幻想郷に中途半端に転生したんだが   作:3流ヒーロー

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復活ッッ!!

俺のパソコン復活ッッ!!

待っていた人、長らくお待たせしました。ようやく投稿できました。


フラグってのはどこに潜んでいるのか

 

 

 

 

「………いろはっ!!」

 

鬼と戦っているのがいろはだと分かった途端、俺の中のあらゆる余分な思考が消え去った。いろはを助けなければ。頭にあるのはそれだけ。さっきまであった不安もなにも消え去った。

 

鬼の背後からの渾身の一撃。ひしがきが無我夢中で鬼の背中に叩き込んだその一撃は、甲高い衝撃音と共に弾かれた。

 

■■■■■■■■ッッ!

 

鬼が振り向き様に腕を横に薙ぎ払う。ひしがきは地面にゴロゴロと転がりながらそれをかわした。

 

「…兄上!」

 

「いろは!無事か!?」

 

鬼を間に挟みいろはと顔を合わせる。幸いなことに見た限りではいろはには傷はなかった。ほっと息を吐いて安心する。どうやら最悪の事態は免れたようだ。

 

だが、状況は依然として最悪だ。

 

今の一撃、完全に不意をついた背後からの奇襲でも鬼には僅かにかすり傷程度しか負わせることが出来なかった。

 

(くそっ!!どうする!?一体こいつをどうすればいいっ!!?)

 

頭の中でこの最悪の状況から脱する方法を考える。少なくともいろはだけでも此処から逃がさなければならない。だがその方法が何一つ思いつかない。どうすればいろはを守りながらこの鬼と戦える?いや、例え一人であったとしてもまともに戦うなんて事は……。

 

(……まて、戦うだと?)

 

ちょっと待て。さっきまでいろははこの鬼と何をしていた。夢中になって鬼に突っ込んでいたがそれまでいろはは鬼相手に何をしていた?

 

逃げる?いや違う。鬼相手に逃げ切れはしない。すぐに追いつかれてしまう。では身を守っていた?それも違う。それこそ鬼相手には不可能だ。では一体何をしていた?導かれる答えは一つだった。

 

(……戦っていた、ってのか?)

 

おそらく頭領を含めた退治屋たちとは別々に行動していた可能性が高い。いろははまだ正式に退治屋になった訳ではない。指揮系統の取れた退治屋達と違ういろはは行動を共にはしていなかったはずだ。おそらく後から駆けつけたのだろう。とするならば俺が来るまでの間いろはは鬼相手に無傷で生き残っていたことになる。

 

一体どうやって生き残っていたのかは分からない。だが少なくともいろははおそらく戦える。いろはならば出来るかもしれない。今までのいろはの成長を見守ってきたからこそ分かった。

 

「結ッ!」

 

鬼を結界で覆う。こんなものすぐに破られてしまうが僅かな時間稼ぎには使える。

 

「いろは、来い!」

 

いろはの手を掴むとすぐに結界を張って鬼の上に上がる。すぐに鬼が結界を破り出てくる。鬼は周囲を見渡し俺達を探すが姿はない。すると鬼は一声あげると手当たり次第に周囲を壊し始めた。

 

予想通り相手はあまり頭が回らないようだ。それにどうやら標的を俺達へと定めて探している。とりあえず鬼が里の人を追いかけないことに安心する。だが何時までもこのままにしておくわけには行かない。

 

「いろは、聞きたいことがある」

 

「…なに?」

 

「お前、鬼と戦ったか?」

 

「…ん、少しだけ」

 

「どうやって?」

 

「…前に、教えてもらったみたいに、柔らかく」

 

「……受け流してたって事か?」

 

コクリといろはは頷く。俺は以前からいろはに相手の攻撃を受け流すように教えてきた。いろはは俺が教える前からその術を掴みかけていたため俺が多少助言をするとすぐにそれをマスターした。だが鬼の攻撃を捌けるまでになっていたとは、改めていろはの才能には驚かされるばかりだ。

 

「……………」

 

考える。いろはがそこまで戦えるならばまだ希望があるかもしれない。いきなりいろはを危険な目に合わせてしまうことに自分自身の力の無さが口惜しい。僅かな間、いろはを戦わせることへの抵抗が過ぎったがここで鬼をしとめなくては結局被害は増すばかりになってしまう。

