幻想郷に中途半端に転生したんだが   作:3流ヒーロー

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ギリギリ、投稿できた。

長かったけど、ここに来てようやく異変と関わらせることができそうだ。

次はもっと早く投稿できると思います。




不安ってのは一度考えると中々消えない

 

 

 

 

 

――――――――フォン……

 

 

薄暗い竹林の中、何かの音が空気に解けるように伝わって来る。

 

 

――――――――フォン……

 

 

空気が僅かに振動している。と言うよりもまるで波紋の様に音に波が広がっている。

 

 

――――――――フォン……

 

 

それは、とても透明で、とても澄んでいて、とても静かな音となって竹林に響いている。

 

その音の中心で、ひしがきは槍を振るっていた。その槍が振るわれる度に、竹林に先ほどの音が一つ、また一つと伝わっていく。

 

ひしがきの槍が、何もないはずの空間を突く度に、やや遅れて澄んだ音が波紋となって広がっていく。その音は、どこか神秘的で、振るわれる槍と共に霊妙なる音色となっていく。

 

 

 

優れた武は、時に舞と同じに見られることがある。それはそこに一連の流れがあるからだ。

 

武舞、という言葉がある。その歴史は長く、舞うという概念はシャーマニズムにも通じる。身体を動かすことで認識をより深めながら、力強い存在証明の一体感を高めることができる。

 

時にそれは神社などの神前において奉納として神々に捧げられた。また時に武将が戦いに向かう際には士気高揚のために舞ったという。

 

 

しかし、ひしがきは槍術など知らない。ひたすらに突くと言う行為を繰り返し試行錯誤したひしがきの槍は型に嵌った武術ではなく、戦いの中で磨かれた戦士の技だ。

 

粗野で乱暴な戦いの中の技に、型の武術の理合はほとんどない。

 

だが、長い間、多くの戦いの中で磨かれたひしがきの槍は、闘いにおけるの一つの完成をみせていた。そして、座禅を組み自分の中深く潜っていたひしがきは、無想と言う武の一つの境地へと至っていた。

 

そして最後に、ひしがきの持つ槍。『天逆鉾』。始祖神が用いた『天沼矛』の別名。紛れもなく正真正銘の神代の槍。

 

無心となり、磨かれた技を持って、神槍を振るう。それ自体が、もはや一つの儀式となる。

 

ひしがきが振るう槍。

 

槍が奏でる音。

 

 

ここに他の誰かがいたとしたら、その光景に目を奪われただろう。神にでもなく、闘いにでもなく、己にでもない、誰が為のものでもない武舞。その何処までも透き通った純真な音と光景に。

 

もしここに神に名を連ねる者がいたとしたならば、喉から手が出るほどにひしがきを欲したに違いない。

 

この武舞に、神への信仰が加わったとあれば、それはそのまま神を讃える大儀式となり、一時的にとは言えその神はただ信仰を得るより遥かな力を得る。

 

もっとも、ひしがきは神など信仰するつもりなど微塵もないだろうが。

 

 

「……………」

 

 

突然、ひしがきは槍を振るう手を止めた。

 

そしてある方向に向き直ると油断なく戦闘態勢へと構えた。意識を鋭く向けていつでも臨機応変に対応できるように備える。

 

しばらくひしがきは無言である一点を見据えたまま構えていた。

 

 

「くっく、怖い怖い。そんなに睨まないでくれよ」

 

 

ケタケタと神経を逆撫でするような笑い声と共に、薄暗い竹林の中から、そいつは姿を現した。

 

黒髪に白と赤のメッシュ。小さな二本の角。瞳の色は赤色。 服装はワンピースのようなもので、胸と腰には上下逆さになったリボンを付けている。

 

近く訪れるであろう、輝針城の黒幕である妖怪、天邪鬼。鬼人正邪がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

「くくくっ」

 

「……………」

 

警戒して構えるひしがきに、鬼人正邪は楽しそうに舌を出して嗤っている。一体何が楽しいのか、その顔は愉悦に歪んでおり酷く醜悪だ。

 

鬼人正邪。

 

博麗霊夢の代で起きた幻想郷での異変。様々な思惑が交錯する異変の中で、唯一純粋に悪意だけで異変を起こした妖怪。

 

