劇場版 ONEPIECE FILM 『MAD』 作:はむらび
1日と少し後。摩天楼中枢、解析階差機関前。
巨大な塔のような
「あガアアアアアアアアアアア!!!!!」
数百本のホースが繋がれたそれは、串刺しになった聖者か、あるいは蜘蛛の巣に捉えられた哀れな羽虫のよう。
痛みに悶え苦しみ、暴れられる麦わらのルフィは良い方だ。1日以上、薬物と電流を流し込まれ、全身を槍のような注射針で貫かれたサンジとロビン、フランキーは疲れ果て、既に反応もない。
30時間以上不眠で継続して暴れ続けられるタフネスと、解析用の電流への耐性がある麦わらのルフィだけが、逃げようと悶え苦しんでいる。
だが、全身を硬質のプラスチックで固められ、標本の蝶のようにピン留めされたこの状態からは、その彼ですらも脱出できない。脱出には、外部からの影響が。それも、プラスチックを溶かす高熱が必要だ。
「シュロロロロ、良い気味だ! おれという天才を人質に使いやがった恨み、億倍にして返してやる!!」
「いやまあ、拷問じゃないからね? 『解析の過程で薬品と電流のダメージが入る』だけで……栄養も点滴で与えてるし……」
「つっても『辛い』のには変わりがねェだろうがよ! とくに麦わらの野郎には『飯がねェ』のが地獄だろう!!」
「いやあ、薬品の関係で胃に物を入れて欲しくなくてね……」
「まあ、いい。コイツらが痛い目見てんのは良い気味だが、知りたいのはそんな「過程」じゃなく「研究結果」! 正直、おれは『兵器』のほうにかかりきりだったからな。こっちがどうなったかは知らねェんだが……」
「ああ。そうだね。研究結果の共有と行こうか」
マキナは、巨大な階差機関に手を触れた。機械の塔からは奇妙な赤銅の腕が何本も生え、「モニター」を展開する。
「まず、ヴィンスモーク由来の血統因子改造のデータはすぐに抽出完了したんだ」
「シュロロロロ! ジャッジの野郎の生涯の研究がこうも簡単に解析されちまうとはな! ザマアミロ!」
「逆に、改造部分がしっかりしてるからわかりやすいんだよね。自然由来のものより解析は簡単だ」
まず、あっさりと解析されたのはサンジの肉体。ヴィンスモークの人体改造技術だ。コレはある種当たり前とも言える。「科学で再現できる」ことがわかっていたものだからだ。
「逆に、まだ当分かかりそうなのが、古代文字と歴史の本文、そしてプルトンの設計図のデータだね」
「やはり、記憶の抽出までは難しいか」
「断片的な情報は引き出せるんだけどね。整合性にちょっと難がある。夢の中のように、「他の記憶」や「思い出」が混じるんだ。『空白の100年』の真実も、『プルトン』の構造も。「それっぽい情報」止まりで、現時点では使い物にならないかな」
「……まあ、人間の脳構造がそんなに簡単なモンだったら苦労はしねェよな」
「仕方ない。現代では自白剤に似た薬物投与と脳の解析で記憶抽出自体はできるようになってるけど、ピンポイントで狙った記憶を引き出すのは難しい。楽しい宴の記憶やら、苦しい人生の記録やらが混じって出てくるから、必要な情報だけ吐き出してもらうには『メモメモの実』でもないと難しいね」
「マムの所に居た奴だな」
「そしてもうすぐ完了するのが、ゴムゴムとハナハナの悪魔の実の因子データだね。超人系の人造悪魔の実はまだ実装できてないから、これもそのまま役に立つわけじゃないけど……見てくれよ。ゴムゴムの実の因子データだ」
モニターに映るのは、謎のグラフだ。まるで心拍のようなそれは、何を意味するか傍目には理解不能だ。マキナと、シーザーを除いては。
「ちょっと待て! この波長、明らかに動物系の……!!」
「『ヒトヒトの実 幻獣種 モデル ニカ』。かつて信仰された太陽神の能力であり、政府が長年隠蔽していた能力らしい。手配書の異様な姿やらCPの通信傍受やらで確度は高いと思っていたけど、まさかこうもはっきり出るとはね」
「まさかこんな情報を政府が隠してるとはな!!! 「ゴム」にしちゃあ妙だと思っちゃあいたんだが……」
「ああ。私も驚いたよ。そんな実のことを政府が隠していたことも、それが四皇麦わらのルフィの能力だということも。そして、そんな重大情報を盗聴妨害の白電伝虫も使わずに垂れ流しちゃう政府の杜撰さもね」
