まぁ、これで心を癒されてくんなまし。
…ルエノルーヴ号、船内。
あの葛藤を全員で超え、船内は平穏な風を感じていた。バンドラは日本酒を飲みながら、一人ゆったりと過ごす。
「バンドラ〜。」
「ヤマト。」
ヤマトはバンドラを見つけるなり、いつものようにピッタリとひっつく。バンドラはふっと笑った。
「どうしたの?こんなとこで、冷えるよ?」
「…ちょっとな。」
バンドラはお猪口を傾けて、笑う。
そこにはまん丸の満月が映っていた。そんなバンドラの頬を指で突っつくヤマト。
「なんだよ。」
「なんか、いつもみたいに笑わないなぁって。なにかあった?」
「ん?あぁ。」
酒を飲んでにっと笑うバンドラ。ヤマトも同じく笑った。ヤマトはバンドラの左手を両手で握る。
「俺の選択はこれで良かったのかと。あのクソどもの下で働くことよりも…ウタが自分のせいでなったとか言い出さないかと思ってな。」
「?…大丈夫だよ。ウタちゃんは思ってたよりもずっと…強い子だ。」
「そうだな。」
バンドラのお猪口の中を見て、ヤマトが酒を注ぐ。バンドラはニヤリと笑うとそれを少し回してから飲んだ。
「…次はどこへ行こうか。」
バンドラは目を閉じながら、ヤマトの方へ体を預ける。コツンっとヤマトと頭が軽くぶつかる。ヤマトは微笑みながら、小首を傾げた。
「…もしかして、酔ってる?」
「……今日は疲れたからな。」
昔のよしみに会えると思ったら、大事な仲間の心を抉られた。それを助ける為に…必要以上に焦り、疲れてしまったのだ。
「…?」
ふと、ヤマトがごろんっとバンドラの膝に寝転がる。ヤマトが手を軽く握り、にっと笑った。
「…なんだよ。」
「……猫のマネ?なんか辛気臭いから。」
ニャーと言って笑うヤマト。そんなヤマトの頭にバンドラが手を乗せる。すると、ぐりぐりとヤマトは満足そうに頭を擦り付けていた。
「ふぅ…。」
バンドラは息を吐くとお猪口を横に置き、ヤマトを抱き上げた。
「わわっ!?」
ヤマトはびっくりしていた。
所謂、お姫様抱っこというやつである。ヤマトは急なそれに顔を真っ赤にして目を見開く。
「んなことしやがって。…何されても文句はねえな。」
「や…やっぱ…酔ってるよね…?…な、なな…なにするの…?」
ヤマトは目を潤ませながらそう聞く。
バンドラにだったら、何をされても良い。ただ、経験の少ないヤマトにはそれは恐怖であった。
バンドラはふっと微笑むとヤマトの口にそっと口づけをする。酒の香りがヤマトの鼻いっぱいに広がるものの、不思議と嫌な感覚はなかった。
「ぷはっ…。」
唇が離れる。
ヤマトはどきどきしていた。なんだそれだけか…という気持ちと、良かったという複雑な気持ちが混ざり合う。
そう思ったのも束の間。
ヤマトは地面へと下ろされる。ちょこんと座り、何が起こっているかわからないヤマトの背後からバンドラが抱きついた。
「えっと…あの…。」
「今日は俺の側に居ろよ。少し…こうしていたい気分だ。」
少し息の混じった低い声がヤマトの耳を通る。ヤマトにそう言ったフェチズムはない。ただ、頼られているという満足感が胸いっぱいに広がっていた。耳からカァ…と熱くなる感覚をヤマトは覚える。
「バンドラぁ〜…。これ…恥ずかしいよぉ…。」
「…いつも…これ以上のことしてんじゃねえか。」
アワアワとし出すヤマト。
バンドラはヤマトの首筋にすんっと鼻を近づけ、嗅ぐ。
「ひゃわっ!?」
「…。」
「…く…臭いから…やめて…。」
恥ずかしさと若干の痒みにヤマトの声が震える。バンドラは良い匂いだよ…と優しい声色で笑った。
「だ、ダメだ…!!これ以上はっ!!」
「…ん?」
ヤマトはバンドラの手を解き、背後を向く。ゆらりと白い髪が解ける。
