劇場版 ONEPIECE FILM 『MAD』 作:はむらび
最強オリ主小説の形式として流行ってもいいと思う
「うッめェェェェ!!!!」
ルフィの目の前にあるのは、身の丈以上の大きな肉の塊。綺麗に霜降りが入っており、小骨や筋や血合すらない"理想的な肉"だった。
「酒もいけるな、気が効くじゃねェか」
「音楽も良いですね。血が通ってない自動演奏といえど、ここまで来るとまた風情があります。まあ、血が通ってないのは私もなんですが!!」
「それはいいんじゃが……なんじゃこれは」
ジンベエが掴んだのは、謎の立方体。口に入れると味が弾ける。未知の食感と、濃厚な味。新技術で作られた雲丹の3D寿司だ。
毎日一流シェフ・サンジの飯を食べている
しかし、浮かぬ顔の
「いや、違和感がある。こんな肉
「ああ。
「いや、この肉質はレッドヒツジだ。四足動物の構造なんてどれも大方変わんねェよ。高級食材だが、筋が多い。なのにこの肉には
筋とは、筋肉と骨の接合部位。食感が悪いため切ったり取り除くことはあっても、存在しないなどあり得ない。脊椎動物には必須の構造だ。
だが、サンジの手元にあるステーキには、そんなものはなかった。
筋もなければ、筋肉の方向も均一だ。脂肪もきれいに入って柔らかい霜降りになっている。
それは"食材"としては理想的だが、"生物の部位"として明らかに間違っている。
「お目が高い! それこそは私の開発した培養肉!!
「──なるほどな」
ヴィンスモーク・ジャッジ。サンジの実の父であり、クローン技術に長けたジェルマ66の総帥。サンジにとっては忌むべき名だが、納得もいく。
「このクローン技術があれば、どれほどの高級食材でも石油から無尽蔵に作り出せる。世界を幸せにする素晴らしい技術だろう?」
ヴィンスモーク・ジャッジの開発したクローン技術。血統因子から培養することで、理想の兵士を作り出す研究。全身を作り出すそれと比べれば、食用生物の肉という部位だけを培養することの難易度は低い。
「──不服かな、ヴィンスモーク・サンジ」
「──いや。コックとしては「飢えねェ」のも「食材の質」も理想的だ。ある種
「──の割には、君の顔は浮かないね。ヴィンスモーク家出身のコックの君なら、この技術を受け入れてくれると思ったのだけど」
サンジは、ヴィンスモーク家の失敗作だ。血統因子操作による人体改造が上手くいかず、故に虐げられた。
だが、この女はそれを知らない。故に、ヴィンスモークという名でサンジに期待し、失望した。
科学への忌避とコックとしての理性、ヴィンスモークへの嫌悪とレディへは笑顔で返すべきとする騎士道。サンジは自分でもこの技術をどう考えるべきか、感じるべきか。どういう表情を今自分が浮かべているのかすらもわからなかった。
「培養肉……それ、安全なのか?」
「まあ、今のところは大きな危険性は確認できてないよ。それに、危険だとしても
「治験とかしてねェのか!?」
「──ああ、そうか、君医者なのか」
マキナは意外そうな顔で見つめた。懸賞金1000B、麦わら大船団幹部"わたあめ大好き"チョッパーは一般に、麦わらの一味のペットとして認識されている。
「当然だろ、最低限はしてるよ」
「最低限じゃねえか!」
「認識の相違だね。科学の迅速な発展のためには無駄は省くべきだ。理論上は無毒だし、もし身体に害があったとしても、それで死ぬ奴より
「まあ、そうかもしれねェけど……」
チョッパーは、ちらと女の横に目をやった。
マキナの横にいた男、シーザー・クラウンはウィンクを返した。
「だとしたらなんでコイツがいるんだよ!! 明らかに
「シュロロロロロ、天才たるおれに対してコイツとはなんだコイツとは!」
「攫ってきた子供で人体実験するクズじゃないかお前!」
「なんだ? おれが
「違うのか!?!?」
もしかしてコイツにも良心があったのか、あってくれと期待を込めるチョッパー。
「違う。
「ああ、そういう意味か。一瞬でもオマエを信じたおれが馬鹿だった」
そう言った直後、チョッパーは気づく。それって、この国となんら違わないんじゃあないか?
命を救う科学と兵器の研究という両極ではあっても、科学者が
いや、もしかすると、その違いすらないのかもしれない。科学に善悪などないのだから。
「気付いたか。ここは『
「……」
それは、一種の理想であり、一種の絶望だ。より多くを救うためなら罪なき少数を実験材料にしても良いとする思想だ。もしかして一定の理はあるのかもしれない。それでも。
「気分悪ィ。トイレ行ってくる」
チョッパーにとっては、どうしても腑に落ちない、腹の奥がむずむずする思想でしかなかった。
「チョッパートイレ行くのか? おれも!」
「どうしたんだルフィ」
「いやな? ここではいくらでも肉食っていいんだろ? なら一回うんこしたらもっと肉が食えると思って!」
ルフィは、この技術を、思想をどう思うだろうか。みんなが美味い肉で宴をできる良い発明だと言うだろうか? それとも、"自由"を奪う悪い発明だと言うだろうか?
