「…トットムジカ…だと?」
バンドラは眉を顰め、聞き返す。ゴードンは淡々と言葉を紡いだ。
「…エレジアはその日も何も起こらず、人々は音楽を楽しんでいた。…赤髪海賊団がそこに現れるまでは…。」
「…やっぱりシャンクスが…。」
ウタがそうつぶやく。
キュッと握る小さな手がだんだんと強くなる。バンドラは優しくまた、握り返すとウタは少し安心したようにバンドラを見た。
「…違うんだ。…人々も…私も歓迎した。歌姫の…君の来国を。その歌声はとても素晴らしかった。人々は君がエレジアに残ることを望んだ。シャンクスもわかってくれた。…だが。」
「ウタはそれを望まなかった。」
ゴードンがこっくりと頷く。
「人々は別れを惜しんだ。それほどまでに君の歌は…素晴らしかったから。だから、最後に沢山の歌を歌ってもらおうと人々は考え、君は喜んで歌った。…その時だった。君の近くに一つの楽譜がやってきたんだ。」
ウタの手が強くなり、段々とこめかみから汗が出ているのがわかる。当時のことがいかにタブーか。バンドラは目を閉じて、その話を聞いていた。いずれ、遅かれ早かれウタ自身が知らなければいけないのだ。
「…ウタ。今日はやめとくか?」
「…うぇ…?」
「体が震えている。…思い出したくないんじゃないか?」
微かであるが、ウタの身体が震えていた。息も少し上がっていて、身体は自然とその時のことを思い浮かべると起こる拒否反応か何かだった。バンドラはウタは知らなくちゃいけないが、ゆっくりでも良いと考えていた。
しかし、ウタはブンブンと頭を横に振った。
「…大丈夫。」
か細い声でそう言うウタ。ウタとて真相を知りたいのだ。例え、父、シャンクスが本当にエレジアを壊してようと、壊してなかろうと。バンドラはそうかと笑うと、ゴードンに続けるように言った。
「…ウタはその楽譜を取って歌ってしまった。それにより、目覚めてしまったのだ。…トットムジカが。」
「…私の…せい…?」
それを聞いた途端、ウタの顔が暗くなる。
ウタのトレードマークである、頭の後ろのリボン状の髪も少ししなだれ、バンドラの手を握る力もより強くなる。
「違う…違うんだっ!!…私たち、国民が君に歌を歌わせたから…!!楽譜が君を見つけてしまった…!!」
「…その、トットムジカが現れ、一夜にしてエレジアを壊滅させた…ってとこか。」
ゴードンはこくりと頷いた。
…救いのない話だ。ウタも国民もそして、シャンクスも誰も悪くない。偶然が重なってこの国は…滅びたのだ。
「…トットムジカは破壊して済むものか?」
「わからない。だが、私には無理だ。…あれもまた、音楽。私には…あれを壊すことは出来なかった…。」
「…了解。」
低い声でそう言うバンドラ。
頭を抱え、ちらりと横を見るとウタは先ほどよりもより一層、震えていた。うわ言のように「私が…やった…歌ったから…」と呟き、青ざめた顔をしていた。
ゴードンも心配そうにウタを見る。
…彼もエレジアの被害者であり、事件の要因でもある。しかし、罪を忘れずにウタという少女を一生懸命に育てた。それで贖罪になるわけではないが、それでも彼は彼なりにやってきた、とバンドラは踏んでいた。
「…ありがとう。話してくれて。」
ふぅ…と息を吐くバンドラ。
強く握るウタの手を、優しく優しく包み込む。それに気づいたウタはバンドラの方を向くと、バンドラは微笑んでいた。
「…バンドラ…。怖い…怖いの。また…私は…人を殺してしまったら…また私は誰かを不幸にしたらッ!!私は…!!」
「…大丈夫。次にもし、暴走しても…俺がいる。」
少し涙ぐむウタをバンドラが背を撫で、あやす。
実際、バンドラに出来ることはこれしかなかったのだ。希望を持たせて、傷は時間をかけてゆっくりと直していくしかない。
事実、ウタにはこれだけで安心することができた。
知っている人間が側に居る。自分のやったことを知っても、拒絶しないでくれている。…これによって崩落寸前の彼女の心は形を保っているのだ。それと同時に、父、シャンクスへの申し訳なさを感じる。
より一層、シャンクスに会いたいと言う感情が大きくなった。幼いながらに守ってくれたという申し訳なさ。謝りたいと言う感情。それら全てが増幅する。…小さな胸には、それがぐしゃぐしゃになって詰まっているのだ。
「…うん。」
…そこにたった1人、知り合いがいるだけでまだ楽になれる。まだ子どもの彼女にはバンドラという男は罪の緩和剤になる。…一緒にいるだけで安心できるのだ。
