劇場版 ONEPIECE FILM 『MAD』 作:はむらび
そこは、赤銅色の街だった。街の至る所が銅細工で構成されている。
至る所に歯車が回っている。そして、煙突から床の隙間まで、至る所が煙を吐きながら稼働している。
見知らぬ素材もある。ジンベエがふと触れたガラス
天を見上げると、蝙蝠のような翼を広げた一人乗りの飛行機たちが空を飛んでいる。
(トビウオライダースの奴らに似てるな)
あのような乗り物は外界にはない。似たような乗り物をサンジが連想するのも無理はなかった。
さらにその上には大きな飛行船が見える。まるで建物そのものが浮かんでいるかのようだ。
これが繁栄の島ソルベルデ。今まで多くの島を旅してきた麦わらの一味と言えど見たことのない光景だった。
「で、メシはどこだ?」
「ああ、それは思った。食材を売ってる店が見当たらねェ。そもそも街の構造が難しすぎて何が何だか」
「皆様を歓迎する宴を王宮で催させて頂きます」
メカ鷲ワシントンは言う。
「歓迎? 何度も言うけど私達海賊よ?」
「"四皇"ともなれば当然です。力が支配するこの時代、王や貴族よりも影響力のある"
「でもおれはまだ海賊王じゃねェぞ?」
「それでも、一国の王よりも強い影響力があります。この大海賊時代の頂点なのですからね」
「まァ、肉食わしてくれんならそれでいいや」
「ですが、その前に」
ドレスコードというわけではないのですが、と一言置いて。
「
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
「おいばーさん! 鉄パイプあるか!?」
「ないよ! その辺に落ちてるのを拾ってきな!」
ルフィが選んだ服は、いつものルフィには見合わない貴族服だった。胸元には白いヒラヒラ(ジャボと言う)がついている。
麦わら帽子の代わりにゴーグルのついた革製らしきシルクハットを被り、不釣り合いな麦わら帽子は首にかけて背中に背負う形となる。
それは、かつて共に育った兄、サボの格好を真似た形だ。
「ねえ、ちょっとこの服胸が合わないんだけど!」
更衣室の中からナミの声が響く。ナミの大きな胸が入らない
「胸の下の歯車を回してごらん」
「コレ?」
ナミが胸元の下についた歯車を回すと、プシュー、と水蒸気を噴きながら服がフィットしていく。
「へぇ、面白い構造ね」
「袖口やウエストの横の歯車も調整用だよ。脱ぐときは逆に回しな」
「おいばーさん! じゃあこの歯車はなんだ!?」
「それはガスマスクだねェ、ここは昔はもっと空気が悪くてね、こうやって鼻を覆うように……」
店のばーさんは腕を伸ばし、ウソップの肩口の歯車を回す。ウソップの巻いていた灰色のストールのようなものが蛇腹のようにせりあがり、ウソップの顔と鼻を覆うように……
「おや、鼻がひっかかるねェ、まあ気にしないどくれ、多少鼻からガスが入るだけさね」
「いや、気にするわ!」
ウソップの格好は飛行士のものだ。飛行機技術が発展した、ソルベルデを含むいくつかの国でしか見られないものだが、暖かいコートとメガネのついた帽子が特徴だ。ウソップは狙撃用にゴーグルに度を入れている。
他の一味も、思い思いの服を選んでいる。
「おいブルック、それイガラムの……いや、知らねェよな。とにかく、アフロはいいのかよ」
「たまにはイメチェンも良いかと! それにほら!」
ブルックは、誇りでもあるアフロの上から、音楽家らしい白いカールしたカツラを被っていた。
「アフロはちゃんとカツラの下に在りますから! こうでもしないともう髪型変えられないんです私! もう毛根! 死んでますから! ヨホホホホホホ!!」
それは、今までも何度もあった光景。麦わらの一味でなくとも、誰だって行う、ファッションを楽しむということ。
「いつぶりだろうねェ……こんな風に、楽しんで服を選ぶ奴らを見るのは」
「──??」
そんな普通の光景を見ただけのはずの店番の老婆は、とても嬉しそうで、とても悲しそうな顔をしていた。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
繁栄国ソルベルデ。その中枢。高く聳え立つ摩天楼の中。
麦わらの一味一行は、王宮で歓待を受けていた。
だが、けして人はいない。意思持つものですら、端に控えるワシントンのみだ。
