劇場版 ONEPIECE FILM 『MAD』 作:はむらび
いつも死んでんなこいつ
「どのツラ下げて来おった! ベガパンク!!!」
その女の名を、Dr.ベガパンクという。若い女の姿をしたそれは、ここ数十年の間「世界最大の頭脳を持つ男」の名を恣にする存在だ。
「そう言われてもな、わしは『海軍科学班』のトップ。マリンフォードに居てもなんの問題もない」
「それはそうじゃ。
「そう怒るな。皺が増えるぞ。わしが作った皺取りの美容薬など提供してやろうか?」
「要らん!! そもそも、いつもエッグヘッドに篭っている貴様が何の用じゃ!!」
「無論、"観戦"じゃ。わしはこの戦争の行く末に興味がある。研究を一時的にストップする程度にはな」
それは、言外に「海軍にも妹にも与しない」ことを意図した発言であった。身内に絆されないだけマシではあるが、海軍に雇われた身としてはあまりにも不遜な職務放棄でもあった。
「まア、手は貸さんが口は出してやる」
「手は動かさず口だけ出すとは、良いご身分じゃのう」
「何を言うか。
成程、頭脳労働者にとって、「手は動かさず口は出す」のは、ただの傲慢ではない。その発言そのものが仕事となる。
妹を倒すために戦力は貸さずとも、知性そのものは貸し与えると言う、雇い主への最大限の譲歩が見える行動だ。
「じゃあ聞いちゃるが、奴の兵団は"何"じゃ? どういう科学技術で、弱点は何じゃ?」
「いやあ、そもそもアレは科学技術ですらない。中身には補助的に機構が作られてはいるじゃろうが……」
「?」
「海軍には『メタメタの実』の能力者がおったよな」
「グレイドル中将のことか」
「ああ。そいつじゃそいつ。そいつの能力なら似たようなことができたはずじゃ」
「なるほどのォ……『能力で作った人形を独立して動かす』のが本質ちゅうことか。この距離で、この数をか」
海軍には、グレイドルという中将がいる。自然系、メタメタの実の液体金属人間であり、液体金属で作った人形に覇気を纏わせて多対多の戦闘を行うことに特化していた。
そうした戦闘手法を知るサカズキは、マキナのギトギトによって齎された兵団を見ても、「練度と出力は兎も角」理論上自然系で可能な範疇の戦闘方法として判断した。
「いや、大凡『自動操縦』で『作り置き』じゃアないか? あらかじめ動きをプログラミングしてあるから単調で、あらかじめ数を揃えてあるから補充もそうすぐには効かん。硬くて力も強いが、佐官クラスなら苦戦することもないじゃろ」
「ふむ」
世界最大にして最高の頭脳を持つ天才科学者は、科学者としての領分に留まらない。門外漢でありながら、戦術立案などでも並ぶ者はいないだろう。これが、海軍科学班SSGのトップであり、現在の海軍にとっての最重要人物、Dr.ベガパンクの秘める価値の一端。
「じゃが、世間で起きる数々の凶悪事件に、今は海軍も人材不足! ニューマリンフォードにおる佐官以上も数が知れちょる。迂闊に呼び戻すこともできん!」
「まあ、そうじゃろうな」
「わかっちょるならエッグヘッドのセラフィムを出撃させんか! 貴様だけじゃ! この島におる「海軍側の遊んじょる戦力」は!」
「やめておいた方がいいと思うが」
「何?」
「
「貴様の昔話に興味はないわ」
「まあ聞け。それは『科学』についてもそうじゃ。「新しいものを作り上げる」ことは天才たるわしには遠く及ばんが……こと「他者の技術模倣」と「実用化」においてはわしに近い天才! セラフィムを仮に拿獲されたとして、技術を吸い上げられるまで何時間かかるか……」
「成程」
妹贔屓が入ってはいるだろうが、それは合理的な結論ではあった。
天才科学者同士の対決では、相手の手に兵器を渡してはならない。解析されてしまうから。
マキナは「能力による力技」というベガパンクには模倣不可の技術を使っているが、海軍側の技術はマキナにいくらでも漏洩しうる。
「まア、当然自爆機能も積んである。とはいえ、自爆機能ごと破壊されることも想定すべき。すこしでも危険が迫ったら
それは、海軍期待の新兵器を複数失う可能性のある危険策。王下七武海の代替として生産したものであり、王下七武海制度を撤廃してしまった以上、ここでセラフィムを大量に失うことは、ソルベルデに勝てたとしても世界政府の終焉を意味する。
「それでもやるか? やるとしてもセラフィムの翼は飾りじゃ。飛んでこさせることはできんから、ここまで持ってくるのに最速でも2日はかかる。ソルベルデ急襲なら近場じゃから半日もあれば済むが……」
「いや。貴様の言う通り危険性が高すぎる。自動兵器しかおらん『
「じゃろうな。それが正しい。もっとも、この
「ベガパンクの……中じゃと??」
「故に、「不干渉」。わしはどちらにも付かん」
ベガパンクの中、というあまりにも未知、納得不可能の概念。そこから導き出される"政府に与しない"という結論。過程も結果も、サカズキには看過できるものではない。
「それが……許されるとでも!?」
「許すも何も。わしは世界一の大天才であり、世界一役に立つ男じゃぞ。表立って世界に反旗を翻したらまだしも、
(……これは、世界政府が馬鹿にされちょるのか?)
