頭皇帝な驀進王と頭バクシンルドルフちゃん   作:イベリ子

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頭皇帝な驀進王と頭バクシンルドルフちゃん

 

 

「私は最強です。最強であるからこそ、学級委員長として、模範のウマ娘として背中を見せなければならないのです」

 

 サクラバクシンオーは、模擬レースを終えた彼女をスカウトしたあなたにそう言いました。

 

「驀進です。クラシック戦線に参加出来ず、GⅠの数も少ない短距離路線。そこで()()()()()私に求められるのは、皆の模範となる姿勢。勝利のためにひたすら前へ驀進する姿勢を、勝利を得られない他のウマ娘たちに見せる義務がある。私は、そう思っているのです」

 

 彼女は、瞳の桜をキラキラと煌めかせながら堂々と目を合わせて言っています。

 

 サクラバクシンオーのこの言葉は大言壮語ではありません。トレーナーとしてのあなたの直感は彼女のスタミナ以外の資質は明らかに抜きん出ており、短距離路線という一本に絞れば生涯無敗も夢ではないと感じさせています。

 この直感は、かつてあなたがはじめて担当したあの娘をスカウトした時と似ていました。きっとこの娘と一緒なら、新たな伝説を作れる。出会ったこと自体が運命であるかのような確信。でも、だからこその不安があなたにはあります。

 

 ”短距離路線だけでいいの?”

 

「? どういうことでしょうか?」

 

 ”マイルとか、もしくは……もっと長い距離のレースはいいのかな、って”

 

 あなたの直感は、彼女にはマイル以上の距離は厳しいと感じていました。けれど、それはウマ娘自身の希望と合うかはわかりません。もしも彼女が、()()()()()()()()()そう望むなら、それに出来る限り応えようという思いがあなたにはありました。

 

「ええ、私は短距離路線だけのスプリンターで驀進します」

 

 ”それは、どうして?”

 

「適正距離ではないレースに無理に出場するのは、模範となるウマ娘としての姿勢ではありません。私は1400m以下であれば勝ちますので、目指すは生涯無敗、短距離GⅠの全制覇です」

 

 委員長として、と結ぶ彼女の言葉にあなたは鳥肌が立ち、思わず天を仰ぎます。生涯無敗、トキノミノルやクリフジといった伝説でしか成し得ていない記録と同じ話を、達成可能な目標としての話を彼女はしている。そして、その目標があなたの担当するウマ娘の目標より()()()()()()()()()()であることへの歓喜でした。

 

 ”約束する。あなたの夢を、私が叶えるよ”

 

「ちょわっ」

 

 ”……ちょわ?”

 

 青空に向けていた視線を彼女へ向き直り、真っ直ぐ目を見てあなたが告げます。サクラバクシンオーはその言葉に両手を手刀の形にして奇声で答えました。

 

「いえ、なんでもありません! ですがよろしいのですか? 私の目標は少々、荒唐無稽な……」

 

 ”そんなことない。あなたなら絶対にその目標を叶えられる、いや、叶えさせてほしい”

 

「……ありがとうございます」

 

 目を丸くしていたサクラバクシンオーは、あなたのその言葉を聞いてふっと表情を和らげました。あなたが思わず見惚れてしまうような表情は、先程までの刺すような雰囲気と違って自然なものであり、普段の学級委員長としての彼女はこちらなんだろうな、と思わせます。

 

「ええ、私ならば達成出来る。いや、達成してみせましょうとも! ご指導ご鞭撻の方、どうぞよろしくお願いします! トレーナーさん!」

 

 元気にそう言ってあなたにビシッと頭を下げるサクラバクシンオー。”こちらこそ!”と、彼女とあなたは契約を結ぶことに成功したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サクラバクシンオーとの邂逅を経て、本格的な話は明日から、と彼女を帰らせてから戻ったトレーナー室。ふう、と一息ついていると、

 

「あ、いたいたトレーナー君、今度のレースはNHKマイルカップにしたいんだがどうだろう?」

 

 したいんだがじゃないが。脳内でツッコミを入れつつ、澄まし顔でとんでもないことを言うあなたの愛バ……皇帝シンボリルドルフをみやります。

 

 ”うん、いきなりどうしたのかな、ルドルフ”

 

「いやなに、ブライアンに天皇賞春は1600m×2だからマイルで2回勝ったと同じことと言ったら『何言ってんだアンタ』と驚かれてね。それはマイルで勝ったと言わないだろうと言われて、よくよく考えたら確かにマイル勝利の冠はもらってないなと思ったんだ」

 

 ドキーッとあなたの心臓が跳ねる音が聞こえます。まだ春の陽気も来ていないというのにじんわりと汗をにじませ、この窮地を脱するためまずは目の前の皇帝さんへの対処が先、と愛バへ向き直ります。

 

 ”サウジアラビアロイヤルカップがあったでしょ? マイルはもう充分だと思うな”

 

 そう、あなたにとって非常に思い出深いレースの名を上げながら、彼女とのこれまでについて思いを馳せます。

 

