幻想郷に中途半端に転生したんだが   作:3流ヒーロー

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更新は不定期になります。

完結目指してがんばります。


俺の現状とか能力とか

 

 

 

幻想郷。

 

 

忘れ去られたものたちの最後の楽園。現代では生きていけなくなった者達が暮らす隔絶された世界。

 

 

人、妖怪、妖精、神、幽霊。その他にも多くの種族が暮らす隠れ里。

 

 

それが俺の生まれた場所。

 

 

このことは後から知ったことじゃない。生まれた時から知っていたんだ。

 

 

東方projectと言う、こことは違う世界での創作物によって、俺は幻想郷を知っていた。

 

 

 

 

 

 

「いってきまーす」

 

 

そう言って家から飛び出す。人里の一角の家。俺の声に対する返事は無い。今頃は母が弟妹達の面倒に追われているだろう。

 

 

俺の生まれた家はそれほど裕福ではない。その癖に子どもが多い。俺を含めて8人、両親を含めて10人の大家族。その家の長男として俺生まれてもうすぐ9年が経とうとしていた。

 

 

「よいしょ、っと」

 

 

背中に担いだ農具を担ぎなおす。

 

 

俺がこの幻想郷に生まれる前、自分がどんな人間でどんな環境でどんな人生を送ったのかはまったく覚えていない。ただそこには現代人としての知識だけがあった。その中にあったのが日本のサブカルチャーにある創作物、東方projectがあった。

 

 

幻想入り

 

 

今の俺の境遇を言い表せばそういうことになるのだろう。信じがたいことだが俺はその世界に生まれたらしい。初めはまったく知らずに過去の時代に生まれたのかと思ったが、ここが幻想郷の人里で妖怪まで居ると後から知って何かおかしいと思った。そしてその後、他の地名もまた創作物の舞台と一致していることやその他の類似点から俺は推測した。

 

 

俺は創作物の、東方の世界に生まれ変わったのだと。

 

 

 

 

 

 

………その事実にテンションが上がって飛び上がって喜んだのを両親に不審がられてしまったりした。おそらく以前の俺はそういう方の趣味があったのかもしれない。

 

 

「……はぁ」

 

 

思い返すとものすごく恥ずかしい。頭を振って思考をとばすと駆け足で人里の外側に向う。

 

 

途中で反対側からは同じ年頃の子どもたちが楽しげに話しながら歩いてくる。きっとこれから寺子屋に行く子どもたちだろう。

 

 

「………」

 

 

何の挨拶もなしにその横を通り過ぎる。向こうは俺を知らないし俺も知ろうとは思わないからだ。さすがに精神年齢が高い分幼い子どもの会話には入りづらいのもあるが寺子屋に通っていない俺はあの子達と会話をする機会がほとんどないからだ。

 

 

もうすぐ9歳の俺が学校にあたる寺子屋に通っていない。現代では完全に法に引っかかるどころかクリーンヒットする状況だがここは残念ながらここは幻想郷、現代の常識は通用しない。

 

 

ここには貧しい家の子どもが教育を十分に受けることが出来るような制度は存在しない。今日も今日とて仕事の手伝いがである。

 

 

「………はぁ」

 

 

思わずため息が出る。初めはテンションが鰻上りで『俺にも何か能力とかないかなー』とか思って色々試行錯誤していたのだったがここでの生活が進むにつれていやと言うほど現実を思い知らされた。

 

 

まずは幻想郷の現状。ここで生活する中で知ったが幻想郷を守護する役目を担う博麗の巫女。今の巫女は博麗霊夢ではなかった。何度か人里に下りてきているのを見たことがあるがアレはおそらく先代の巫女だ、と思う。けれど娘はいないらしいし、それらしい子もいないので時代が違うのかもしれない。

 

 

話が脱線したが何がいいたいかと言うとこの幻想郷は弾幕で異変や妖怪に関する事件を解決していないということだ。……というか弾幕があったとしても知能の低い妖怪は人を襲ってくる。現に俺の知っている人も何人か被害にあっている。

 

 

