劇場版 ONEPIECE FILM 『MAD』   作:はむらび

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先週初めて日刊ランキングに載りました!ありがとうございます!!


“ニューマリンフォードの件”

 新世界、ニューマリンフォード、海軍本部。

 

 

 その上空から降り注ぐ、光がある。飛翔体だ。明らかにこちらに向かってきている。

 

 天災か、兵器か。ベガパンクが敵に回ったのか、あるいは革命軍が古代兵器でも復活させたのか。あるいは、天罰か。

 

 マリンフォードは一時恐慌状態に陥った。

 

 だが、それも一瞬の話だ。

 

「臆すなァ! それでも貴様ら海兵か!!」

 

 かつての大将赤犬、サカズキ元帥の一喝だ。苛烈で知られたのし上がった彼の喝は、ざわめく海軍本部全体に染み渡るように響き、黙らせるだけの力を持っていた。

 

「『アレ』はわしが撃ち落とす! 貴様らは“アレを撃ってきた輩”への対処を準備せえ!!」

 

 海兵たるもの、世界の危機に慌ててはならない。世界の平和と秩序のために、死んでも戦わねばならぬ。その危機を撃滅する。海兵が何人死のうが、民間人が何人死のうが変わりはない。それがサカズキの掲げる「徹底的な正義」だ。

 

 

 だが、この時点でどうしてサカズキはこれを「誰かの撃った兵器」だと断じたのか? 天災ではなく?? 

 

 サカズキは、その飛翔体が「人の意志の籠った兵器」であることを察知していた。極まった見聞色のなせる業だ。見聞色の覇気とは感情を読み取る力。天災には効果がなくとも、人の意志で撃たれた兵器であれば、挙動を読むことができる。

 

 ……そして、「未来視」にまで達したその熟練の覇気は、その兵器がニューマリンフォードに直撃した際どうなるかさえ読み取る。

 

(爆弾か。わしが撃ち落とそうとした瞬間“マグマの熱で発火する”……そして、“空中で起爆しただけでも海軍本部を滅ぼせる”ちゅう魂胆か。甘いわ! わしを舐めちょるんか!!! ()()()!!!)

 

 そして、意志を読み取る力は、その兵器の術者すら読み取る。そしてその想定を超える。

 

 極まった自然系の能力と、極まった覇気を持つサカズキの拳には、それができる。

 

 

「大噴火!!!!!!」

 

 

 マグマの拳が飛んでいき、天より降り注ぐミサイル群をひとつ残らず『蒸発させる』。爆薬が起爆するよりも早く。

 

 覇気により硬化し、圧倒的な拳速によって本来のマグマをすら遥かに超えて赤熱した巨拳。

 

 海軍元帥、サカズキの極まった覇気とマグマグの実の能力が成せる技だ。

 

 だが。

 

 光る。衝撃が、風が。ニューマリンフォードの市街地を、海兵の生活を薙ぎ払う。それはかつて、頂上戦争での白ひげの一撃にすら匹敵するだろう。

 

 大噴火で大半が一瞬で蒸発して尚、微かに残った爆薬の火力でさえ「これ」だ。

 

 それが、一発一発が島を消し飛ばす火力と、星を覆う射程を持つ「未来兵器」ウルカヌスの権能。

 

 それほどの兵器を拳で防いだサカズキはもはや、海軍の英雄と言ってもよい。

 

 ──だが、それで終わりではない。これを撃ってきた「世界の敵」がいるのなら。そして、それに対応するために海兵たちが動き出したなら。英雄は英雄で終われない。ここからは、管理職の時間だ。

 

「元帥に通達!! 発射地点は新世界、ニジイロ海域! 世界政府非加盟国ソルベルデ!」

 

「元帥に通達!! ソルベルデより世界政府に『宣戦布告』の連絡が届きました!!」

 

「元帥に通達!! マリージョアにも攻撃が放たれたようです! 滞在していた大将"藤虎"が防御に当たり、天竜人に被害はない模様!!」

 

 それは一つ一つが前代未聞の報告。天に唾吐く所業。

 

 その無謀を、「計算して」行っている。間違いなく勝算を確信した上で。

 

「あの女ァァァァ!! ()()()殺しちょくべきじゃったか!!!!」

 

