劇場版 ONEPIECE FILM 『MAD』   作:はむらび

1 / 12
(劇場版は小説ではないので)初投稿です


プロローグ

 新世界、ニジイロ海域。天気は晴れ。

 

 ワノ国を出港した麦わらの一味は、次なる島を目指して帆を進めていた。

 

 

 

 ……が、食料が尽きた。

 

「メシ〜〜〜〜!!!」

 

 先日出港したワノ国は、けして食料事情が豊かな国ではなかった。都の食糧も宴で多く使ってしまったこともあり、麦わらの一味が救国の英雄だとしても多くの食材を詰め込んで出港することは難しかった。

 なにより、麦わらの一味が「飢えた国」から多くの物資を持ち出すことを嫌ったのもある。

 

「ジンベエ、魚でも獲ってこれねェのか?」

 

「ワシもそうしたいところじゃが……この海を見てみぃ」

 

 ニジイロ海域は、その名の通り虹色に輝く海だ。だが、それはけして豊かな自然を意味しない。

 

「海ってより"油"ね。海底油田でもあるのかしら」

 

 まるでシャボン玉のように輝く海は、分厚い"油膜"によるものだ。これでは潜るのも難しいし、潜った下に水があるのかも怪しい。

 そもそもこんな海域に棲む魚が食べられたものなのかも疑問だ。

 

 とはいえ、偉大なる航路(グランドライン)の自然現象としては、理屈が推測できるだけましな部類だ。

 

「どこか島が見つかれば上陸して補給できるんだが……それまでは鳥で食いつなぐしかねェな」

 

 幸運なことに空には大きな鳥が飛んでいる。気候が安定しているからか、あるいは、食糧の少ないこの海域で海賊を狩るためか。

 

 

「おいルフィ、アレ届くか?」

 

「メシー!!」

 

 ゴムゴムの実。麦わらのルフィが食べた悪魔の実。伸縮自在な肉体を手に入れるその悪魔の実の能力があれば、空を飛ぶ鳥にも文字通り"手"が届く。

 

 ぐるぐる巻きにされた鳥は、ゴムが縮む勢いで引き戻され、サニー号の甲板へと叩きつけられる。

 

「ギョエエー!!」

 

 明らかに、知性持つ生き物の悲鳴を吐きながら。

 

 

「これは……なんだ?」

 

「少なくとも、食えねェことはわかるぞ」

 

「ヨホホホ、私より"身"が少ない鳥は初めて見たかもしれませんね」

 

「いきなり捕まえておいて失礼では!?!?」

 

 それは、鳥だった。「機械仕掛けの」という前置詞はつくが。

 

 有機的に動く鋼鉄の羽根の半ばには推進機構が付いており、稼働音を鳴らしている。おそらくはこれを用いて重い金属の身体を持ち上げ、高速で飛翔できるのだろう。足に付いているのはレーザー装置の発射機構だろうか。それが4基も。

 意思の疎通が可能なのも規格外だ。世界政府のパシフィスタでさえも「意思」は持たず、発声機構だって生体部分に頼っていた。

 

 明らかに大海賊時代の技術レベルを数世紀上回っている。

 

「ベガパンクの作品か?」

 

 だから、かつて世界最高の頭脳を持つ男、ベガパンクの研究所を訪れた変態フランキーはそう判断した。気づけたのはフランキーだけだろうが、足のレーザー機構がパシフィスタのレーザー発射機構のそれだったのもある。

 

「部分的にそうです」

 

「部分的に?」

 

「ベガパンク様の技術は多く使われていますが、私を完成させたのは"妹君"のほうです」

 

「まあ、天才とて人の子だ。今更弟や妹がいたからと言って驚きゃしねェがよ」

 

 世界最大の頭脳を持つ男、ベガパンク。彼の素性は謎に包まれている。研究所を物色したフランキーでさえも、彼の"日常"についてはほとんど知らなかった。個人研究所にそんなものは残らないともいう。

 

 

「それはそれとして、この子をお肉にできないとなると、私たちは餓死するしかなさそうね」

 

