「なんと! 会長さんと轡を共にして驀進できるとは……! 学級委員長として! 誠心誠意! 努力いたしますとも!」
「ふふ、そう言われると何とも面映ゆいね。私も一人のウマ娘であることに変わりはない、共に目標のため努力しようじゃないか」
サクラバクシンオーをスカウトした翌日。あなたはトレーナー室にて彼女とシンボリルドルフの顔合わせを行っていました。話題のウマ娘であるルドルフへのバクシンオーへの反応はもとより、ルドルフからのバクシンオーへの反応も快いものであなたは一安心しています。
二人共学級委員長、生徒会長として他ウマ娘の面倒を見ることに長けているのも一要因なのでしょうか、すでに打ち解けているようで雑談に講じています。そこへあなたは本題へと入ります。
”サクラバクシンオーは短距離に絞って走るスプリンター路線だね。そのためのトレーニングプランを今日は決めていこうと思うんだけど、バクシンオーは何が必要だと思う”
「スピードです」
あなたの言葉に食い気味に答えが返ってきました。驚いている間にも、彼女は矢継ぎ早に言葉を続けます。
「スタミナは及ばないこともあるでしょう。しかし、私のスピードに勝るものはいません。最も速いものが勝つ……即ち、私の驀進を阻むものはなし。私の前に道はなく、私が作った道に皆が続くのです」
にこやかで溌溂とした雰囲気とは打って変わって、刺すような視線があなたを射抜きます。その言葉の端々から、レースへの自信と自負が漲っているのを感じ取れるほどでした。
そして彼女の言葉に異はありません。彼女のステータスは伝説級ウマ娘がSSとした場合、スピードと賢さはDくらいだと感じており、これは他のメイクデビュー前の娘たちと比べると本当に驚異的な数字です。スタミナはGですが。
彼女のステータスと意志を脳内で再確認し、ギラつくサクラの瞳を見返しながら応えます。
”その通り。これからはそのスピードをさらに伸ばしつつ、ブロックを突破して加速するためのパワートレーニングと、追い比べに勝るためのメンタルトレーニングをこなしていこうかな”
「ハイッ! この委員長にお任せください!」
ビッと挙手をしてハキハキとそう言うバクシンオー。その元気の良い返事にあなたも顔をほころばせます。ウマ娘たちはみんな良い娘ですが、自分が担当するとなると一等可愛く見えるのは全トレーナーの持病でしょう。
「うん、素晴らしい気迫だね。いずれ私も君と勝負してみたいな」
「ちょわっ! うむむ、お言葉は嬉しいのですが、私は短距離しか走れませんので、会長さんとレースでぶつかるのは少々難しいかと存じます」
あなたと同じ感情を持っていたのか、シンボリルドルフも優しい笑みを浮かべながらそんなことを言いました。それに対して恐縮した様子のバクシンオーですが、あなたは愛バがこれから何を言うのか大体分かってしまいました。
「はは、気にしなくていいよ、そのうち短距離の冠も手に入れたいと思ってたんだ」
ほら予想通り。しかし、
「
その言葉に対するバクシンオーの反応は予想外。スピードへの自信を語っていた時とは違う、激しい闘争心、敵意にも似たものを乗せた視線と言葉が向けられ、あなたも焦ります。ウマ娘は根本的に気性が穏やかで、このような敵意を顕にすることは滅多にないからです。諫める言葉を考える前に、
「去年ジャパンカップにも参戦したしね。1200×2には勝てなかったけど皇帝たる私にかかれば1200mも行けるはずさ」
「……うん? え?」
そうルドルフがドヤっとした顔で続けて、バクシンオーの脳内は疑問符で埋まってしまいました。あああ、と言葉にならないうめき声をあなたが上げている横でやるべきことが渋滞していくのを感じます。
「1200×2の短距離でも走れると分かったから、今度は勝つさ。私には優秀なトレーナー君がついてるからね」
「……ええと。冗談だったら申し訳ないのですが、2400は短距離とは言わないのでちょわっ!?」
それ以上いけない。知らない概念に触れて疑問符を浮かべるバクシンオーの口を塞いでトレーナー室の隅っこへと移動し、こそこそとしゃがみながら話します。
”ごめんね、ちょっと、いや大分込み入った話なんだけど……”
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──
「──なるほど、完璧に理解しました!」
”うん、だから話を合わせつつ、余裕があれば短距離の走り方も教えてあげて欲しい”
まだメイクデビュー前のウマ娘に何をお願いしてるんだろう、とあなたの理性が訴えていますが、他に選択肢はないと思っていました。迷惑だろうけどお願いね、と告げると、バクシンオーは立ち上がり、胸を張って答えます。
「なんのなんの! この委員長にお任せください! ……しかし、おみそれしました。会長さんは本当に壮大な目標を抱いているのですね」
”そうだね”
苦笑してあなたが答えると、バクシンオーの表情がどこか愁いを秘めていることに気づきました。天然なところがある可愛い愛バの目標は、客観的には荒唐無稽で笑われてもおかしくありません。その覚悟をもって彼女には打ち明けたのですが、どうにも感情が読めませんでした。