 

 

 

 

 

 何を隠そう、あなたは今をときめく名ウマ娘、シンボリルドルフのトレーナーなのでした。新人トレーナーながら彼女の持つ才能に見惚れたあなたは無謀にも彼女のスカウトをし、なぜだか彼女のお眼鏡にかない、メイクデビューから今に至るまでの月日をともにしています。

 しかし、この皇帝の持つ目標は少々、いや大分困ったものとなっています。

 

 

「私はこのトレセン学園の生徒会長だ。皇帝として、理想のウマ娘としての姿を皆に見せるため……全距離で勝つとしよう!」

 

 

 スカウトを尻込みさせたのはそんな彼女の目標でした。実はあなたはスカウトに成功してからその言葉を聞き、頭を抱えるハメに陥っています。

 彼女の資質は素晴らしいものですが、それはレースコントロールを行う頭脳と差し脚、そして確実に勝ちきれる距離から千切るロングスパートが主たるものだとあなたのトレーナーとしての直感は告げていました。マイルも可能ではありますが、中、長距離の圧倒的な才能に比べると正直向いていないと言わざるを得ません。短距離なんてもってのほか、確実に前に出切れない未来が見えていました。

 

 ”全距離で勝つ、なんてしなくても、模範としての姿は見せられるんじゃないかな。有記念連覇とか、無敗のクラシック三冠とか”

 

 あなたが代案として告げた目標もなかなかブッ飛んでいましたが、彼女を短距離で勝たせるより絶対楽、とトレーナーとしての直感は告げています。しかし、

 

「蓋世之材……私は自分で自分の才能が、他のウマ娘よりも優れていると自覚している。勝利を渇望するウマ娘にとって、私とともにレースを走るウマ娘にとって、私という存在がどう映るか、をね」

 

 あなたは、彼女と同じレースを走るウマ娘に思いを巡らせます。それは──辛いだろう、と。

 

「当然私は負けるつもりはないし、彼女たちに同情するつもりもない。しかし、勝者には勝者の責務が伴う。率先垂範、先頭に立つものは先頭らしい振る舞いをしなければならない」

 

 滔々と語る彼女の言葉にあなたも神妙な顔になって頷きます。まだメイクデビューも済ましていないウマ娘が何を、と言わせないだけの才能が彼女にあり、彼女は本当にウマ娘の先頭になるだろうという確信があなたにもあったからです。

 

「故に────とりあえず全距離重賞に勝とうと思う」

 

 ”いやそのりくつはおかしい”

 

 しかし五段か六段か飛ばしての内容にさすがにツッコまざるを得ませんでした。ドヤっとした擬音が聞こえてきそうなしたり顔をしている彼女に対して流石にあなたも声を荒げます。

 

 ”勝者の責務はそうじゃないでしょ! 勝ってからどんな振る舞いをするかだし、ウマ娘の理想は多分無敗クラシック三冠とかだよ!”

 

「ん、しょうしゃの責務はしょうじゃない……ふふっ、上手いな、トレーナー」

 

 ”ダメだこの娘話聞いてない……!”

 

 何ということでしょう、傍目からは完璧無敵な生徒会長に見えるシンボリルドルフはド天然マイペースウマ娘だったのです。

 

「それではトレーニングを始めるとしようか。私達の、全ウマ娘の理想のために……ね」

 

 髪をたなびかせ、颯爽とグラウンドへと向かう彼女の背にかける言葉はその時のあなたには見つかりませんでした。そこから、あなたは新人トレーナーにもかかわらずウマ娘の適性外距離での走り方について延々と頭を悩ませる日々が始まります。

 

 

 

 

 

「まず一歩。メイクデビューは無事に終わったことだし、次はまずはサウジアラビアロイヤルカップでクラシック戦線への弾みをつけようか」

 

 ”うんうん……うん??”

 

 メイクデビューに選んだ距離は2000m。彼女の適正距離である中距離に定めて、見事五バ身差をつける勝利でデビューを終えた彼女に告げられたのはそんな言葉でした。彼女の才能は本当に素晴らしく、トレーナーバッジを得てからはじめて作成したトレーニングプランでもみるみるうちにステータスを伸ばしていき一目で仕上がりの格が違うと分かるほど。

 しかし、実力は知っていてもレースには絶対はありません。担当ウマ娘のはじめてのレースということでドキドキしながら応援していましたが、杞憂も杞憂なレース内容。レースに絶対はなくとも、彼女に絶対はある……そんなフレーズが脳裏をよぎるほどですが、泰然自若とした彼女の言葉をあなたは頑張って噛み砕きます。

 

 

 サウジアラビアロイヤルカップ。かなり新しいGⅢで、10月前半に行われるジュニア級のレース。

 

 

 元いちょうステークス。東京、芝1600m。

 

 

 1600。

 

 

 ”まってルドルフ、お願い待って!”

 

「時期としても丁度いい、その後は弥生賞で調整してからクラシック戦線かな」

 

 ”なんでそこ以外マトモなの……!?”

