劇場版 ONEPIECE FILM 『MAD』   作:はむらび

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「ルナーリア族ベースのパシフィスタ」の発想が公式と被ってゲロ吐いてる


"怪物の腹の中"

 

「まず、メシはうまかった」

 

「お粗末様」

 

「でも、チョッパーを傷つけたのは許さねェ」

 

「最初に手を出してきたのはそっちだろ? いや、蹄か」

 

「いや! それはお前がこの子をこんなにしたからだろ! どうやったら、ううん、どこまでやったらこうなるんだ!?!?」

 

「いやあ、私は何も、みんなを傷つけたくてこういうことをしてるんじゃないんだ」

 

「だったらなんで!」

 

 

「人間ってのは、放っておくと差別をする生き物だ。悲劇を生む生き物だ。非効率で、()()()()()()()()()()からみんなで飢えて、みんなで苦しむんだ」

 

 実際のところ、この世界には悲劇が多すぎる。飢饉や災害だけではない。大海賊時代が齎した数多くの悲劇と、世界政府が齎した数多くの悲劇。

 

「君たちも、()()()()()()()()()()()()()()()()()だろ? 虐げられ、追い出された。あるいは、馬鹿で素行が悪くて居場所を失った。そういう奴らだろ? 海賊って」

 

 それは、否定しづらい事実ではあった。海賊に村を人質に取られ海賊の仲間となったナミ。政府に追われ犯罪者に身を落としたロビン。一味以外ならもっと多い。

 

 海賊が夢を見る? そんなのは夢物語。実際は嫌われ者と虐げられた者の終着駅でしかないというのが、大海賊時代の海賊の大半だ。

 

 だが、夢を見て、自由を求めて! 海賊に憧れたルフィに対して言うのは、余りにも的外れだった! 

 

「だけど、この島なら! 誰も飢えない!誰も虐げられない!誰も()()()()()()ならなくていい!! そんな『平和(ユートピア)』を、私は世界中に届けたいんだ!!」

 

 それは耳障りのいい言葉だ。夢のような話だ。

 

 それでも、支配者の言葉だ。圧制者の言葉だ。自由を抑圧する、『()()()()()()()()()()()』だ。

 

 

()()()()()()()。この楽園(くに)から私と一緒に世界を『支配』して、幸せな新時代を作ろうよ!!」

 

 ひとつは、信頼する幼馴染と同じ言葉を軽率に使ったこと。ふたつめは、自由を唾棄し、『支配』のために勧誘したこと。

 

 それは、かつて世界支配のためゴール・D・ロジャーを誘った金獅子のシキの再演。

 

 

 

「やだ」

 

 

 凄まじく嫌そうな顔と共に、致命的に決裂するところまで含めて。

 

 

「歌姫ウタの友達なら、『新時代』でも目指してると思ったんだけどね。世界平和、不服だったかい?」

 

 大海賊時代を終わらせる。虐げられない時代を作る。その一点において、マキナはウタの理想に共感していた。違いは、その過程で致命的なものを取りこぼすところを自覚しているかいないか。それだけだ。

 

「革命家ドラゴンの子。エニエスロビー堕とし。そんな君のことに、すこし期待してたんだけどね」

 

「おまえがおれやウタの理想を語るな。それは()()()()理想だろ」

 

 新時代という言葉を使う人間は少なくない。大海賊時代のその先を目指すものたち。ドフラミンゴ。ウタ。ルフィ。そしてマキナ。だが、その意味するところは大きくかけ離れる。「大海賊時代を終わらせる」という一点以外、何一つ共通点を持たない。

 

「でも、手を取り合えるかもと思ったのは本当だ」

 

 麦わらのルフィは、実情を見れば自由を愛する青年だ。だが、「パブリックイメージ」はそうではない。行く先々で国家を転覆させ、世界政府の三大機関すべてに喧嘩を売ったその経歴から、“最悪の世代の中でも最悪の狂犬”“世界政府嫌いの海賊”とみられている。

 

 であるならば、ある種極端な「世界平和」を実現し、その平和を世界中に広げるために現体制を打倒し世界を征服しようとするマキナたちと強調する路線も“客観的に”あり得た。

 

 単独で世界政府に喧嘩を売れる文明が四皇と手を組んだ場合、王下七武海を撤廃し、クロスギルドという天敵が発生し、未だ“新兵器”の数も足りない世界政府としてはかなり対処に困ることになっていただろう。それこそ、あっさりと転覆してしまうことすらあり得るほどには。