 それはかつての事件の話。あの時にもっと苛烈に、マキナを処分しておくべきだったのか。それとも、()()()()()()()()()()()()からマキナが世界政府に敵対したのか。

 

「繁栄国ソルベルデ『総統』マキナを18億6000万Bで初頭手配せい!! 世界政府への攻撃は世界秩序への攻撃!! これ以上ない大罪じゃ!!」

 

 

 

 

 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

「なんてことをしたの!?!? 貴女!?!?」

 

 ロビンだけではない。フランキーも、サンジも冷や汗を流している。首を傾げるのはルフィだけだ。世界政府への攻撃は大罪である。マリージョアへの攻撃はそれ以上に。

 

「あれ? それ君たちが言う? エニエスロビーを堕とし、インペルダウンを脱獄し、マリンフォードを荒らした麦わらのルフィの一味が??」

 

「バスターコールが発令されてもおかしくないわよ!?!?」

 

「そのへんの対処は今からやるさ」

 

 マキナは電伝虫をコールする。プルルル。プルルル。

 

 電伝虫の顔が変化し、頭から「3」を模した触覚が生える。

 

 これは電伝虫の持つ擬態機能だ。通話先の人相──ここではクロスギルド幹部ギャルディーノの──を表している。

 

「こちらクロスギルド本部だガネ」

 

「こちらソルベルデ総統、マキナ。トップに代わってくれるかな?」

 

 ドタドタと足音が響く。数十秒もすると、電伝虫の頭から「3」の触覚が消え、代わりに赤く丸く大きな鼻が浮かび上がる。

 

「ギャハハハハ!! こちら"四皇"のバギー様になにか用か???」

 

「四皇ってのは"出資者様"より偉いのか?」

 

「あい、すいません……」

 

 千両道化のバギーとサー・クロコダイル、鷹の目のミホークが組んだことで誕生した「クロスギルド」は、海兵に懸賞金を掛ける前代未聞の施策で成り上がった海賊団にして犯罪組織だ。

 

 その性質上、多額のカネをばら撒く必要があり、資金源として多くの「闇の組織」「裏社会」から出資を受けている。

 

 そして、繁栄国ソルベルデもその主要な一つだ。金銭的にもそうだが、『プラスチック』によって作られた、玩具のようなチープな見た目でありながら、能力により元手0で生産でき、性能も現行の最新銃すら上回る銃などの兵器群を供給することで、クロスギルドにはなくてはならない「お得意様」となっていた。

 

 ……もっとも。それも善意ではない。世界政府と敵対する、この時のための布石。

 

「ちょっと兵力が要るんだ。貸してくれ」

 

「"誰"をだ?」

 

「"鷹の目"」

 

「!?!?!?」

 

 "鷹の目"ジュラキュール・ミホーク。懸賞金35億9000万B。世界最強の剣豪。クロスギルド大幹部であり、四皇をも上回る戦闘力の持ち主。

 

「オイオイオイ、冗談だろ!?!?!?」

 

「冗談じゃないさ。世界政府に攻撃したからね。反撃でウチにバスターコールが撃たれそうなんだ。かつて海兵狩りで知られた鷹の目のミホークにとっちゃ中将斬り放題バーゲンセールなんだろうが……」

 

 クロスギルドが「バギーズデリバリー」の事業を引き継いだことで、鷹の目ほどの戦力が「海賊傭兵」として、カネで雇える存在となった。……もっとも、彼を雇うだけの莫大なカネと彼の気が乗る戦場を用意できれば、の話だが。

 

 そして、バスターコールとは、彼の血が騒ぐほどの戦場だ。

 

「かの"海兵狩り"もそうだけど、海兵を狩って懸賞金を貰いたい奴等を全員連れてきてくれ。良い狩り場だろ? 別に「四皇」たる君自身が出張ってきてもいいけど……ああ、それと懸賞金はこっち持ちでいいよ」

 

「はアアアアア???? 世界政府に攻撃ィィ!?!? なんで先に言わなかったァ!?!?」

 

「ウチが瓦解したらクロスギルドも傾くだろ? これで断れない。私とお前は一蓮托生だ。兵力、出すしか無くなったね?」

 

「はアアアアアアアアアア!?!?!?」

 

 ガチャリ。

 

「よし。これでバスターコール対策は万全だ」

 

「待て」

 

「バギーって本当に四皇になってたのか!?!? 弱ェのに!?!?」

 