 

「…いろは、もう一ついいか」

 

「…うん」

 

今更一緒に戦ってくれなどと言い訳めいたことを言うつもりはない。既にいろはは俺と一緒に戦うつもりでここにいてくれる。不謹慎だが、それに嬉しさと頼もしさを感じた。

 

「いろはは鬼を傷つけられたか?」

 

その問いにいろはは首を横に振って応える。

 

「……………」

 

考えろ。今まではずっと一人で戦ってきた。一人では無理でも、今はいろはがいてくれる。二人なら何かやれることがあるはずだ。考えろ。この状況を覆る方法を。鬼を倒すための術を。

 

相手は鬼。こちらは二人。相手の鬼は単純で知能が低い。行動はこちらに突進するか向ってきて腕を振るうしかしない。防御はないが硬くて並の攻撃では通らない。こちらは目くらまし程度の結界と僅かに傷を付けられる槍。そしていろはは鬼を傷つけられないが攻撃を流すことが出来る。

 

「………いろは」

 

「…うん」

 

「……今から兄ちゃんいろはに大変なこと頼むけど、やってくれるか?」

 

俺の言葉に、いろははすぐに頷いてくれた。

 

 

 

 

 

破壊を続ける鬼の頭上から、突然衝撃が奔った。それと同時にいろはが鬼の目の前に降り立つ。鬼はようやく見つけた標的を見つけると腕をいろは目掛けて振るう。その直前鬼の視界が黒く染まる。いろはは大雑把に振るわれた鬼の腕を僅かに体をそらすことで危なげなくかわす。

 

その時再び鬼の頭に何かが当たる。鬼は頭をふるって視界を覆っていたひしがきの結界を壊す。目の前にはいろはしかいない。再び鬼が腕を振るう。また直前になり鬼の視界が結界で黒く覆われる。いろはがかわす。鬼の頭上から衝撃が響いた。

 

視界がはれた先にいたのは、いろは一人。

 

鬼が再び腕を振るう。大振りの一撃。それは防ぐ術などなく、人間など当たれば肉片さえも残らずに砕け散るだろう。その一撃に対し、いろはは迫り来る拳に刀を添えて滑り込むようにかわす。直前に視界を封じられ目測の誤った一撃は大きく鬼の体勢を崩す。そこに加わる頭上の衝撃。それが何度も繰り返される。

 

■■■■■■■■ッッ!

 

咆哮。何時までも翻弄されている鬼が吼えた。怒りと共に、鬼が加速する。

 

 

 

 

 

ひしがきは鬼の周囲に不可視の結界を展開し、常に鬼の死角に回り込んでいた。いろはに向かって猛攻し続ける鬼の死角を取るのはそれほど難しくはない。

 

いろはを囮にする。ひしがきにとってこれは苦渋の決断だった。確かにひしがきでもかわす事に専念すれば鬼の攻撃をかわす事は出来る。しかし、攻撃にまで手を回す余裕はないしいろはでは鬼を傷つけることは出来ない。ならば少しでも攻撃の通る方を遊撃にし、もう一人を囮にする事は当然の流れと言える。

 

だが自分を慕ってくれる妹を死地へと向わせることはひしがきにとって何よりも耐え難いことだった。自分を気遣ってくれる数少ない人間にして家族であるいろははひしがきにとっては目に入れても痛くないほどに愛おしい存在である。

 

槍だけをいろはに渡し自分が囮になる方法も考えたが、いろはでは不可視の結界を足場に移動しながら攻撃し続けることが出来ない。鬼の攻撃に専念しなければならない俺はいろはの動きに応じて結界展開する余裕はない。かといっていろはに見えるように結界を張っては鬼に気づかれてる可能性がある。

 

故にひしがきはいろはを鬼と対峙させた。ひしがきに出来ることはいろはが無事なうちに一刻も早く自分の役割を終えること、だった。

 

「……………」

 

