頭皇帝な驀進王と頭バクシンルドルフちゃん   作:イベリ子

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コセンジョウ ヘカテー エチチ


閑話 恋はバクシン!?

 

 

 

「──おや? そこにいるのはエアグルーヴと……メジロドーベルか?」

 

「っ!?」

 

「会長。どうなさいました?」

 

「いや何、姿を見かけたから声をかけただけだよ。何か隠したようだけど、何をしていたんだい?」

 

「い、いいいいいやその、これは怪しいものでは……!」

 

「……何をそんなに慌てることがあるんだ、ドーベル。少女漫画を見せてもらっていただけですよ、これが中々面白いんです」

 

「ほう! 君にそんな趣味があったなんて知らなかったな」

 

「多くを見ているわけではありませんが、ドーベルが持ってくるこの()()少女漫画だけは楽しみにしてまして。どこに売ってるのか分からないので、新しい刊が出たら貸してもらっているんです」

 

「はい、そう! 売っている本を! 面白いと思って、それで、先輩に読んでもらってたんです!」

 

「へえ。私も読ませてもらってもいいかな?」

 

「えっ」

 

「ええ、どうぞ」

 

「あっあっちょっまっ」

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

「"敬愛していたトレーナーの突然の引退、恩に報いるためにオーバートレーニングをしてしまうウマ娘。そんな彼女を支えたいサブトレーナーの想い"……か」

 

「中々真に迫る心情描写ですよね。レースに勝つという想いが先行してるからか二人共行動が焦れったくて」

 

「うん、不器用な二人がテーマだからか話がスムーズに進まず、けれどその話のもたつきが逆に読者を惹きつけるのかもしれない。少々背景が白いのが気になるけど」

 

「うぶ」

 

「ウマ娘の方が恋を自覚してからが面白いですよ。意識的に少しずつ距離を狭めていき、競り合いながらいつ差すかタイミングを見定めてる……まあ、見失っている感もありますが」

 

「ゲッホ」

 

「………………ふむ」

 

「……会長?」

 

「いや、ありがとう面白かったよ。では私はこれで」

 

ち、違うわタイミングを見失ってるんじゃないのというか別にあんな人すすすすすすきじゃないしただテーマにちょうどよかったからモチーフにしてるだけであって最近ちょっと距離を狭めてるのも偶然だしそもそもトレーナーとはそそそそういう関係になりたいとかそんなのほんの少ししか思ってないし

 

「ああ、ええ。……ドーベルはどうしたんだ?」

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

「恋を自覚すると、距離を狭め競り合えるようになる……つまりこれは……!」

 

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 

「というわけで、皆の模範となる生徒会長として私も恋をしてみようと思うんだがどうかな? トレーナー君!」

 

”どういうわけなの??”

 

 

 とある日の昼下がり、トレーナー室で昼食を摂るあなたの元へ来たのはシンボリルドルフでした。言葉の前後も行動の前後もつながらない彼女の唐突な行動に、少しは慣れてきたあなたも胡乱なものを見る視線を送ってしまいます。

 シンボリルドルフはレース中の戦略も学業もほぼ完璧なのですが、時折ブレーキが完全にぶっ壊れたド天然ぶりを発揮します(バクシン的という謎の言葉があなたの脳裏をちらつきます)。であれば、今回もその類のものだろうと思って彼女に向き直ります。

 

「聞いてくれたまえ、実は────

 

 

 

 

 

 

 ────ということがあってね」

 

”うん、それで?”

 

 彼女が話すのは、特段何の変哲もない学友との交流でした。そこから冒頭のセリフにつながる因果関係が見いだせ無かったので、あなたは話の続きを促します。

 

 

「ふふ、千慮一失、さすがの君でも分からないかな? 

 恋を自覚することによってウマ娘は、距離を狭め差すタイミングを見極めるようになれる──すなわち、生徒会長に恥じない強さに磨きがかかるというわけさ!」

 

 

 あーなるほど。と、色々ツッコミどころはありますが、あなたは彼女の脳内シナプスの繋がりを理解しました。恋愛への憧れではなく強さのために恋をするというのは、変ではありますがむしろ愛バらしい、と胸を撫で下ろします。

 

”それで恋かあ”

 

「ああ、しかし私はこれまで恋をしたことがなくてね。何をすればいいか教えてくれないか?」

 

 突然のキラーパスにあなたは固まります。何を隠そうあなたはこれまで異性と恋愛関係になったことがないのです。

 けれど、何故かシンボリルドルフはあなたへの信頼度は常にマックスであり、今もあなたが有用なアドバイスをしてくれると信じ切った真っ直ぐな眼をしています。

 

