糸師 冴。
日本でサッカーをしているならば、知らない者はいない天才MFである。
17歳という若さで名門クラブチームであるレ・アールの下部組織に所属し、PIFAが選ぶ新世代
これはドイツの名門チームであるバスタード・ミュンヘンのFW「ミヒャエル・カイザー」も選出されており、そんな場に日本人がいるというのは、途轍もない快挙であった。
そんな糸師冴に直接取材していたサッカージャーナルの弐瓶は、ゆくゆく日の丸を背負う、いや1人のファンとして背負う所を見てみたいという気持ちで期待や抱負を聞いた。
だが、返事は「弱小国の日本では世界一などなれず、レベルの低い日本のサッカーリーグでプレイする気もない。」というものだった。しかし、
「俺は産まれる国を間違えました。この国には俺のパスを受けられるヤツは…」
と言った所で、糸師冴は何故か黙ってしまう。ここまで自信に溢れた回答をしていたため、言葉に詰まるのは珍しかった。
「糸師君?」何故か黙ってしまった彼に聞く。
「…まぁ、大変癪ですが、いないこともないですかね。」
「え?!」
突然パスを受けられる人間がいると言い出し、驚きよりも疑問が先にくる。
正直言って、糸師冴の言う通りだと思ったからである。守備には定評のある日本でも、糸師冴の出す攻撃的なパスを受けられる人間がこの国にいるだろうか?
その疑問を解消すべく、「そ、それはどこのチームに所属してる人?プロリーグの誰かなのかな?名前は?」と矢継ぎ早に聞く。
「そいつはプロどころかサッカーチームにすら所属してないヤツなので、名前挙げても知らないヤツですよ。そいつならもしかしたら…と思ってます。大変癪ですが。」
そう言うと、話は終わりだと言うように「おつかれーっす。」と言って部屋を出ていった。
弐瓶は1人考える。糸師冴を満足させられるかもしれない選手であるが、どのチームにも所属していない。名前も恐らく知らない。
他の人からの話ならば鼻で笑って終わらせる話だが、他でもない糸師冴の話だ。冗談を言う性格にも見えない。つまり日本にもまだ天才がいるということになる。それも世界を相手にできるレベルの。
(流石に突拍子のない話だ。取材内容としては使えないな…。)
そう考えつつも、胸の高鳴りが止まらない。日本のサッカー界に新たな風が吹くかもしれないのである。
興奮を押さえつつ、部屋を出ていった。
時は3日前に遡る。日本フットボール連合に強化指定選手に選ばれた者が集まっていた。
一難高校FW潔 世一もその1人である。予選決勝で負けた相手である吉良 涼介と共に会場に入り、その人数の多さに圧倒されていた所で、
「やっべ!もう始まってんのか!?滅茶苦茶人いるじゃん?!」
という声が後ろから聞こえたと同時に、背中に人が衝撃がくる。
前のめりに倒れそうになったが、見ていた吉良に体を支えられた。
どうやら背中にぶつかられたようだった。
「潔くん?!大丈夫!?おい、あんた危ないだろ!」
「お、悪い悪い。前見てなかったわ。遅刻しそうだったんでな。」
というやり取りが聞こえたので、背中を擦りつつ、後ろを向く。
そこには上下黒のジャージ姿の青年が立っていた。身長は俺と同じぐらいか少し高い。
「俺が受け止めてなかったら潔くんが怪我してたかもしれないんだぞ?!」と吉良が語気を強めて言うが、
「だから謝っただろ?それにあんたが受け止めたんだからいいじゃん。」と軽い調子で返してくる。
「吉良くん、俺なら大丈夫だから…」
「ほらこういってるじゃん。もういいだろ?悪かったな、黒髪の君。」
「あ、えっと、潔世一です。」
「潔よい君ね。おっけ覚えた。宜しく~。んで早速質問なんだけどさ~」
「いや、えっと、はい。」(なんか名前思いっきり間違えられた…)
「身長高めで目付き鋭い黒髪のイケメン見てない?そいつと一緒に行こうっつったのに置いていかれてさ~、ツンデレが酷いのよ。思春期全快って感じ?」
どんどん話が進んでいくが、知らないヤツのが多いぐらいなので
「いや、今来たばっかりなので知らないです。」と返す。
「そっかぁ。口うるさい君は?」
「吉良 涼介だ!僕も来たばかりだから知らないよ!」
「あそう。んじゃ大声で名前でも呼ぶかぁ…」
「いや流石にそれはやめたほうが、」
と言ったところで会場の電気が消え、いつの間にか壇上に立っていた人物にライトが当たる。
名を絵心 甚八と名乗り、日本サッカーがワールドカップ優勝するために世界一のストライカーを誕生させる。そのための施設「ブルーロック」の説明を始めた。
青き監獄と名付けられたトレーニングというのも生ぬるいものが行われる、フットボールの最も熱い場所によって、300人の選手の運命が大きく変えられることになる。
「…お前以外、299名は参加することに決まったが、どうする?」
絵心は最後まで残っていた1人の青年に話しかける。
「あー参加はしますよ、勿論。人生変えられるチャンスだし。ちょっとだけ友人と話したかったんだけど、また先に行きやがったな。はぁ、また後でいいか。」
そう言って最後の青年はゆっくりと扉をくぐった。
「絵心さん、最後まで残ってた子のこと、知ってるんですか?」
「いや、全然知らない。300名のうちの誰よりも。」
(
(多分)続かない。