「怖ェこと言うなよロビン! まだ生簀に魚が……」

 

「今朝で食べ尽くした」

 

「ナミのみかんが……」

 

「食べさせると思う?」

 

「──おれのウソップガーデンが……」

 

「食えるもん育ってねェだろあそこ」

 

 もう、空には鳥は飛んでいない。海に魚もいない海域に鳥が飛んでいる方がおかしかったのだ。

 

「ロビンちゃんを餓死させるわけにはいかねェ!! 万に一つ身があるかもしれねェから大人しく捌かれろ、鳥!」

 

「ギャー! ないです"身"!! 殺さないで!」

 

 機械の鳥の懐から"ビラ"が飛んだ。

 

「……なんだこれ、『繁栄の島ソルベルデへようこそ 科学の発展した夢の国』??」

 

「そ、そうです! 私はその島から皆様を歓迎するために遣わされたのです!!」

 

 機械の鳥は慌てて答えた。捌かれてしまわないように。

 

「島があるの!?」

 

「ええ! 勿論!」

 

 島がある。それは、食料補給のチャンス。この身のない鳥を捌き、あとは根性で餓死せぬよう耐えながらこの海域を抜けなければならない現状からすれば、とても魅力的な言葉だ。

 

「繁栄の島ソルベルデは「科学の島」! 食料も服も物資だって! どれだけでも好きなだけおもてなしします!」

 

「それ、肉も食べ放題なのか!?!?」

 

「勿論!!」

 

「酒もあるか?」

 

「勿論!!!」

 

「財宝は?」

 

「──人造宝石でよければ! 外界の技術では見分けもつかないでしょう!」

 

「……だが、そんなことまで"科学"でなんとかなるものなのか?」

 

 一味のコックであるサンジが疑問を呈する。かつてサンジが生まれた国ジェルマ66もまた、科学の発達したクローン兵士の国だった。

 だが、その国で出る料理は他の国と何ら変わらぬ食材を使ったものだったはずだ。食品まで作ることのできる科学など、聞いたこともない。

 

「怪しい。怪しいが……おれの"科学への抵抗感"で船員を飢えさせちゃぁコックの名折れだ。信じよう。連れてってくれ」

 

「おれからも頼む」

 

「どうしたのフランキー?」

 

「船体もそうだが、水槽やソルジャードックシステム、海水の真水化装置の中にも油が入り込んでやがる。飴の海の時よりはマシだが、流石のサニー号でも油の上を航海するようには作ってねェからな。一度停泊して整備がしたい」

 

「まあ、どっちみちどこかに寄らないと食料が尽きちゃうから、寄るのは良いんだけど…… "どうやって"?」

 

 偉大なる航路の気候は厳しい。また、磁力を帯びた島々の影響で通常の方位磁針が機能しないこともあり、狙った島、とくに記録指針(ログポース)が指さない島を目指すのは困難だ。

 

永久指針(エターナルポース)でもあるの?」

 

 狙った島を目指すにはその島の磁力を記録した永久指針が必要となる。それなしで、見えもしない島を目指すのは流石の一流航海士ナミでも不可能に近い。

 

()()。そもそも()()()()。浮島だから磁力がなくて記録(ログ)が溜まらないんだ」

 

「じゃあ」

 

「そのための案内役の僕だ。僕なら島の位置がわかる」

 

 鳥の腹からカートリッジのようなものが飛び出す。

 

 中には小さな紙のようなものが詰められている。命の紙(ビブルカード)だ。人間の爪から作られ、その人間と引き合う性質がある。

 おそらくは島の主人のものだろう。

 

 グラン・テゾーロをはじめ、記録指針が指さない島に赴くときの常套手段と言える。

 

「ああ、そういう。まあ、それなら迷わないわね。一応少し分けてくれる?」

 

「構いませんとも! この先の海は霧が深い。私を見失うかもしれませんからな!」

 

 命の紙の一部が裁断され、ナミの手に渡る。これも機械の鳥に想定されていた機能のようだ。

 

 

「おし、連れてってくれメカ鳥!」

 

