…海軍本部は騒然としていた。センゴクは焦りと怒りで室内をウロチョロとしている。
「ブワッハッハッハッ!!まぁたやりよったか、バンドラのやつ。」
「笑い事じゃないぞッ!!ガープッ!!」
ガープは室内のソファに座りながら、バリバリと煎餅を食べている。もはや、涙を流しながら笑っていた。
「まさか、天竜人を二度も手にかけるとは…。」
「なぁに、殺しちゃおらん。そう憤ることもないじゃろ?」
「何を言っておるッ!!…全く悠長なことを。あやつの天竜人への思想はお前のせいだからな、ガープッ!!」
その声に再びガープが大声を上げて笑う。
センゴクは青筋を立てて怒っていた。
「天竜人に手を出したらバスターコールだぞッ!?何を考えておるのだ…。」
「伝令ッ!!」
センゴクが頭を抱えていると一般海兵が入ってくる。海兵は手に電伝虫を持っていた。センゴクがそれを預かり、海兵を下がらせてから耳元に持ってくる。
「もしもし。」
『いやぁ、やっちまったよ。センゴクさん。』
その声の主は何故だか陽気なバンドラだった。センゴクはその電伝虫に向かって叫ぶ。
「なーにがやっちまったよ、だッ!?お前、またやりよって…。バスターコールだぞッ!?わかっているのかッ!?」
『わかってる。わかってるって。…ただ、大事なもんに手ェ出されたんだ。例え、天竜人でも俺の大事なもんに手ェ出す奴は…許さねえ。わかってくれよ。センゴクさん。』
「しかし、バスターコールは避けられんッ!!お前、今いる島を消すつもりかッ!?」
センゴクの額には怒りではない。我が息子のように育ててきたバンドラへの心配と焦りだった。しかし、バンドラはそんなことも関係ないという風に笑う。
『ヒヤハハッ!!だから、センゴクさんに相談しにきたんだよ。…バスターコールは俺一人で受け止める。多少、海兵に犠牲が出ちまうが良いだろ?』
「な…何ィィィィッ!?」
「ブワッハッハッハッ!!バンドラ、やっぱりぶっ飛んだ男じゃのうッ!!」
センゴクは目を白黒させて声を上げる。ガープは煎餅をバリバリと食べながら、涙を流して笑っていた。
『島は政府御用達の造船所の街だ。俺を消す為には代償が大きすぎるんでは?』
「だが、本来は見せしめという意味合いの攻撃だ…!!そんな理屈が通るわけが…ッ!!」
『…ウォーターセブンの道中に小さな小船を流す。俺はその小船と共に漂う。そうすりゃ、アンタらは逃げた俺に攻撃をする理由になる。』
バンドラのその声にセンゴクがハッと息を呑む。バンドラの言っていることは、確かに理にかなっているかもしれない。
「…だが…ッ!!」
『頼むよ。センゴクさん。これは俺が始めた喧嘩だからさ。』
優しい声色でそう言うバンドラ。もはや、何もセンゴクにいえる言葉は無かった。ガープもそれがわかっているのか、静かにお茶を啜る。
「…わかった。だが、此方も手加減は出来んぞ。お前が死んでもお前の勝手、生きていてもお前の勝手だ。」
『………了解。』
そう言って電伝虫は切れてしまった。
センゴクは遠いところを眺めながら、ため息を吐く。
「…アイツがまだ海軍なら。」
「…阿呆。あんなバケモン、押さえとく場所はないぞ。何せ、アイツは…。」
「ベガパンクめ。余計なことをしよって。」
…夜闇。月明かりが水面に漂う。
天竜人の殴打事件は人知れず。ウォーターセブンの近くの島に手足を拘束し、縛り付けて放置していた。バンドラはバスターコール時、チャルロス聖を明け渡すつもりだ。
「…。」
バンドラは静かに眠るウタの横に座り、その頭を優しく撫でていた。時折、うなされるように声を上げ、涙を流すその様はバンドラにとっては苦痛そのものだった。
「…ん、んぅ…ん?」
「…おや、起こしちまったか。」