 

「そして、手を取り合えない時のことも想定していた。その場合は、君を捕獲する。実験動物として搾取する。四皇の首を獲ったと宣伝し、世界政府に宣戦布告する。私の新時代を作るためにね」

 

 そして、次善の策。四皇を味方に引き入れられないのなら、四皇の首を旗頭に戦力を集める。

 

 白ひげ、カイドウ、ビッグ・マム。ルフィやバギーはそこまででないとはいえ、四皇とは単騎で世界を揺るがす最強の怪物だ。

 

 それを「倒した」というのは、これ以上ない戦力誇示でありプロパガンダだ。それだけの「力」があれば、反世界政府の戦力を集めることは容易い。

 

 モルガンズとのコネもある。明日の世経新聞には大々的にソルベルデの強さが特集されるだろう。あの新聞屋はそういった記事が好きだ。戦争の記事は飛ぶように売れるから。

 

 

「当然、君の仲間もだ。ジャッジくんの血統因子理論の失敗作。(ベガパンク)の技術を継いだサイボーグ。7つの変形点を持つ動物系能力者。歴史の本文(ポーネグリフ)の解読法を知る女。そして、君。悪魔の実の本質に迫る覚醒者だ。捕らえて、解剖(バラ)して、新時代の礎にさせてもらうよ!」

 

 そしてただ倒すだけではない。実験材料。被検体。“麦わらの一味”を礎としてさらに科学を発展させようというのだ、この女は! 

 

 楽しみだなあ、と笑う。露悪的な笑みですらない。ただ単純に科学の発展を寿ぎ、「科学の発展のために死ねるなら本望だろ?」とでも言わんとする無垢な笑み。

 

 

「おれの! 仲間に! 手を出すな!」

 

 だが、それが麦わらのルフィの逆鱗に触れた! 

 

 己が罵倒されるのは良い。己が傷つけられるのも、笑って許す。だが、仲間が傷つけられることには人一倍敏感なのが麦わらのルフィだった。

 

 

「退いてろ、チョッパー」

 

「わかった。この子は任せろ」

 

「ギア! 2(セカンド)!」

 

 それは、ゴムの弾力を活かし、ポンプのように血流を加速させる技。麦わらのルフィは常人の目では追えない高機動戦闘を可能とする。

 

「ゴムゴムの──(レッd)

 

 ドカン! 

 

「うわッ!」

 

 摩擦と覇気によって拳を発火させるゴムゴムの火拳銃(レッドホーク)。油田人間たるマキナの天敵たる技。()()()()

 

「油は火に弱い。なら当然、対策してあるに決まってるだろ」

 

 拳が発火した瞬間、爆発して後方に吹き飛んだ。ガス溜まりに引火したのだ。マキナの肉体は「石油」ではなく「油田」。ヌマヌマの実が泥人間でないように、ヒエヒエの実が氷人間でないように、「油田」という大自然の現象そのものに肉体を変化させる自然系(ロギア)だ。つまり、()()()()()()()だ。

 

 七武海であるクロコダイルが「水」への対抗手段を持つように、分かり切った弱点を持つ自然系能力者は、当然その弱点を熟知し、対策を講じるものだ。

 

 だが、かつてルフィがクロコダイルと戦った時とは違う。武装色の覇気を身に着けたルフィにとって、対自然系(ロギア)は「弱点を突かないと勝てない」というものではなくなっている。

 

 爆発の煙の中から、黒い拳が迫る。その圧倒的な拳速のもたらす風圧がガスと煙を搔き消す。

 

「ゴムゴムの──鷹銃乱打(ホークガトリング)!!」

 

 覇気を纏った黒い拳の乱打。自然系の能力者を相手取るに不足のない、速度と数、威力を兼ね備えた攻撃だ。

 

 だが、ルフィの拳はマキナをすり抜ける。

 

「覇気か!?」

 

 武装色の覇気を纏ったルフィの拳は自然系(ロギア)の能力者にも有効打を与えられる。

 

 しかし、見聞色の覇気による未来予知と流体の身体を生かした効率的回避を持ってすればそれすら無力になる。

 

「いや、()()よ」

 

 それですらない。効率的回避をするために、必ずしも見聞色の覇気を要さないのであれば。

 