ヒトヒトの実、モデルニカ。その名を知る者こそ少ないが、手配書の異様な姿から、「並々ならぬ情報を隠していた」ということ自体はすぐに世間に知れ渡った。そして、それが「動物系の能力」による変貌であったことも、見るものが見ればわかる。そしてその先も。
「まあ、「あの」写真が手配書に使われたことを見るに、「そんな重大情報である」っていう認識をCPにすら隠していたが故のポカ、って感じかな」
ニカ、という神の名前は、長い間秘匿されてきた。伝承としては伝わっていないこともないが、それを宿した悪魔の実があることや、それを政府が追っていることも、政府外のだれも知らなかった。
だが。ワノ国の一件で、その実が覚醒してしまった。それも、世界政府嫌いとして知られる四皇、麦わらのルフィの能力として。それ故に世界政府情報部である
正確ではない。マキナが世界経済新聞社社長にして情報屋であるモルガンズに、盗聴した情報を売りつけたのだ。他人事ではない。
「でも正直、たまたま特別な悪魔の実があって、それを食べた男が四皇になりました、って筋書きに納得は行かないかな」
「何が? 実際のところ、野郎に繋いだ解析機が導き出した“実の波長”は動物系のそれだ。“実の意志”のようなものも確認できる。血統因子の解析もじきに済むだろう。覚醒した動物系なのも、幻獣種なのも。『科学的に導き出された結論』だぞマキナ?」
「いや、逆だよ」
「逆ゥ?」
「ゴムゴムの実だけが特殊だと。本当にそう思うかい? シーザー?」
「!! まさかそういうことか!!」
ゴムゴムの実が特別で、かつて存在した太陽の神ニカを宿し、世界政府に追われている。
それが世界政府の想定だが、科学者の視点からすると違和感のある話だ。
「シュロロロロ、つまりゴムゴムの実がかつての神に変身するヒトヒトの実
それは、悪魔の実の分類を根底から覆す前代未聞の仮説。悪魔の実は
「ああ。そうだ。だとすると、あの兄が残した研究の意味が変わってくる。お前が持ち逃げした
それは、ベガパンクの作った人造悪魔の実。ウオウオの実モデル蒼龍の
「まさか……「『色が違う』だけで失敗作呼ばわり」とふざけた真似をぬかしやがっただけだと思っていたが……まさか!!!」
それでもなお未完成だったとしたら。本当にベガパンクが目指したものとは。
「
最強生物カイドウの血統因子から能力を取り出すのではない。龍に変身する能力も含めて『カイドウ』という異能持つ個人を能力化すること!!!!
「というわけで、作ってみた」
「!?」
理屈がわかったからといえ、作れるというのか?? カイドウの血統因子という材料も、SADという原料もあるにせよ、こんな短時間で、あのベガパンクにもできなかったものが!?!?
「いや、叩き台だよ。あらかじめこの仮説は立てて研究してたのもあるしね。最後の一ピースがハマっただけだ。それに、兄のそれとは逆に
それでもなお、異常だ。悪魔の実などに頼らずとも、覇気にすら頼らずとも、カイドウという生物種の強度はあらゆる動物を凌駕する。そんな最強生物に変身する能力があるのなら、文字通り最強の動物系だ。
(チッ! これだから天才は!! 俺のSMILEを軽々超えて来やがる!」
「聞こえてるよシーザー。君だって「私並みの予算」と「私並みの労働力」を持ってて「量産性を考えなくていい」ならこれくらいできるさ。兄みたいな天才性と一緒にされちゃ困る。あのDr.ベガパンクならどうせ「超人系」や「自然系」も量産実装できるだろうね」
単純な話だ。シーザーという男は、真面目に研究をしない。ベガパンクに次ぐほどの天才的頭脳がありながら、予算で
天才の場合、研究の成果は、おおかた予算に比例する。マキナがシーザーを上回っているのは頭脳ではなく、ある種「金策の能力」というべきものだった。
シーザーは悪魔の実を見る。人造悪魔の実技術の革命とも言えるその青紫の実は、奇妙な魔力をも帯びており、目を離せない。それは、元となったカイドウの王気をも思わせる。
「で、コレを作ったとして誰に食わせるかだが……」
試作段階にすぎないこの人造悪魔の実は、本来なら換えの効く市民などに食べさせて経過を見るべきだ。
だが、実そのものが強い圧を持つコレが「失敗作」だとはシーザーには思えなかった。
それに、世界政府との戦争を考えると、製造コストが高く強力な人造悪魔の実は手駒に食べさせておきたい。
だとすれば……
「おい! アダムス! 『実験』の時間だ!!