それは、真の意味で「ベガパンクが処分されない」と言う話ではない。その知性が持つ危険性が故に、世界政府側から始末が検討されたことも一度ではない。
(じゃが、実際のところ、反論はできんな。いくらベガパンクに問題があろうとも、それが正義の役に立っているのは事実)
だから、王下七武海とDr.ベガパンクは本質的に同じなのだ。王下七武海賛成派だったサカズキも、問題があろうとも政府に貢献するDr.ベガパンクを責められない。それは大局の正義を見る思想ゆえだ。
「海軍だけではない。マキナの側が仮に勝ったとしても。わしは重用されるだろうな。だから今回の戦争、わしは「動かない」だけで利益が入ってくる」
今回の戦争で、ベガパンクの地位は動かない。身内が世界に反旗を翻そうと、その戦争でストライキをしようと。海軍が勝とうと、妹が勝とうと。地位を追われることはない。──少なくとも、このベガパンクと海軍はそう考えていた。
「それでもわしを動かしたいなら『交換条件』じゃ。わしが動いた暁には研究費と……マキナをわしに寄越せ」
「兄妹の情か……!? 貴様の身内だから「悪」を見逃せと……!?」
「そんなわけあるか!」
「でありゃあ何故じゃ!!」
「世界には技術が足らん! 資金が足らん!! 思いついた未来を現実にできない!! 奴も「その問題」に辿り着いたが故に『ギトギトの実』を食したんじゃろう。まあ、本当は『ゴロゴロ』の方を探してたようじゃがな。死ぬくらいならその能力と、わしには多少劣るがその技術力! 有効活用してやろうと言うている!!」
それは、天才たちが行きつく最大の問題。いくら数百年先の技術力があっても、金と人材が足りなければ机上の空論に等しい。能力による材料費・燃料費の低減を目指し、さらに国を興して国民に奴隷労働を強要したマキナ、四皇と言う最大クラスのパトロンを得たシーザーとクイーン、そもそも一国の王であり、しかも他国からの略奪を繰り返すジャッジのように、誰もが金と人材を追い求める。
「
「──じゃが、そのために悪を見逃せというのか!! 「正義」が、「道理」が通らん!!」
「「正義」気にして「科学者」やれるか!! ──そうじゃ!! ついでにシーザーと、あとはアイツ……貴様ら的には「クイーン」の方が通りが良いか? 奴も捕まったろう。首輪でもつけてエッグヘッドに寄越せ」
「──一応会議には上げておいちゃる」
苛烈なる大将赤犬として知られたサカズキだが、王下七武海賛成派だったように、「海賊を倒すための必要悪」についてはきちんと理解している側だ。それでも、世界の敵を殺さずに半分無罪放免にするという結論は、「徹底的な正義」が容認できないものであった。
「ほう、色の良い答えを期待しておくぞ」
ベガパンクには、少なくとも「このベガパンク」、正式型番「PUNK02 VEGAPANK「
故にこのような不正義を提案出来たのだ。
(全く。世界で最も海軍の役に立っている男が、ここまで正義と無縁な男であるとは。それならばむしろ「奴」の方が……)
そう考えると皮肉にも、今しがた海軍に反旗を翻しているマキナの方が、兄であるベガパンクよりも「海軍向き」な人材であった。
……明文化されてはいないが、海軍は慣例的に、三大将で「過激派」「中立」「穏健派」の派閥トップを分担している。組織としての中立性を保つためだ。しかし、かつて過激派大将であった「赤犬」サカズキが昇進し、「青キジ」クザンが退職したことで「過激派」と「穏健派」の椅子が空いた。
それを埋めるために行われたのが世界中から「実力者」を海軍に招聘する『世界徴兵』。マキナは、「非常に高い正義感」と「強力な自然系の能力」、「海軍のこれからを担う『科学班』の、シーザー無き跡のNo.2兼任候補」として、「赤犬」の後継最有力候補と目されていた。
それこそ、彼女が総統を務める「世界政府非加盟国ソルベルデ」の「世界政府加盟承認」と「海軍任期中の天上金免除」という、異例ともいえるリターンを提供するほどに。
それでもマキナは大将就任を断った。「自由にやりたい」「支配に加担したくない」として世界徴兵を蹴った実力者は何人も存在したため、違和感はなかった。
