幻想郷に中途半端に転生したんだが   作:3流ヒーロー

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大変遅くなりました。何とか年を越す前に投稿することができました。

来年も頑張って投稿していきます。





嫌な事って急に思い出すよね

 

 

 

 

 

 

霊夢達がそれぞれの場所に移動した後、一番最初に目的地の霧の湖に到着したのは魔理沙だった。

 

「よっし!着いたな。さて、暴れてるっていう妖怪はどこだ?」

 

魔理沙は湖の上から伝え聞いた件の妖怪を探す。湖は相変わらず霧で覆われており、視界はそれほどよくはない。

 

魔理沙は湖を飛んで探すが、妖怪が暴れているような気配は感じない。

 

「ん~、一体どこにいるんだ?早くしないと霊夢やいろはに先を越されちまう」

 

負けん気の強い彼女は自分が三人の中で一番にこの異変を解決したいと思っている。霊夢といろはは魔理沙にとって昔からの友人であり、同時に心の中ではライバル視している。

 

片や幻想郷の大役である博麗を務める巫女。片や今では里一番と言わる退治屋。種類は違えどどちらも正真正銘の天才である二人。

 

そんな二人の友人である魔理沙であるが、二人と同じく天才とは言い難い。魔法使いと言ってもごくごく普通の魔法使いである魔理沙は詰まる所凡才である。

 

魔理沙自身それは自覚している。自覚したうえで、彼女は友人である霊夢やいろはに負けたくないのである。あるいは友人だからこそかもしれない。

 

二人に並び立ちたい。二人を追い越したい。魔理沙はそのために人知れず努力する努力型の人間だ。そんな彼女だからこそせっかちとも言える面があり考えるよりも行動する傾向がある。

 

「弾幕はパワーだぜ!」とは彼女の持論であり実に彼女らしい言葉だ。

 

「ちょっと肌寒いな」

 

当てもなく湖を飛び回る。

 

しばらくして、魔理沙の真下の湖面が荒れたかと思うと突然水柱が上がった。水柱は魔理沙の周りを旋回するように次々と上がっていく。

 

そして魔理沙の正面に上がった水柱が治まった場所の湖面に、一匹の妖怪が現れた。

 

「あなたは!」

 

普段なら出さないような強い口調で彼女は魔理沙に向かって言葉を投げかける。

 

「私を退治しに来たのですね?」

 

似合わない戦意に満ちたわかさぎ姫が、魔理沙の前に姿を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

いろはは、人里近郊にある道を駆けていた。いろはは飛ぶこともできるが、いろはにとっては飛ぶよりも自分の足で走った方がしっくりとくるのでこうしている。

 

時折飛び上がっては周囲を見渡して確認している。

 

里の中では人に使われていた道具たちが独りでに動き回って騒ぎになっている。しかし道具は勝手に動き出すだけで人間に直接的な被害が出ているわけではないため、それほど問題と言うわけではない。

 

問題なのは、妖怪である。

 

人里には妖怪がいる。もちろん人間に危害を加えることがない妖怪である。霊夢が巫女になって以来、少しずつではあるが妖怪も人里を出入りすることができるようになった。

 

とは言え、里の中には妖怪に対して信じきれない者も多い。特に現在博麗神社によく出入りしている鬼、伊吹萃香は恐れる人間が多い。

 

かつて里を襲い妖怪の恐怖を里の人間に知らしめた鬼。いくら見た目が似ても似つかない幼子とは言え彼女は鬼、しかも鬼の頂点に君臨する鬼の一角である。里の人間が恐れるのも無理はない。

 

弾幕ごっこが幻想郷の主流になってからは人間と妖怪の距離は近くなった。しかし、大人しくなったはずの妖怪たちがこの異変をきっかけにまた暴れだし人間がまた妖怪を恐れるようになったら里はかつてと同じく妖怪におびえる不穏な空気に包まれるだろう。

 

そんな事にさせるわけにはいかない。いろはは誰よりも早く暴れだす妖怪を見つけ抑えなけらばならなかった。

 

もし暴れた妖怪が人間を傷つけてしまえば、自分だけではなく霊夢にもその責任の矛先が向いてしまうかもしれない。大切な友人のためにも、もう二度(・・)とそんなことはさせない。

 

(…あれ?)

 

いろはは自分思考に違和感を感じた。

 

二度と、とは何だろうか?自分の知る限り霊夢は里の人間に責められたことなど一度もない筈だ。巫女になった当初こそ里の人間にその実力を疑われたが今となっては大きな信頼を寄せられている。

 

それなのに、何故二度となどとおもったのだろう?

