「会社を設立しようと思っている。」
飯を食いながらそういうクロコダイル。バンドラは口いっぱいに入れてもぐもぐと口を動かし、飲み込んだ。
「会社…?」
「バンドラ、会社ってなんだ?」
ちゃっかりとバンドラの隣の席をキープしているヤマトが口元にご飯粒をつけて聞く。バンドラはそのヤマトの口元のご飯粒を指で拭り取って、食べる。ニッコリと笑い合う二人。バンドラは話を続ける。
「まぁ、海賊団みたいなもんだ。一人の人間をボスとして立てて、その下の人間がボスの言うことを聞いて、頑張るって感じだ。」
「…それだけじゃねえんだが…まあ良いか。」
クロコダイルがきらりと輝くぐらい平らげた白い皿を鉤爪で押し、笑う。
「…エージェント達を雇い、上層部はお互いの顔がわからないくらい厳密に。集団なんだから、お互いを信用してはいけない。俺は人を信じない。」
クロコダイルはそう言い、ワイングラスを回す。
「俺はプルトンを取りに行く。その為に働くエージェント達を雇う。…どうだ。ニコ・ロビン。俺と共に来る気はないか?」
手を招くように、笑うクロコダイル。クロコダイルはどんな人間であろうと能力で等しく評価する。『
…対して、ロビンは動揺していた。
口元を両手で持ったコーヒーカップで隠すロビン。額から汗がたらりと垂れる。
「歴史にも海賊王にも興味のねえ天帝についてちゃ、可哀想だろ…?」
「確かになぁ。」
バンドラは落ち着いたように声を上げる。
「俺と居たらロビンの力は腐っちまう。…ただ、それはコイツがやりたいかだろ?」
声は落ち着いていたが、わざと眉間に皺を寄せてクロコダイルを睨むバンドラ。手には湯呑みに入った熱い緑茶。クロコダイルはふっと笑い、葉巻を蒸す。
「ふん。俺は交渉してるだけよ。そいつの能力は政府すらも評価するほどだ。俺はお前からその女を取るつもりはねえ。…だが、その女が自ら、俺の元へ来たくなる。」
「……。」
レイジュは静かに二人を見る。
バンドラは非常に正直…力でねじ伏せる行き当たりばったりタイプ。対して、クロコダイルは狡猾…その頭脳で天下を取るタイプ。どちらも奇妙であった。レイジュは他の二人と違って顔に出さず、ただ静かに二人を見ていた。
「…ニコ・ロビン。お前がやりたい方を選べ。賢い生き方をしろ。」
そう言ってワインを飲み干したクロコダイルはルエノルーヴ号を去っていった。
「…どうするのよ。バンドラ。」
沈黙を破ったのはウタ。
バンドラは煙草をふかし、ふぅ…と息を吐く。
「…なにが?」
「ロビンを渡すの?あの男に。」
「あれも海賊だ。自分の欲しいものを手に入れる。…良いじゃあねえか。ロビンの夢を叶えられるのはああ言う野心のある人間だ。」
びくりとロビンの肩が震える。
やけに優しい声。ウタはそんなバンドラを睨んだ。
「…本気で言ってるの?ロビンを捨てる気?」
…捨てる。その言葉にウタは過敏だった。バンドラは…笑っていなかった。
「…それも
…ロビンは…顔を暗くする。
レイジュは見抜いていた。本当にバンドラは不器用な人だった。自分じゃあロビンの夢は叶えられない。だから、後腐れなく抜けられるように…あえて、厳しい言葉をかけていた。
しかし、幼いウタにそれを見抜く力はない。ウタはバンドラの方をキッと睨んだ。
「ロビンの気持ち知っててッ!!なに言ってるのッ!?」
「…あのなぁ。俺は別に…ロビンに出て行って欲しいわけじゃない。」
「…え?」
ウタの口がポカンと開く。
バンドラは悲しそうな顔で微笑んでいた。
「俺だってロビンのことは仲間だと思ってる。大切だと思ってる。…だけどなぁ…。俺はこいつの夢を叶えて欲しいんだよ。」
「……っ。」
「どれだけ敵が居ようが、どれだけあの鰐がコイツを利用しようが、コイツが夢を追い続ける限り、敵対する奴と同じく応援する仲間も必ずできる。…鰐が例え失敗しても、そいつらならばロビンが笑える未来を作れんじゃあねえの。」
