燃ゆる龍、覇道の道征く   作:紳爾零士

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※ワンピースfilm REDのネタバレがあります。
そして、人によっては気分を害す可能性があります。心してお読み下さい。

…怒りは全て無能星へ。


第66話

……ウタ、お前は俺の…娘だ。

 

聞こえるのは怒号、悲鳴、そして…恐怖。あらゆる感情が混じり合い、一つの楽譜が呪われた。歌姫はそれを拾い上げ、歌い上げる。最高の歌、天使の歌声は…悪魔を呼び、最悪の惨劇(オーケストラ)へとなった。

 

「…シャンクス?」

 

夢の中か、現実か。

少女のよく知る赤髪が白煙に微睡み、歩いていく。少女はそこへ、必死に走る。息が切れる、足が痛む…だが、走る。

 

「ハッ…ハッ…ハッ…。」

 

…次第にその赤髪を闇が飲み込む。

その人物はふと少女に向かって、笑った。初めて目に傷がついた時、少女は大声で泣き叫んだと言う。飲み込まれていく青年に少女は必死で手を伸ばす。

 

「…ッ!?」

 

しかし、次に少女が見たのは…握りしめたナイフでその人を刺した自分だった。目の前の少女にそっくりな影は言う。

 

『何故、目を背けていたの?』

 

「だ…れ…?」

 

その姿こそ少女にそっくりではあったものの、目の隈は酷く…まるで、数時間も寝れなかったよう。影はナイフを握りながら、少女に迫り来る。聞こえるのは…あのメロディ。

 

無限にも続く白い回廊。

目の前に落ちるのは…あの楽譜。楽譜が歌えと叫ぶ。

 

「嫌だ…。」

 

…なおも歌えと…。

 

「嫌だ…ッ!!」

 

…歌えッ!!

 

「嫌だッ!!」

 

 

……楽譜は問う。何故、嫌なのだと。

歌は好きだろうと。楽譜から伸びる鍵盤のような腕がウタの体に絡みつく。その正体はなんだ?

 

ウタは目の前をハッと向く。

そこには…先程の影と共に()()がいた。聞こえるメロディは気分を落とす。

 

その後ろには…赤髪の人物。それと…数人の愉快な仲間。

 

『…何故、忘れたふりをしていたの?貴女(ワタシ)は一つの町を壊したのに。貴女(ワタシ)は何人も殺したのに…?』

 

「っ!?」

 

…少女は吐いた。

腹の中にあるもの全て。しかし、何度吐いても気持ち悪い。何度泣いても満たされない。当たり前だ。ここは現実ではない。

 

『…赤髪海賊団は悪だ。貴女(ワタシ)を一人置いて行った。』

 

手足を縛られて、少女は吊し上げられる。その首に…右腕だけの赤髪の男が…刀をかざした。

 

「しゃん…くす…?」

 

『…歌を止めろ。俺を…僕を…私を…歌え。そうすれば、胸は軽くなる。気持ちも晴れる。嫌なものは全て…いなくなる…。』

 

「い…いやだ…ッ!!」

 

少女は片腕だけの男の腹を蹴る。

こんなもの、憧れの海賊(おとうさん)じゃないと。片腕だけの男は泥のようになり…消えた。

 

鍵盤のような腕は少女を地面へ叩きつける。痛みはない。少女が落ちたのは先の見えない奈落だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…そして、現実。

汗をかきながら、魘されているウタの額にバンドラは濡れたタオルでそれを拭う。

 

「この子に何があったって言うの?」

 

子どもが好きなのだろう。

後ろで見ていたレイジュが心配そうな顔で言った。バンドラは眉間に皺を寄せて、全てを話す決意をした。

 

「……ということだ。」

 

「…なんてこと…!!」

 

…その歳で国一つを壊した。しかも、自分の愛したものを恨み、そして、それはただの逆恨みであったと…幼いながらに知った。

 

「…ウタの中では、国一つを壊したことへの謝罪、自分が居ていいのかという葛藤…そして、自分の父親たちへの感謝と…謝りきれないほどの罪の意識が葛藤しているんだ。…元々、最初は安定していなかったが…ここに来て…。」

 

バンドラは手をギュッと握りしめる。

…自分を責めるのは後だ。今は…少女を…助ける方法を考えろと脳を動かす。

 

「……あっ。」

 

「どうしたのっ!?」

 

隣のヤマトが言う。

バンドラは口をぽかんと開けて思い出した。ウタ自身が言っていたことだ。

 

『…音楽はね。心を癒すんだよ?だから、そんな乱暴に歌っちゃダメ。』

 

…自分が酒を飲み、適当に口ずさんだときの話だった。バンドラは立ち上がると、急いでウタの作曲室へと行く。ウタの作曲室には沢山の楽譜と壁にも書き殴った跡があった。

 

バンドラを追って、やってきた焦った様子の3人が同じく室内へと入ってくる。

 

「どうしたんだッ!?いきなりッ!?」

 

ヤマトがそう言うとバンドラは今までにないほど焦った口調で言った。

 

「あの子が歌を嫌いになっちゃいけないんだッ!!あの子から歌を取ったら…ウタは壊れちまうッ!!だから、探すんだよッ!!あの子が心の底から安心できる一曲をッ!!あの子の心の支えをッ!!」