にもかかわらずひしがきは目を見開いて、今日何度目になるか分からない驚愕をしていた。それは時間にして僅かに数秒ほどだっただろう。しかし、すぐにでもいろはを無事に助けたいひしがきにとってはその数秒はあまりにも惜しい時間だ。

 

だが、そんなひしがきの焦りと心配を忘れさせるほどにそれは強烈だった。圧倒的とも言えるほどの力で破壊を撒き散らす鬼。それはさながら局地的な嵐だ。その嵐の中で、いろはが立っていた。

 

僅かにかすっただけでも致命傷になるだろう一撃をいろははギリギリでかわす。それはひどく危うく紙一重に見える。だがそうではない。いろはは初めは大きく鬼の攻撃をかわしていた。だが今は鬼の攻撃を見切り、徐々に無駄な動きをそぎ落としていた。更に振るわれる鬼の腕に刀を添えるようにいなし、あるいは力を利用し凌いでいた。ひしがきはいろはの姿に、吹きすさぶ風の中でも倒れない一輪の華を、荒れ狂う風の中で舞う花弁を幻視した。

 

よく聞く使い古された言葉、柔能く剛を制すという言葉がある。その意味としては柔らかくしなやかなものが固く強いものに勝つというものだ。戦いの中でいろはは飛躍的に成長して鬼を捌く。それはあまりにも劇的であまりにも強烈だった。特にひしがきにとっては。

 

「……っ!」

 

我に返ったひしがきは慌てて死角へと移動する。信頼と期待、嫉妬と不安。相反する感情が自分の中で渦巻くのをひしがきは感じていた。よりにもよってこんな時にそんな感情が出てきたことにひしがきは自分自身を恥じた。それを振り払うようにひしがきは槍を突き出した。

 

ひしがきの槍は寸分たがわずにその箇所に当たる。しかし鬼の体は全身が鋼の様に強靭でビクともしない。それでもひしがきは続けざまに槍を放つ。焦るひしがきの目には、いつの間にか鬼ではなくいろはが映っていた。

 

 

 

 

いろはは天才である。一つの事から十以上を学びそこから更に新たな事を導き出す。ただこれまでいろはに足りなかったのは実践の数。ひしがきとの手合わせはあくまでも模擬戦。それは本物の戦いに及ぶはずもなくいろはの実力を十分に引き出せなかった。

 

故に鬼との戦いはいろはの才能をこれまで以上に引き出すきっかけとなった。鬼が一振りする度に、いろはの一太刀ごとに、いろははその才能を開花させていった。いろはの才能はひしがきを超えている。ひしがきにとって予想外だったのはその才能が予想をはるかに上回っていたことだ。

 

ひしがきの槍は既に達人の域へと達している。鬼に気づかれずに高速で3次元的に移動しながら寸分の狂いもなく槍を放つその技量は十代半ばの少年には十分過ぎるほどだ。才能の乏しいひしがきが此処まで来るのに、一体どれ程の血の滲む思いをしたかわからない。身に着けるしか生き残る術がなかったとは言え、それはひしがきが人生をかけて積み上げてきたものだった。

 

それを容易く越えようとするいろはの才に、ひしがきは少なくない動揺をしていた。それはこの場において浅ましい感情かもしれない。しかし、それを責めることは酷というものだろう。自分が命がけで築いてきたものがあっさりと超えられる。それを才能の一言でしか片付けられないのだから。

 

「………っ!!」

 

それでもひしがきは、槍を放つ。

 

 

 

 

 

■■■■■■■■ッッ!?

 

鬼が腕を振るい、いろはがそれをかわし、ひしがきが槍を放つ。それがどれほど続いただろうか。今まで怒りに吼えていた鬼が、初めて苦悶の声を上げた。ひしがきの槍が鬼の頭部、角にヒビを入れたのだ。

 

ひしがきが幾度となく鬼の死角に回り槍を放ち続けていた狙いはここだった。いつか読んだ書物にあった、角は鬼の力の象徴・源であると。その角目掛けてひしがきは同じ箇所を寸分の狂いもなく突き続けたのだ。

 

そしてついにひしがきの槍が鬼の角に亀裂を生じさせた。

 

■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!