どうしたの? とあなたが聞くと、バクシンオーも苦笑しながら言いました。
「私は、諦めてしまいましたから。自分の得意なレースで勝つ自信はりますし、勝つ以上は皆の模範となるウマ娘でありたいと思います。けれど、マイル、いや中長距離で勝つために努力するのは……難しいし、無駄であると」
その言葉を、あなたは、否定も肯定もできませんでした。一般論で言えば、適正距離のレースに向けて努力して勝利するのがあるべきウマ娘の姿であり、シンボリルドルフが短距離で勝とうと努力すること、サクラバクシンオーが中長距離で勝とうと努力することは、本来は無駄であり正しい行いではないでしょう。
しかし、あなたはその夢を掲げて努力しているシンボリルドルフと共に歩んでいました。ウマ娘がその夢を抱くなら、背中を押してあげなければならないと思っているからです。客観的に見て間違っていることを否定することもトレーナーの役目なのかもしれませんが、少なくともあなたには出来なかったのです。
「……いえ、余所見は不要ですね。私は私の目標へ驀進あるのみ。さあ、トレーニングを始めましょう!」
「そうしようか。全く、二人だけで内緒話なんてないっしょー……ふふ、さて、グラウンドまであんないしよっか? ふふふ」
一人にしていてしまったルドルフも絶好調のようです。その時、あなたはふと閃きました!
”じゃあ折角だし、今日はルドルフとバクシンオーで並走してみようか”
これは二人のトレーニングに活かせるかもしれない!
さて、時期は5月前半。天皇賞春を制したシンボリルドルフのステータスは、あなたの感覚ではスピードと根性はBからB+、パワーはAからA+、賢さはすでに
それでも今回の並走を提案したのは、サクラバクシンオーが格上にどう戦うのか、そしてシンボリルドルフはスプリンターの走り方がどんなものかを学ぶ機会になると思ったからです。また、あなたの脳内にウマ娘はレースをすれば友達になるやろ理論があるということもあります。
さて、今回はただの並走であり模擬レースではありませんが、三冠ウマ娘ミスターシービーを天皇賞春で下した直後ということもありちらほらと注目が集まっています。
”芝コース、1200で。バクシンオーは内回り、自分のペースで走りきって。ルドルフは外につけて、躱せそうなら差してもいいよ。ただし、怪我がないように大回りでね”
「了解した」
「……ハイッ!」
体操服姿に着替えた二人の様子は対照的で、シンボリルドルフは泰然として落ち着いた様子ですが、サクラバクシンオーは気合十分といった状態で瞳を燃やしています。
この並走は二人のトレーニングに良い影響があるはず。その直感はありつつも、どのような決着になるかはあなたにも分かりません。もう一度二人に怪我がないようにね、と伝えてからゴール地点の場所へと移動します。
さて、どうなるのだろう。並んでスタートの構えを取っている二人を見ながら、スタートの合図となる笛を鳴らします。
笛の音と同時に、これまた対照的なスタートを見せます。サクラバクシンオーは合図と同時にぐんぐんと前に進んでいき、最高速へほんの数秒で至ります。一方シンボリルドルフもスタートのタイミングは同じなのですが、加速はゆるゆるとしたものでバクシンオーとは200mの地点でやや離されている状態です。
しかしここで、あなたは驚くべきことに気が付きました。なんとシンボリルドルフが上がってきたのです。
いやスタミナに余裕はあるんだし普通だろ、と思われるかもしれませんが、あなたが見てきた今までの彼女は1200mのスタミナの消費の仕方がわからないのか、短距離走では一度も最高速に達することなく終わっていたのでした。あなたは、目の前にサクラバクシンオーという追うべき目標が見えたことで競争心に火がついたのかもしれないと思います。
ほんの少しですが短距離の走り方が改善されていることに歓喜するあなたを横に、サクラバクシンオーとシンボリルドルフの距離はどんどんと縮まっていきます。そして、残り300の地点で後ろにぴったりとつく形になり、大きく外側に向けて差す姿勢に移ったのがわかります。
そしてそこで、二人の表情が目に入ります。シンボリルドルフは普段の優しげな笑みは消えて、細く睨むような目で追うべき相手とゴールであるあなたを見つめています。そしてサクラバクシンオーは、
「
汗が吹き出し、息を荒らげていますが姿勢は崩れず、目の前のあなたを見つめています。そして、シンボリルドルフが躱そうと横に並んだ時────彼女の瞳が、煌めいて。
「勝利に、向かって」
呟くような声があなたの耳に届きます。そして、あなたのトレーナーとしての直感は告げるのです。前で競り合う時こそが、彼女の本領なのだ、と。
「
そして、大方の──全ての観客の予想を裏切って、サクラバクシンオーが先着し、そして、
「ガホッ、ゲホッ! 驀進的、勝利……! ゲホッ!」
”バクシンオー!”