 

切羽詰まった様子で叫ぶバンドラ。その声にヤマトたちも有無を言わさず、探し出す。

 

「これ、みんな怒られるわねッ!!ウタにッ!!」

 

「良いじゃねえかッ!!怒られちまおうぜッ!!みんなでなァッ!!」

 

その声にそこにいる全員が頷いた。

 

…何時間探しただろう。バンドラは一枚の紙を見つけた。

 

「…あった。」

 

がむしゃらに探した為か、ウタの手腕で散らかっていた部屋は更に散らかってしまった。ヤマトもレイジュも…ロビンですら頭から汗をかいて笑っていた。その楽譜の名は…『風のゆくえ』

 

バンドラはウタの魘され、眠っている場所へと走る。息も絶え絶え。悪夢に魘されるウタの部屋まで行き、また、座り出した。

 

「………この風は どこからきたのと 問いかけても 空は何も言わない

 

…ウタがライブで歌っていたのを頼りにバンドラは優しく…歌う。

 

『この歌はね。シャンクスたちが私に子守唄として歌ってくれたんだ。…子守唄なのにすごく賑やかだった。ほんと、バカだよねっ!!』

 

この歌は どこへ辿り着くの 見つけたいよ 自分だけの答えを

 

優しく微笑みながら、ゆっくりと。

…優しく歌うバンドラ。ウタから見たら下手くそで、心地の良い…歌。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…この声は…!!」

 

『…なんだ…。なんだ…。』

 

…闇が白く変化する。黒いウタは頭を抱えながら、苦しそうに喚いていた。

 

ただ一つの夢 決して譲れない

 

ウタの目から涙が流れる。

…懐かしい。本当に懐かしい。赤髪海賊団にいた時に歌ってもらった歌。しかし、声は違う。でも、妙に心地いい。

 

『何故だッ!!何故お前には仲間がいるッ!!ワタシは一人だと言うのにッ!!貴女(ワタシ)は…犯罪者だッ!!ワタシは…ッ!!』

 

「…ねぇ。貴女()『来るなぁッ!!』

 

優しく黒いウタに触れるウタ。

黒いウタは…泣いていた。泣き叫んでいた。子どものように泣きじゃくっていた。

 

「…貴女は一人ぼっちだったんだよね。ごめんね。私が貴女を楽しく歌えなくて。」

 

『あ…うぁ…あ…。』

 

ウタは黒いウタを抱きしめる。

…自分も一人ぼっちだったらこの子のようになっていただろう。あり得たはずの自分なのだから。

 

「…私は貴女を恨んでた。赤髪海賊団を恨んでた。…ダメだよね。そんな気持ちで歌う音楽に…価値なんてないもの。」

 

『…ぁあ…ううぅ…。』

 

…青空の世界。

ウタに似た髪をした真っ白な髪の少女が立っていた。その後ろには…かつて、エレジアを壊したであろう…魔王が。

 

「…もう良いよ。休んで良いの。そのかわり、私が友達になってあげるからっ!!もう貴方は…一人じゃないよ。トットムジカ。」

 

『……お前は…許すのか…。』

 

ウタは満面の笑みで頷いた。

そうか…とトットムジカは…消えて行ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただひとつの夢 誰も奪えない 私が消え去っても 歌は響き続ける

 

「………下手くそ。」

 

…ワナワナとバンドラの手が震えた。目の前がぼやけて見えない。でも、これだけはわかる。

 

「…おはよぅ…ウタ…。」

 

「おはよう…みんなっ。」

 

プリンセス・ウタは自分の中の闇を乗り越えて…帰ってきた。バンドラは楽譜を手から落として、抱きしめる。それを見て、ヤマトもロビンもレイジュも後ろから抱き締めていた。

 

「アハハッ!!もう…痛いよぉ。」

 

…ウタは晴れやかな笑顔で笑っていた。




…これで許して…。

トットムジカはウタウタの実の力に引き寄せられた→実は自分も歌って欲しかったのではないか?→孤独感が暴走を生み、悪魔を産んだ→だったら孤独じゃなくなったら?…という捏造です。ではでは。

























……レッドフォース号。

「ただひとつの夢 決して譲れない」

「お頭、何歌ったんだ?」

空を見て歌うシャンクス。それに船医ホンゴウが聞く。優しい風に煽られて、シャンクスの赤髪が靡いていた。

「なぁに…。ただ、懐かしい気分になっただけだ。」

そう言って微笑むシャンクス。


『ガキはなかなか寝付かねえッ!!どうすりゃ良いッ!!』

まだ赤ちゃんだったウタにふと周りから聞こえてきた柔らかなそれを歌ってあげたことを思い出した。結局、馬鹿騒ぎになって…寝付かなかったが。

「…ウタが笑った気がした。」

海の先を見て微笑むシャンクスにホンゴウは泣き真似をしていた。

「お頭…ついにイマジナリーウタを……!!俺じゃあ治せねえ…ッ!!」

「ば、馬鹿ッ!!そんなんじゃねえってッ!!」

逃げるホンゴウ。追うシャンクス。
…今日も赤髪海賊団は歌っている。
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