幻想郷に中途半端に転生したんだが   作:3流ヒーロー

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何度も言いますがタイトルに深い意味はありません


ゆうかりんは優しい

 

 

 

 

 

太陽の畑。

 

 

大輪の花々が咲き誇る大地。幻想入り乱れる幻想郷においてもなお、その美しさは広く知られている。

 

 

そこに咲く花は外の世界にある花とは一線を画す美しさを持つ。色鮮やかな色彩、大きく形の整った花びら、生き生きと空に向って伸びる花畑はまさに幻想的な風景を作り出している。

 

 

………………………………

 

 

ここまで美しい花は幻想郷でもこの場所でしか見られない。何故これほどまで美しい花が育つのだろうか?そこには色々な噂がある。

 

 

曰く、ここに住む花妖怪の力によってこの花たちは育っている。なるほど、『花を操る程度の能力』を持つ彼女ならそれは可能だろう。しかし彼女は四季の移り変わる自然を愛する妖怪だ。それに逆らって花を咲かせることなど滅多にしない。彼女はあくまで花を見守っているだけなのだから。

 

 

またある噂では太陽の畑には極上の地脈があり花々はその恩恵を受けているとも言われる。確かに、地脈から養分を吸い上げた花が咲き誇っているのであればあの風景も納得がいく。しかし幻想郷にはあちらこちらにパワースポットはあるがあそこまで花が美しいのは太陽の畑だけである。

 

 

このような噂が流れるほど太陽の畑は美しく、何故そこまで美しいのか疑問にもたれるほど花たちが咲いている。

 

 

その美しい光景の片隅に今、その場所にそぐわないものがあった。物言わぬそれは、大地を赤く染め横たわっている。それは里を襲おうとしていた山犬の亡骸。頭を吹き飛ばされた体からは血が噴出し、色鮮やかな一角を赤く赤く塗りつぶしていた。

 

 

それでも花たちは変わることなく咲き誇る。

 

 

―――――――サァッ……

 

 

風に揺られ花たちが、一瞬その骸に花弁を向けた。もし此処にひしがきがいたら背筋が凍っただろう。もし此処に風見幽香がいたら慈愛に満ちた顔で微笑んだだろう。

 

 

太陽の畑。その美しさの理由には様々な噂がある。その一つに、ここに住む花妖怪の恐ろしさからこんな噂が生まれた。曰く、太陽の畑が美しいのは、その下に数え切れないほどの人間や妖怪の死体が埋まっているからだと。

 

 

―――――――サァッ……

 

 

花が風に揺れる。

 

 

しかし、多くの噂があるがそれらの真偽は定かではない。誰もそれを確かめようとはしないからだ。噂は噂を呼び様々な憶測がされる。その中に真実があるのかどうかは誰も知らず、ただ噂だけが増えていく。

 

 

―――――――サァッ……

 

 

また、花が揺れる。

 

 

主の留守に、花はどこか寂しげに揺れていた。いつの間にかその一角には山犬の亡骸はなく、ただ赤色に染まった大地だけがあった。

 

 

 

 

 

 

 

風見幽香は、軽やかに手を振るった。その動作には力みが感じられず、まるで優雅に手を仰いでいるだけにも見えた。

 

 

「が、ぎ………ッ!」

 

 

ひしがきの折れていた左腕が更に砕かれた。

 

 

風見幽香は、軽やかに跳んだ。その動作は流れるようにスカートをなびかせる。まるでバレリーナが跳ぶように気品さえも感じられる。

 

 

「あぎぃ………ッ!」

 

 

仰向けに倒れたひしがきの脛が踏み潰された。

 

 

風見幽香は、軽やかに足を上げた。上半身をまったく動かさずに綺麗に脚が上がる。まるで扇が開くように華やかに見えた。

 

 

「あ゛………ッ!」

 

 

ひしがきは足をへし折られ勢いよく空中に回りながら吹っ飛ぶ。

 

 

風見幽香は、軽やかに傘を振るった。雨の雫を払うかのように腕をしならせ傘をすばやく奔らせる。

 

