劇場版 ONEPIECE FILM 『MAD』   作:はむらび

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本誌の新情報で頭とプロットの大半が焼かれました。


"諦めの悪いヤツ"

 翌日、夕方。繁栄国ソルベルデ。

 

 銅細工でできた橋の上を走る、一人の侍がいた。

 

 走る。走る。走る。三本の刀を腰に携え、長い脚で跳ねるように走る。

 

 どこへ向かっているのかは知れない。何の作戦かもわからない。だが、この島は全域がマキナの能力による感知範囲であり……

 

 

「てめェ、シーザーか」

 

「シュロロロロ、この2日、どこに隠れ潜んでやがったんだ? ロロノア・ゾロ」

 

 当然、待ち構える者もいる。

 

 読まれた手なのもある。一人で行動する侍をなぶり殺す手筈も調えてある。

 

 しかしそれ以上に、「実験」のためにこの男は待ち構えていた。

 

「……にしてもだ、こっちには大事な設備も、てめェらのお仲間も何もねェぞ? 何が目的だ?」

 

「……おれはルフィたちの元に向かえと。1人で。こっちじゃねェのか?」

 

「……そりゃアてめェ、騙されたんだよ。てめェの方向音痴はおれでも知ってる」

 

 ガーン! と大口を開けるゾロ。

 

「だが、良い策だ。『陽動』としてはこれ以上ねェ程にな。いくらテメェが目的地に辿り着かねェとしても、放置できる戦力じゃあねェ」

 

 パチン、とシーザーが指を鳴らす。

 

 その行動に対し反射的に、「ガス爆発」を警戒して飛び退くロロノア・ゾロ。

 

 

 そして、それは結果的には正解だった。ゾロを潰すように、上空から超加速した人造ルナーリア、アダムスが飛び込んできたのだ。

 

 ドガシャン!!

 

「なッ!」

 

「……」

 

 アダムスの瞳に、光はない。それは旧型パシフィスタ、ひいてはバーソロミュー・くまをも思わせる。

 

 だが、その肉体はくまよりも大きい。前回ゾロが交戦した時よりも、倍近く大きい。

 

 

「進化したアダムスだ。悪ィが実証実験に付き合って死んでくれ」

 

「まァ、おれも負けっぱなしは気分が悪ィからな。それに、どっちも斬れば良いんだろ? むしろ都合がいい」

 

 ゾロは、腕に巻いたバンダナを、頭に巻き直す。アダムスは停止したままだ。『受け』の姿勢だろうか。あるいは、油断か。だが、どちらにせよ装甲の厚さに頼ったそれは下策だ。

 

「三刀流──」

 

 何故ならば。ゾロは既に、ルナーリアを斬る術を持っている。

 

(ウル)虎狩り(トラがり)!!! 

 

 覇王色を纏った一撃。未だ不完全であり、発展途上ではある。だが、意識的か無意識的か、ロロノア・ゾロは、四皇クラスでしかできないこの「一握りの強者」の覇気の使い方を獲得していた。

 

 覇王色を纏った刀は、触れもせずにあらゆる敵を切り裂く。アダムス同様ルナーリア族の外皮を持ち、さらに長年鍛え上げたキングにすら有効打を与えられる一撃。

 

 だが。

 

「!?」

 

 無傷、ではない。

 

 だが、シュウウウウと煙を吐きながら、鱗が刀と覇気を受け止め切っている。

 

 ここまでの一撃を受けてなお、有効打になっていない。

 

「シュロロロロ! 「前回通り」だとでも思っていたかバカめ!! 「科学」は常に成長するものだ!!」

 

「にしたって! 限度があるだろ!」

 

 前回だって、けして弱くはなかった。ワノ国で得た「浸透する」武装色の覇気がなくては貫けない外殻。ギア2を使用したルフィよりなお速い速度。多岐に渡る血統因子移植による初見殺し。

 

 だが、それをも上回るのが、「人造悪魔の実」!! 

 

 改造人間に「カイドウ」の種族特性を上乗せしたソレは、もはや新たなる最強生物だ。

 

 ガンッと、地を蹴る音がした。

 

 アダムスが蹴った床が陥没している。ただの床ではない。マキナの能力で生み出された、鋼鉄以上の強度を持つプラスチックの床。それが、無造作なジャンプの反動で凹んだ。

 

 そして、その莫大な出力の反作用によって飛び上がったアダムスは……

 

(ヤベェ。一瞬()()()()()()!!)

 

 拳をゾロに向けている。三刀による防御に成功したのはただの()()()()。その莫大な速度自体は、四皇大幹部たるゾロでも見切りきれていない! 

 

「それなりに強い」

 

「テメェもな」

 

 拳と刀が衝突する。その一撃一撃が、あまりにも重い。

 

 受けたエネルギーと摩擦で刀が赤熱するほどの、威力と速度を持った交錯。それが一瞬のうちに、何度も。

 

(シュロロロロ、「実験」は失敗だな。なんせ観測者のおれには『結果が目で追えねえ』!!)