いや、ルフィはそう言うことを気にしない男だ。だからこそ良いやつでもある。
「そうだな。一緒に行こう」
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
「ふぃー、出た出た。これでまた食えるな!」
広間に戻るため廊下を歩く1人と1珍獣。巨人でも悠々歩けるであろうそれは廊下というよりも
回廊の天井や壁には何を通すためのものか銅の管が張り巡らされている。むしろ、回廊の外側の壁は銅管とアクリルだけで構築されており、さながら蜘蛛の巣のようだ。外には光り輝く夜景が見える。ギラギラと輝くグラン・テゾーロほどでないにしろ、発展した文明の光は珍しい光景だ。
ルフィとチョッパーは物珍しさに歩きながら見回していると、突然、壁の銅管の蓋がパカンと開いた。
銅管からひょこり、と飛び出す影があった。少年の影だ。
少年とチョッパーは顔を見合わせる。
「「うわあああ!!」」
銅管から飛び出し、後退りする少年。
「お前たち! 何者なんだ!」
「おれか? おれは海賊だ」
「海賊?
てことは、と少年は横を見る。それは大きなアクリルガラス。ソルベルデ全域を見下ろすことができる摩天楼だ。
「うわあああ!! 摩天楼に出ちゃった!!」
少年は外を見て驚く。どこに向かおうとしていたのか。少なくとも、王宮を兼ねるこの建物ではないことは確かだった。
「いや、上に登ってる時点で気づけよ」
チョッパーはツッコミを入れる。配管を通っているとはいえ、こんな高さの建物に迷い込むのは明らかに普通ではない。ゾロの仲間か?
「いや、待て。この焦り方。
その少年は、飢えてはいなかった。傷ひとつついていなかったし、銅管を通って煤けてはいるが、服の仕立ても良かった。それなのに。飢えて、傷だらけになったワノ国の人々よりもなお"絶望に満ちた"目をしていた。
「どうした! なにがあった!」
だから、チョッパーがそう問うのも不思議なことではなかった。あまりにも異常だ。体にはなんの異常もないのに、次の瞬間狂い果てて死んでしまいそうな姿。
「この国には、
ぽつり、と少年は話し出した。助けを求めたいのかもしれない。外海の人に。
「毎日、全部決められてるんだ。起きる時間、寝る時間。食べるもの、飲むもの。学ぶこと、仕事、遊ぶ事だって。使う道具や、部屋の配置。将来結婚する相手から、
それは、管理社会という在り方。資源を円滑に運用するため、人生を規格化し管理する
窓の外の灯りが一斉に消える。
「もう! カゴの中の鳥でいるのは嫌なんだ!」
震える少年の手をチョッパーの蹄が掴む。掴めない。押し当てるような形になる。それでも、チョッパーは少年の心の支えになろうとしているのだ。
「おれはさ。Dr.ヒルルクって医者に育てられたんだ。ヒルルクはヤブ医者だったけど、心を救える医者だった」
チョッパーの育ての親、ヒルルクは自他共に認めるヤブ医者の無免許医だった。しかし、彼の「感動によって病を治す」研究は、ドラム王国という国の病を救い、新たなサクラ王国のシンボルとなった。
「でもここは逆だ。メシにも医学にも困らねェんだろう。でもこんな環境、心が死んじまう」
ルフィは黙して語らない。馬鹿だから理解していないのではない。むしろこういった時に、外から見えるよりもきちんと物事を考えているのがルフィという男だと、チョッパーは長い付き合いで理解していた。
「お前はどうしたい、チョッパー」
「助けたいよ。知らない子供だ。助ける義理もないのかもしれない。それでも、この子がこんなに苦しんでて、この子以外にもこの国の人たちはみんな苦しんでて、それを見捨てるのは、おれは医者として自分が許せねェ」
助ける義理などない。見知らぬ子供だ。なんなら、恩義の話ならメシを出してくれたこの国の側にあるだろう。チョッパーはこの国が悪い国だと思う。それでも、メシの恩を覆して、自分の価値観だけで変えていいのか。それを、ルフィや仲間達に強いていいのか。そこには答えが出なかった。
「わかった」
それでも、ルフィは仲間のためにか頷いた。付き合いの長いチョッパーといえど、ルフィの内心を真に推し量れているかは怪しい。一見馬鹿に見えて誰よりも深く考えており、だと思ったらやっぱり馬鹿だったりするからだ。
「なあ」
少年は問う。泣くような悲痛さで。それでも笑みを浮かべて。海賊はそう笑うものだと知っていたから。
「海賊は自由なんだろ? おれを連れてってくれよ! 海賊!」
しかし。彼らは知らなかった。ここが怪物の腹の中だということを。ガス灯が揺れる。ガス灯といっても、ガスガスの実に由来するものではない。天然ガス、つまり『油田』の産物。
黄金船グラン・テゾーロの全てをギルド・テゾーロが把握していたように、ギトギトの能力を持つ彼女もまた、油から生み出された文明全てを睥睨する。
そう。少年たちの背後に歩み寄る影がある。
「人聞の悪いこと言わないでよ。私はきみたちのことを思ってやってるんだよ?」
白衣の女は、床をカンカンと鳴らしながら歩いてくる。
「綺麗な服に美味しいご飯。あったかい布団だってある。労働だって一日8時間に留めてるし、教育だって最高峰だ。海賊に襲われたこともなければ、犯罪だって"許した"ことはない。世界には明日のご飯に困る人たちもたくさんいるというのに。ここまで恵まれて、何が不服だい?」
この国の支配者に見つめられた少年は震えが止まらなかった。権力だって力だって、自分では絶対に敵わない相手。だけど、その望みだけは!