豪勢な料理が、皿に乗って進んでくる。
運ばれてくるのではない。皿の下にキャタピラがついて自走しているのだ。
酒もそうだ。テーブルに空いた穴からグラスがせり上がり、そのグラスにひとりでにワインが充填されていく。テーブルの下からグラスに酒が注がれる仕組みだ。しかし、グラスの下に穴が空いているはずなのに不思議と溢れることはない。
そしてステージを賑やかすのはロボットたちの踊りだ。鉄だけではない。透明なガラスのような素材で作られたバレリーナたちが跳ねる。
曲は自動演奏だ。壁一面に備え付けられたパイプオルガンの鍵盤がひとりでに動く。
煙突が吐いた煙すらも曲に合わせて音符の姿を取り、壁の歯車たちもリズムを刻んでいた。
ライトすらも、頭を揺らして踊っていた。
室内のすべてがひとつになって躍る怪現象は、ここでなければホーミーズに囲まれたトットランドでしかお目にかかれない光景だ。これが「科学」。芸術すらも人の手を凌駕する。
しかし突如、その踊りも止まる。
今まで頭を揺らして踊っていた"ライト"が、一斉に一箇所を向いた。
ステージが照らされる。そこにいるのは、1人の女と2人の男。
一人目は、白衣の女。背丈はロビンほどだろうか。長い白衣は下に行くにつれて
それだけではない。服だけではなく、肉体そのものが液状化している。歩いてきた足跡にも黒い液体が残っている。これは能力者、とくに
二人目は、浅黒い肌の大柄な男。麦わらの一味同様に歯車に覆われたソルベルデ風の服を着ている。そして、背中からは炎が噴き出し、黒い鳥の翼が生えている。
「
ゾロはそう毒づいたが、何かがおかしい。黒い鳥の翼の下にはコウモリの翼が生えている。肩口には魚人の鰓が。鬣からは雷が迸っている。ミンク族のエレクトラだ。
見るものが見れば明らかに
「いや、違う種族か」
そして三人目は白衣の男。残虐な笑みを浮かべ、白衣の一部と下半身は気化している。こちらも自然系の能力者だ。
二人目と比べればやや小柄だが、それでも人間としては大柄な部類に入る。
……そして、この男だけは。
「「「「シーザー!?!?」」」」
麦わらの一味と面識がある。それも悪い意味で。
かつて炎と氷に包まれた島パンクハザードで麦わらの一味と相対したこの男は、世界政府を放逐された兵器研究者であった。紆余曲折あって"人質"として一味に同行したこともあり、その劣悪な性根は一味の誰もが知っている。
「シーザー、知り合いかい?」
「シュロロロロ、知り合いなんかじゃねェ! ただの悪縁だ!」
「まあ、此処は抑えて。こないだ
「チッ、わーったよ!」
シーザーは、怒りを抑える。麦わらの一味に対して、国の重鎮として歓待するための満面の笑顔を向ける。
「「「「キモッ」」」」
「なんだテメェら! 人様の努力を笑いやがって! 表出ろ!!」
「後にしてくださいシーザー様! 妹君の御客人ですよ!?」
「兵器が開発者に逆らうってのか!? "ワシントン"! だがいい。まァ、後にしてやる。この国は金払いがいいからな!」
ひと段落したかい? と女はシーザーに目配せする。そして、ライトが3人から1人の女に集約する。
「ようこそソルベルデへ! 私はマキナ! この国の"総統"にして、"世界最高の頭脳を持つ
黒く染まる白衣の女は、そう言い放った。
「なるほど、お前が鷲野郎の言ってた「ベガパンクの妹」か?」
フランキーがマキナに質問する。ベガパンクの妹は、ワシントンの言うことが正しければこの国の中枢に関わっている。自分のことを
「ああ。そうだよ。世界最高の頭脳を持つ
フランキーは、隣に座るサンジをちらと見る。同じ疑問を抱いていたようだ。サンジもまた頷き、囁いた。
(ベガパンクってのはジャッジの野郎やシーザーの馬鹿と同僚だったんだろ? その妹にしちゃ
(まあ、そう言う技術はあるからな。実際ベガパンクの研究所でも
「兄は海軍に与して、政府のための研究をしている。その優れた頭脳は人々を豊かにするために使うべきものなのに! パシフィスタなんて小道具を作るだけで満足してしまっている!!」
だが、私たちは違う! と女は叫ぶ。
「私たちの目標は、科学を通して世界中をより豊かに!! この島のように文明の光で照らし出すことなのさ!!」