 

 研究結果を観測しているシーザーは冷や汗をかいた。四皇大幹部、実質的に副船長クラスであるロロノア・ゾロが強いのは当然として、それに対してなお優勢に立ち回る『兵器』の性能!! 

 

(兵器開発者として、嬉しくもあり悲しくもある!! 『測定不能』の性能って奴ぁな!!!!)

 

 そして、次にシーザーが捉えた姿はしばらく後。

 

 目にも止まらぬ戦闘の終わり、双方が必殺の一撃を撃たんとするために立ち止まったのだ。

 

 ロロノア・ゾロは全身から滝のような、否。高い熱を帯び狼煙のように蒸発する汗をかいている。それだけではない。深手ではないとはいえ、細やかな傷によって全身からは血もにじんでいる。

 

 アダムスもまた、無傷ではない。血こそほとんど流してはいない。だが、全身の強固な蛇鱗は傷だらけだ。ぼろぼろとささくれ立ち、今にも剥がれそうになっている。

 

 肉に達した深手も複数ある。ただ、有する再生能力によってかろうじて肉が塞がり、血が止まっているだけだ。

 

 それは、先ほどの交錯でどれほどの攻撃が交わされたのかを、結果だけで物語っている。

 

 

 そして、だからこその必殺の撃ち合い。数え切れぬほどの連打ではなく、ただ最強の一撃を以て勝敗を決める。

 

「三刀流──」

 

「エレクトロ──」

 

 三刀を構えるロロノア・ゾロ。ミンク族の血統因子によって稲妻を纏い、さながら龍王カイドウの再来となるアダムス。

 

青龍印(せいりゅういん) 流水(りゅうすい)!!!!! 

 

月龍八卦(スーロンはっけ)!!!! 

 

 まるで、青い龍のような気を纏った二人が激突する。

 

 そして、激突した二つの青い龍の片方が霧散した。

 

 膝をついたのは。ロロノア・ゾロだ。

 

 全身が黒く焦げている。服もボロボロだ。莫大な、エレクトロの雷の齎した破壊。

 

「シュロロロロ、良いザマだ!」

 

「運ぶか? M(マスター)

 

 アダムスはそう返した。この島の侵入者を倒し、実験室に運ぶ。それがアダムスの役目であった。今までも能力者や珍妙な武術の使い手など、何人もを運んできた。

 

「いや。コイツに研究価値はねえ。能力者でもなきゃ、珍しい技術や知識も、あるいは目新しい技術すらない、『ただ強いだけの剣士』だ。こんなもん研究しても得るもんはねェよ。「世界」に喧嘩を売った以上、懸賞金にもならねェ」

 

 だがシーザーは、傷だらけの剣豪を見て、そう品評した。

 

 ロロノア・ゾロは強大な海賊だ。だが、その強さに「未解明の」点は少ない。多くの戦闘経験、たゆまぬ鍛錬、生まれ持った王の資質。三本の名刀。

 

 ……だけだ。

 

 ただ、才能のある男が多くの戦いを経て強くなった。それは海賊としては価値ある成功だが、目新しさは何もない。実験材料(モルモット)としては落第だ。

 

 そして、ソルベルデは世界政府に宣戦布告した以上、世界政府に身柄を引き渡して懸賞金を貰う、と言うのもできない話だ。

 

 人体実験に使うにも強すぎる。生かしておくのが危険なほどに、強いから。

 

「ぶち殺せ! アダムス!」

 

 故にシーザーは命じ、故にアダムスは拳を振り上げた。雷を纏った大ぶりな、全霊の一撃。

 

 片膝をついて立ち上がることすらままならない男に対して、過剰火力とも言える一撃だ。

 

 

 だが。

 

 

 目を取られるアダムス。拳を止めてしまったのはゾロの天運か。いや、彼が最初に()()()()のは、ひとえに高い感知機能によるものだ。

 

 突如。天高く上る一筋の光が生まれたのだ。

 

 

 天高く上るピンク色の一条の線は、上空にて爆散する。

 

「花火……?」

 

 違う。確かにピンクの光を振りまくその姿は花火に似るが……!? 

 

「不味いアダムス!! こりゃあ『ガス』だ!!」

 

 散布されたピンク色のそれが、何らかの化合物であることをシーザーは見抜いた。

 

 おそらくは毒ガス。島のどこにパシフィスタのような生体兵器が仕込まれているかわからない()()の身としては、広域に散布した毒ガスで島そのものを混乱させるのは、そうおかしな手ではない。

 

 対・パシフィスタを前提としたガスであれば、おそらくはアダムスにも有効。ルナーリア族の外皮も、呼吸器の粘膜までは網羅していない。

 

 故に、今まで見に徹していたシーザーが、此処で動いた。

 

無空世界(カラクニ)!!!」

 

 それは、ガスガスの実の真髄。一見ガスと言う言葉からイメージしやすい「毒ガス」に限らず、周辺の「大気」という気体自体を操る能力。

 

 本来は酸素を奪い対象を窒息させる「それ」を、シーザーとアダムスを覆うように「無空の壁」を生み出し、詳細不明のガスを防ぐために用いた。

 

 天才ならではの判断力だ。

 

「シュロロロロ! 『ガスガスの実』の能力者相手に、『ガス』で勝負を付けに来るとはな! だが、てめェ自身がガスを吸っちまってるようじゃおしめェだろうが!!!」

 

 倒れこんだゾロの肉体が、どくん、どくんと脈動した。

 

 おそらくは、心臓をはじめとする循環系を汚染する毒。

 

 にやりと笑うシーザー。ダメージを負った肉体に、味方からの毒ガス! ザマアミロ! お前は仲間のせいで死ぬんだ! 