ゴールであるあなたのもとを走り抜けてから、急激に減速し、芝の上に崩れ落ちるように倒れ込みました。あなたが駆け寄り様子を確認すると、満足気な笑みとは裏腹に咳を続け、脚は痙攣しています。そこへまるで息を切らしていないシンボリルドルフがやってきます。
「保健室に運ぼう。私が先に行っておくから、トレーナー君は後で」
言うが早いか、ウマ娘一人抱えているとは思えないスピードでシンボリルドルフは走り去っていきました。頼れる愛バだ……! と思いながら、あなたも保健室へと行くのでした。
保険室の先生によると、咳や脚の痙攣はレースで全力以上の力を出したことによる身体への負荷が原因ということでした。重篤な症状ではないので休憩で治るはずですが、練習中の無理は禁物……と、あなたとサクラバクシンオーは二人共きつく絞られてしまいました。
「ぐぐぐ、面目ありません……学級委員長としてあるまじき失態を……」
”いや、私の責任だ”
「え?」
シンボリルドルフは、彼女を保健室に届けたのち生徒会とトレセン学園職員へと連絡をしにいってくれたので、ここにはあなたとサクラバクシンオーの二人だけです。
あなたは、疑問符を浮かべる彼女の脚に触れ、そっと撫でます。
”あなたを生涯無敗にするって約束したのに、ルドルフ相手なら負けてもしょうがないだろうって思ってた。君を裏切ってしまった”
「いえ、いえそんな! 今回は私が意地を張って走ってしまっただけで!」
”ううん、君は素晴らしくて、私が悪かった。ごめんね”
今回の並走は、間違いなく得るものが大きいトレーニングでした。シンボリルドルフは短距離のコツを少しだけつかみ、サクラバクシンオーは格上とのレースに競り勝ったことにより大きな自信と根性をつかめました。そしてあなたも、様々なことをつかむことが出来ました。
あなたのトレーナーとしての直感は、サクラバクシンオーの脚がやや危険な状態であると告げています。彼女のスピードに耐えられる脚にまだなっていないのでしょう、全力では走らないのが吉です。出走出来ないほどの状態ではなさそうですが、メイクデビューまでのトレーニングで脚部不安を取り除く必要があるということに気付けましたし、また彼女の持つ勝利へのこだわりにも気づくことができました。結果的にはよかったのでしょう。……彼女に無理をさせてしまったことを除けば。
新しく入ってもらったばかりのウマ娘にオーバーワークさせて保健室に運ばせるという失態に、あなたの心は曇ったままです。しかし、うつむいていたあなたの顔が、すっとやさしく持ち上げられました。
「……であれば、私もトレーナーさんも悪くありません! お互い満点、お互い元気です!」
そう、こちらを励ますように握りこぶしを作り、笑顔でそう言うサクラバクシンオー。その笑顔に照らされるように心は晴れ、あなたは笑顔でそうだね、と答えることが出来たのでした。
”折角だから、バクシンオーの話が聞きたいな”
「むむ? お話は構いませんが……なにをお話しましょう?」
湿った空気を吹き飛ばし、シンボリルドルフが戻るまで雑談をしようとなったあなた達。そこで話題を振ったのは、あなたの方でした。
”短距離だけでいいって言う理由とか、どうして今日無茶しちゃったのかな、とか”
あなたの視点では、全距離を目指そうというシンボリルドルフに驚きつつも、少し羨ましそうな雰囲気が彼女にはありました。ですので、その理由が今回全力を超えて走ってしまったことに繋がるのかな、と思い話を聞こうとしています。
サクラバクシンオーはむむむ、と腕を組みながら悩んでいます。話しづらいなら、と声を続けようとした時、大丈夫です、と彼女は話し始めました。
「まあ、私もウマ娘ですので。クラシック戦線や有馬記念に興味はありましたし、桜花賞なんかは私の名前的にも走ってみたいと思うこともあります。1600mは本当にギリギリですが」
それはそうだろうな、とあなたは思います。トゥインクル・シリーズの花形はクラシック戦線に代表される芝、中長距離のGⅠレースの数々であり、最初に憧れを抱くのは基本的にはそこでしょう。
