燃ゆる龍、覇道の道征く   作:紳爾零士

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…やっちまったZE☆


第61話

…政府管理島。

 

「暇じゃ〜。シーザー。」

 

「…はいはい。」

 

フラスコやビーカー…果ては配線ケーブルやロボットの腕のようなもの。研究室には資料が所狭しと並べられており、窓ガラスから室内の壁には常人には理解できぬ程の数式文字式の数々…。

 

それもそのはず。

ここに住んでいるのは世界最高の科学者。500年先の未来まで見通しているとある者は言うもの…Dr.ベガパンク。

 

「バンドラの野郎…この俺にこの我儘女の相手させやがって…。次あったらとっちめて…。」

 

「…なんか言ったか?シーザー。お前とてバンドラの悪口は許さぬぞ?」

 

ピンク色の肩より上のボブカット。まるでウタのヘッドホンのようなヘッドギアにハイライトを失った緑色の目。…歳としては20〜30歳そこらといったところ。そんな少女の目が、白衣の男…シーザー・クラウンを突き刺すように見る。出ているのは…殺気。

 

「わ、わかってますってぇっ!!ええ、そりゃもうっ。天帝バンドラと言やぁ、最近世間を騒がしている有名人ですからっ!!」

 

「黙れ。お前に彼の良さなど語りきれるわけがあるまい。」

 

辛辣な低い声でそう言うベガパンク。手もみをしていたシーザーもこれには見えないように青筋を立てて、怒りを堪えていた。

 

「で?今はどこにいるんだよ。その愛しのバンドラ様は。」

 

「うぅ〜…!!聞いてくれるかっ!?このワシを裏切ってジャッジのとこにおるのじゃぁ〜…!!可笑しくないか?奴はワシのものじゃと言うのにぃ〜…!!」

 

「ダァーッ!!鬱陶しいッ!!」

 

ベガパンクはうるうると目を潤ませながら、シーザーへと抱きつく。シーザーは大口を開けて、叫ぶも離れる気配はない。

 

「大体、男は自分の心臓にGPSをつけるような女は怖くて仕方ねえんだよッ!?嫌われて当然だわッ!!アホッ!!」

 

「なぬ!?そうなのかッ!?…ワシはバンドラのもしものために駆けつけるようにと…。」

 

…そう、ベガパンクは親切心でバンドラの心臓にGPSを付けていた。というのも、バンドラが電波回路を狂わせることが出来るのを知りつつ、狂わないように回路を作り替えて…だ。

 

ベガパンクは肩を落としてしょんぼりとした顔でシーザーを見る。その姿にシーザーは頭を抱えた。…もしや、俺がおかしいのではと。

 

「ワシは彼ほどワシの番に相応しい人間は居ないと思っとる。だから、彼を生かしてあげたし、毒やら病気やらにも強くしてあげたっ。これほど尽くしているのに…。」

 

「…俺はお前が怖えよ。」

 

「…ワシ以外の女とイチャイチャイチャイチャ…。次は体に盗聴器と小型カメラを付けてしまおうかの。」

 

ふふふふ…と笑うベガパンク。

その周りには紫色のドス黒いオーラが出ていた。シーザーは冷や汗をかきながら、その様子に苦笑いをする。

 

「細胞の隅から隅まで改造したいのぉ?…ワシから離れられなくなるくらいまで。」

 

「…怖えよ。」

 

満面の笑みでバンドラの手配書を見るベガパンクにシーザーは震えながら、部屋の隅へと逃げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「乾杯(cheers)♪」」

 

カツンとグラスの音と共に、中身の赤ワインが少し揺らめく。時間的には朝に入りたて。この時間から酒を飲むのは些かという話ではあるが、レイジュとバンドラは2人っきりで飲んでいた。

 

「しかし、良かったのか?こんなおっさんと飲んで。」

 

「良いの。…逆に貴方じゃなきゃ嫌だわ。弟たちとかお父様とか…むさ苦しいし可愛くないもの。」

 

レイジュは微笑みながらそういった。

バンドラはそうかいと下に残る甘みを嗜む。レイジュはバンドラの方へと寄る。太腿と太腿が触れ合うほどに。

 

「…ありがとう。貴方のおかげで父が人の命を重んじるようになった。弟たちが完全な兵器にならないで済んだわ。」

 

