幻想郷に中途半端に転生したんだが   作:3流ヒーロー

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お仕事中

「…はぁ…はぁ…はぁ」

 

 

どうもこんにちは、ひしがきです。

 

 

今日も今日とて田畑でお仕事してます。ちなみに今はまさに俺専門のお仕事中。それはどういう仕事かと言うと

 

 

「ギイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!」

 

 

 

妖怪を必死になって抑えています。

 

 

 

早く誰か来てー!!!

 

 

 

 

 

 

 

いつものように畑を広げる為に地面を耕していると子牛くらいの大きな鼠の妖怪が襲ってきた。この妖怪、たびたび現れては畑の作物や働いている人を襲ってくる害獣のような妖怪だ。しかもたまに複数でやってくるからめんどくさい。

 

 

妖怪の中でいえば知能も低い下の下妖怪だが、人にとっては十分脅威だ。もちろん子どもの俺にとってもなおさらだ。

 

 

「…ぜぇ…はぁ…くぅっ…!」

 

 

迎撃手段のない俺はその妖怪の周りを結界で囲み閉じ込めている。その間に別の人が里に居る妖怪退治屋を呼んでくる手筈になっているのだ。

 

 

なので今俺の仕事は退治屋が来るまでこいつを閉じ込めておくことなのだが。

 

 

「キィ、キィ、キィィィィィィィ」

 

 

「うっせぇぇぇ!ちょっとは大人しくしろクソネズミ!」

 

 

鼠妖怪が叫びながらガリガリと結界を引っかく。幸いあの程度では結界は破られることはない。しかし、そろそろ結界の維持するのが辛くなってきた。

 

 

結界こそ破れないものの人間があの爪でひっかかれたら洒落にならない。気合を入れて結界を維持する。

 

 

閉じ込めたまま安全なところへ俺も避難したいところだが俺は自分から離れた所に結界を維持することが出来ない、というより離れると結界の維持が難しいくなり精度がいっきに下がるのだ。

 

 

今俺が離れたら鼠妖怪が出てくるかもしれない。それで畑を荒らすだけならまだいいが、俺を襲いに里の中まで追って来たらまずいことになる。しかもさっきから血走った目でこっちをにらんでやがるので俺を標的にする可能性が大だ。ちくしょう、防御力でも下げるつもりかこのラッ○め!

 

 

里からは一向に助けが来る気配がない。いい加減俺も限界が来る。

 

 

(何とかして、こいつをどうにかしないとマジでやばい!)

 

 

俺の能力は現時点での攻撃力は皆無に等しい。しかし、俺だってもしもの時のために何も考えてこなかったわけではないのだ。もしもの自分ひとりで妖怪を相手にしなければならない時のために、守ることだけでなく退治するための手段を考えてはある。

 

 

(いきなりぶっつけ本番とか、勘弁してくれよ!こっちはもういっぱいっぱいだっつーの!何で俺がこんな目に合わなきゃいけないんだよ!まだ2話だぞ!?…あーもう村の被害とかいいから村の中に逃げちゃ駄目かな?)

 

 

内心で泣き言をぶちまけながら、考えていたモノの準備をする。既に結界の維持をするにはかなり消耗しているがここで踏ん張らなければ終わりだ。一つ一つ、丹念に準備をする。

 

 

全身に汗が流れる。目の前で暴れる妖怪がけたたましく叫ぶのにビクビクしながら、それでも己を奮い立たせて準備を続ける。

 

 

目の前の妖怪を本当に退治できるだろうか?今から行おうとしていることは攻撃とは呼べるものではない。こんなものは本来相手をひるませる程度のもので傷つけることは出来ても決定打にはならない。

 

 

しかし、現状で打つ手がこれしかない以上一か八かの賭けしかない。

 

 

(頼むからうまく言ってくれよ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然妖怪を囲んでいた結界が解けた。

 

 

自分を閉じ込めていた結界がなくなったことで自由になった妖怪は唸り声を上げてひしがきを睨み付ける。ひしがきは力を消耗しすぎたのか大量の汗を流しながら大きく肩上下させながら息をしている。

 

 

明らかにもう限界が近く弱っていた。

 

 

妖怪は疲弊した獲物を見ながら嘲笑うかのように鳴き声を上げる。そして、自分を閉じ込めた怒りをぶつけようと牙と爪を剥き出して飛び掛ろうとして

 

 

「ギィ!?」

 

 

突然奔った痛みに身を引いた。

 

 

さっきまで無傷だった妖怪の体に傷が数箇所出来ていた。そして、先まで妖怪の居た位置には出血によって僅かに血が空中に浮かんでいるのが見える。

 

 

妖怪は今度は位置を変えて再び飛び掛ろうとする。しかし、動くたびにその体には無数の切り傷が出来ていく。

 

 

「ギ、ギギィ!?」

 

 

これがひしがきの張った罠。極薄の結界を鋭く鋭角の形状にして周囲に展開する。刃となるほど薄く鋭い結界によって相手の動きを制限する方法である。

 

 

迂闊に動こうとすれば周囲の結界によって体を傷つけられる。ほとんど攻撃方法のないひしがきにとってこれが相手に傷を負わせる唯一方法である。極薄の結界はほとんど視認が不可能。下手に動けばどこを切るかは分からない。

 

 

「ギ、ィィィィィ」

 

 

しかし、それは所詮相手を多少ひるませる程度の物。傷自体は浅く決定打にはなりえない。しかもその性質上結界を薄く張るため強度がガラス以下に弱い。つまりもし強引に飛び掛られたらこんなものはたやすく突破されてしまうのである。

 

 