「でも、私は短距離が精一杯でした。驀進をし続けると、どうしても息が切れてしまうのです。……であれば、勝とうと思いました」
話せば少し長くなるのですが、と言う彼女に、あなたはうなずいて返しました。
「私、父上と母上に大事に育てられました」
彼女のサクラの花びらが息づく瞳は、ひどく美しいものを見るような目で過去を振り返っています。
「我が家の家訓は、『褒めて褒めて褒めて、褒めたい!』でした。たくさん褒められましたし、褒められるように驀進しましたし、友達も褒めて、私も褒められました! 学級委員長としての自覚を持って頑張り始めたのも先生や家族からたくさん褒めてくれたからです! 私が私のことが好きになれたのは、父上と母上のおかげです」
「私はみんなが好きです! 友達も、トレーナーさんも、父上も、母上も、この私も! ……父上と母上が育ててくださったこの身体で、恩に報いたいんです」
「ですから、勝ちたいのです。負けたくないのです。父上と母上に育てられた私はすごいので、短距離路線でも……絶対に負けず、目一杯輝いてみせたいのです!」
己の中にある熱を閉じ込めるように拳を握りしめ、そう言葉にするサクラバクシンオー。聞けてよかったと、率直にあなたは思います。
努力すれば勝てるかもしれないマイルや花形の中長距離を捨て、大好きな家族に誇れる自分のために勝利を願う。その彼女の願いは、とても尊いものに思えます。
彼女が、あなたにとっての
”約束する。あなたを、もう絶対に負けさせない。お父さんとお母さんに見てもらえるように、輝かせてみせるよ”
「ちょわ!? ……ありがとうございます!」
あなたが熱っぽい目でそう告げると、彼女は顔を赤くしてまた手刀を構えます。その後、何事もないようにそっぽを向いて礼を言いました。
「……トレーナーさん。一つ、お願いがあるのですが」
ちょわってなんだろ? とあなたが首を捻っていると、サクラバクシンオーは赤い顔のまま歯切れ悪く言葉を続けます。
「もし、このトゥインクル・シリーズで。目標を達成して、勝つべきレースがなくなってしまったら、その時は……その時も、その後も、ともにいて下さいますか?」
あなたは少々思案し……しかし、答えは決まっていました。
”もちろん! 私はあなたのトレーナーだからね!”
「~~~~ッハイッ! これからも、末永くよろしくお願いします! 私のトレーナーさん!」
そう、短距離で勝つべきレースがなくなった、その時。その時こそは──
────マイル以上の距離に挑む! その時こそ、私が共にいないでどうする!
あなたの思考回路はこうでした。正解? さあ、よく分かりません。とりあえず親愛度ランクは上がったのでいいんじゃないでしょうか。
このあと心配になったクラスメイトたちがバクちゃんをお見舞いにきたり会長が戻ってきて短距離リベンジを誓ったりシービーと激マブが会いにきたりトレーナーが頭抱えたりしますがつづきません。
頭皇帝(シングレカイチョーモチーフ)
・プライドUP
・闘争心UP(レース時能力UP)
・賢さ大幅UP
・責任感UP(調子の振り幅UP)
・トレーナーへの感情「君を手放す気は毛頭ないのでね。今後ともよろしく頼むよ」
ウマ娘感情ソムリエ一級鑑デジ氏「一見普通かやや大きめなだけに見えますが、しっとりと湿っておりずっしりとした重厚感がある手応えです!重みを受け止めるトレーナーしゃんと出会ったからこその甘えが見えますね。尊い」
頭バクシン
・バクシン!(スピードUP)
・バクシーン!(自己肯定感UP 皇帝が自己肯定……)
・バクシンバクシンバクシーン!(メンタル激強 好調以上確定)
・ちょわーっ!?(賢さ大幅ダウン 適正距離を忘れる どの距離を走っても自分が勝つと思ってる)
・トレーナーへの感情「好きです!」
ウマ娘感情ソムリエ一級鑑デジ氏「デカァァァァァいッ説明不要!!クソデカ信頼が光輝いていますが、春風のようにさらさらとしつこくない手触り。信頼して良いと思ったから100%の信頼を置く純粋さに心が洗われます。頼れるトレーナーしゃんが見つかってよかったでしゅね。尊い」