「なぁに。…自分の子どもを子どもだと思わねえクソ親は死んだ方がマシさ。アイツにゃ奥さんを愛する気持ちがみじんこほどはあったってだけ。」

 

レイジュはそう…と、うっとりとしたようにバンドラの顔を見る。バンドラはレイジュの口元のワインの雫を指で拭った。

 

「……あっ。」

 

「こういうとこは5人姉弟の姉貴でも子どもだな。」

 

そう言って笑うバンドラにレイジュはそうと呆気なく言い、赤ワインの入ったグラスを傾ける。ニヤリとレイジュは笑うと、バンドラの名前を呼ぶ。

 

「なに…。」

 

その後、言葉が紡がれることはなかった。レイジュの唇が重なったからだ。ゆっくり…かつ、じっくりと。心の臓までむさぼりつくすように。舌先でバンドラのそれを絡める。

 

「んっ…。」

 

口吸いとはよく言ったもので。

レイジュは目で笑うと、口を離す。ワインだろうか…それが2人を繋ぐ。レイジュは下で唇をなぞるように…舌なめずりをすると、うっとりとした顔になる。

 

「…ゴチっ♪」

 

その姿は18の少女にして、妖艶な美魔女に見えた。バンドラは口元に少しの痺れを感じる。

 

「…お前、またやりやがったな。」

 

「ふふ。だって、そうでしょ?毒が体にまわれば、貴方は動けなくなる。その隙に作れば良いじゃない。…お父様が納得するほどの事実を。」

 

耳元で囁くレイジュ。

レイジュにも優しさと共に戦士の遺伝子が混じっている。それゆえの狂気か、彼女の笑みには影が刺す。

 

…何故こうも、レイジュはバンドラに好意を寄せているか。それは単純明快。弟たちを人にしてくれたから、父という存在に人の血を通わせてくれたからである。冷徹なジャッジは子どもたちを子どもとは一切考えていなかった。生物兵器を産むのに躊躇なく、彼女らの母はそれに対抗して劇薬を飲み、いつしか生き絶えた。

 

最初の子だったからか、女の子だったからか、レイジュには人の優しさというものが他のイチジ達よりも多少はあった。そのとき、ベガパンクのお客人としてバンドラが来たのだ。ジェルマの体制はたった1人の人間により、崩れる。敗北した父はより一層、愛情をかけて心を形成していった。結果は何も変わらなかったが、それでも父が少し人らしくなったことにレイジュは喜んだ。

 

いつしか、レイジュはバンドラという人間にどうしようもない信頼感を得たのだ。その信頼と子どもの心の我儘、独占欲が入り混じり…狂気的な愛へと成長する。人が恋に落ちるなど些細なきっかけ。それを知らない少女はなんとしてもこの男を手中に収めたいというものを恋と勘違いしてしまった。

 

「ふふふ。」

 

こつんと爪でグラスをこづき、不敵に笑うレイジュ。バンドラは不覚にもその姿を綺麗なものと思ってしまった。

 

「…やりましょう?濃厚な…キスを。」

 

ぺろりと舌なめずりをするレイジュ。

もう逃げられないのだと(レイジュ)に睨まれた(バンドラ)は理解する。レイジュはバンドラの首に手を回すと…その唇を先ほどよりもゆっくりと奪った。

 

…あぁ。ここまでやるならやってやる。

 

バンドラはレイジュの頭の後ろに手を回す。肌は赤く染まり、口からは白い息が上がる。それが…酔いか、興奮かはわからない。バンドラはレイジュの首元を優しく撫でる。するとレイジュが驚いたように目を開けた。バンドラは不敵に笑うと唇を剥がす。

 

「ゴチっ。」

 

「……ムカつく。」

 

むすっとした顔のレイジュはもう一度…ワイングラスに口をつけた。




コメ欄に預言者あらわる。…まぁ、わかるよね。ベガパンク怖い。本作のシーザーくんは割と不運枠。

好き:ヤマト、ロビン
友達程度:スムージー
わからない:ウタ
常軌を逸してる:ベガパンク、レイジュ

ですね。今のところ。バンドラに対する愛情は。

あ、あと、自己満アンケート答えていただきありがとうございます。…重いってこういうことかしら。場合によってはロビンも化けるかもな。

船の名前選手権は十月入る前に終わります。まぁ、そろそろ決めないといつ決めるんやってなりそうなんで。では。

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