 

此処に来て初めて鬼は頭上にいるひしがきに気づいた。振り返った鬼はひしがき目掛けて腕を伸ばすがひしがきはすぐに手の届かない今までよりも高い場所に結界を張り鬼から逃れる。

 

「いろはっ!離れていろっ!」

 

鬼の攻撃を避け続けていたいろははかなり疲弊していた。そもそも実戦経験が極端に少ない上にまだ子どもだ。いくら天賦の才があろうと身体的にも精神的にも体力不足なのだ息を切らしていたいろはは言われた通りすぐに鬼から離れて身を隠す。

 

ひしがきに標的を変えていた鬼は離れるいろはに目をくれずひしがき向かって吼える。此処までくればあとは自分の仕事だ。おそらくはあと数回で鬼の角を砕くことが出来る。それをあとは一人でやらなければならない。

 

(十分だ。いろはがいてくれて、本当に助かった。)

 

いろはには、本当に救われる。今まで支えになってくれたこともそうだが、今回は実際に戦いの中で助けられた。いろはの才能に暗い感情が沸いてきてしまったが。自分を純粋に気遣う妹が相手なのだ。兄として少し情けなくもあるが、頼もしく思うべきだろう。

 

とにかくいろはの助けに報いるためにも、ここで俺が鬼を倒す!

 

「いくぞっ……!」

 

ひしがきが鬼に向って上から落下する。まっすぐ突貫するひしがきに鬼は正面から迎え撃とうと拳を突き出す。が、それは寸でのところでひしがきには届かない。

 

鬼の射程距離の一歩外で結界を張ったひしがきは直前で止まる。ひしがきのフェイントで体勢を僅かに崩した崩した鬼の隙を逃さずに、ひしがきは槍を繰り出す。

 

■■■■■ーーーーーーッッ!

 

鬼の角に新たな亀裂が走る。突き出された拳を足場にひしがきは再び上に飛び上がり鬼の追撃から逃れる。

 

鬼は上に逃げるひしがきを追おうと体を深く沈める。ひしがきは鬼の体勢から次の行動を察し備える。鬼が跳躍する。地面を踏み砕き砲弾と化した鬼は一直線にひしがきへと向う。

 

しかし、その軌道は突如ひしがきから外れる。鬼の軌道から曲線を描くように展開された結界が鬼の跳躍を逸らしたのだ。鬼はそのまま勢い余って上空へと跳んでいく。その巨体からは想像もつかないほどに飛び上がった鬼はやがて勢いを失い重力に従い落下し始める。

 

鬼が落ち始める。その前に追いついたひしがきが鬼を狙い撃つ。しかし鬼は身動きの取れない空中で力の限り暴れる。錐揉みしながら落下する鬼にひしがきの槍が弾かれてしまう。

 

「チッ…!」

 

落下する鬼は手足をバタつかせて暴れている。その鬼が突如何かに激突し落下を止めた。地面はまだはるか下にある。鬼を止めたのはひしがきの結界。鬼の体が結界に受け止められたことで一瞬だが動きを止める。

 

「シッ!」

 

再びひしがきの槍が角をとらえた。そしてすぐに結界を消し鬼は落下を始める。ひしがきは落下する鬼に追いすがり死角から一撃を加えるという荒業をやってのけていた。何回かは鬼に結界を砕かれて失敗してしまったが更に数回ひしがきは角を突いた。そしてとうとう地面に到着した鬼は激しい轟音とともに激突した。

 

途中結界で減速したために落下自体のダメージ大したこともなく鬼は立ち上がる。鬼はもはやひしがきを自らの脅威として明確に認識していた。頭部から自分の象徴たる角が限界近くまで破壊されているのを感じた鬼はすぐさまひしがきを探して上を見上げる。その時、鬼の真下から突き上げるように槍が飛び出した。

 

ひしがきは地面に鬼が落下した際に気づかれないよう鬼と一緒に地面へと降り立っていた。そして鬼が上を見上げた瞬間、全身をバネにして角を突きあげた。そして幾度となく同じ個所を衝かれた槍は、とうとう鬼の角を穿った。

 

「おおおおおおおおおおおっ!!!」

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッッ!!!!??