声を上げて起きるウタ。髪はいつもとは違い、下ろしており、頬には絆創膏が貼られていた。…先程の出来事を思い出したかのように、ウタはバンドラの手をギュッと握る。
「…バンドラ。…私、汚されちゃった。あの…人に…触れられて…っ…。」
か細い声が次第に震え始める。
ウタの目からポロポロと頬を伝い、涙が流れ出す。…幼い少女には汚い手で触れられただけでショックだったのだ。バンドラはそんなウタの涙を指で拭う。
「…大丈夫。大丈夫だよ。」
優しくそう言って、ウタの背中をさするバンドラ。ウタは嗚咽混じりに泣いていた。これほど泣くのは…あの日以来かとバンドラは思い出していた。
「…ごめんなさい…ごめんなさい…っ…!!ちゃんと…近くに居れば…あんなことには…っ…。」
「ウタにとっては初めての場所だったんだ。見て回って…当然だ。」
「うぅ…うわぁ…ぁあぁ…っ…!!」
凛と澄んだ少女の鳴き声が仄暗い室内にこだまする。バンドラはそんな彼女の背中をずっとさすり続けた。
「…ねぇ…バンドラ…。ぎゅって…して…?」
「お安い御用さ。」
ウタはバンドラの首に手を回す。
彼女の目の周りは赤く…腫れていた。バンドラとの背の差はベッドと椅子に座ることでその差は無くなる。バンドラのゴツゴツとした手がウタの背中に回る。
「…ねぇ…。」
「ん?」
「……今日は…ううん。…今日も一緒に寝てくれない?一人は…ヤだ。」
そう言って耳打ちをするウタ。
バンドラに断る気は毛頭ない。バンドラは手を上に持ってきてウタの頭の後ろを撫でる。
「……了解。」
「うへへ…嬉しい。」
ウタの抱きつく強さが強くなる。
バンドラはそんなウタに微笑みかけた。
バンドラはウタの隣に潜り込む。他意はない。ただ、ウタの願いを叶えるだけ。入るとウタがそれが落ち着くかのようにバンドラの右腕を枕にする。筋骨隆々のその腕はウタにとっては少し硬かった。
「バンドラ…。」
「ん?」
蝋燭も消え、明かりの無い室内でウタがボソリと呟く。
「バンドラは…何処にも行かないよね。私を置いて行かないよね?」
…バンドラはウタのその壮烈な人生を知っている。だからこそ、その言葉の重みは違った。数年前まで自分の大切な父とその仲間が自分を捨てたと思っていたのだ。バンドラはそんな彼女の頬をつねった。
「痛いッ痛いッ!!なにすんのよ…ッ!!」
「あ?…ふざけたこと言ってるうちの歌姫を咎めようかと思って。」
「ふ…ふざけた…って…。」
バンドラはウタの方を向いてニヤリと笑う。
ウタは少しジンジンする頬に手を持ってきて、半泣きになっていた。
「…俺は約束を破らない男だ。ヤマトのおでんのように世界を見るってやつも、お前の世界一の歌姫になってシャンクス達に会いに行くってやつも…全部叶える。それまでお前を置いていけるかってんだ。」
優しく笑うバンドラを月明かりが照らす。
その姿がウタにはキラキラと輝いて見えた。
…今なら良いかな。
ウタはバンドラの首に手を回し、バンドラの唇に自分の唇を重ねた。
「んっ…!?」
バンドラは驚き、目を見開く。
ウタは目を閉じて、その唇から自分の唇を剥がした。
「ぷはっ…おい…。」
「お…おやすみッ!!」
バッと後ろを向くウタ。バンドラから顔を背けたかったのだ。少女の顔は熱を持つ。バンドラはため息をついた。
「恥ずかしいならハナからやるなよ。」
ボソリと呟いたその言葉にウタは悶絶の声を上げる。風邪をひいたわけでもないのに…ウタの顔は赤くそして…暑くなっていた。
ごめんよ…シャンクス…。
案外、新時代を怖がっているのは緑牛じゃなくてシャンクスの説があります。この小説に限っては。まぁ、ウタちゃんがやったことですしね。
思ったけど、この4人のうち、2人はバスターコールに関係してるのか。