「そこじゃねェ。あまりにも雑な会話だったが……来るのか? "鷹の目"が!?!?」

 

「まあ、半々だね。バスターコールが来なきゃ来ないし、バスターコールが撃たれても、"鷹の目"の興味がわかない程度の中将だと来ないかもだ。ガープ中将は半ば引退してるとはいえ、おつるさんでも入ってれば来ると思うよ」

 

 冷や汗を流すサンジ。かの鷹の目のミホークまで動員するなど、彼の故郷である戦争国家ジェルマ66と比べても常軌を逸している。これが、世界に戦争を挑む者の在り方か。

 

「当然、これで終わりじゃない」

 

 マキナの白衣の裾からこぼれ落ちた石油の雫から、白くのっぺりしたプラスチックのヒトガタが生み出される。

 

 かつてルフィが戦った、ビッグ・マム海賊団将星シャーロット・クラッカーがビスビスの実の能力で生み出したビスケット兵に近い。

 

 極まった物質生成系の能力者は、生み出した物体をサイコキネシスのように操り自立行動させられる。

 

 さらにマキナの場合は「稼働機構」と「燃料」も生み出せる。通常の物体生成能力者よりもより精緻に、より高出力に、より大量に生成できるのはこれ故。物理的可動機構を作ることができる分、操る際の負担が軽いのだ。

 

 そして。このヒトガタは今作られたものだけではない。プラスチックは腐らない以上、何年も、何十年もかけて作り続けることができるはずで……

 

 映像電伝虫は、未だマリンフォードの状況を映している。

 

 本来であれば島ひとつを焦土に変えられる「ウルカヌス」だったが、多少建造物が崩れ落ちた程度で済んでいる。元帥サカズキが撃ち落としたのだ。

 

 海の向こうから、もうもうと黒い雲を引き連れて、白い船団がやってくる。船団の上には、白いヒトガタたちによる絡繰の兵隊。ギトギトの能力によって何十年も作り続けられた、無数の兵団だ。その量は、マリンフォードの軍艦とそこに乗る海兵よりも多い。

 

 白い船は、ぽん、という気の抜けた音を出しながら砲弾を放つ。着弾した軍艦が爆発し、あっさりとへし折れて半分ほど海に沈む。

 

 数だけではない。海戦において最も大事なのは「砲撃の射程」だ。射程で劣る戦艦は、近づく前に一方的に落とされるのみ。

 

 予算と技術の関係上、ほとんどの海軍船はSSG製の大砲を積んでいない。大航海時代の職人の手作業品だ。この時代においてはそれでも上等なものだが、弾道ミサイルすら開発する「天才」を相手にするのはやや不足だった。

 

「砲撃戦では勝てん! 月歩を使えるものは続け! 直接叩く!」

 

 半身を犬に変えたダルメシアン中将が、白い船の甲板に乗り込む。空気を蹴って多段ジャンプし飛行する政府の体術、月歩によって飛んできたのだ。覇気と六式、そして動物系悪魔の実を極めたダルメシアン中将は、迫撃において最強クラスの中将である。絡繰兵がまるで飴細工のように折れ、割れ、弾け飛んでいく。

 

 ……だが、飛べるのは彼らだけではない。白い甲板から機械仕掛けの鳥が飛翔する。ワシントンの正式採用型だろう。

 

 月歩で飛んできた海兵を妨害し、はたまた上空から射撃を行う。

 

 とはいえ、飛びあがった機械の鳥は、ワシントンほどに強くはない。量産型とはそういうものだ。積む兵器も限られていれば、予算の都合で装甲も脆い。

 

「直角飛鳥 “ボーン大鳥(オードリー)”!!」

 

 攻撃のために海軍艦に近づいた機械鳥は、直角に曲がる「飛ぶ斬撃」によって数機まとめて両断される。海軍本部少将、“船斬り”Tボーンの仕業だ。

 

 奥では、月歩によって空気を蹴って飛んできた海兵に、身の丈以上に肥大化した巨拳で叩き落とされ、海面に激突して木っ端みじんになった機体がある。オールハント・グラント大佐の悪魔の実の能力だ。

 