 

これまでとは違う鬼の声が大きく響いた。それは紛れもない悲鳴。太く雄々しい一本角を鬼は折れた根元を抑え苦悶の声を上げる。折れた角からまるで空気が抜けるように鬼の妖力が激減していくのがわかる。

 

妖力とは読んで字の如く妖怪の力。それが抜けるということはあらゆる面において弱体化することを意味する。ひしがきは鬼の妖力が抜け切ると全力での結界を張った。

 

「……結ッッ!!!」

 

 

――――――――――――――――………………………………。

 

 

 

ここまで里を、人を、恐怖に揺るがせていた鬼の声はもう聞こえなかった。結界が解かれるとそこには鬼が力なく倒れていた。妖力の大半を失ってもなお消滅しなかったのは、さすがに強靭な肉体を持った鬼と云ったところか。とにかく鬼は、ついに力尽きた。

 

「……………」

 

ひしがきは無言でその場に腰を下ろした。人生で何度目かの九死に一生を得た感覚。しかも戦いという点においては最大の敵を倒したとは言え、喜びよりも疲労が勝っていた。大きく息を吐く。子供には似つかわしくない疲れた仕草に少しづつ生の実感がわいてきた。

 

「…兄上?」

 

ゆっくりとひしがきが顔を上げるといろはがこちらを心配そうに見ていた。それを見てひしがきは少しだけ疲れたように笑った。

 

「……いろは、俺たちの勝ちだ」

 

ひしがきがそういうといろはは一瞬驚いた後に満面の笑みを浮かべた。

 

「…うん!」

 

嬉しそうにこちらに駆け寄ってくるいろはを迎えようとひしがきは槍を杖にして立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

駆け寄ってくるいろはを、横から何かが吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

「……………………………………………………………………………………え」

 

突然の出来事に思考が追い付かない。吹き飛ばされたいろははそのまま地面にぐったりと倒れて動かない。そしてゆっくりといろはから、赤い何かが広がっているのが見えた。

 

「」

 

言葉が出ない。なぜいろはが吹き飛ばされたのか。何がいろはを吹き飛ばしたのか。そして、いろはから広がっているアカイものはいったい何なのか。

 

―――――――――――――――――――――――――――ッッ!!

 

後ろで何かが叫んだ。もはやひしがきの耳にそれは音として聞こえてはこなかった。ゆっくりとひしがきがそちらに顔を向けるとそこには力を失い倒れたはずの鬼が立っていた。

 

角を折られ妖力の抜けきった鬼にはどうやってか知らないが再び妖力が満ちていた。折れた角からさながら蒸気機関の様に妖力を垂れ流しながらも、しかしそれ以上の勢いで妖力をどこからか満たしながら鬼はひしがきの前に立っていた。鬼とひしがきの視線が、再び交錯する。

 

「   ぁ 」

 

ひしがきは理解した。

 

なぜ鬼が立ち上がっのか。なぜ妖力が戻っているのか。どこから妖力が沸いているのか。何わからないまま、今一番知りたかったことをひしがきは理解した。

 

――――ダレガイロハヲコンナメニアワセタ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「                         オマエカ――。」

 

 

 

 

 

ひしがきから、黒い何かが溢れだした。

 

 

――――――――――――――――ッッ!!?

 

その黒い何かは、湧き上がる妖力ごと鬼を押し潰す。一瞬にして鬼は再び妖力に満ちたその四肢を砕かれ地面に叩き付けられた。ソレはそれだけに留まらず徐々に鬼の体を蝕んでいく。それは呪うとか浸食するとかの次元ではない。死が鬼の体を貪っていた。

 

そして今度こそ鬼は断末魔の声さえ上げずに死んだ。人里で破壊と死をまき散らした脅威は、その死体さえ残さずに完全に消滅した。

 

「                ――………。」

 

黒い何かは鬼を貪りつくすとズルズルとひしがきの中に戻っていった。そしてソレが消えた後に、ひしがきは糸が切れたようにその場に倒れた。

 

 

 

後に残ったのは破壊の跡と静寂のみ。どこかで賢者が酷薄に口を歪めた。

 

 

 

 




長い期間が空いてしまいました。

これからは何とか週一ペースで投稿していくように頑張ります。

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