…『万国』ホールケーキアイランド、港。
見慣れた狼の船首が見える。大海を睨むそれを目指して、ウタ達は兎に角走る。
「マンマ、マンマッ!!追いかけっこはそろそろ飽きたねえ?」
「ルエノルーヴ号に乗れば…!!」
「…ダメ…っ!!アイツ、空飛んでるから…!!」
ウタがそう言う。
現在のビッグマムはゼウスに乗り、空を飛んでいる。海に出ても叩き落とさなければ、不可能なのだ。
「マンマ、マンマッ!!そろそろ、追いかけっこは終わりかい?」
下は海。向かおうとするウタ達よりも先にビッグマムが空中より追い越す。
「船に逃げればなにか変わるのかい?ここでお前らはゲームオーバーなんだよ。バンドラの奴はカタクリと戦ってる。すぐには来れないだろうね。」
そう言い、嘲笑するビッグマム。ウタがきっとビッグマムを睨む。
「…『
ウタが歌を歌う。
その歌を聴いたチェス兵達が動かなくなる。それどころか、魂の生みの親であるビッグマムへと突入していく。
…しかし、ビッグマムの人睨みで魂を抜かれ、機能を停止した。
「凄いねえ。ウタウタの実とやらは、オレの
ビッグマムはニヤリと笑う。
そんなビッグマムにレイジュが飛んでいく。
「勝てないからって…諦めて死ぬもんですかッ!!」
毒を纏った蹴りをビッグマムに打つ。
しかし、それは女王の黒き剛腕に受け止められた。悪魔はにぃ…と笑う。
「ぐっ…!!」
「これはなんだい?全然効いてないじゃないか。」
…格が違いすぎた。レイジュの毒は化け物相手には侵食していかなかった。毒すらもそれを恐れていたのかもしれない。
「危ないッ!!」
ウタが叫ぶ。
レイジュは後ろに飛んで避けるも…上から降る女王の拳がレイジュの身体を擦った。それだけで…地面に大きく叩きつけられる。
「レイジュさんッ!?」
カッと目を見開くモネ。その刹那、猛烈な吹雪がビッグマムを襲う。
「なんだい?こりゃ。やけに涼しいじゃねえか。」
常人なら凍死しているであろう。目の前を覆う白く凍てつく刃のような風をビッグマムは…夏の微風程度に感じていた。
「…シュガー、逃げなさい。貴女一人ならルエノルーヴ号の小船で逃げられるわ。」
「お姉ちゃんッ!?やだよッ!?」
…
「…貴女だけでも生きて。私、しぶといから大丈夫。必ず、他の二人も逃すから。」
そう言ってウタの隣へ行く。
…実を食べてから数日しか経っていない。だが、自分もシュガーよりは戦闘能力は持っているから…と。
「アァ?なんだ。お前か、これやったのは。」
「ダメだよッ!?モネッ!!」
「…だって私、お姉ちゃんだもん。…最後くらいはお姉ちゃんらしいことしたいでしょ。」
ウタの隣でそう笑うモネ。
ウタは心が痛んだ。…こんな時、シャンクスなら助けられるのに…と。ウタは優しい子。人が死ぬのは…嫌なのだ。
「…『
吹き付ける雪が大きな竜巻へと変化する。それがビッグマムの身体を飲み込んだ。…しかし。
モネは戦闘経験が乏しかった。
その練度の低い攻撃はビッグマムの一振りの剣に…散った。
「ッ!?」
「流石に鬱陶しいねえ。歌姫以外は…殺しちまおうか。」
そう言い、笑う悪魔。
その顔は影が差し、目が怪しげに光り輝いていた。
「…やるしかない…のかなぁ…。」
ウタがボソリと呟く。…エレジアにしかアレは出ないのか。それを確定するものはない。もし、ここで歌えば?あの歌を…歌えば…窮地を打破できるか?