 

 ……

 

 

 ……いや。

 

 

 ……おかしい。

 

 

 どくん、どくんと脈動するロロノア・ゾロの肉体は、むしろ賦活しているような……

 

 剣士は、刀を強く握った。腕に血管が浮き出た。

 

「!?」

 

 毒ガス、ではない。

 

 肉体を傷つける毒とは真逆。精神を鼓舞する薬。即ち、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 前提が異なるのだ。この島の兵器を倒すためではなく、この島の民を立ち上がらせるためのガスなのだ。

 

 全身から血を流しながら。ロロノア・ゾロは立ち上がり、ぎろりと大男を睨んだ。

 

「第二ラウンドだ。羽野郎」

 

 

 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

「まさか、本当にできるとはねェ……」

 

「ああ。本当は「血を通して」運ばれるものだからな。ホルモンって。空気を介してばらまくのはちょっと難しかった」

 

 薬の花火を放ったその直下。珍獣1匹と珍人間1人が立っていた。麦わらの一味の船医であるトニートニー・チョッパーと、革命軍幹部、人体のエンジニアであるエンポリオ・イワンコフだ。

 

「でも、ヴァタシたちの本当の仕事はこれから。ロロノアボーイが敵の戦力を釘付けにしてる間に、ヴァナタの仲間たちが麦わらボーイたちを奪還する。そして、ヴァタシ達はニューカマーたちと一緒に、この島の人たちに「真意」を問うの」

 

 それは、革命軍の根底理念。立ち上がる気のないものは助けない。革命軍は神ではない。無責任な救済者ではないのだ。

 

「このままでいいのかって。このままじゃダメなら、自由を求めて立ち上がる気はないかって」

 

(でも、それじゃ駄目だろ。イワンコフは「革命家」だからまだ良い。でも、おれが、海賊が扇動して、国をひっくり返す?仮にも食うに困ってねェ国を?)

 

「大丈夫? チョッパー」

 

 半人半ハムスターの少年、ボロが背後からやってきて尋ねる。

 

「ああ。うまくいった」

 

「流石よねえ。技術力もそうだけど、『諦めの悪さ』がとくに。ヴァタシそういうの好きよ。でも、ヴァナタ革命家でも何でもないでしょ?この国にそんな思い入れがあったの?」

 

「ああ。おれは革命家じゃない。海賊だ。だから、知らない人まで助けようとは思わないよ。でも、たった2日だけどさ。ボロや他の逃げてきた人たちと話したよ。みんな良い人たちだった。夢があった。でも、この国はそれを認めない」

 

「あら、だからヴァナタはこの国を救おうと? まるでヒーローみたい」

 

「ヒーローじゃない。おれは医者で、海賊だ。『助けたいから』助けるんだ」

 

「……そう」

 

 それこそをヒーローというんじゃないかしら? とは言わなかった。粋な生き方を心がけるイワンコフには、それが無粋だとわかっていたから。

 

「すごいね。チョッパーは」

 

 ボロは、顔を背けた。外から来た英雄達。人獣型の自分より小さいのに、こんなに大きい。

 

「何を言っているの? ヴァナタもやるのよ」

 

「え?」

 

「当たり前じゃない。何もせずに助けだけ請う奴に「救い」は降りてこないわ」

 

「でも、じゃあ。ぼくに何ができるんだよ!」

 

「なんでも。だってヴァナタ、ヴァタシ達よりこの島のことを知ってるじゃない。あの厳しい管理の中を脱獄できるくらいに。そんな『能力』が、この島に来たばかりのヴァタシ達には必要なの」

 

「当然だろ?おれはこの島を何も知らない。海賊風情が、可哀想だから救ってやる?何様のつもりだよ」

 

チョッパーは自嘲した。

 

「確かに、この国は病んでる。だけど、それ以上に。おれは!友達になった「オマエを」助けるんだ!」

 

それは、チョッパーなりの一線だった。ただのヒーローにならないための。「好きなようにやる」『自由な』海賊でいるための!!

 

「助けてくれって言えよ!!ボロ!!「オマエの」国だろうが!!」

 

「……うん!!『この国を救うのを手伝って』!!チョッパー!!みんな!!」

 

助けてとは言わなかった。ただ、手伝ってくれと。それは、ボロという少年が、男として立ち上がった瞬間だった。

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