 とはいえ、それだけでは済まない。プラスチックの軽い身体を活かして甲板に飛び乗ってきた兵士たちがいる。機械の鳥は多くの絡繰兵を持ちあげ、投げ込んでくる。「空母」も「空挺投下」も、本来この時代にはない戦術だ。天才だからこそ、数百年先の戦術を発想できた。

 

 機械兵団が、海軍の軍艦の上に乗り上げる。そこからは乱闘が始まる。

 

「硬ェ!」

 

「少佐以下では相手にならん!」

 

 絡繰兵の動きは単調だ。だが、いかんせん硬く、痛みに怯まない。そして多い。

 

「はあっ!」

 

 圧倒的な速度の乱れ突きがプラスチック兵を貫く。“釘打ち”イスカの仕業だ。数年前、少尉だった頃の彼女であれば、この装甲は貫けなかったであろう。だが今は、それができる。チープな甲殻を、まるでハンマーで殴られたかのように破砕することすらも。

 

 だが、多勢に無勢。個の力では海軍本部が勝れど、銃弾を通さない頑強な兵団相手では、下級海兵が役に立たない分、戦力の数では大きく劣る。

 

 戦場は、明らかにマキナの、ソルベルデ陣営の側に傾いていた。

 

 そもそもの話。ニューマリンフォードに駐在する海兵の数が、平時と比べてもなお少ない。

 

 世界中から海兵が集められた頂上戦争の時とは当然比べ物にならない程に少ない。だが、そうでないにしろ、今は海兵が足りないのだ。

 

 七武海制度の撤廃に伴い、元七武海の拿捕のためにステンレス中将やヤマカジ中将など、多くの中将が不在となっている。レヴェリー後の世界情勢に伴い、対・革命軍にも多くの戦力が割かれている。新兵器、頼みの綱であるセラフィムも多くが出撃中であり、マリンフォードには1機も存在しない。

 

 また、クロスギルドの海兵狩りや黒ひげ海賊団の能力者狩りによって減らされた人員も少なくない。しかもクロスギルドは海兵に懸賞金をかける前代未聞の世界政府への敵対行動を行っており、対策に駆り出された海兵も少なくないのだ。

 

 大将に至っては全員不在だ。「緑牛」はワノ国で百獣海賊団残党の撃滅と捕縛に。「藤虎」はレヴェリーの騒乱後のマリージョアの防衛網として。「黄猿」もまた、エレジアの件の後始末で赤髪海賊団とにらみ合いの状態だ。「青キジ」は……2年前に退職した。

 

 とはいえ、雑兵と兵器で押しているだけだ。広域殲滅が可能なサカズキ当人が出撃すれば、一気に局面をひっくり返せるだろう。

 

「ぬうう」

 

 だが、サカズキは動けない。次に『ウルカヌス』が撃たれたときのために、高所に陣取って力を蓄えておかねばならない。そもそも、「熱で起爆する爆弾」というマグマ人間の弱点を突かれ、「爆発する前に蒸発させる」という曲芸を強いられている以上、次を確実に撃ち落とせる保証すらないのだ。

 

 このままではじり貧だ。なにか、巻き返す手立てはないか。

 

「困っておるようじゃのう、元帥サカズキ」

 

 ニューマリンフォードの本部棟最上階に立つサカズキの後ろから歩み寄る影がある。女の影だ。

 

 ウェーブした短髪が、戦場の衝撃で揺れる。隠れていた片目が露わになり、女の顔が明らかになる。女の正体を……否。

 

「貴様ァ! どの面下げて来おった!」

 

 その女にとって、すでに「顔」など意味をなさないのかもしれない。

 

 その胸元には「PUNK 02」と刻印されていた。それだけが、彼女の。いや、彼の価値を表している。

 

 その『()』は、世界最大の頭脳を持つ『()』だ。

 

 公称の年齢とも、公称の性別とも釣り合わない。

 

 この天才(MAD)が、どのような外法を使ってこの姿を取っているのか、あるいはもとよりこれが本当の姿なのか、それ以前に、「本当にベガパンクなのか」については、サカズキは知らないし、知りたくもなかった。

 

 しかし、ただ一点。この天才が、『今しがた世界政府に宣戦布告した女』の血縁者であることが唯一重要なことだった。

 

「Dr.ベガパンク!!!!」

 

 




うおお、おれは本誌でベガパンクがまともに喋る前にベガパンクを出すぞ!次話のことは次のジャンプが出てから考える!!
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