 

「お゛…ぇ……ッ!」

 

 

何所から地面に落ちたかも分からないひしがきは、また何所を殴られたのかも分からないまま、血の混じった吐瀉物を撒き散らしながら地面を転げまわる。

 

 

風見幽香は、

 

 

ひしがきは、

 

 

風見幽香は、

 

 

ひしがきは、

 

 

風見幽香は、風見幽香は、風見幽香は、風見幽香は、風見幽香は、風見幽香は、風見幽香は、風見幽香は、風見幽香は、風見幽香は、風見幽香は、風見幽香は、風見幽香は、風見幽香は、

 

 

ひしがきは、ひしがきは、ひしがきは、ひしがきは、ひしがきは、ひしがきは、ひしがきは、ひしがきは、ひしがきは、ひしがきは、ひしがきは、ひしがきは、ひしがきは、ひしがきは、ひしがきは、

 

 

 

 

 

いつの間にか悲鳴は途切れ、何かを叩く音と女の笑い声だけが聞こえていた。不幸なことに、それでもまだひしがきは生きていた。どの程度で人間が死んでしまうかなど風見幽香は知らない。そんな事を気にしたこともなかったから。死ねばそれで終わり。それまでは好きなように嬲るだけ。

 

 

ただ、ひしがきの纏う蚕の衣。長い年月を経て神秘を纏い霊的物理的な耐性を得た、天の虫の糸で編まれた衣がひしがきを死なせなかった。その衣にはひしがきの血が染込み、朱と灰が混ざって混濁した色をしている。

 

 

「ひゃ、…あ、ぐぅ……ぁ…」

 

 

出会い頭に頭を吹き飛ばされた山犬は、ある意味で幸運だった。両手両足は既に使い物にならないひしがきは芋虫の様に這っていた。どっちが人里なのか分からない。ただ少しでも逃げようとしていた。

 

 

頭の中には既に転移魔法のことなどない。かつて感じたことのなかった恐怖がひしがきを支配していた。ルーミアに殺されそうになった時は死を覚悟した。しかし、嬲られ続けたひしがきは次々とやってくる痛みとジワジワと心を覆っていく恐怖に心を折られていた。

 

 

既に戦う気力を無くした。それでも、何故かこんな姿になっても生きたいという気持ちはかつてないほど強かった。

 

 

「ふふふ、何所に行くのかしら?」

 

 

風見幽香は笑う。思っていた以上に嬲りがいのある惨めな人間に、彼女の嗜虐心は大いにそそられていた。

 

 

「ひゃ、ひゃめ……」

 

 

ひしがきの声を無視して、風見幽香はうつぶせになっている背中を踏みつける。

 

 

「――――――――――――!!!」

 

 

びくんっ、とひしがきの全身が痙攣する。その感触に風見幽香はわずかに頬を染めて悩ましげに息を吐く。

 

 

「ああ、いいわぁ。あなた最高。こんなにも私を楽しませてくれるなんていい子ね」

 

 

風見幽香はしゃがむと優しくひしがきの顔に手を添えた。ひしがきの顔は何度も殴られ打ち付けられ腫れ上がり歯は所々が抜け、血と涙と鼻水と胃液でグチャグチャになっていた。

 

 

「…………ぁ」

 

 

焦点の合わない目が風見幽香を捕える。もはや叫び声を挙げることも身動き一つとることもできない。

 

 

「ほらほら、どうしたのかしら?坊やは『博麗』なんでしょう?」

 

 

博麗。その言葉に、僅かにひしがきの瞳が揺れる。

 

 

「今まで、楽しかったでしょう?人間の中で威張って好き勝手に妖怪を退治出来たんだもの。だからこんな目に合っても仕方ないことよねぇ」

 

 

「………ぉ」

 

 

「ねぇ、どんな気分かしら?こんな姿になって、どんな気持ちなのかしら?」

 

 

「………ぉ…ぁ」

 

 