 いつものシンボリルドルフの無茶振り。けれど、あなたは出来る限り彼女の期待に応えたいと思ってここまでやってきました。その上で、あなたが選んだ選択は──

 

 

”大切な人を見つけるとか?” ←

 

”ごめん、私もよく分からない”

 

 

 物凄い一般論でした。彼女の相談は、恋に値する人をどうやったら見つけられるのかというHowを聞きたいのでしょうが、恋とは何かのWhatを返してしまうあたりに恋愛経験値0さが良く表れています。そして目を逸らしながら口にしているので余計にあなたの自信のなさが浮き彫りになっています。

 

「成程。それでは、大切な人を見つけたらどうすればいいんだい?」

 

 しかしシンボリルドルフはあなたを逃しません。彼女にあなたを追い詰める意図は無く、純粋にその後の行程を疑問に感じてると思われますが、あなたにとっては同じこと。

 私が知りたい! という気持ちをぐっとこらえ、彼女を納得させる一言を探します。

 

”じ、自分の気持ちを伝えるといいんじゃないかな”

 

 身も蓋もない意見です。恋の駆け引きもクソもないあなたのその一言にシンボリルドルフは、

 

「ふむ。成程────己の気持ちを言葉にすることで想いを確固たるものとしてレースへの意志を強める。私達ウマ娘はファンの願い、私達の中にある願いと不即不離。それに加えて大切な人に気持ちを伝え、受け止めてもらえることで私の中の感情も────

 

 ──────理解した。では早速探してこよう!」

 

 

 驚くべき速度で納得し、トレーナー室を去っていきました。

 

”え?”

 

 取り残されたのはあなた一人。とりあえずシンボリルドルフはあなたへの不信感など見せることなく、納得してくれたのであればあなたはもう何も心配することはないはずなのですが、

 

『早速探してこよう!』──何を? 

 

 恋についての相談だったのですから、()()()()人に決まっています。決まっていますがあなたは、

 

 

 ──いやいや。だってトレセン学園に男なんてほとんどいないでしょ? そんな簡単に見つけられるわけないし。

 

 ──そもそもシンボリルドルフだよ? そんじょそこらの男じゃ釣り合わないしまだあの娘にそういうのは早いっていうか。

 

 ──じゃあ探してくるって何? 

 

 

 そんな思考がグルグルと回ってしまいます。そして結局、居ても経ってもいられずに彼女を追うことになるのでした。

 

 

 

 

 

 

 ────

 

 

「好きだよ、エアグルーヴ」

 

「えっ、なん、はっ? はあっ!? 会長!?」

 

 

 ────

 

 

 

「好きだよ、ブライアン」

 

「……また変なことを始めたな。アンタ、今度はどんな理屈をトレーナーに聞いたんだ?」

 

 

 ────

 

 

「好きだよ、シリウス」

 

「────────ハ?」

 

 

 ────

 

 

「好きだよ、シービー」

 

「え、ほんと? 嬉しいな、アタシも好きだよルドルフのこと。走ってて楽しいしね。

 ──次は勝つから」

 

 

 ────

 

 

 

 

「一通り大切な人に私の気持ちを伝えてきたよ。うん、気持ちを伝えるというのは気持ちいいね。気持ちが伝わって気持ちいい……ふふ、好意を口にするのはこう、いいね。胸が暖かくなって、明日からまた元気に走れる気がするよ」

 

”よかったね”

 

 にこにこ笑顔の愛バに同じく笑顔で答えるあなた。追いついた瞬間に見た景色がエアグルーヴに突然告白して去っていくシンボリルドルフということで混乱していましたが、彼女の思考回路が『大切な人を見つける←いつもお世話になってる大切な人 に会って、自分の気持ちを伝える』というものだったと理解します。良かったですね。

 あなたの無用の心配だと気づいたあともなんとなく彼女に着いていって辻告白の見届け人をしていましたが、夕刻になってようやく一通り終えたようです。

 辻告白は周囲に相当深い衝撃をもたらしたようですが、とりあえずあなたは謎の大きな安堵と愛バが上機嫌で可愛いという気持ち以外は些細なものとして置いておきました。

 

「ああ、そうだ肝心なことを忘れていた」

 

”?”

