幻想郷に中途半端に転生したんだが   作:3流ヒーロー

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つまりはムリゲーということ


RPGみたいに敵の強さは変わっていかない

 

 

 

 

半年。

 

一年の半分。6ヶ月。

 

今日で期限の半分を生き延びたことになる。俺が此処まで生きてこられたのは正直運がよかったとしか言えない。何故なら今までの全ての妖怪が俺でも対処できる程度の妖怪だったからだ。

 

半年間、自分では命がけの半年だったがもし博麗の巫女が無事であったならば何の問題もなく平和な期間だったと言えるだろう。

 

今までは。

 

そう。そんな都合のいい話はそう長く続くはずもない。

 

巨大な体躯。四本の足はその一本が木の幹ほどの太さがある。体毛は針金のように強靭で全身を鎧で覆っているかのようだ。何より目を引くのがその巨大な顎。おそらく開けば大人一人を丸呑みに出来る位には大きいだろうがそれよりも恐ろしいのが並び立つ鋭い歯である。アレに囚われたら最後、人間など生きてはいられないだろう。

 

荒々しい息を吐きなが歩くその姿は今までの雑魚とは訳が違う。巨大な山犬の妖怪。とうとう来てしまったのだ。下級以上の力ある妖が。

 

 

 

 

風下に立ち息を潜め必死になって気配を殺す。万が一にでも気配を気取られないように、もしバレたら自分が生き残れる確率は相当低い。

 

「………………」

 

ドクドクと心臓の音が嫌に大きく聞こえる。今までも命がけだったが今度の相手はこれまでと文字通り別格だ。正面から戦うなど論外だ。

 

もちろんこの状況を想定していなかったわけではない。出来れば来ないで欲しいと願っていたが来た時の為の備えを使う時が来たようだ。

 

(…………よし)

 

そして覚悟を決め、動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりとした速度でそれは歩いていた。

 

目指す先は狩場。目的は食事。なんてことはない、ただ人間が食いたくなった。それだけの理由でそれは人里に向けて歩を進める。

 

前にたまたま人間を見つけて喰らってから、何となくもう一度食いたくなる時があった。けれどもそれは出来なかった。それの本能が告げていた。人里を襲えば死ぬと。

 

故にこれまでは涎を垂らしつつも耐えるしかなかった。しかし、今は違う。いつも鋭敏な本能は警報を鳴らしていない。つまり食えるのだ。人間が。

 

牙を見せながら獰猛に笑う。

 

 

そして、それの視界は突然黒に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間にしろ妖怪にしろその身体を動かすには筋肉の収縮と関節の可動が行われる。ならば体を動かすための基点を抑えることでより効果的に相手の動きを封じる。関節部分を覆うように何重にも結界を展開する。肩関節、股関節、指間節間接、肘関節、膝関節、足関節、手関節、肩甲上腕関節、円柱間接。もちろん全ての関節を拘束ことは出来ないがそれでも大まかな動きを司る関節は捕えることが出来る。

 

ただこれだけでは足りない。常識外れの妖怪の膂力は関節を封じた程度では力尽くで動き出す相手もいる。故に更に結界を張る。山犬が身動きが出来ないよう槍状の結界を展開していく。それはまるで拷問器具・鉄の処女(アイアンメイデン)如く山犬を覆っていく。そして最後に全体を覆うように重ねて結界を張る。これで最初の奇襲は終了した。

 

初めて大きく息を吐く。この結界を張るために要した時間は2秒。はっきり言って時間が掛かりすぎている。正面からの戦闘であれば2秒あればいくらでも逃れる術はある。とてもではないが使える方法ではない。

 

相手がゆっくり移動してくれていて助かった。おかげで関節の位置、スピード、タイミングをじっくり観察できた。大きく息をして油断なく構える。今展開した結界は全て呪術が付加されたもの。こうしている間にも徐々に呪いが侵蝕し妖怪を脅かしていく。俺が出来る会心の結界術。出来ればこれで終わって欲しい。が、

 

ドンッ!何かが衝突したような衝撃が結界から広がってきた。ドンッ!ドンッ!とその衝撃が続く。結界は今だ破壊されず、形を留めている。しばらくして、音と衝撃が止んだ。力尽きたのだろうか?僅かに期待する。

 

 

ゾクッ

 

 

ひしがきの背中を悪寒が走る。これは今までに何度も感じたことのある感覚。それは命の危機が迫る感覚だ。

 

咄嗟地面に伏せて結界を張る。

 

 

ウオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォンッッッッ!!!!