だが、実際は真逆。マキナは海軍に、世界政府に反旗を翻した。それも偏に、『海軍の過激派をもはるかに凌駕する過激な正義』が故。世界を支配し管理する世界政府ですら、「支配が甘い」「管理が雑」と断じる、暴走した正義感。
世界徴兵は本来強制だが、大将クラスともなると、海軍にとっても敵に回したくない存在となるが故に、マキナを含むこれらの数名は無罪放免野放しとなっていた。
だが。この時点で殺せていれば。せめて懸賞金でもかけておけば。こんな事態は防げたのではないか。そう、元帥サカズキは考えざるを得ない。いや、もっと前。あの時点で……
「何を考えてるか当ててやろうか?」
「何?」
「MADSが崩壊したあの日のこと、いや。
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「じゃあ。実験室に行こうか、
「え?」
「シュロロロロ!!馬鹿かテメェら!テメェらは実験動物!此処で楽しい楽しい戦争観戦だけやってていいわけねェだろうが!!」
しかし、ここは管制室だ。電伝虫で得た情報に基づき、マリンフォードの軍隊に指令を出す。少なくともロビンには、そういう機能の部屋に見えた。
「私たちやシーザーはともかく、貴女はここを離れていいのかしら? 戦争の真っ最中なのに、管制室を離れるなんて」
マキナは、既に管制室に背を向け歩き出している。ルフィ、サンジ、フランキー、ロビンも連れて。回廊の先にある何処かに向かう。
「ああ? うん。マリンフォードにある兵器も兵隊も石油製品。視界も触覚も「覚醒」で私の知覚対象になってるからね。ここで電伝虫を通して映像化したのは、君達に「私に従わなかったらどうなるか」を見せるためでしかない」
そもそも、マキナ、否。覚醒した物体生成タイプの能力者にとって、視覚などはほとんど意味を持たない。映像越し程度の精度なら尚更だ。そんなものに頼るより、覚醒により石油の中に延長された体性感覚の方が信用できる。
「
それに加えてベガパンクの血が齎すマルチタスク技能は、半自動化しているとはいえ、世界を滅ぼす兵と艦を片手間に動かしうる領域にまで達している。
「そしてそれ以上に、君たちを研究する価値がそれほどにあるということも理解してほしいな。悪魔の実の新たな領域、あるいは古代兵器や古代文字の鍵。ジャッジくんの研究の完成形。それがどう言う価値を持つのか、わからないかい?」
「まア、それはわかる。実際、CP9がどれだけ古代兵器を狙ってたかを目にしてるからな。でもよ、マリンフォードであんなに能力を行使しながら俺たちを研究するってのは、いくらてめェが優秀な研究者でも無茶じゃねえか? 能力者の肉体負担は知らねェが、頭脳の負担だけでも相当なもんだろ。なんならてめェ、足がふらついてるぞ。
「気づかれたか……」
それは、当たり前の話だ。マキナは改造人間であり、天才であり、自然系の能力者だが、本質的に戦闘員ではない。覇気すら身につけられない戦闘力の彼女の体力では、莫大な出力の能力を維持するだけで手一杯だ。それに加えて数万の兵団を動かしているのだから。立っていられるだけでも異常と言える。
「でも、それでも問題ない。なんせ、
「??」
「ほら、見えてきたよ」
「なんだアレは!?!?」
そこにあったのは、赤銅色の歯車の集合体。吹き抜けになった摩天楼の中央を貫くような巨大構造体。
蒸気を吐きながら、パチリパチリと回路を自動で組み換え続ける、未来の機械。
「
それは、兄であるベガパンクの「自身の思考を分割する」技術の機械的模倣。演算能力の外注。
能力によりコレと接続されたマキナもまた、世界最高でありながら「世界最大の頭脳を持つ女」となる!!
「体中に管を繋ぐからちょっと死ぬほど痛いかもしれないけど、まあ三日三晩くらいで終わると思うからさ。頑張って生きててくれよ、
うおお、エッグヘッドがあそこまでやってるならソルベルデも無限にやりたい放題やって良いはずだ!了解!!超巨大スパコン!!!!
……ONE PIECE世界、パソコンあるのかな フランキーの体内とかパシフィスタの体内に普通に入ってたりしかねないんだよな