夜明けと共に船はゆっくりと出港を始める。目指すは
「戦争の絶えない国。その武力を持って北の海の全国家を征服した帝国だったけれど、その栄華はたったの66日だったようね。」
「勤勉だねえ。ロビンは。…ただ、今の格好以外は。」
「あら。お嫌い?」
ソファーに座るバンドラの膝の上でくすくすと笑うロビン。上品に笑うそれはまさに天使か、はたまた、悪魔か。バンドラが手をロビンの方へ持っていくと、ロビンはその手を優しく掴み、甲に唇を落とした。
「すぐそう、安売りしないの。」
「あら、して欲しいのかなと思って。それとも…お口がいい?」
上体を起こし、バンドラの肩へ顎を置くロビン。吐息混じりに耳元で囁くその声に内心、ぞくりとするバンドラ。ロビンはバンドラの顎を人差し指で優しく上げる。
「私も貴方達と同じ。海賊の一座。」
「…俺たちは船乗りだ。」
「ふふっ。世間から見れば、何方も一緒よ。この世に平和や平等なんて酔狂な言葉は存在しないのだもの。船を率いて、荒れる海を跋扈しているだけで…海賊よ。」
そう言ってロビンはバンドラの頬に口づけをした。バンドラは唇にされるもの…だと思っていたため、呆気に取られる。クスクスと笑う
「そう安売りはしないわよ?だって…」
…そこでロビンの言葉は途絶えた。
バンドラの唇で塞がれたからだ。バンドラはゆっくりとロビンから唇を離すとニヤリと笑う。ロビンは手で口元を隠しながら、顔をほのかに赤く染めて、照れた。
「その気にさせたお前が悪い。」
「……ずるい。」
大口を開けて、笑うバンドラ。
ロビンは顔を赤く色づかせ、バンドラを睨む。バンドラはそんなロビンの頬を掌で触れた。
バンドラがロビンの顎を優しく上げる。
ロビンはさっきのこともあり、目を閉じるも何も来ない。目を開ければ、バンドラがふっと微笑んでいた。
「ハハッ。俺も安売りはしねえ。」
「…ほんと、ずるい人ね。」
そう言い、ロビンはぷいっとバンドラに背を向ける形で寝転がる。ただ、バンドラの膝枕からは離れていない。バンドラは今日の朝刊に目を向けつつも、そんなロビンの頭に手を優しく乗っける。歳はもう成熟しているとはいえ、親と少ししか会えず、親代わりの人を殺され、幼くして逃亡生活を逃れられなかったロビンにとっては、バンドラという人間がいることがぽっかりと空いたロビンの心を埋めてくれる。それが幸福で仕方がない。満たされているとは…このことなのだと。
…船は相も変わらず、海を渡る。
外からの轟音と共に気配を感じたバンドラはロビンに降りるように言い、甲板へと駆け出す。何があったのだろうとロビンが出るとそこにはウタとヤマトがびっくりしたかのように目を見開いていた。
…小さな小船が一隻、偉大なる航路の末端のような入り口に漂っていた。そこには男が1人。背に大きな刀を持ち、凛々しい…まるでハンターのような目でバンドラ達を見る。
「…ありゃ、知ってるぞ。」
バンドラが狂骨を握る。
その雰囲気からして、シャンクスとも引けを取らない強者ということをヒシヒシと感じながら。
男は鋭い目つきで背の刀を握る。
バンドラはそのまま小船へと飛び乗る。周りには船の残骸であろう、漂う材木にバンドラは沈まないものを選び、そこへと跳んだ。男もそれを察したのだろう。同じくそこへ跳び乗る。
「……“天帝”だな。」
「其方は鷹の目。」
バンドラはニヤリと笑いながら、距離をとり、ぐるぐるとゆっくり回る。鷹の目…と呼ばれた男は重々しく、口を開くと相対するかの如く、バンドラと逆に歩き出した。
「有名だ。七武海への勧誘を蹴り、大将3人を圧倒する力を持つと。」
「…で?何をしに。」
「戦うつもりはなかったのだが。暇潰しに付き合ってもらおう。」
そう言い、ふっと笑うと鷹の目の男は背中にかけた黒刀『夜』を握り、構える。
バンドラもそれに応える形で狂骨を抜いた。
「…行くぞ。」
そう言って鷹の目の男は地面を蹴り、踏み込んでくる。大ぶりなそれは一見、避けられそうに見えるが、鷹の目の威圧感からか、身体が避けることを考えていない。
バンドラはそれを黒刀化した狂骨で防ぐ。