マキナは恍惚とした瞳で謳い上げる。どこからともなく紙吹雪のようなものが舞う。紙吹雪をモロに顔に浴びながらも、隣に立つ改造人間らしき男は表情を崩さない。そのコントラストがどうにも珍妙に思えた。
ちょっといい? とロビンは手を挙げる。科学に詳しいわけではないが、文明の発展過程は考古学の領分だ。その彼女には、マキナの言うことはやや道理が通らないように聞こえた。
「でも科学者さん、この島の文明が発展したのは、油田、つまり資源が豊富だったからでしょう? 地理的条件の違う島だとこうはならないんじゃない?」
「いい質問だ。確かにこのソルベルデの科学はニジイロ海域の油に依存している。だけど、それは
「「「「????」」」」
一味の誰もが首を傾げた。
「シュロロロロ、覚醒した自然系の能力者は環境そのものに影響を及ぼす。パンクハザードは覚えてるか?」
「ああ」
「どんな島だった?」
「変な島だった!」
「そうね。いくら
「そう、まさにアレが自然系能力者の覚醒だよ。自分が自然になるのを超えて、自然環境そのものを永続で書き換える。赤犬のマグマグの実と青キジのヒエヒエの実の衝突だね」
マキナの白衣から黒い液体がぽたりと垂れる。それは爆発的に広がり、噴き上がり、ガラスのような彫像に変わる。彫像は海軍大将時代の赤犬と青キジの戦いを精巧に模したものだ。
「そして、この島も
「なんですって?」
この島、繁栄国ソルベルデは、厚い煤煙に覆われている。いや、それよりさらに広く。海域自体が。ニジイロ海域という、分厚い油に覆われた……
「『ギトギトの実』の油田人間。あらゆる「科学」の生みの親であり、もっとも自然から遠い自然系」
どろり、とマキナの半身が溶ける。ごぽごぽとガスを発する黒い液体。その物体、司る自然の名を『原油』と呼ぶ。
それが、この島の主人たる女の能力。肉体を油田に変え、多種多様な石油や天然ガスを産出する自然系悪魔の実の能力だ。
「それが、覚醒によってこの海域を支配する"理"そのものだ」
つまり、パンクハザード同様に、この島もまた極まった自然系の能力によって塗り替えられた自然に過ぎないということ。
それは即ち、マキナが移動さえして仕舞えば、環境そのものを資源の海に変えられるという意味でもある。環境破壊と裏返しではあるが、無尽蔵の資源を消費するソルベルデ並の文明をどこでだって築ける。
「20年以上休まず行使し続け鍛えられた自然系の能力。これさえあれば……ソルベルデだけじゃない。この世の文明は資源に縛られずに無限に発展できる!」
それは、まるでミュージカルの主役のような、あるいは大衆を煽動する独裁者のような仰々しい発言だった。
だが、大衆を煽動する独裁者と違うのは、それが
「わかるか? ゾロ?」
「いーや、わかんねェ」
「わからないならそれでいいよ。馬鹿は馬鹿なりに、文明の恵みを享受していればいい」
だが、この女、マキナはそれを馬鹿と断じた。
(なーんか、鼻につく女だな)
馬鹿と断じられたルフィとゾロはともかく、ウソップは反感を覚えた。
「まあとにかく」
マキナは一呼吸置いた。文明の価値を理解してもらうには、
「いくらでも食べて飲んで、楽しんでいってくれ! なんたって此処は
☆マキナ
繁栄国ソルベルデ総統 "ベガパンクの妹" "世界最高の頭脳を持つ女"。ギトギトの実の油田人間。
つまるところ今回の『劇場版ボス』。
劇場版ボスはルフィが苦戦する(=四皇クラス)の戦力が必要となるので世界観(四皇クラスが無からポップしてたまるか!)との整合性に苦労するが、マキナのアプローチは「科学」と「地の利」。
「自分の能力によって構築された陣地」では無敵であるというFILM GOLDのギルド・テゾーロ同様のアプローチに加え、数百年未来の科学力を駆使することで劇場版ボス水準の戦闘力を「無から生えてきても良い水準で」保っている。
元ネタは恋するワンピースのメモリちゃん。
恋するワンピース(ONE PIECEスピンオフ。ONE PIECEのキャラと同名(と怪人物嘘風に定義された)人物たちがワンピースネタでわちゃわちゃするシュールギャグ漫画)において、「ベガパンクの妹」枠という存在しない枠で登場した破天荒なマッドサイエンティスト。
マキナはこの「存在しない枠」が「存在したら」という逆算によって生み出された存在である。