幻想郷に中途半端に転生したんだが   作:3流ヒーロー

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よっしゃ!

今回は早く投稿できた。





マイペースってのは必ずしも良い言葉ではない

 

 

 

 

 

 

幻想郷が騒がしくなるのを、ひしがきは感じていた。

 

今頃は、妖怪があちこちで暴れて騒ぎを起こしているだろう。道具たちが勝手に動き出しているのが散見されているだろう。

 

幻想郷中に散らされた鬼の秘宝、打ち出の小槌の魔力。その魔力を受け取ってしまった妖怪たちは狂暴化し、魔力の影響を受けた多くの道具たちは付喪神へと変化する。

 

空を見上げれば、そこには不気味な嵐が渦巻いている。その中心には、おそらく天から逆さに突き出したように輝く城が聳え立っているだろう。

 

 

輝針城。

 

 

彼の一寸法師の末裔が、欲に駆られて打ち出の小槌に願い創り上げた逆さ城。鬼人正邪に騙された少名針妙丸によって、幻想郷に顕現した巨大建造物。

 

「……………」

 

空を見上げるひしがきは、禍々しい嵐の内にあるだろう城を見つめる。もっと言えば、そこにいるであろう妖怪、天邪鬼・鬼人正邪を。

 

今頃は、霊夢達も動き出していることだろう。霊夢、魔理沙、咲夜…そしていろはもまた、この異変を解決するべく行動を起こしているだろう。なら、この異変は解決する。彼女たちにまかしておけば、何も心配することはない。

 

「……………」

 

それなのに自分はまだ、不安を拭えずにいる。安心できずにいる。自分でも一体何故こんなにも落ち着いていられないのか分からない。

 

胸の中で渦巻く何か。得体のしれない気味悪さが、ねっとりとこびり付いているかのようだ。

 

「………考え過ぎだ」

 

頭を振って思考を飛ばす。どの道、この異変に自分から関わるつもりなどない。全て彼女たちに任せれば問題はないのだ。

 

「さて、どこに行くか……」

 

彼女たちがあの嵐の中に行くまで、行くであろう場所は3ヵ所。わかさぎ姫のいる霧の湖。蛮奇のいる人里の近郊。影浪のいる迷いの竹林。

 

ならば自分はこのまま魔法の森にいた方がいいだろう。下手に移動して霊夢以外に見つかると碌なことにならない。

 

「………さっさと解決してくれよ」

 

ここにはいない霊夢達に向かって、小さなエールを送る。この異変が終われば、きっとこの不安も解決するだろう。

 

ひしがきはそのまま小屋の中へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

博麗神社。

 

ひしがきの予想通り、現博麗の巫女である霊夢は既に異変を解決するべく行動を起こして、

 

 

「………ふぁ~~」

 

 

……いなかった。

 

片手に箒を持ちながら口元を押さえて呑気に欠伸をしている。はたして博麗の巫女として、異変に対する緊張感など、この巫女は持ち合わせているのだろうか?

 

数々の異変を解決し方々から信頼も厚い霊夢であるが、しかし未だ何の行動も起こしていなかった。

 

「霊夢」

 

神社の方から霊夢を呼ぶ声がする。霊夢が振り向けば、そこには霊夢の育ての親である先代巫女がいた。もっとも、彼女が先代巫女であった事実は既に八雲紫によって里の人間からは認識できないため、あまり知られていないが。

 

「母さん、どうしたの?」

 

「…どうしたの、じゃないだろう?」

 

先代巫女は、自分が育てた愛娘のマイペース振りに軽く溜息を吐いた。

 

「わかるだろう。異変が起こっているぞ」

 

「ん~、そうね…そのお祓い棒に任せちゃダメかしら?」

 

霊夢は先代の持つお祓い棒を指さして言った。ここ最近ひとりでに動きまわって妖怪を退治しようとしているお祓い棒は、先代の手の中でブルブルと震えている。先代が手を放せば、また勝手にどこかへ行ってしまうだろう。

 

再び先代が小さく息を吐いた。

 

と、同時にお祓い棒を持つ手に力を込める。ミシッ、と言う音と共に振動していたお祓い棒がとたんにおとなしくなる。

 

博麗の持つこのお祓い棒は、神木から切り出された物に儀礼的な術を施した由緒あるお祓い棒で妖怪とも打ち合えるほどの強度を持っている。それを握るだけで軋ませ黙らせるとは、現役を退いたとはいえやはり博麗の先代巫女。かつてルーミアをその身一つで圧倒した実力は伊達ではない。

 

「そろそろ行きなさい」

 

「…ふぅ。仕方ない、行くとしますか」

 

母に言われて漸くその気になったのか、霊夢は箒を置くと先代からお祓い棒を受け取る。

 

「お~~~い!」

 

「あら?」

 

頭上からする声に霊夢が空を見上げると、魔理沙が箒に乗ってやって来た。

 

「魔理沙、来たの?」

 

「へへへっ、そろそろ霊夢が重い腰を上げるころだと思ってな。異変ときたら首を突っ込まずにはいられないぜ!」

 

帽子を押さえて霊夢の横に魔理沙が降りる。その手には既に八卦炉が握られている。八卦炉は既に魔力が溜まっているのか、赤く光っている。

 

「魔理沙、その八卦炉どうしたの?」

 

