もしロクロウがベルベットではなく、エレノアに恩返しするとしたら多分こうなる   作:はないちもんめ

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テイルズオブベルセリアを今更ながら始めたら凄く面白かったので勢いで作成しました!


1 とある青年は対魔師と出会ったようです

深々と雨が降り頻る中、ロクロウは漠然と、ここで終わるのかと感じた。奴にやられた傷跡は大地を赤く染め上げ、今もなお止まる様子を見せていない。どうすべきか考えるが、身体が思考に追いつかない。

 

心残りがないかと言われればそんなことはない。盛大な心残りが残っている。

 

しかし、だからと言ってそれを理由に自分が生きなければならないと考えるほどロクロウは自分勝手ではなかった。生きなければならないと考えるにはロクロウの手は血で汚れ過ぎていた。

 

「あ、あの大丈夫ですか!?」

 

幻聴だと思った。どうやら、いよいよ駄目らしい。

 

「大丈夫な訳ないですね!すみません、誰かお医者様を!」

 

そんな声を最後にロクロウは意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、思ってたんだが案外生きてるもんだなぁ。はっはっはっ」

 

「生きてるもんだなぁ、じゃありませんよ!本当に死んじゃう所だったんですよ!?」

 

傷だらけの身体で呑気なことを宣うロクロウに傍で座る少女は毛を逆立てるように声を荒げる。

 

「すまん、すまん。本当に助かったよエレノア。心残りがあるまま死んでしまう所だった」

 

「全くもう…生きてるのが奇跡みたいな怪我だったんですからね?暫くは絶対安静です」

 

エレノアと呼ばれた少女は人差し指を立てながら、やんちゃな生徒に注意を促す教師のように振る舞う。どうやら、この暫くの会話で年上相手に接する態度を諦めたらしい。

 

「応!傷が開いたら今度こそ死んでしまうからな!」

 

「…仰ってることはその通りなんですけど、本当に分かってます?」

 

「当然だろう?さっき言ったじゃないか」

 

「笑いながら言ってるからですよ!とてもじゃありませんが、自分のことを語ってるようには見えません!」

 

ロクロウの態度にエレノアは頭を抱える。どうも悪い人間ではなさそうだが、色々とずれまくっている。妙な人間に関わってしまったものだ。

 

数日前、対魔師として巡回していたエレノアの前で倒れている姿を発見されたロクロウはエレノアの指示で運ばれた病院で何とか命を取り留めたのだが、医者でも信じられないスピードで回復を続けている。

 

助けた者として気になったエレノアは頻繁に病室に顔を出していたが、どうやらもうその必要も無さそうである。

 

「まあ、治ってきたなら何よりです。私はもうこの街を離れますが本当に暫くは無理をしてはダメですよ?」

 

「ほう?街を離れるのか?」

 

「ええ。私は対魔師として色々な場所を巡回していますから一つの町に長居をするわけにはいかないんです」

 

「そうか、では俺も行こう」

 

「は?」

 

意味が分からない言葉を聞いた気がした。

 

「命を救われた恩があるからな。返さなくてはランゲツ家の男の名が廃る」

 

「い、いえ、構いませんよ。これが仕事ですし」

 

「そう言うな。死んでしまっては斬ることもできなくなる。エレノアのおかげで俺はまた斬ることができるんだ」

 

「言ってることが殆ど犯罪者なんですけど!?私、助ける人、間違いちゃいました!?」

 

「それに死んでは心月も呑めなくなるからな」

 

「ダメ人間!ダメ人間の思考です!もう少し何か良い言葉が出てこないんですか!?」

 

ああ、もうとエレノアは顔を覆う。何処まで本気なのか分からないが、着いてくることだけは間違いないようである。

 

退魔師である自分の仕事を手伝うことが普通の人間であるロクロウに出来るわけがないし、それ以上に今のロクロウの怪我の具合を考えれば同行を許すなど有り得ない選択肢だ。

 

どうするかと考えるが、残念なことにエレノアは口が上手い方ではない。どちらかと言わずとも、下手な方だ。そんなエレノアが説得しようとしてもさっきのようにペースを乱されて終わるのがオチだろう。

 

「…とりあえず、この話は保留にしておきましょう。とにかく治るまでは安静にしててくださいね」

 

「応。次に来る時は心水を持ってきてくれ」

 

「持ってくる訳ないでしょう!貴方、病人ですよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(申し訳ない気がしますが、巻き込むわけにもいきませんし…)

 

説得を諦めたエレノアが取った選択肢は『会わずに街から出ること』だった。

 

どうにも、しょうもない方法ではあるのだがエレノアなりに精一杯考えて出した結論である。

 

一応、エレノアが街を出てから三日後にロクロウに手紙を渡すように主治医へお願いをしてきたのだが、悪いことをした覚えは拭えない。

 

(次に会うことがあれば心水でもお詫びに渡しますか)

 