「…そ、そういうのは…もうちょっと…進んでから…。」
「…わかった。悪かった。」
バンドラは甲板へと座り、また酒を飲む。ヤマトは少し警戒しながらも、バンドラの横に座った。
「いいのか?またやるかもしれないぞ?」
「…次やったら皆んなに言うから、大丈夫。」
「勘弁してくれ…。」
そう言って肩を落とすバンドラ。ヤマトはクスクスと笑っていた。ギュッとバンドラの左腕に抱きつくヤマト。バンドラは微笑みながら、酒を煽る。
「ボクも飲みたい。」
「あー?…これ結構強いぞ。」
バンドラのお猪口を取り、ヤマトが両手で啜る。
「あっ、美味しい。」
「…酒豪の子は酒豪か。」
バンドラはお酒に弱いわけでも強いわけでもない。シャンクスやカイドウに比べたら弱すぎるくらいだし、普通の人よりは飲める方である。対してヤマトはカイドウの息子兼娘。遺伝もあるだろうが、少しでは全くもって酔わない。がぶ飲みしなければである。
「…あっ。」
「…なんだよ。」
ヤマトが残ったお猪口の酒を口に含む。
するとバンドラの首に抱きつき、バンドラの口に唇を重ねた。
「…っ!?」
目を閉じてキスをするヤマト。バンドラの口の中は日本酒で満たされる。舌を刺すような辛みと共に何故か甘い感覚は口の中に広がった。
「……アハハ。」
「…馬鹿。」
バンドラは口を手の甲で隠し、少し顔を赤らめながら、ヤマトを睨む。ヤマトはバンドラの首から手を離さず歯を見せて笑っていた。…しかし、自分のしていることがわかっているのか、顔を真っ赤に染めていた。
ヤマトはバンドラの首元に顎を置く。
「くすぐったい。」
「さっき、これしたじゃん。お返し。」
むすっとした顔でそう言うヤマト。
バンドラは首元にかかる銀色の髪をくすぐったいと思いながら、スンスンと匂いを嗅ぐヤマト。
満足したのか、ヤマトはぼすっと頭をバンドラの胸に預けた。
「…飲みづらいんだが?」
「良いじゃん。最近、ロビンとかレイジュとかと…イチャイチャイチャイチャ。ボクだって自分の時間欲しいもーん。」
「…はぁ。」
お前と一番している…とは口が裂けても言えないバンドラ。ヤマトは頬をプクーッと膨らませながら、バンドラを見る。先程まで光月おでんになれないと泣いていたその様子はまるでなかった。
「バンドラ…好き…。」
「…はいはい。」
胸元で言うヤマトにバンドラはニヤリと笑って頭を撫でた。ヤマトはギュッとバンドラの着物を掴み、胸元に顔を埋めたままバンドラを睨んだ。
「そういう意味じゃないって。」
「わぁってるよ。…ったく。鬼姫様の悪戯に酔いも覚めちまったよ。」
コツンっと頭を軽くぶつけるバンドラ。
ヤマトはそれにびくっとするも、にっと歯を見せて笑った。
「寒くないか?」
「大丈夫っ。」
いつものように脇が露わになる服を着ているヤマト。夜の海はとても冷える。
「さっきはごちゃごちゃしてて…風呂も入れなかったしなぁ…。」
「んー?一緒に入る?」
「ばーか。」
バンドラがヤマトのおでこをこづく。おでこを押さえたヤマトがむすっとした顔でバンドラを見る。
「なんでさ。ロビンとは入ってたのに。」
「ありゃ不可抗力だ。」
「ボク達、男同士だから良いじゃん。」
「そういう意味じゃ。」
バンドラの首根っこを掴み、ヤマトはニコッと微笑む。親譲りの怪力にバンドラは抗えず…。
「それじゃあ、レッツゴーっ!!」
「…もういいや。」
諦めて共に風呂場へと向かった。
メインヒロインって誰なんだろう?
ヤマトか、ウタだと思うけど…。まぁ、ヤマトばっかし書いているしね。そして、意外と人気なスムージーさん。いや、嬉しいね。
前回の話、マジで風のゆくえを聞きながら書いてたら、泣けてきた。歌ってすごいわと思います。
では。