「…バンドラくんはいつまでいる気かな?見ての通り、なんのあれもないのだが…。」
「ん?あぁ。…外に行かなきゃいけないもんは俺が用意しよう。…それにいずれはウタに外の世界を見せてやりたいと考えている。」
「そうか。」
ゴードンはふっと微笑んだ。
バンドラはそれに応えるようにニヤリと笑う。
外はもう暗くなっていた。
「…バンドラくんの部屋はウタの部屋の隣でいいかな?」
2階の窓際。バンドラはそこへ案内された。そこには布団と机と椅子が一組という殺風景なものだったが、住めないと言うほどではなかった。
「私は別に同じ部屋でも良いのに。」
「…お前、そういうのは言わねえほうがいいぞ。」
「私も同意だ。」
キョトンとするウタ。
バンドラとゴードンは冷ややかな目でウタを見る。
「まぁ、欲しいものがあれば工面するとしよう。」
「…そうか。」
ベッドの上に腰をかけるバンドラ。
その隣に着いてくるようにウタがかける。ゴードンは夕飯の準備に下へと戻っていった。
「…シャンクスは元気だった?」
「あぁ。そりゃもう、元気すぎて暴れ出すくらいだ。」
笑顔でそう言うバンドラ。
ウタも楽しげに話すバンドラの様子を見て、にこやかになっていた。
「しかし、ウタも大きくなったなぁ。何歳になった?」
「大きくなったって…会ってから一年も経ってないよ?」
そう言って遠いところを見るウタ。
バンドラはそうかと歯を見せて、悪戯に笑った。
「…髪の毛もベックさんに結ってもらったみたいになってるな?ゴードンか?」
「ううん。自分で結えるようになったの。ゴードンは手先器用じゃないから。」
「そうかそうか。」
「ねぇ。」
お互い、思うこともあるのだろう。
話を切り返したのはウタだった。バンドラはん?と横を見ると、ウタがまるで此方を睨んでいるように見えた。
「…無理してる。タバコは?」
「…は?いや、子どもの近くで吸うわけにゃいかねえだろが。それでシャンクスにも叱られたのに。」
「別に良いよ?なんなら、ベックさんだって私の前で吸ってたし。」
確かにと納得するバンドラ。
ベックマンは赤髪海賊団でも数少ない良識者だ。それが子どもの前で吸うのだから、バンドラもいつもの流れでタバコに火をつける。
「あんま近づくなよ?タバコの煙は体に害だからな。」
「ええー?私も吸ってみたいっ!!」
「ダメだっつうの。…まぁ、これでも咥えてな。」
そう言って、着物の胸元から唐草模様の巾着を出すバンドラ。そこには大量の棒付きキャンディーやらなにやらのお菓子類が入っていた。
「あっ。いけないんだぁ。お菓子そんなに持ってきて、虫歯になるよ?」
「俺んじゃねえよっ!!旅先であったガキとか、女とかにやると喜ばれるんだ。飯前だから、一個だけな。」
「むぅ。なんか子どもっぽーい。」
「子どもだろうが。」
ジトーとウタを見るバンドラ。不貞腐れながらもウタは、バンドラの渡す棒付きキャンディーを咥えた。
「おおー。お揃いだ。」
そう言って、どこからか持って来た手鏡で自身を見るウタ。お揃いというだけで嬉しそうにするウタを見て、バンドラは心の底が満たされた気がした。
「…人の親ってこんな感覚なんだろうな。」
ボソリとそうつぶやくとタバコの煙を窓際まで行ってゆっくりと吐いた。
「私もタバコ、吸えるようになるかな?」
「歌姫がタバコ吸うたぁ、またかなり幻滅だねぇ…。あんまりお勧めはしねえよ。」
「ウタっ!!バンドラくんっ!!夕飯の支度ができたよ。」
そう言ってバンドラの部屋へと入ってくるゴードン。バンドラもタバコの火を消すと、吸い殻をポケットに入っていた袋の中に入れた。
「飴の話は内緒な?」
口元に人差し指を当てて、そう言うバンドラにウタは元気よく首を縦に振った。
暫くはエレジア拠点でバンドラくんはスタートしていきます。海軍とかも絡めていきたいねえ。
ウタとスローライフにしていきますかとこんな感じで。幼少期ウタちゃんが笑っているだけで、なんか感じるものがありますなぁ…。
このキャラと絡めて欲しいとかあれば是非言ってください。出来るだけ回収するようにします。原作死亡キャラでも良いです。では。
お気に入り登録者600人越え、ありがとうございます。感無量でございます。今まで書いてきた中で最高ですっ!!これからも、是非応援の程よろしくお願いします!!