やはり人里の外側での被害が多く、しかも俺が今から行く仕事場の畑もそこにある。つまり俺の職場は命の危険が伴うのだ。

 

 

……なんでこの歳で命がけの仕事せにゃならん。

 

 

次に家の現状。幻想郷の人里は現代とは比べ物にならないほど文明が遅れている。電気、水道、ガスはもちろんないし法律、制度、生活などすべて違う。そんなわけで俺位の年頃になるとほとんどが寺子屋で勉強するわけだが、こうして寺子屋に行かずに働いても何の不思議もない。

 

 

家族が増えるにつれ家の家計は厳しくなってくる。俺が寺子屋に行く歳になる頃には人手が足りなく、やもなく俺も仕事をすることになった。とは言ってもたいていは家事の手伝いになるわけだがそれはもう他の妹弟がやってるので一番上の俺がこうして働きに出ているわけだ

 

 

ちなみに父親は大工なのでこっちには出てこない。……俺にもそっちを手伝わせろよ。

 

 

 

人里の門を通るとぐるりと里を囲む柵の傍らに田畑が並んでいる。人里の中にも畑があるが、ある程度整備されていないこちら側の土の方が作物の育ちがいいのか質のいい物が育つため、危険ではあるがここにも畑が作られた。

 

 

自分が背負った道具を置く。基本的に田畑は稲や種を植えたら後は環境を整えてやるだけだ。それほど農業について知識のない俺は今まで通りのやり方で畑仕事をやっている。あとは田畑を広げたり、荒らされないように見張るのが仕事になる。

 

 

………で、だ。最後に俺の現状なんだが。まあ、これのせいで俺がこんな危ない人里の外側の畑仕事なんぞを任される羽目になった。ある意味で身から出た錆とも言えなくはないし、望んでいたことでもあるのでやむなしともどこかで思ってるんだが。

 

 

能力、ありました。

 

 

その名も『界を結ぶ程度の能力』。

 

 

 

 

いや、ホントもうびっくり。何か能力とかないかなといろいろやってたらなんか出来るようになってたよ。幻想郷パネェ。

 

 

しかしこの能力、何か一見すごい能力に聞こえるかもしれないが要はこれ結界を張ることが出来る能力ってことなんだよね。『界を結ぶ』すなわち『結界』。いつの間にかそんな風に俺の能力が呼ばれてたからそのまま定着してた。

 

 

何となく知識の中にあるものから適当に選んで人差し指と中指を立てて「結っ」ってやったらできた。と言っても意識すれば指を立てる必要はないんだけど。

 

 

普通、結界って人が張るときは東洋西洋問わずまず術式なり適した触媒なりを介さないと張れないらしい。あとはよっぽど霊力が高くないと結界とは基本使うことが出来ない。それを考えれば俺の能力は一見高性能に見える…かもしれない。

 

 

しかし俺の場合はそうでもない。まずこの能力、燃費が悪い。結界を展開するのに必要なのが霊力なのか魔力なのかそれとも体力なのかは分からないが壁を一つ作るだけでも結構疲れる。正直長時間の能力使用はキツイ。

 

 

それに結界を展開できる規模にも限界がある。壁一枚なら一辺が3メートル程の結界が精々、全体を囲むのであれば1メートル四方で精一杯。

 

 

もちろんこの能力を何とか応用出来ないかと試行錯誤してみた。結果としてわかったこと、形はある程度変えることが出来る。ただし結界を一度展開したら変えることは出来ない。結界は空間に固定しているので動かすことも張ったままの移動は出来ない。この結界のモデルになった漫画のように結界で囲んだモノを「滅っ」とか言って破壊することは出来ない。結界と言っても俺の張る結界は妖怪に対して害のある物ではないので妖怪でも普通に触れる。しかも強度にも限界があり耐えることのできない衝撃が加わると砕ける。

 

 

結論、俺の能力は展開規模の限られたただの壁を作ることが出来るだけ。しかもすぐにバテるし一定以上の衝撃には持たない。攻撃力は皆無。なのに危険な場所での仕事。

 

 

 

……どうしろっていうんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、ちなみに俺の名前はひしがきっていいます。

 

 


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