重い一撃が空を切り、バンドラの狂骨をジリジリと追い詰めていく。…剣士としての格は明らかに鷹の目の方が上だった。
「ウォォォラァァッ!!」
バンドラが上に弾き、鷹の目の懐へと入ろうとする。
狂骨を振り抜くと裂いたのは…腹ではなく、鷹の目の服だった。
勝負を生き急いだか、と鷹の目は感じる。鷹の目は再び、斜めがけに夜を構えるが。
「へっ…。」
不敵に笑うバンドラに妙な雰囲気を感じた。
バンドラの刀がバリバリと武装色とは違う何かを纏い始める。
「…覇王色…。」
ボソリと呟く鷹の目。
まだ未熟なそれを鷹の目は刃で受け流す。
しかし、そこから閃光のような連打が襲い掛かる。
「…っ。」
…しかし、そこは世界最高の大剣豪。その攻撃を息をするが如く、ごく自然に受け流し始めた。
洗礼されたその動きにロビンたちは思わず、息を呑む。
「貴様、何か隠しているな。何故、全力を出さない。剣だけなら俺は愚か、海軍大将が3人ともやられるわけがあるまい。」
鷹の目の視点ではそうであった。
特に洗礼されたわけでもなければ、勿論、荒削りではない。悪く言えば凡庸で力任せ、よく言えば力の乗った変わらぬ一撃をバンドラの狂骨は持っていた。
鷹の目が狂骨の刃を弾く。
…自分が買い被りすぎていた。そう思った時だった。
「…お前の騎士道に応える為。」
「…なに?」
「剣一本でお前と戦う。それが大剣豪との戦いでの礼儀だろう。」
そう言って踏み込むバンドラ。勿論、鷹の目にとっては造作もない愚策。鷹の目はそのまま狂骨の刃を上へと弾く。と共に、落雷のような一振りをバンドラに叩き込んだ。
「…ッ。」
夜が火花を散らせた。
血飛沫が上がる。そう考えていた鷹の目は驚いた。バンドラの腕が黒色化し、刃が下へと入っていかない。本来ならば、例え、武装硬化していようと切り裂けるはずなのに。
「…どこでそれほどまでに。」
武装色だけはこの男は群を抜いている。そう、鷹の目は見た。
「昔、頑固なクソジジイに躾けられてな。そのときに身を守るために覚えたのさ。肌をなによりも硬く、なによりも強くする力。武器を折れねえようにする力をな。」
「…なるほど。」
そうボソリと呟くと鷹の目は黒刀『夜』を鞘に納め、背に仕舞う。バンドラもそれを見るや否や、狂骨を仕舞い込んだ。
「…大海にて、貴様という人間の名はよく知れている。強く、猛々しいが、女子を侍らせ、海を回る無法者。神をも恐れぬその根性。政府は隠し通しているつもりだが、名の知れた海賊はそれを知っている。」
「買い被りすぎだ。…てか、アンタがそんなこと言っていいのかい?王下七武海、鷹の目のミホーク。」
鷹の目…ジュラキュール・ミホークは無表情でバンドラを睨みつける。バンドラもニヤリと笑って、ミホークを見ていた。
「…七武海の先は空いている。今では六武海だ。」
「ハハ。アンタが冗談言うなんてな。明日は隕石が降るぜ。」
「…それはどう言う意味だ。」
…事実、現在、王下七武海は鷹の目のミホークを含め、計6人しか決まっていない。政府は7人に拘っているわけではないのだが、是が非でもバンドラが欲しい理由がある。それはバスターコールの件の口止めがほぼを占めているのと、海賊行為の抑制である。
バンドラほどの人間が政府サイドにいるとすれば、海賊行為の抑制にも繋がる。世界政府はそう考えていたのだ。
「…特に海賊女帝やら海侠のジンベエやらに勧誘も行っていた。」
「うちには青キジが来たよ。ボア・ハンコックが居るなら、俺も行こうかな。」
「…ふん。噂に違えぬ女好き。…まあ、貴様としても利点はあるのではないか。」
…一番の利点はやはり、ウタやロビンを守れること。バンドラ達にとってはそれが最も揺らぐ理由なのだ。
「まぁ…考えてくるといい。」
「おい、宴はしねえのか。」
「…疲れた。」
そう言ってミホークは小船に乗り込み、その場から出て行った。
ロビンちゃーん。REDのロビンちゃん、大好き。可愛い。
王下七武海にすると割と話し繋がるからなぁ…。
6人分かけるのがデカい。後は海軍とか、CP9とか?わかんねえけど。
次回から取り敢えずジェルマです。
レイジュ暴走…?ではでは。