「自由に……生きたいよ!」
「それは出来ない相談だ」
女科学者マキナの足元から、黒い液体が流れる。黒い液体は、ガラスのような透明な一本の触手となり、少年を掴み、持ち上げる。
「君達は、"馬鹿"なんだ。知性がないから分かち合えない。知性がないから他者を虐げる」
それは、一面では事実ではあった。海賊王ゴールド・ロジャーが拓いた大海賊時代は、海賊の、"ならず者"の時代だった。自由を求めて海に出た愚か者たちが他者を虐げるなら、
「だから、知性ある私がすべてを管理する。君たちは安心して変わらぬ
マキナが踵を返すと、ぬらりとした透き通る触手が、少年を連れて去ろうとする。おそらくは、これまで以上に厳しい監視の元に。
だけど。そんな『
「その子を! 離せ!
チョッパーが、丸みを帯びた人型に変形する。放つは掌底。
蹄の跡が、まるで桜の花びらのように透明な腕に刻まれる。かつての師にして親代わり、Dr.ヒルルクの桜の研究を冠する、チョッパーの代名詞とも言える必殺技だ。
だが。
「硬ェ! なんでできてるんだコレ!」
透明の腕には、多少の焦げ跡がついただけだ。少年を離すことはない。それどころか、仰反ることすらしない。
「物体生成系の能力は、能力者の練度によっていくらでも強度を上げられる。飴や蝋のような柔らかいものでもね」
超人系や自然系には、物体を産生する能力がある。たとえば蝋を生み出すドルドルの実。飴を生み出すペロペロの実。黄金を生み出すゴルゴルの実。そうして生み出された物体は、蝋や飴や黄金のように柔らかくはない。覇気によって硬化せずとも、能力者の練度に応じて鋼鉄以上の強度を持つ。
「──ってことは、コイツはお前の……うわっ!」
少年を掴んだまま、透明な腕が振り回され、チョッパーは吹き飛ばされる。
そして、二本目。背後から迫る触手がチョッパーを絡め取る。
「
それは、この時代に不釣り合いな素材。石油から作られる"万能素材"。ギトギトの実の覚醒によって変質した
「知ってるよ! 点滴袋とかに使う
とはいえ、大海賊時代でも、最近では使われるようになってきた素材であった。とくに医学などの先端分野では。白ひげ海賊団などでは未だガラス瓶の点滴が使われているが、チョッパーがルフィにジンベエの血を輸血した時のように。
あるいは、歌姫ウタのライブのサイリウムのような、芸術分野でも。パシフィスタの素材のような兵器分野でも言わずもがなだ。ビニール袋やビニールシートなどの簡便な構造のものは一般にも普及している。
「──ってことは……」
この新素材について、一味ではチョッパーとフランキーしか詳しく知らないだろう。その点では、ここに居合わせたのがチョッパーであったことは幸運であった。
「
「ゴムゴムの──」
ルフィには何が起きているのかわからぬ。プラスチックの性質も知らない。ヒーローでもない。だが、友を信じる心と、なにより自由を愛する心だけは人一倍にあった!!
「
透き通る触手が茶色く染まり、焦げ、溶けて穴が開く。2本の触手は、少年とチョッパーを支える力を保てなくなり、取り落とす。
「なんだか知らねェけど、おれの仲間に手ェ出すんなら許さねェぞ」
「それも聞けない相談だ!」
少年:劇場版ゲストキャラ。
CVはゲスト俳優がやるので棒読みに近い。
ヨルエカとクラゲ海賊団を足したような枠の奴。
少年の名前は多分作中では明かされず、エンドロールと付録のN巻でだけ分かるようになっている。
「ONE PIECEの劇場版って東映の都合でこういうのいるよなぁ」枠の「少年キャラ」と「ゲスト声優」を一気に消化するための奴。