 

 

音が爆発した。

 

妖力を伴ったその咆哮は結界を吹き飛ばし衝撃波の波となって周囲を襲い掛かった。地面には亀裂が走り、木々が大きく撓む。

 

「~~~~~~ッッ!」

 

悲鳴を上げたいのを歯を食いしばり耐える。必死に地面にしがみつき常に結界を展開し続けて衝撃波から身を守る。ようやく衝撃波が収まる。顔を上げると山犬が獰猛に牙を見せ唸っている。体は僅かに血が滲んでいる程度。呪いの効果だろう、針金のような毛は所々黒く染まっている。

 

ほとんどダメージがない。その事実に思わず悪態をつきたくなる。幸いこちらの位置はばれていないようだが会心の結界術が破られてしまった以上結界での退治方法はほぼ手詰まりになってしまった。まったくないわけではないが退治まではいかないだろう。ならばやはり槍による一撃しかない。それもあの巨躯となれば急所となる箇所への強い一撃が必要だ。

 

ひしがきは次なる奇襲に動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

それは怒っていた。

 

ただの狩りだった。ただの食事だった。

 

危険はない。少なくともそこに自分よりも強い者はない。己の本能はそれを告げていた。ならば何故自分は血を流しているのか。

 

答えは一つ。自分よりも弱いものが牙をむいてきたのだ。そして自分は血を流している。

 

血走った目でそいつを探す。

 

許さない。自分より弱いくせに。そんな奴らに傷つけられたことが、はらわたが煮えくり返るほどに腹立たしい。

 

殺す。牙で噛み砕いてやる。引きちぎってやる。

 

耳を澄ます。物音一つ逃すものか。そいつが少しでも音を立てればすぐに喰らい付いてやる。

 

目を凝らす。物陰一つ見逃すものか。何か一つでも動き出せばすぐにでも引き裂いてやる。

 

鼻を……。

 

 

「―――――ッッ!!?」

 

 

山犬が声にならない悲鳴を上げる。

 

山犬の鼻ははるか遠くの匂いも嗅ぎ分ける。その鼻が強烈過ぎる刺激臭を嗅ぎ取った。それは匂いを通り越し痛みとなって山犬を襲う。

 

突如鼻に走った激痛に耐えられず鼻頭を前足で押さえて転げまわる。おかしい。こんな強すぎる匂いなど例え風下からでも感じられるはずだ。

 

なのに何故何も感じなかった?

 

頭を左右に振り気を持ち直す。あまりの痛さに涙を浮かべながらも此処から一度距離を取ろうと駆け出そうして、

 

足元が爆発した。

 

 

 

 

 

 

「ガアアアァァァァァァァァ!!」

 

山犬が悲鳴を上げる。真下から心臓めがけて突き出された槍が深々と山犬に突き刺さっていた。ぴくぴくと山犬は痙攣したように体を震わせていたがそのまま横に倒れた。

 

そして山犬の真下からひしがきがひょっこりと這い出てきた。

 

「……はぁ~、何とかうまくいったな」

 

安堵の息を吐きながら作戦が成功したことに胸をなでおろす。ひしがきの立てた作戦はこうだ。

 

まずは山犬の進行方向から通るであろう場所の地面に複数の結界を埋め込んでおく。そこの中に

霖之助に頼んで作ってもらった対妖怪用の刺激臭を発する香を中に入れておく。最初の奇襲が失敗した後に山犬が匂いに気づかなかったのは足元にあった香が結界によって密閉されていたからだ。

 

またひしがきは地面に結界で補強した穴をクモの巣のように掘っていた。転げまわる山犬の振動から一番近い出口へと移動したひしがきは最後の仕込を発動させた。香と同じく地面の結界にはこれまた霖之助作の結界を解除するとともに爆発する仕掛けの妖怪退治用の火薬を仕込んでいた。そして結界を解除し土砂と火炎で視界を塞いだ。

 

そして爆発と共に穴の出入り口から飛び出したひしがきが山犬めがけて槍で仕留める。これが一連の作戦の流れだった。

 

 