「…トット…ムジカ…。」
…いや、やはり無理だ。
ここにいる全員が死んでしまう可能性が…高い。
ウタはモネより前に出て、手を横に広げた。
ビッグマムはナポレオンを持ち、ギュッ…と構える。
「ウタちゃんッ!?」
「…私がみんなを守らなきゃ…。だって私は…大海賊ッ!!赤髪のシャンクスの娘…ウタだからッ!!」
「…赤髪の娘ェ…?」
その涙を浮かべた少女の啖呵に……ビッグマムが醜悪な笑みを浮かべる。
「良いねぇ。赤髪の娘なら赤髪小僧のいい弱点になる。やはり、オレはお前が欲しい。…そのほかは要らないねぇ。これで生きてたら…お前を手に入れてやる。喰らいなぁ…エルバフの槍!!」
そう言って、ナポレオンを思いっきり上へと振り上げる。そのまま…。
「『
大地を穿ち、地面…そして、海すらも揺らすその一撃。それがウタ達に迫り来る。
…全員が死を覚悟した。…しかし。
「なぁ!?」
次に来たのは衝撃でも、斬波でも無く…ビッグマムの間の抜けた声だった。…そこに顔を包帯でぐるぐる巻きにしたペロスペローが合流する。
「な…なんだとォ!?ま、ママの威国を…素手で…それも、片手で受け止めてやがるッ!?」
なんと…ウタ達の目の前に背を向けたバンドラが左腕一本だけでその化け物の槍を…耐えていたのだ。
「オラァッ!!」
そのまま腕を横に思いっきり振り、『威国』をかき消すバンドラ。その横には金棒を握るヤマト。ウタも…モネも…その様子を見てへたれこんだ。
「…セーフ。」
「バンドラ。…来たねえ?まさか、オレの威国をかき消しちまうとは。しかも無傷かい。」
「無傷のわけねえだろ?カタクリとやってボロボロなんだよ。12分間持久走した脚で3キロマラソン、水無しでしてるみたいなもんだ。もう死ぬ気で身体を震わさなきゃならないんだ。」
左手を振って嫌そうな顔でそう言うバンドラ。ヤマトはその様子を冷や汗をかいて、ジトーと見ていた。
「で?何しに来たんだい?」
「あ?…決まってんだろ?
そう言って狂骨を構えるバンドラ。ビッグマムはそれに流石に笑みを失う。そこから始まるのは…覇王色のぶつかり合いだった。
「…テメェもか。」
「さあな。だが…やる気になりゃ力が湧いて出る。」
口角を上げて…ニィッと笑うバンドラ。目は笑っていなかった。
「…ヤマト。」
「なに?…連れて逃げろ…なんて馬鹿なこと言うなよ?…ボクは腹括ってるんだから。こんなところで逃げたら…光月おでんを名乗れない。」
そう言って眉間に皺を寄せるヤマト。
…こうなれば先ず話を聞かない。バンドラはため息を吐くと…ウタに向かって歩いていった。優しい笑みでウタの頭をぽんっと叩く。
「…よく頑張った。お前らが居たから、時間稼ぎができた。…後は任せろ。ルエノルーヴ号に先に乗って遠くへ行け。」
「でも…!!」
「…大丈夫だ。俺とヤマトを信じろ。」
そう言い、笑うとバンドラは背を向けた。これ以上…何も言わないと言う意味だった。ウタは決断したようにレイジュを抱き上げて行く。
「…お姉ちゃん。」
「ごめんね。シュガー。私…行けないや。」
…モネは行けなかった。
先程の一撃を放ったことで…完全に腰が抜けていたのだ。シュガーがモネを抱えようとするが、シュガーにはモネを上げる力はなかった。
「…お姉ちゃんッ!!早く…!!」
「…早く行って…貴女だけでも…生き延びて。あの二人なら…大丈夫だから。私が居ても多分大丈夫。」
「何言ってんの…!!お姉ちゃんッ!!」
「早く行きなさいッ!!…お願い。」
そう言ってモネはシュガーの方を突き飛ばした。シュガーは倒れるまではいかなかったが…シュガーは姉の意思を尊重して…走った。
「マンマ、マンマハッハッハッ!!…お荷物が一つ増えたみたいだねぇ?」
「…関係ねえ。テメェにゃ指一本触れさせねえよ。」
息を吐いて、ビッグマムを睨むバンドラ。三人が乗り込んだのを見るや否や、風を吹かせてルエノルーヴ号を発進させた。
「…何やってるんだい?」
「船を潰されちゃ困るんでね。…さてと、これで逃げる道を無くなったわけだが…どうする。」
「どうするって戦うさ。」
だよな…と笑うバンドラ。
バンドラとヤマトは互いに武器を構える。ビッグマムと雷雲『ゼウス』、太陽『プロメテウス』はにぃ…と笑う。
「かかってきな、青二才どもッ!!」
「「死に晒せッ!!クソババアッ!!」」
そう言ってヤマトとバンドラは地面を蹴った。
次回ガチバトル。VSビッグマム(あと、ぺろりん)
原作行くって言ったけどちょっと変えるかもしれん。スマソ。バトル楽しいけどなぁ。終わったらイチャイチャも書くから。ただ塩梅はちゃんと考えます。ごめんね。
では。