 

 時期としても重賞の格としても文句ありませんが、距離だけが問題です。そもそもメイクデビューで2000mを走っておきながら1600mを走る意味も分かりませんが、「勇往邁進、さあ行こうかトレーナーくん」と颯爽と去っていく愛バの姿にあなたは頭を抱えるしかありませんでした。

 

 

 

 なおサウジアラビアロイヤルカップは勝ちました。トレーニング中も1600mではスパートのタイミングの問題か露骨にタイムが落ちていて過呼吸になったり、適性の問題は治すのは難しいと先輩に言われて絶望したり、眠れぬ夜が続いていたりしていたあなたはアタマ差でシンボリルドルフが勝った瞬間安堵のあまり気絶しました。

 

 今振り返ってもダービーより無敗の三冠がかかった菊花賞よりサウジアラビアロイヤルカップの方がしんどかったなあ。と、無敗三冠後はジャパンカップに惜しくも敗れたものの、有記念天皇賞春を勝利し5冠バとなってしまっている余りにも顔が良く振る舞いも含め外側は完璧なド天然ウマ娘のことを考えます。そして、

 

 

「無敗の三冠。やり遂げたよ、トレーナー君」

 

 ”うん、うん……! 君なら出来るって信じてたよ!”

 

「ふふ、夢のための手段と考えてはいても、観感興起するものがあるね。よし、次の冠はマイルチャンピオンシップにしようか!」

 

 ”えっ”

 

 

 三冠を達成した直後に『最近マイルで走っていないだろう? クラシック戦線も一区切りしたわけだしここらで一つ、と思うんだ。マイルに参る……ってね』と言い、あなたの涙を引っ込ませ、控室に来てくれた女帝のやる気を下げる皇帝がいました。

 その後、インタビューで次の目標レースを聞かれたタイミングで彼女の口を塞いで回答を先送りにし、必死に考え続けてトレーナー室に返ってくるなり皇帝に伝えたあなたの理屈はこうでした。

 

 

 

 ”2400mってね、短距離なんだよ”

 

 

 

 いやそのりくつはおかしい。冷静に考えなくても破綻した理屈ですが、目を血走らせたあなたの雰囲気にシンボリルドルフも神妙な顔つきになりました。

 

「……とは?」

 

 ”単純な話だよ。2400mって1200m×2でしょ? つまり2400mのジャパンカップで勝利すればスプリンターズステークス二連覇とイコールってワケ”

 

 狂人の理論というにも憚られる暴論です。もしも他のトレーナーがいたら肩にポンと手を置かれてから救急車を呼ばれかねない妄言を唱えるあなたですが、

 

 

「! それは盲点だった!」

 

 

 通じる娘がいてしまいました。そしてこのトレーナー室には二人しか居ませんので、この狭い社会では100%の浸透率を誇る理論へと至ってしまったのです。

 

 

 ────有記念に勝ち、皆の期待にも応えられた。であれば、ジャパンカップで達成出来なかった短距離の冠を戴くために高松宮記念にでも出てみようか。

 

 ────天皇賞春なら1600m×2だからマイル二冠分だよ。

 

 ────成程、さすが私のトレーナーだ。神機妙算、素晴らしい着眼点だよ。

 

 ────う、うん。

 

 

 

 

 

 その後も彼女の信頼に良心と胃を痛めつつ、普段のトレーニングの傍ら距離適性をどうにかする方法を探しながら探り探り今の時まで歩みを進めてきました。その上で、未だシンボリルドルフの距離適性はどうにもなっていません。ですから──

 

 

 ”NHKマイルカップもいいけど、最近中距離を走っていないじゃない? 投票数も一位だそうだし、宝塚記念に専念するのはどうかな”

 

「うん? 中距離……確かに天皇賞春も有記念も長距離か、ジャパンカップは」

 

 ”短距離”

 

「ああ、じゃあダービー以降は走っていないのか。確かにそうだね、あまり一つの距離に固執するのも生徒会長として良くない。それなら次は宝塚記念にするとしよう」

 

 ”うん……そうしよっか”

 

 

 こうして、あなたは今も誤魔化し誤魔化し進むしかないのでした。サクラバクシンオーから短距離マイルの走り方を教えて貰えればいいな、と思いながら──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 書きたいとこだけ書きました。もうちょっと続きます。



 サクラバクシンオー
・短距離最強
・自分が強いと知っている
・走れば自分が勝つと思っている
・皆の模範となるウマ娘でありたいと行動している
・距離適性を知ってる

「レースに“絶対”はないと言いますが、あなたに今お見せしましょう!“絶対”の走りを!」



 シンボリルドルフ
・中長距離最強
・自分が強いと知っている
・走れば自分が勝つと思っている
・皆の模範となるウマ娘でありたいと行動している
・距離適性を知らない

「短距離だろうと任せたまえ、いつか得意になるはずさ」



 トレーナー
・大体アプリ版トレーナー
・割りと優秀
・ウマ娘の夢を叶えたい
・叶えられるとは言ってない
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