すでに妖怪は落ち着き警戒しながらこちらを窺っている。こんな時間稼ぎの小技はすぐに意味を無くすだろう。だがそれで十分。既に準備は整った。

 

 

俺は妖怪に背を向け全力でそこに向って走る。俺が突然逃げ出したことによって妖怪もその後をすぐに追いかける。妖怪の体に次々傷がはしるが構うことなく俺をめがけて追いかけてくる。予想どうり結界に構わず追ってくる妖怪を確認して俺は用意しておいたそれに足をかけて登って行く。

 

 

何もないはずの空間を俺は上に上に駆け上がる。足元には結界が階段状に張られており、俺はその上を走っていた。怒りに我を忘れた妖怪はそんなことにはお構い無しに俺を追いかける。

 

 

ここで俺が後ろの階段を消せばこの妖怪は俺を追ってこられなくなるのだが、そうなっては本末転倒になってしまうのでそのまま妖怪を上に上におびき寄せる。

 

 

(……これくらいの高さでいいか)

 

 

十分な高さまで妖怪をおびき寄せた俺は疲弊した体に再び気を入れなおし渾身の結界を張る。振り返ると妖怪は目も前まで迫ってきている。恐怖に足がすくみそうになるが歯を食いしばり手をかざす。

 

 

「結っ!」

 

 

目と鼻の先、手を伸ばせば届く距離に再び閉じ込められた妖怪が結界の中で暴れまわる。体中に傷を負っているがそんなことには気にもせず、俺に向って飛び掛ろうとしている。

 

 

長くは持たない。俺は最後の仕上げに掛かる。

 

 

「これで終わりだ!」

 

 

そういって俺は、妖怪の足元の結界を解除した。重力に従い妖怪は地面に向って落ちていく。しかし、この程度の高度では地面に落とした程度で妖怪は死んだりしない。

 

 

……下が地面であれば。

 

 

ドスッッ

 

 

何かが肉を貫く音がした。結界の下で先程の妖怪が円錐状に作られた結界で胴体を貫かれていた。妖怪は、断末魔の声を挙げる間も無くわずかに手足を動かした後、だらりとそのままの体勢で力を抜いた。

 

 

 

俺はしばらく間様子を見て妖怪が動かないことを確認して、大きく息をはいた。

 

 

「うまく、いったぁ…」

 

 

心のそこから安堵の息を漏らす。俺の立てた作戦はこうだ。まず妖怪を囲むように薄い刃の結界と後ろに階段状の結界を張る。閉じ込めたまま階段の上に上がってもよかったが妖怪が警戒して上がってこなかったら意味がないので最初の薄い刃で警戒させておいていきなり逃げ出すことでおびき寄せる。十分な高さまでおびき寄せたら再び結界で閉じ込める。そして真下に丈夫な鋭い槍状の結界を用意して妖怪の足元の結界を解除する。

 

 

「ホント、ぎりぎりだったな……」

 

 

今居る場所から地面まで細い棒状の結界を張りそれにしがみついて一気に地面まで降りる。そして展開していた全ての結界を解除する。

 

 

「……はあぁぁぁぁ」

 

 

大きく息を吐いて地面に座り込む。実際この作戦、即席にしてはうまくいったが綱渡りだった。もし、妖怪が警戒せずに初めから薄い結界を無視して飛び掛ってきたら。もし、妖怪に少しでも早く追いつかれていたら。もし、落ちた妖怪が致命傷を負わずに生きていたら。自分はあの妖怪に八つ裂きにされていただろう。

 

 

……今だに応援の人間もやってこない。あのまま待ち続けていたら力が持たず死んでいた。本当に自分はギリギリ生き残った。大の字に転がり手足を投げ出す。顔だけ動かして血をがなして動かない妖怪を見る。

 

 

(ホント、何やってんだろう、俺……)

 

 

こんなに必死になって守ったものがただの田畑だ。もちろんそれは人里の人々の命を繋ぐ大切なものだ。それは十分に理解している。それを育てることも守ることも必要なことであると。そのために特異な力を持った自分が選ばれたのも、理解してる。

 

 

(けどなぁ……)

 

 

それでも、思う。何で俺がこんな目に合うのかと。力があるのは認める。それを活用するのもいい。だがだからと言ってこんな目に合ってほったらかしにされるのはいやだ。こっちは命を張っているのだ。もっと、大事にして欲しいし協力して欲しい。

 

 

実際のところ、外で働いているのは人間はひしがきだけではない。他の人間ももちろん働いている。身を守る術のあるひしがきが妖怪を抑える役目を負っているとはいえ襲われる危険は他の人間も同様にある。

 

 

応援にしても人里を守る退治屋多くはなくは臨機応変に動けるように里の中心部に居るため呼んで来るのにも時間が掛かる。博麗の巫女にいたっては神社が人里から離れているためすぐには呼べない。

 

 

つまるところひしがきの要望は現状ではないものねだりでしかない。ひしがきも何だかんだ言いつつもそれは分かっている。自分でなければ被害が出続けることも分かっているからこそ仕方ないと割り切りつつこの仕事を続けているのだ。

 

 

不便なところに生まれたものだと思いながら立ち上がる。人里からは数人の人がこちらに向ってきていた。ようやく来たかと手を振って呼びかける。

 

 

(……仕方ないよなぁ)

 

 

人里に人間は、自分の仲間だ。それに大勢の家族が居る。自分が頑張らないといけないのだ。そう幾度となく繰り返した自問自答の結論を言い聞かせる。

 

 

 

 

 

 

しかし、それがあんな結果に繋がるとはこの時は夢にも思わなかった。

 

 






作者「これにて完!」


ひしがき「おい!最後のフラグは!?」

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