静かに警戒を強めるひしがきに、目の前の天邪鬼は更にその顔を愉悦に歪める。

 

……付き合いきれない。目の前の妖怪が何の目的でここに来たかは知らないがはっきり言って目の前の妖怪にはまったくもって関わり合いたくない。

 

ひしがきは予備動作抜きで結界を展開する。

 

一瞬にして結界は正邪を覆い捕えた。どれだけその内に悪意を持とうが所詮その身は天邪鬼。今のひしがきにとってはそれほどまでに脅威ではない。

 

無論ひしがきもいきなり正邪を滅するつもりはない。関わりたくないだけのひしがきは、ある程度加減して正邪に結界を張った。とは言えもう二度とここへは来ない様にそれなりの手傷は負うだけの力はある結界だ。

 

ひしがきとてこの数年間、紛いなりともその力に磨きはかけてきている。その力だけで見れば、正邪にこの結界を破壊することは不可能だ。だが、

 

ビキッ

 

「……何?」

 

突如結界に無数の亀裂が走り、まるで耐えきれない様に崩壊した。その中で、全く先ほどと変わった様子のない鬼人正邪が嗤っている。

 

「くっくっく、どうした?その程度か?」

 

「……………」

 

力加減を間違えたつもりはない。先ほどの結界はこの程度の妖怪相手には十分に有効な結界だった。にもかかわらず目の前の妖怪には傷一つない。

 

そして、先ほどの結界の崩壊。あの結界の壊れ方は…

 

再びひしがきは結界を展開する。今度はより強力な結界を。下手をすれば正邪をそのまま退治しかねない程力を込めた結界を張る。

 

ビキッ

 

しかし、その結界もまた同じように崩れた。

 

「まぁ、この程度ならすんなりひっくり返せるもんだなぁ」

 

ケタケタと正邪は楽しそうに嗤っている。

 

「……何も力ずくで結界を壊しているわけじゃないようだな」

 

ひしがきの言葉に、ん?っと嗤っている正邪が顔を向ける。

 

「何でもひっくり返す程度の能力、だったか?」

 

続くひしがきの言葉に、初めて正邪の顔に愉悦以外の感情が混ざった。

 

「結界ってのは内と外を隔てる術。どんな結界だろうとその概念は変わらない。だが、当然結界にもその規模に限界がある。俺の結界の様に、結界内のモノを呪い殺す術は対象が結界内に限定されることでその効果を発揮できる。結界内に収まれば、数に関係なく等しく呪える。―――結界という、区切りに収まれば」

 

もう、正邪の顔に愉悦はない。ひしがきはさらに言葉をつづける。

 

「例えば、結界の内と外の概念がひっくり返ってしまったら、俺の結界はその力の容量を超える。区切られた領域以外の世界を対象とする結界なんて神様にだって創れはしない。その結果、俺の張った結界は自然と崩壊する。……結界を使う者にとってお前はある意味天敵だな。だがタネがわかれば対処法も分かる。お前の能力でもひっくり返せない規模の結界を張るか、それか直接本体を叩けばいい」

 

「………チッ。あ~あ~、自分の力が利かない相手に慌てふためく姿を期待したのに。そうすんなり世の中をひっくり返せないもんだなぁ」

 

つまらないといった様子で正邪は不満げに息を吐く。

 

「その程度の小細工で世の中をひっくり返せると思っているならやめておけ。お前の力は特異であってもこの幻想郷においてはなんら脅威にはならない。異変を起こすのは勝手だがな」

 

「そう言うわけにもいかない。我ら力弱き者たちが如何に虐げられていたか、お前なら判るんじゃないか?」

 

正邪は口を歪めてこちらを煽る様に聞いてくる。

 

「……妖怪と一緒にされても困るがな」

 

「人間だろうと妖怪だろうと関係ない。なぁ、博麗の代理。強者が力を失い弱者がこの世を統べる。そんな世界を作りたいと思わないか?」

 

「……………」

 

「お前のことは知っている。その力が弱い故に、随分と虐げられてきたそうじゃないか。どうだ?私たちの仲間にならないか?」

 

何も言わないひしがきに、心が揺れていると思った正邪はひしがきを仲間に誘った。

 