 

「大好きだよ、トレーナー君。これからもご指導ご鞭撻の方、よろしく頼むよ」

 

”……う、うん”

 

 花が咲くような笑みでさらりと告げられたその言葉に、あなたはそう返すしか出来ません。

 

 確かに好意を伝え、受け入れられるというのはそれだけで胸が暖かくなるものでしょう。ならばこそ、あなたの愛バが上機嫌になった今回の顛末は彼女にとって勿論良いイベントです。

 そしてそれは彼女のトレーナーであるあなたとしても、トレーニングに良い影響が出るのであれば良いイベントです。

 

 ただ、何時まで経っても顔の赤みが引かず、顔を隠すために窓の外を向き続けている今のあなたは、そんなことを考える余裕も無くなっていたのでした。

 

 

 





とある日のトレセン学園掲示板
『先日、高等部の廊下数箇所に赤い液体が撒き散らされていました。心当たりのあるものは職員室に来るように』

『また、顔が血塗れで倒れているウマ娘の姿が目撃されていましたが保健室に顔を怪我した娘が来ていません。怪我の自覚があるものは直ぐに保健室へ』




ウマ娘感情ソムリエ一級鑑デジ氏(貧血気味)による、辻告白被害者のガチ(?)度判定(あたしなんかが判定するのは恐れ多いんでしゅが……)


エアグルーヴのガチ(?)度
「50%です。女帝や女房役という肩書きを倦厭せず会長さんの右腕に相応しいウマ娘になりたいと常々努力している姿だけで尊すぎて光になっちゃいしょうなんでしゅがあの理解不能と照れと嬉しさが混じった反応には流石のデジたんも意識が飛んでしまいました。
 ただ50%という判定になったのはエアグルーヴしゃんが会長さんをただ心酔してるだけじゃなく隣に立ちたいという思いもあるのを忘れてはいけないからです。敬愛がベースであり、あくまで会長さんが目指すウマ娘の模範としての姿への協力、仲間という関係が大事なんではないでしょうか。まああくまで今は、であってこれから先あのお2人が……(省略)」


ナリタブライアンのガチ(?)度
「10%です。そういう関係は望み薄です。しかしそれはあの2人の尊さの減衰を意味しません。
 今回会長さんが行った行動へ1番冷静な視点で見ていられたのがナリタブライアンしゃんでした。生徒会長という立場で頼られがちな会長さんへ極々自然な態度で疑問、心配を生徒会に入ったばかりのナリタブライアンさんが行えてるということへの驚きに流石のデジたんも内なるデジたんが一瞬外へ行ってしまいましたもの。
 恐らくですがヒシアマゾンさんからの親切がナリタブライアンさんにも影響してると言いますか、ビワハヤヒデさんやヒシアマゾンさんなどのお姉さん雰囲気を持つウマ娘しゃん達への付き合いが慣れているんでしょう、生徒会で1番後輩とは思えない気軽な態度は他にない輝きを放っていると言わざるを得ません。仮定の話ですがこのままナリタブライアンしゃんが……(省略)」


シリウスシンボリのガチ(?)度
「100%でしゅ。いや違います幻覚は見てません貧血でもないです!
 いやあたしは確かに見えたんですシリウスさんが告白を受けた時にそのまま会長さんに壁ドンされる未来が!会長さんをライバル視してぶつかり合い超えることを目標とするシリウスしゃんを右に置くのはおかしいと常人なら思うかもしれませんがあたしの見立てではシリウスさんは間違いなく受けハウッ(鎮静剤注射)」


ミスターシービーのガチ(?)度
「……あれ?何の話でしたっけ……あ、ミスターシービーさんは……100%です。
 ……いやなんでしゅかその注射は!?デジたんに何をするお積りで!?違います違いますそういうあれではなく、その、あのお2人の対決は見てて心躍るというか、なんというか。
 どちらも物凄い輝きを放っているウマ娘しゃんで、どっちか片方だけでも凄いのに、お2人が対決する時は本当に目が眩みそうで、それでまたお2人がレースしてくれると思うと胸がいっぱいになってしましまして。あたしもあのステージに、みたいな世迷言とかも考えちゃったり、だからその、そういう意味ではなく、もう……ガチ度はもう100%です!はい!」


トレーナーのガチ(?)度
「いや100%以外ないでしゅ。だってあのトレーナーさんの反応脈アリアリ以外ないですよ常識的に考えて。しかも分かってますか会長さん大好きって言ったんですよ大好きって。この大の意味はもう凄いですよ大きいですよ。
 いや、あのお2人の信頼関係は測定不能レベルでしゅねやっぱりレースでのキラキラは信頼出来るパートナーがあるからこそって分かります。……ちょっとだけ憧れちゃいますね。あたしにも、あんなふうにあたしを支えて、キラキラさせてくれるトレーナーさんがいたら──な、なんてー!あたしなんかが烏滸がましいにも程がありましたねすいませんすいませんすいませーん!ウマ娘ちゃん達のステージに割り込もうとする大罪、土の中に埋まって償ってきましゅうううう!!」──逃亡のため判定終了

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