「覚えておくといい。科学者は覇気(精神論)に頼らないものだ。こんなのはただ、あり余る頭脳で未来予測しているだけだ。珍しくもなんともない、ただの技術だよ」

 

 マキナは()()()()()()()()()()。覇気無しで四皇と渡り合える人間など、彼女の他には一人だっていやしないだろう。

 

 すり抜ける、すり抜ける。ルフィの拳が当たる先はドロリとした石油の孔に変わる。何度打っても有効打にならない。

 

「それなら! ゴムゴムの──象銃(エレファントガン)!!!」

 

 大きな拳。孔を開けて回避されるなら、回避しようのないサイズによって攻撃する。シンプルかつ明晰な状況判断だ。

 

「甘い」

 

 マキナが白衣を翻す。白衣に拳が当たる瞬間、黄色い光でできたバリアが展開される。

 

「当たれば済むと思った? "科学"を舐めすぎだ」

 

 これはジェルマ66のレイドスーツにも搭載される技術だ。飛び六胞の攻撃にも無傷で耐えるそれを軋ませるのは流石は麦わらのルフィといったところか。だが、足りない。

 

 そして、ルフィの拳が弾かれた先に、既に攻撃は置かれている。

 

 壁の時計から、銃弾以上の速度で鳩が飛び出す。窓側からはアクリルが融け、散弾として迫る。

 

「あっぶね! ──うわっ!!」

 

 そして、一歩引いた先の地面がいきなり飛び出し、ルフィを天井と挟み込もうとする。麦わらのルフィは跳ねるようにこれを回避。

 

 さらに、迫り上がったタイルの下、ジャッキのような部分の中からは多数の歯車が手裏剣のようにルフィに迫る。見聞色の覇気を用いて回避する。

 

 そしてその先には既に拳撃が置かれている。アクリルの窓を貫通し飛び込んできたそれは、()()一つが変形してミサイルとして射出されたものだ。象銃すら遥かに凌駕するサイズの鉄拳によって、ルフィは壁に叩きつけられる。

 

「やめたほうがいい。()()()()()誰も私に勝てない」

 

 島の主だから、という意味ではない。もっと直接的だ。

 

「この島の機構の全てが私の能力で動いてるんだ。手足のように動かせて当然だろ?」

 

 この島の機構は、すべてギトギトの実に由来する油で動いている。それはマキナの肉体の一部であるが故に、マキナの意のままに動く。それが、この島の全てを掌握できる理屈であり、この島では誰も彼女に勝てない理由だった。

 

 

「でも効かねェ! ゴムだから!」

 

「打撃は無効か。じゃあ拘束だ」

 

 巨拳の中から、瓦礫をぱらぱらと落としながら立ち上がる影がある。麦わらのルフィだ。

 マキナは覇気を持たないが故に、ゴムの肉体に打撃を通せない。だが、それを覆すだけの「攻撃手段」と「手数」がある。

 

「『産業革命(オイルショック)──"アスファルト"』!!」

 

 壁が。アクリルが。地面が。天井が。飛び込んできたビルに至るまでがどろりと黒く融ける。元々石油でできていた、というだけではない。カタクリやドフラミンゴが()()したように、覚醒によって伝播した影響力で「石油化」していく。自然系(ロギア)でありながらの、超人系(パラミシア)の覚醒の模倣。悪魔の実の原理を熟知したマキナだけができる芸当だ。

 

 鋼鉄以上の強度を持つアスファルトがうねり、棘として四方八方からルフィに迫る。それはまるで怪物の口の中。建物自体が牙を剥く。

 

 避けきれない。当たり前だ。避けるための"場所"そのものが武器へと変わっているのだから。

 

 

「なら、『ギア4(フォース)"筋肉風船"』」

 ギア4は筋肉風船。筋肉に空気を吹き込み、火力と張力を底上げする技だ。莫大な武装色を纏うことで、四皇クラスにも有効打を叩き込める強大な形態。

 この形態の速度と筋力があれば、四方八方から迫る超強度の棘を振り払い、脱出できる。

 

 だが。

 

「カハッ」

 

「駄目だよ、()()()()()()()()()()

 

 空気を吹き込むその性質上、ギア3とギア4は「大きく息を吸い込む」。

 

 

「『産業革命(オイルショック) "メタン"』。充満する"天然ガス"に毒性はないけど、酸欠にはなるからね」

 

 それは、ガス使いにとっては致命的な隙。

 

 