バンドラのその言葉にウタは言葉を失った。ロビンはその言葉に目に涙を浮かべていた。
「行きたかねえなら、俺も離す気ねえけどなッ!!ハッハッハッ!!」
目から涙を浮かべて笑うバンドラ。ウタ達はその様子をジトーと見ていた。
…少し時間が経ち、クロコダイルは近くの島に船を停める。バンドラは狂骨をポンポンと手入れをしていた。
「…ねえ。」
船室からロビンがやってくる。ロビンにバンドラは狂骨をしまい、立ち上がった。
「どうした?」
バンドラはタバコを蒸すと甲板まで歩いていく。ロビンの手を引き、エスコートするように。ロビンはクスリと笑いながら、バンドラの手にゆっくりと手を重ねる。少し夕暮れ時の甲板は寒いように感じた。
「…さっきの話。ありがとう。私のこと、いろいろ考えてくれて。」
「お前だけじゃあないよ。ウタもヤマトもレイジュも…。考えることがありすぎて忙しい。」
「…そう。そう言って貴方、楽しそうじゃない。」
ふっと笑うロビン。バンドラは歯を見せてニヤリと笑っていた。
「まぁ、何も考えてないよかは、楽しいからなぁっ!!」
「……そうね。」
少し寂しく笑うロビン。…海上に少し風が吹く。
「…くしゅんっ…。」
ロビンがくしゃみをした。当たり前だ。今のロビンは肩を出したワンピースを着ていた。バンドラはそれを見てロビンを自分の方へ寄せる。
「寒くなってきたな。」
そう言ってロビンの肩を抱いた。
ロビンも少し照れながら…そうね…と答える。
「…嘘でも良いから、私を離さないとでも言って欲しかったわ。」
少し顔を暗くして寂しげに笑うロビン。しかし、バンドラは目を細めて笑った。
「バーカ。俺如きの為にお前が夢を捨てる理由にゃならねえよ。まぁ、置いときてえけどな。こんな良い女、世の中に何人も居ねえよ。」
「…ズルい人。そうやって、みんなを誑かす。」
「…それが俺なのよ。」
「そうやって…人を不幸にさせるのね。」
そう言ってロビンはバンドラへとギュッと抱きついた。バンドラも笑顔でその腰に右手を回す。
「…私、あの人に着いて行くわ。貴方のことは好き。でも…夢は忘れられないもの。」
「あぁ。わかったよ。」
うっとりとした顔でロビンが言う。その声は男ならば誰でも寄せ付けるほど。蛇が舌を啜り、バンドラへと絡みつくほど妖艶で魅力的な声だった。
ロビンはバンドラのタバコを指で掴み、バンドラの唇へ唇を重ねる。
後悔しないように、じっとりと…ねっとりと…ロビンは何度も何度も向きを変えて味わっていた。
「…ぷはっ…。」
バンドラとロビンの間を透明な橋が繋ぐ。
それは切れるも、バンドラはそのロビンにふっと微笑みかけた。
「…情熱的だねぇ。」
「しつこい女はお嫌い?」
「…だーい好き。」
そう言ってニヤリと笑うバンドラ。ロビンは湿気ってしまったタバコの代わりにバンドラへタバコを咥えさせ、火をつけた。
「…ねぇ。」
ロビンが耳元で囁く。
柵に腕を肘を置くバンドラへロビンが後ろから抱きついたのだ。
「…私のこと、覚えておいてね。忘れたら、絶対に許さないから。貴方のせいで私…悪魔になっちゃうかも。」
「…怖え女だよ。怖くて、良い女だ。必ず、もう一度会いに行く。」
約束よ…と言って、ロビンはルエノルーヴ号を出て行った。バンドラは寂しそうに笑う。
「…約束…ね。」
そう言ってバンドラはタバコを消し、その場を後にした。
…ロビンちゃん。原作時空へ。
ボツネタとしてはクロコダイルのそれを茶化しながら和気藹々とする四人を書きたかった。
さて、次回は少し時間を進めます。イチャイチャ書きすぎて戦闘書きたいのよね。…5年前(ルフィ2年後基準)になるので、全員が一歳ずつ歳取ります。
バンドラ…30歳
ヤマト…23歳
ウタ…16歳
レイジュ…19歳
ですな。取り敢えず、次回からはこの中だと…ヤマトが一番、原作だと交流の深い方の話を書きたいですねぇ…。
他の七武海はそのうち。
その前に誕生日特別編書きまーす。多分!
ではでは。