シーザーは、マキナから受け取ったその実を、後ろで無言で立っていたセラフィムであるアダムスに投げた。アダムスは複数の血統因子を内包する改造人間だが、悪魔の実の伝達には問題がない。いつか悪魔の実による強化をすることも前提として組まれているからだ。そして、それが今日だった。
「御意」
仏頂面の改造人間は、あんぐりと口を開けてその果実を齧る。
変化はすぐに起きた。
元より3m以上あったアダムスの巨体は、倍以上に膨れ上がる。硬質の素材でできた天井を、古びた瓦礫のように砕き突き抜ける。
そしてその頭には、天を貫く角が2本。そして莫大すぎる威圧感。それはもはや人の身にあらず。ワノ国に伝わる幻獣、鬼を想起させる風貌だ。
能力などなくとも、覇気すらなくとも。その肉体強度だけで凡百の幻獣を凌駕する、究極の『現存生物』。
“人造ヒトヒトの実 モデル『カイドウ』”
「オイオイ、マジかよ。『生物種としての基礎スペック』だけでコレか!?!?」
「動物系能力者の強度なんて能力頼りだと思っちゃいがちだけど、『カイドウ』という生物にとって「龍」なんてただの余分。もしかすると覇気ですらも。ただ、『在る』だけで最強なんだ」
科学者にリミッターは不要だ。それでも、とんでもないものを造ってしまったと、2人のマッドサイエンティストが怖気づいてしまうほどの暴威。
「それに、アダムスの場合ルナーリアの強度と速度、遊蛇の鱗があれば『龍』の部分は不要だろう。ある程度は再現が効いてる」
カイドウは、その肉体の強度をさらに幻想種、青龍の鱗で強化していた。アダムスにはそれがないが、ルナーリア族由来の無敵の強度と、最強の蛇、遊蛇の鱗がある。
「アダムスの実可動試験もやりたいな。コレでどれだけ強くなったか。あるいは副作用が出たのか。興味がある」
「シュロロロロ、それなら問題ねェ」
シーザーは、ちらと後ろに繋がれた麦わらのルフィたちを一瞥した。
「奴等とはそれなりに長い付き合いだ。よおく知ってる」
シーザー・クラウンと言う男は、パンクハザードから長い間麦わらの一味に「人質」として捕えられ、航海を共にしてきた。だから、彼らのことは良く知っている。そして、それでも情が移っていない、むしろ恨んでこの機に潰してしまおうと思ってさえいるのが、シーザーと言う男の悪性だった。
「仲間想いのお優しい
シーザーは恍惚としている。兵器開発者である彼は、すでにアダムスの「量産」と、それによってどれほど多くを殺し、どれほど多くの名声を得られるかを夢見ている。取らぬ狸の皮算用、というものだが、マキナが世界に勝利すればほぼ確実にやってくる未来でもある。
「奴らは馬鹿な野郎だからな、きっとこう思ってやがる。『相手の底は見えた。次は負けねェ』とな。
「アダムスだけじゃない。今回の解析で得た技術で、たった1日で。私達がどれほど強化されていくか。バカにはわからないんだ」
マキナは
「それに、『あの兵器』もロールアウトした。最初にテメェから聞いた時は眉唾だったが、なるほど。アレの構想があったなら世界政府と戦争するのも頷ける!」
「
それは、麦わらの一味への。そして世界への宣戦布告。
「首を洗って待っているがいい!
勘違いモノ(ベガパンクは全然ヒトヒトの実モデルカイドウなんか作る気はなかったし、モモの助の食べた人造悪魔の実には色以外の問題はない)