「…………」

 

もう一度、ひしがきは大きく息をはいた。うまくはいったものの今回も綱渡りの作戦だった。何より最初の結界で妖怪の鎧のような毛を呪いで脆くできたことは幸いだった。アレでまったく効果がなかったら槍で体を貫けたかどうか怪しいところだった。

 

近くの木に背を預けてもたれかかる。初めての大物妖怪(ひしがきにとって)は蓋を取ってみれば手はず通り進んだがそれでもいつも以上に神経が疲労した。出来ることならこれを最後にして……。

 

「え?」

 

いきなり景色が横に跳んだ。いきおいよく地面にたたきつけられた衝撃で肺から空気が吐き出された。

 

混濁する頭の中視界の中に血を大量に噴出しながらこちらを睨む山犬がいた。

 

(生きてやがった……!)

 

すぐに立ち上がって走り出す。弱っているとは言え正面から戦うには分が悪すぎる。こちらも蚕の衣のおかげで傷は負っていないが左腕と肋骨が激痛を発していた。

 

(畜生!しっかり止めを刺しておけば!)

 

今更後悔するが状況は好転しない。今は一刻も早く此処から離脱しなければ。足に霊力と魔力を通す。ようやく最近一部分に僅かの時間ではあるものの霊力と魔力の同時運用に成功していた。一時的ではあるものの、少しでも距離を稼いでおく必要がある。

 

強化された脚力で今まで以上の速力を出す。このまま山犬と離れてしまえば。横目で山犬の様子を窺うと、目の前に大きく開かれた山犬の口と牙が見えた。

 

「なっ!?」

 

咄嗟に槍を構えて牙を受け止める。しかし、それでも勢いの止まらない山犬はひしがきごと押さえ込んで突進し続ける。

 

「ぐ、ぅ……!!」

 

押しつぶされそうになるのを懸命に堪える。腕にも魔力を通して牙を抑えるが山犬の勢いは止まらない。押すことも引くことも出来ない。ならば、どうするか。ひしがきは山犬の足元に闇雲に結界を展開させた。がむしゃらに走っていた山犬はそのまま足を取られ大きくひしがきを巻き込んで大きく転げ飛んだ。

 

投げ出されながらもひしがきは何とか体勢を立て直そうと結界を張る。緩やかな傾斜を結界で作り出しそこを転げ落ちることで地面に叩きつけられる事を防いだ。地面に無事着地したひしがきは山犬に向って槍を構える。向こうも地面に叩きつけられてもなお殺気に満ちた目で立ち上がりこちらを睨んでいた。

 

逃げられない。速さが違いすぎる。そう判断したひしがきは今自分が出来る最大限の強化を体に施す。激痛の走る左腕を動かして槍を向ける。逃げられないなら戦うしかない。幸い相手は弱っている。ならやりようはある。

 

自分を鼓舞し山犬と向かい合う。山犬ももはや相手を弱いと認識してひなかった。相手を敵と認識し体勢を低く構える。今まさに両者の死闘が

 

 

 

 

 

 

「ねぇ」

 

 

 

 

 

 

始まらなかった。

 

まるで空気が凍ったようにひしがきは感じた。まるで体の中から凍りつくような怖気がひしがきを支配する。その問いかけと感覚にひしがきは既視感を覚えた。

 

ひしがきだけではない。つい先程まで殺気に満ちていた山犬さえもひどく怯えている。そこにはさっきまでの強い妖怪は居らず、自分同様の弱者の姿があった。

 

「貴方たち」

 

凍りついたように動かない、動いてくれない体を無理矢理動かし声のする方へと顔を向ける。

 

この幻想郷には見慣れない洋服、シャツにチェックのスカート。ウェーブの掛かった美しい翡翠色の髪。その紅玉のような赤い目と、三日月の様に笑う赤い口は、記憶の中にある最悪の妖怪を彷彿とさせた。

 

周りに目をやるとソレの向こうにひまわりが見える。

 

(……マジ…かよ………)

 

最悪だ。よりによって此処に出てきてしまうとは。

 

そう、此処は幻想郷で一番美しく、危険な場所。花々が咲き誇るその場所を人は太陽の畑と言う。そしてその主の名を

 

「此処で何してるのかしら?」

 

 

風見幽香と言った。

 

 

 

 

 

 


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