緋衣征十郎を探し出すのは、思ったよりも簡単だった。
クリームヒルトは当然のように相手の住処を知っていたし、ある程度行動パターンも掴めていたゆえである。というより、驚くべき陣形把握のおかげというべきか。
どの道がどこに繋がり、どういう場所が人目につかないか、アクセスの良さなど、この街の情報は網羅していた。
「この街は私の庭だよ。少なくとも、セイジュウロウの行きそうな場所くらいは容易に推察できる」
淡々と告げる彼女には、それを誇る様子はなく、単純な事実を供述したまでという質感がある。そして敗走を恥じる、悔いるという様子もなかった。
「……やはり気になるかね。ラインハルト・ハイドリヒが」
「あの力は、どう見ても人間のものでは無い。しかし、敵なのだとすれば目的が見えん。そもそも、一介の軍人でしかないはずだろう」
ラインハルト・オイゲン・トリスタン・ハイドリヒ。
ここドイツで独裁を敷くナチ党政権において、『裏の支配者』とすら呼称される高官であり、冷酷な秘密警察の処刑役人。
確かに、恐ろしい人物ではある。だがそれは公権力において、であり。盧生に
まして近接の白兵戦においては最強格であるクリームヒルトが、軽く殴り飛ばされるなど異常である。
「たしかに気になる相手ではある。考察の価値はあるだろうな。とはいえ、引きずっていてはどうしようとあるまい。まずはセイジュウロウを救わねばならん」
彼女の理屈は単純明快なものだった。そして私もそれに賛同する。
確かにそれはそうである。いずれ対決はしなければならない相手ではあるが、まずは緋衣征十郎に出会い、目先の事件を解決する方が先だろう。
そうして、二人で征十郎が行きそうな場所へと歩んでいるときだった。
まずはじめに感じたのは執念。
生きる、生きる、生きる、その為ならば貴様ら等しく道具らしく俺に従い、俺の前に蹲い、俺の役に立てという強い思い。
ただ存在するだけで周囲を不安へ落とす男───。
盧生として悟りを開く前ならば、過剰に反応し、排斥なり憐憫なり、何らかのアクションを起こさずにはいられなかっただろう。
名を緋衣征十郎。
二代目の逆十字である。
「誰だおまえら。俺を救うだと? 何を見下している、屑が。俺の生かすために生まれてきた分際で頭が高いぞ」
相変わらずの傲岸不遜。世界を敵に回したとしても、この男は一切変わらずに生きるという目的の完遂のために何でもしてみせるだろう。
大上段から人を見下ろす彼の姿勢に苦笑しながら、私たちはファーストコンタクトを図ることにした。
「はじめまして。緋衣征十郎。
我々は盧生」
「おまえを救うため参上した」
「ほう、盧生を発生要因から潰しに来たか」
事情を説明しても、彼は何ら驚くことなく、興味深いとすら続けそうな調子で呟いた。想像以上に余裕がある。というよりは、敵の正体を知っていそうな口振りですらある。
いや、まさか。
「下手人に、心当たりがあるのか、セイジュウロウ」
クリームヒルトの問いに、むしろ相手の方が驚いた顔をした。
「なに……?
はあ、と物憂げにため息をつく征十郎だが、こっちはそれどころではない。
知らない単語。だが背筋の凍るような感覚はあった。
知らないが知っている。本能的な恐怖がある。
だがそんな私たちを置いて、緋衣は解説を始めた。お前たちで調べろ、と言わないだけ優しいが、まだ衝撃から抜け切っていない。
「逆十字を一切合切殺して盧生という存在を消す。そこまでの貴様らの推論は正しい。だがどうして消すのか、本当に全く思い当たらんのか? 阿頼耶識と接続できるのであろうが。……ふん、それとも、そもそも思い出したくもない記憶ゆえ貴様らにも開示されない情報なのかもしれんがな。
貴様ら盧生は本来、人類のヒーローとされるそうだ。
それは貴様らが人類にどう在って欲しいか、方向性を決定出来るから
夢を束ね、
今貴様らは、人類存続の分岐路にいるんだよ」
〜おまけ〜
クリームヒルト「つまり、セイジュウロウは私よりもその任を果たすならば自分の方が良いと判断していたのか?」
征十郎「何を思い上がっている。俺は生きたいだけだ。道具の未来など知ったことか」
クリ&ベル「ですよねー」