とは言え、実際に次に会う確率は客観的に考えればかなり低い。

 

街から街へと渡り歩くエレノアの仕事を考えれば、恐らく定住はしていないだろうロクロウと鉢合わせる確率など殆ど無いと言ってしまって過言ではなかった。

 

そんなエレノアの耳に遠くから悲鳴のような声が聞こえた。勘違いである可能性も否定できないレベルの声ではあったが、元来お人好しのエレノアには確認しないという選択肢は存在せず、迷うまでもなく真っ直ぐに声が聞こえたと思われる方面へと駆け出した。

 

残念なことに、エレノアが聞こえた悲鳴は勘違いではなかったようで近づくにつれて血と業魔の匂いが濃くなっていき、予想される惨劇にエレノアは顔を顰める。

 

夜に街の外へ対魔師でもない者が出歩くことは聖寮が禁じており、それをする時点で何が起こったとしても全て自己責任である。

 

だからと言って見捨てるということができないのがエレノア・ヒュームという人間であり、対魔師としては問題かもしれないが人間としては誰よりも素晴らしい少女であった。

 

しかし、当然のことながら素晴らしい人格の持ち主であっても全ての人が救えるわけではない。

 

「間に合わなかった…」

 

惨劇の現場に到着したエレノアはぺたりと足を地面に着ける。そこには既に生存者どころか業魔の姿すら確認できず、死体が残るのみとなっていた。

 

全ての人が救える等と傲慢な言葉を述べる気はない。しかし、それで割り切れるほど淡白な人間にエレノアはなれなかった。ここがまだ戦場だということも忘れて。己の行動の遅さを悔やんでいるエレノアの背後にそっと業魔が忍び寄る。エレノアが行うべきだったのはまず周囲の安全の確保であり、己の行動の反省など全てが終わった後に行う行動だ。

 

エレノアが業魔の気配に気付いた時には既に業魔は攻撃体制に入っており、咄嗟に構えるが防御も間に合わない筈であった。

 

第三者の介入などという予想外が起こらなければ。

 

「油断大敵だぞ。エレノア」

 

「ロクロウさん…!?」

 

何故ここに!?という言葉を含んでの発言だったが、知ってか知らずか構わずにロクロウは業魔を斬った刀を払って笑う。

 

「いやあ、空き時間に刀を手に入れられていて助かった。恩返しができない所だったからな」

 

「い、いや、何で此処に!?と言うか、怪我は!?」

 

「ん?傷口が開いたら死ぬということは開くまでは死なないから問題ないということではないのか?」

 

「絶対に違います!」

 

とんでもない超論だった。体育会系を通り越して超人系の発言である。

 

「あの程度の業魔なら問題ないだろう。どうやら、他には居ないようだしサッサと次の街へ行くか」

 

「ちょ、待ってください!まさか、本当に着いてくる気ですか!?」

 

「ん?そうだが?」

 

「一般の方には許可できません!対魔師と行動を共にするということは常に危険を孕むんです」

 

「何だそんなことか」

 

言葉の内容にそぐわないあっけらかんとした口調でロクロウは告げる。

 

「危険など多いに結構。俺にはどうしても斬りたい男がいる。そいつを斬るには今の俺では足りん。互角以上の相手と斬り合い、己を高める必要がある。お前と同行せずとも、俺はそういう道を歩んで行く。だから俺の身がどうなろうとお前が気に病む必要はない」

 

「…死ぬかもしれないんですよ?」

 

「だろうな。相手を斬ると言ってるんだ。自分が斬られる覚悟もなしに、そんなことを言うほど俺はクズになった覚えはない」

 

まあ、嫌だと言っても着いていくんだがなと笑いながら言うロクロウにエレノアはため息を吐く。どうやら、今更何を言った所でこの男は自分から離れる気は無いらしい。

 

「…次の街までですからね」

 

「応。恩返しが完了するまでよろしくな」

 

「会話が成立してない気がするんですけど!?」

 

本当に分かっているのだろうかとエレノアは頭を抱える。と言うか今更だが、私の仕事に部外者を同行させるということが許されるのだろうか?

 

一体どうしたら…と悩むエレノアの心中を知ってか、知らずかは不明だが朗らかに笑いながらロクロウは手を差し出す。

 

「改めて。ロクロウ・ランゲツだ。これからよろしく頼む」

 

「はあ…エレノア・ヒュームです。既に名乗ったとは思いますが、こちらこそよろしくお願いします」

 

エレノアはロクロウの差し出した手を握り、握手を交わす。

 

長い付き合いになりそうだ。何の根拠もないが、漠然とエレノアはそう思った。

 

 

 

 

 

 

さて、今更ではあるがここで宣言しておこう。

 

これは業魔になった青年が喰魔になった少女に恩返しをする物語ではない。

 

これは業魔になる青年が対魔師である少女に恩返しをする物語だ。

 

 

 

 




続きは未定

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