「ふふふ、全然聞こえないわ。もっと大きな声で話して頂戴」

 

 

風見幽香はひしがきを増長した人間だと思っていた。愚かな人間が自ら博麗を名乗り妖怪を退治している。それは今まで幽香が見てきた人間達だった。

 

 

かつて自分を退治しようと徒党を組んでやってきた人間。それらを一人残らず葬った後また他の人間達がやってきた。風見幽香にとって何度も懲りずにやってくる人間は煩わしくて仕方がなかった。妖怪を嫌う人間や名を挙げようと退治屋たちがやってきては幽香は撃退した。やがて人間が圧倒的な実力差を知った時、風見幽香は人間から恐れられる存在になっていた。

 

 

それからもたびたび自らの力を過信した人間が来ることがあった。かつて、博麗の巫女とも軽くであるが手を合わせた。あの時位だろう、人間を敵とみなしたのは。

 

 

「お…れ、は……」

 

 

ひしがきの口から声が漏れる。風見幽香はひしがきが惨めに命乞いをするようならばもう殺すつもりでいた。たとえ子どもだろうと容赦はしない。だからだろう、

 

 

「……すきで、はくれいなんかになったわけじゃないっ!」

 

 

突然叫んだひしがきに幽香は驚いた。まだこんなに口が利けるとは思わなかった。

 

 

「おれ、は……!」

 

 

涙を流しひしがきは叫ぶ。

 

 

「はくれいなんて、やりたくない……!」

 

 

それはずっとひしがきが言いたかったこと。自分は、ただ里の中で生きていたいんだと。特別なんかなりたくない。平凡に生きたい。

 

 

誰にもいえなかったひしがきの願いだった。

 

 

「じにだくないっ……」

 

 

風見幽香は自分の顔に涙や血が飛ぶのにも構わず、ただひしがきの叫びを聞いていた。

 

 

やがてひしがきの叫びは嗚咽へと変わると、ボロボロの体を小さく丸めていく。潰れた脚をたたみ折れた腕を曲げる。

 

 

「……たしゅけてくらはい」

 

 

それは哀れな光景だった。死に体の子どもが嘆き、頭を土に付け助けを求めていた。

 

 

「……たしゅけてくらはい」

 

 

その哀願は一体なんに対してか。自分の命か、自分の境遇か、自分の立場か。あるいはそれら全てか。

 

 

「……たしゅけてくらはい」

 

 

壊れたラジオの様にひしがきはただ助けてくれと繰り返す。誰にもいえなかった言葉を何度も繰り返す。

 

 

「…………」

 

 

幽香は無言でひしがきの言葉を聞いていた。そして目を開けると、ひしがきに告げる。

 

 

「惨めね……」

 

 

幽香は冷めていた。もうこの子ども相手に自分が満足する結果は得られないと悟ったからだ。自分で壊すのならともかく、勝手にコワレてしまってはつまらない。

 

 

幽香はひしがきに背を向け歩き出した。

 

 

「そのまま這い蹲ってなさい。ああ、それと」

 

 

すでに興味を無くしたオモチャを見るように幽香は告げる。

 

 

「もし死にたいんだったら、他をあたりなさい」

 

 

面倒だから。そう言って幽香は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

ひしがきは動かなかった。動けなかったのかもしれない。風見幽香が、もはや自分を殺すことさえ興味をなくしたことが嬉しかったのか、悔しかったのか、悲しかったのか。ただ涙が流れ続けていた。

 

 

「うっ、うぅ、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

生き残れたことが嬉しい。助けてくれなかったのが悲しい。相手にされなかったのが悔しい。ひしがきは見も心もめちゃくちゃだった。

 

 

「うっぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ、あぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ」

 

 

嗚咽が溢れ出す。地面に頭をつけたままで、ひしがきは拙く泣き続けた。

 

 

 

 

 




例えば長いドミノを作っていたとしますよね。あと数枚で完成というときにドミノが崩れてしまったらとてつもなくがっかりしませんか?ゆうかりんもそんなかんじです。

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