 ギア4の拳を十全に振るえれば、ギトギトの実により生み出された、鋼鉄以上の強度を持つアスファルトも打ち砕けたかもしれない。

 

 だが、そうはならなかった。

 

 アスファルトの棘はルフィに刺さらない。否、そもそもが刺突ではない。「圧搾」。巻き込み、絞り、圧力で気絶させることが目的の拘束攻撃。棘がルフィを巻き込み一本の岩の柱になる。ギア4も発動しきれずに効果が切れる。詰みだ。手足を封じられたこの段階から逃げ出す手段はない。

 

 初手からギア4を発動していれば、あるいはいい勝負になったかもしれない。だが、ルフィの見聞色はこの女にそれほどまでの脅威を見出せなかった。

 

 覇気使いは、相手の発する覇気からある程度相手の力量を読み取ることができる。だから、基礎戦闘力の研鑽を欠かさぬ新世界の相手ならば、大きく力量……世界政府の言い方で「道力」の読みを外すことはない。

 

 この女の基礎身体能力もけして低くはないが、能力抜きでは4000〜5000万B相当、どう見ても()()()()の水準だ。

 

 だが。戦闘能力は覇気や身体能力だけで決まるものではない。カイドウは「能力が世界を制することはない、覇気だけが全てを凌駕する」と主張したが、マキナはその反例だ。

 

 この女は、「覚醒した自然系の能力」「島ひとつを支配する究極の地の利」「世界最高水準の頭脳と科学力」を兼ね備えている。いくら身体能力が低くとも、ここまで鍛え上げた能力があれば戦闘力は別だ。

 

 

「捕獲完了」

 

 かつて四皇……ビッグマムやカイドウを相手した時のような覚悟無くして、この島でこの女に逆らったことが間違いだった。

 

 出し惜しみ。相手の実力の見誤り。シンプルでありながら、ルフィには珍しいタイプの敗因だった。

 

「ルフィ!!」

 

「逃げろ!! チョッパー!!」

 

 ルフィは息も絶え絶えだ。ギア4の発動で大量のガスを吸い込み、常人では命に関わる酸欠下で声を張り上げられるのは、かつて空島で低酸素下の環境を経験したが故か。

 

 少年を護りながら一歩引いていたチョッパーは、踵を返し逃げ出す。船長を見捨てたのではない。船長の言うことを信じているから、そして、あとで必ず助け出すという信念あっての逃走だ。

 

「まだ余力があったか」

 

 マキナは白い手袋を脱ぐ。その手には黄金のラインが入っていた。なんらかの改造手術の影響だ。彼女もまた、かつての同僚であったクイーン同様に自身の技術で自己改造した改造人間(サイボーグ)! 

 

 キュイイインという音と共に指先に光が集まる。パシフィスタ同様のレーザー機構。「ピカピカの実の作用機序の再現」だ。

 

 その光がルフィの胸を貫く。そして、大爆発。充満したメタンガスへの引火。肺の中のガスまでもが起爆し、ルフィはやっと気を失った。

 

 だが、煙が晴れた先にはもう少年もチョッパーもいない。逃げられた。

 

 マキナは追わない。

 

 目の前の青年と比べて、ただの脱走市民と珍獣は重要度が低いこともあるし、なによりも、気絶しているとはいえ"四皇"から目を離しておけるほどの慢心もなかった。

 

「一杯食わされた、かな」

 

 マキナはルフィをアスファルトから解放し、胴体を透明のプラスチックで巻き取る。拘束し、目覚めても抵抗できない状態にする。そして、自分よりも少し背の低いその青年をひょいと持ち上げ担ぐと、回廊を歩き出す。向かうは大広間。残りの麦わらの一味の元。

 

「でも、まあ、あっちも()()()()()()()頃だろう」

 

 そう。その()()は初めから決まっていたのだ。この摩天楼に招かれた時点で既に。そこは怪物の腹の中だったのだから。

 

 




 オリ主チート?いいえ、劇場版特有の負けイベントです。

 初手からギア4ならまともな戦闘になったと思う(ルフィ優勢?)んですけど、覇気すら未修得の相手に初手ギア4の選択は取りづらかったですね……

 マキナは一定以上の火力と速度がないと「未来演算込みの自然系の回避」と「科学防御」でそもそもダメージが通らないクソゲー仕様となっております。しかも密室だと疑似無空世界(カラクニ)まで撃ってくるので……
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