「ああ、こいつか?最近調子がおかしくてさ。勝手に妖怪に向かって火を噴いたりするんだよ。まぁ、火力が前より上がってるし、面白いからそのままにしてる」

 

「ふ~ん、魔理沙の八卦炉もそうなの」

 

「ん?もってなんだ?」

 

「私のお祓い棒も最近勝手に動き出しては暴れてるのよ」

 

「へぇ、そうなのか。それにしてはあんまりいつもと変わってないな」

 

「母さんに釘を刺されたばっかりだからね」

 

「あ~、霊夢の母ちゃん怖いもんな。あの迫力に睨まれたらお祓い棒も大人しく「久しぶりだな魔理沙」うおわっ!?れ、霊夢の母ちゃん!?ど、ども久しぶりです!」

 

今まで気づいていなかったのか、突然先代から声をかけられた魔理沙は大きく仰け反った。

 

この厳格な雰囲気を纏う先代が苦手なのか、魔理沙は先ほどとは打って変わって恐縮した様子だ。

 

「おい霊夢、お前の母ちゃんいるならいるって言えよ(ボソボソ)」

 

「なによ、そんなの最初から気づかない方が悪いんでしょ。と言うか本人を前に堂々と耳打ちするもんじゃないわよ(ボソボソ)」

 

「………」

 

目の前の二人に先代は本日三回目の溜息を吐く。別に咎めるつもりはないのだが、かつて妖怪と殺伐とした戦いを繰り広げた身としてはもう少し異変に緊張感をもって挑んでほしい。

 

とは言えこの二人はいつのこの調子で異変に向かって行っては解決してしまうのだからどこか不安を覚えつつも何も言えずにいるのだが。

 

「…霊夢、魔理沙」

 

石段の方から二人に声がかかる。そこには霊夢達に向かって歩いているいろはがいた。

 

「お、いろはも来たか…っていろは、なんか背中の刀震えてないか?」

 

「…ん、ちょっと前からこんな感じ」

 

「いろはの刀も、か。…これも異変の影響かしら。この分だと私たちだけじゃなさそうね」

 

「ああ。それと、ここに来る前にいろいろ話を聞いたんだけどさ、なんだか妖怪たちも幻想郷のあちこちで暴れてるみたいだぜ。中には今まで大人しかった筈の妖怪まで暴れまわってるらしい」

 

「……ん~、それだとちょっと的が絞りずらいわね。一緒に行動してたら時間が掛かりそう。手分けして怪しい所を探しましょう」

 

「…ん。わかった。じゃあ私は里の方に行ってくる」

 

「私は湖の方で妖怪が暴れてるらしいからそっちに行って来るぜ」

 

「そう。じゃあ私は…竹林の方のでも行ってみようかしら。何かわかるかもしれないし」

 

テキパキと役割を決めた三人は素早く行動に移った。

 

「よっしゃ!私が一番最初にこの異変の黒幕にたどり着いてやるぜ!」

 

魔理沙はそう言うやいなや箒に飛び乗って湖の方へ飛んでいった。

 

「…それじゃあ、霊夢。また後で」

 

いろはもまた里の方へと駆けていく。

 

「さてと、それじゃあ母さん、行ってくるわ」

 

「ああ、気をつけてな」

 

こうして博麗の巫女、博麗霊夢もまた異変解決へと動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

禍々しい妖気が渦巻く嵐の中。逆さ城の先、天辺の屋根に鬼人正邪は立っていた。

 

逆さの城に逆さに立ちながら、鬼人正邪は幻想郷の空から見上げるように幻想郷の土地を見下ろしている。

 

その顔は歪んでいる。見下し、嘲り、蔑み、卑しみ、侮り。そう言った相手を貶める負の感情からなる歪んだ嗤い。愉快犯の様に翻弄し弄ぶ事を喜ぶその顔は不気味を通り越して寒気がする。

 

「くくくくくっ」

 

今頃自分の足の上の城中では小人族の少名針妙丸が忙しくせっせと動いているだろう。それを思うだけでも自然と口は弧を描き笑い声が漏れる。

 

「もうすぐ、もうすぐだ」

 

この安定した幻想郷をぶち壊し、自分がこの世界を思うままに支配する。その時が、もうすぐ訪れようとしている。

 

そう、鬼人正邪は確信していた。

 

「くくくく、ククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククククッ」

 

正邪の周囲に漂っていた禍々しい妖気が、その性質を変える。

 

それはより禍々しく。

 

より凶々しく。

 

より毒々しく。

 

より驚驚しく。

 

 

それは生き物にとっては天敵ともいえるモノ。あらゆる命を脅かす悍ましき、忌むべき力。

 

 

―――生命を、貪る呪い

 

 

「……ナァ、ヒシガキ。ソノトキガタノシミダロウ?」

 

鬼人正邪はこの幻想郷で唯一、己が同類(・・)に向かって言葉を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






今回はひしがき以外のキャラに多く焦点を当てた話になりました。

……むずい。なんか書いてるうちにキャラの性格がだんだん迷子になっていく感じがしてしょうがない。やっぱり自分で作ったひしがきやいろはは書きやすいですね。

今回いろははちょっとしか出てきませんでしたが異変中では丸々いろは中心の話もあります。そこで、全てではありませんがひしがきとの確執の理由も出す予定です。

もちろん草の根たちにもスポットを当てていきます。


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