピンっときた。バンドラは素直な女がタイプなのかと。そういえば、ヤマトは素直すぎるくらい素直だ。だから、バンドラは…。
「…バンドラは素直な子がタイプなの?」
「き、急にどした?…ま、まぁ、素直じゃない奴よりかは楽だろうな。」
「…ッ!?」
ウタはその言葉に反応し、頭の髪がピョンと上がる。彼女の小さな胸は張り裂けそうだった。自分はバンドラに好かれていないのだと。
「まぁ、素直じゃない女も嫌いじゃあねえが。」
「ホントッ!?」
「うわっ…と。どうしたんだよ。さっきから。」
目をキラキラと輝かせてバンドラを見るウタ。その顔は満面の笑みだった。バンドラはその表情の変わりように少しびっくりしていた。
「…バンドラ、ヤマトとキスしてた。」
「……あ、あぁ…したな。」
今思えば軽率な行動をしただろうとバンドラは思う。現に酔った勢いで一度しているし、バンドラとしては躊躇はなかった。それと…やはり、意識が朦朧としていたのもあったろう。
「…。」
バンドラはすやすやと眠るヤマトを見て唇を押さえながら、顔を赤く染めていた。
「付き合って…ないんだよね?」
「…他意はない。ヤマトも戯れ合いのつもりだろう。」
「…どうだった?」
ウタがほのかに顔を赤くしながらジト目で聞く。バンドラはふっと笑った。
「なんだぁ?マセやがって。坊主とやるときの予行練習か?」
「ち、違うもんッ!!る、ルフィは関係ないでしょッ!?」
ウタの顔が茹蛸のように真っ赤になる。
バンドラはタバコを蒸しながら、ニヤリと歯を見せて笑った。
「お前にゃまだ早えよ。ガキぃ。」
笑いながらそう言うバンドラ。ウタの頭を軽くポンポンと叩く。ウタは頬を膨らませながら、自身を子ども扱いするバンドラを睨みつけた。
「もう子どもじゃないっ!!14になったんだよッ!?」
「まだガキじゃねえか。14は。」
そう言いながらも遠いところを見ながら、タバコを蒸すバンドラ。ヤマト相手には考えたこともなかったが、子どもの成長とは早いものである。
「…エレジアでピーピー泣いてたガキがもう14か。」
「ピーピー泣いてないもん。泣いたのは…その…バンドラが来たときだけじゃん。」
そうだっけ?とバンドラが返す。
ウタは肩を落として、ため息を吐いた。
「すっかり大人っぽくなりやがって。まぁ、まだまだガキだがなぁ?」
バンドラは歯を見せて笑いながらそう言った。現にウタは現在、成長期である。
「また子ども扱いする。」
「俺から見たら子どもだからな。」
頬を膨らませてむすっとするウタ。
「…私だって…もっと…。」
「ん?どうした?」
ウタは暗い顔をしながら、ボソリと呟いた。後ろの髪も下に下がっている。バンドラは首を傾げていた。
ウタにとってシャンクスとルフィ、バンドラへの感情は明確に違う。しかし、ルフィとバンドラへの感情は…同じようにも感じていた。ルフィのことは心配だの、しょうがないだの思いつつも忘れられない。バンドラも然り。…その感情をウタは最近知った。
「…てい。」
「あうっ…。なにすんのよ…?」
浮かない顔をしていたウタの額を指で優しくこづくバンドラ。ウタはそこを押さえて、少し涙目になりながらバンドラを睨む。
「何悩んでんのか、知らねえけど。一人で抱えねえ方がいいぞ?」
「…え?」
「前はどうか知らねえが、今は俺も頼りになるかどうかはわからんがヤマトもいる。お前よりも長く生きてるつもりだ。相談にぐらいは乗れるとおもうぜ?」
優しく笑うバンドラの顔にウタの胸はとくんと鳴る。
…エレジアでゴードンと二人っきりのときは数日とはいえ、幼いウタにとっては地獄と言っても過言ではなかった。まさにどん底。父親に捨てられたと思い、殻にこもっていた彼女を救ったのは…バンドラだった。
「ねぇ…バンドラ。」
「んぁ?」
ウタは指でタバコを掴み、バンドラの首に手を回す。
「…おい。」
「私にも…教えてよ。」
バンドラは少し驚いたように目を開ける。
…どこで覚えたのか、ウタはそんなことを言いながら、バンドラに迫ってくる。まだ14歳。発展途上のその身体は奇しくも少し大人びて見えた。
ウタの顔が迫ってくる。
まだ口紅もつけちゃいない純粋な桃色の唇が光る。
「ま、待て。ウタ。な?お前…坊主はどうした。」
「関係ないし、待たない。」
バンドラは気の迷いだろうと思い止めるよう言うも、ウタの決意は固かった。バンドラがウタの唇を指で遮るも、ウタはそれを手で掴んで離す。
「ウタ、一体どうしたってんだよ…ッ!?」
「…別に?バンドラ、私のこと好きじゃないの?」
悪戯っぽくにっと笑うウタ。
バンドラは呆れたように笑う。
「このメスガキが…。」
「ガキじゃないッ!!」
「いいか?俺がお前にキスしたとして…シャンクス含めたお前の親軍団が俺に戦争仕掛けてくることになるんだぞ?」
ジトーとしたバンドラにウタはむすっとした表情になる。
「なんで関係あるのよ。海賊は自由なんでしょ。私が誰と何をしようが、私の勝手でしょ。」
「…あのなぁ…。」
そう言ってバンドラはウタの頬に唇を落とす。
…まぁ、このぐらいならスキンシップに入るだろう…と自分を肯定しながら。ウタはびっくりしたのか、感情に連動して髪が上がった。ウタの顔が真っ赤になる。
「…んなこと言うなら、もう相手してやんねえよ?」
「うえっ!?な、なんで…!?」
「お前がどこぞの馬の骨とこういうことをしているのを俺もアイツらも見たくないからな。」
歯を見せてにっと笑うバンドラ。
ウタはキョトンとした顔でバンドラを見ていた。そんなウタの頭をバンドラは優しく撫でる。
「勝手だね。」
「あぁ、勝手さっ。」
そう言って二人は笑い合っていた。