「『ワシントン』だ。型番はもう少し長いんだけど、そう呼んでくれ」

 

「メカ鷲!」

 

「混ざった!!」

 

 

 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

「霧が深くなってきたわね」

 

 虹色に光っていた海も、今は光らない。反射する太陽光が分厚い霧に阻まれているからだ。

 

魔の三角地帯(フロリアントライアングル)を彷徨っていたあの頃を思い出しますね、胃が痛くなってきました。私、胃、ないんですけど!」

 

 かつて何十年も霧の中を一人で彷徨ったブルックだけではない。日の当たらぬ霧の中というのは、誰にとってもそれほど気分の良いものではないからだ。

 

「なんか煙いし臭ェぞここ。ガス臭ェ」

 

「言われてみればそうだな。この霧も"油田"の影響か? おれは気にならねェが、キツいか? チョッパー?」

 

「ううん、我慢できる。ダフトグリーンの時ほどじゃねェし」

 

 いや、これは霧ですらない。もはや煙。こんなところに果たして島はあるのか? 騙されたのではないか? 一味がそう疑い始めた矢先

 

「もうすぐです! あの門を抜けた先に……来ました!」

 

 門が開いた。海軍本部前の"正義の門"をも凌駕する大きな門だ。これを動かすだけでもどれだけのエネルギーが要るのか。

 

 門の先は霧が晴れていた。

 

 重苦しかった視界が開けた。

 

 

 厚い霧に360度囲まれてはいるが、薄暗くはない。むしろ明るいと呼べるほどに"ガス燈"で照らされている。

 

 煙突が煙を吐き、大きな歯車が回っている。それはまるで、島そのものが一つの機械、あるいは"ロボット"のような……

 

「「「すっげェェェェェ!!!!!」」」

 

「ようこそ皆々様! これこそが繁栄と蒸気の島、ソルベルデ!」

 

 それは、蒸気によって駆動する文明だった。

 

 

「おいおい、マジかよ」

 

「海列車の何万倍のサイズだ? 原理はわかるが流石に規模がデカすぎねェか!?」

 

 "蒸気機関"は、この海では珍しい。だが、外輪船や機関車が出始めたこの時代、過剰な科学でもなかった。

 

 その"サイズ"を除けば。決して小さくない島の表面が、余すことなく蒸気機関に覆われている。否。"浮島"であると語られた以上、おそらくは表面以外も。

 

 ウォーターセブンの海列車の何万倍、質量で計算すれば何億倍のサイズの機械を見て、驚嘆しないものはいないだろう。

 

「なるほど。"油の海"じゃからか。豊かな海とは言えんが、だからこそ燃料には困るまい」

 

 

 

「では皆様を港にご案内します!」

 

「私たち海賊よ? サニー号は島の裏とかに泊めなくていいの?」

 

「構いませんよ! 皆様は"ご客人"ですし! それに食料も水も服も物資もいくらでも差し上げますからね! 海賊からの略奪なんて心配しなくても良いのです我々は!」

 

「成程ね」

 

 進みすぎた文明。過剰な工業化。海賊には推し量れないが、この機械群がなんらかの手段で半無限の物資を生産しているのだろう。だから、海賊の略奪をほとんど心配しなくても良い。

 

「もっとも、この島では誰も()()()()()()()()()のですが……」

 

「なんか言った?」

 

「いえいえ!」

 

(ええ。ここは繁栄の島。ユートピアにしてディストピア。略奪なんてさせないし、逃しもしない。それが"四皇"であろうと。()()()()()()()()()()、あのお方には誰も敵わないのだから)




ワシントン:繁栄国ソルベルデの謎の科学技術によって作られたメカ鳥。というかコイツ戦闘機じゃない?
ベガパンク技術込みでも大概世界観を壊しかけているが、FILM GOLDと FILM REDでは「劇場版だからオッケー」という理屈で技術レベルが跳ね上がっているので問題ない。
キャラデザはスパロウモン(デジモン)あたりで想像している。


先に言っておくと劇場版中ボス枠。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。