それは人の心を入り込むような怪しい言葉だった。悪意に満ちているとわかっているのに、それでも抗いがたい誘惑。人の心の隙間を開きや悪意を誘発させる。ある意味で妖怪らしい妖怪。

 

ひしがきは一度目を閉じてから正邪を見る。その目は冷ややか、と言うよりは呆れていると言う感じだ。

 

「一度、太陽の畑か博麗神社、それか地底にでも行ってくるといい。自分の言ってる事がどれだけ夢物語かわかるだろうさ」

 

弱者が強者を支配する。それはありえないことである。

 

幻想郷はもちろん外の世界であってもそれは同じだ。何故なら、強者が弱者を統べるというのは間違いなく一つの真理だからだ。

 

平等、自由、均等、いくら言葉を並びたてようと補足しようとそれは変わらない。力の種類が変わろうとも、優れたものが上に立つというその構図は変わることがない。

 

人間でもそれは同じ。ましてそのまま力の大きさがモノを言う妖怪ならなおさらだ。

 

霊夢か風見幽香相手に痛い目を見るか、地底の一癖も二癖もある能力を持つ妖怪に弄ばれるかすれば、それがどれだけ無理難題か嫌でもわかる。

 

「俺に関わるな。仲間になる気もなければ敵対する気もない。好きにすればいい」

 

話はこれで終わりだ。そう言ってひしがきは正邪に背を向ける。これ以上話す気はない。話すこともない。

 

「そうか……残念だな」

 

正邪もまた、これ以上の勧誘は無駄だと理解したのか引き下がった。

 

「だがなぁ、博麗の代理……」

 

しかし、正邪は背を向けて去っていくひしがきに投げかける。

 

「お前の力……今のままでは惜しい。我らの手に、力がある限り…いくらでもお前も強くなれる」

 

「………?」

 

ひしがきは僅かに違和感を覚えた。恐らく、正邪の言う力とは正邪が騙し利用した少名針妙丸の扱う鬼の秘宝「打ち出の小槌」の事だろう。

 

だが如何に鬼の秘宝とは言え鬼の魔力が尽きれば何の意味もない。代償は正邪に及ぶことはないとは言えそれで企てが旨くいくと考えているならやはり甘く見ていると言わざる得ない。

 

だが、正邪の言葉に何かひしがきは胸騒ぎを感じた。

 

博麗の勘、と言うわけではない。生まれ持っての直感などひしがきは持ってない。それは自分より各上の相手と戦ってきたことによって培われた危機察知能力とも呼べるものがひしがきに警戒を呼び掛けていた。

 

思わず振り向いたひしがきの目に映ったのは、僅かに俯き静かに嗤う鬼人正邪。最初と舌を出して醜悪に歪んでいた時と比べ、今は小さく口が弧を描くだけ。

 

それなのに、なぜこんなにも不気味に見えるのか。

 

「じゃあな、博麗の代理。……いや、ひしがき。次に会えるのが楽しみだ」

 

そう言って、正邪は暗い竹林の中に消えていった。

 

「……………」

 

何か、言いようのない不気味な影が、ひしがきの心を覆っていた。

 

鬼人正邪が起こす異変、輝針城異変は、特に何の問題もなく解決するはずだ。正邪の企ては、霊夢たちによって阻まれる。そのはずだ。

 

そう言えば、彼女たちはどうしているだろう。

 

ひしがきの脳裏に、先日会った妖怪の少女たちが過る。あれから結局一度も湖には行っていない。彼女たちとも、出来るだけ関わらない様にしようと、そう思っている。

 

「……………」

 

輝針城異変では彼女たちも霊夢たちと敵対する。だがそれほど彼女たちに被害が出ることはない。弾幕ごっこは、それほど危険なものではない。一時的に狂暴化しようと問題はない。異変が解決すればもと通りだ

 

ひしがきは頭の中で輝針城異変について何度も考察する。これまでの異変と同じ、何も問題はないはずだ。

 

それでも、何度思い返しても、最後に見せた正邪の気味の悪い微笑みが、頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







次回はいよいよ輝針城となります。

やっと異変が書けます。これまでも異変は原作通りでしたが、今回の異変はオリジナル要素も多数入れていく予定となります。

あと個人的に正邪のゲス顔はかなり好きです。


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