 

(…きっと、なんとなく)

 

僅かに過った疑問を、いろはは特に気にすることなく頭を切り替える。自分の役目は里を守ること。今は、

 

「早速現れたわね」

 

その役目に集中することが先決だ。

 

「私を退治しに来たというの?」

 

生首を宙に浮かした赤蛮奇を前に、いろはが刀の鯉口を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

竹林の中を霊夢は飛んでいく。

 

この迷いの竹林はその名の如く早い速度で成長を続ける竹によって道筋が分からなくなる天然の迷宮だ。

 

にもかかわらず霊夢の飛ぶ姿には迷う様子が全く見られない。まるで進むべき場所がわかっているかのように霊夢は竹林の中を飛んで行っている。

 

霊夢がこの竹林を迷わずに飛び続けることができるわけ。それに理由はない。そもそも彼女はどこかを目指して飛んでいるのではない。

 

霊夢の目的は暴れている妖怪を見つけこの異変の原因を探すことにある。見つける対象はあっても目指す場所は霊夢にはない。

 

とは言えこの竹林をただ闇雲に飛んでいるだけではどこにいるかもわからない妖怪を探すのは難しい。唯でさえ自分の進んだ道が分からないのに下手をしたら同じ場所をグルグルと回っていることになる。

 

例え目指す場所がなくとも迷いの竹林で何かを探すのであれば、この竹林に住む不老不死の案内人を頼る方が賢明である。はっきり言えば、霊夢の取った行動は下手をすれば竹林で迷い続けてしまう自殺行為だ。

 

「さ~て」

 

しかし、それは霊夢にとって自殺行為には成りえない。霊夢にはこの竹林の道など分からない。自分の位置を特定する術もない。何故なら霊夢にはそんなもの必要ないのである。

 

「ここらへんかしらね?」

 

霊夢が迷いの竹林で一切の躊躇なく飛び回れるわけ。それは彼女の持つ、直感によるものだ。彼女は勘が鋭い。もはやその直感はある種の超能力にさえ近いものがある。

 

何に縛られることなく、何に惑わされることなく霊夢はただ自分の直感を信じるまま行動する。そして今回もまた霊夢は自分の直感に任せて竹林の中を飛んでいるのである。

 

「………何かしらね」

 

霊夢は異変解決に乗り出してから何か嫌なものを感じていた。自分の中でザワザワ何かが騒めいているような感覚。今回の異変は、ただの異変ではないかもしれない。

 

「………一筋縄じゃいきそうにないかもね」

 

直感がまた、何か嫌なものを感じている。

 

竹林が騒めく。笹の隙間から僅かに光が差し込み一つの影を照らし出す。霊夢は始めからわかっていたようにその影の前で止まった。

 

影が光に照らされてその姿を見せる。楽しそうに、嬉しそうに、嬉々として彼女は霊夢の前に姿を見せた。

 

「私を退治しに来たのね」

 

今泉影狼が、牙をのぞかせながら笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

人里から外れた場所。そこは嘗て鬼が里を襲った際には里の人間が避難をした場所がある。

 

その場所の片隅に、墓場がある。

 

人里の墓場はいくつかあるが、この墓場は鬼の襲撃の際にこの場所に造られた比較的新しい墓地だ。

 

大小さまざまな墓石が置かれたその墓地は、この異変の中でも静寂を保っている。もとより墓地とは、暗く静かな場所である。

 

しかし、今その墓場には普段はないものがあった。全ての墓前に華が添えられているのである。彼岸花。赤い色が墓場を彩っていた。

 

その墓場の奥に、小さな墓石があった。

 

その墓石は綺麗に磨かれており、この墓前にも赤い華が添えられている。その墓に向かって手を合わせている人影は、静かに目を閉じて黙とうを捧げていた。

 

彼はいつも人目を避けてこの場所を訪れる。自分の姿が、よりにもよってこの場所で見つかってしまったら大きな騒ぎになってしまうからだ。

 

ひしがきは、この異変に紛れて、嘗て自分が守ることのできなかった人達の墓参りをしていた。

 

何より、この小さな墓石の下で眠る亡者のために、ひしがきは手を合わせたかった。

 

「………」

 

ひしがきは、何か異変が起こる度にこの場所にやって来る。それは人の目を避けやすいという事もあるが、それ以上にこの墓の主に祈っているのである。

 

どうか、いろはが無事である様に、と。

 

 

―――――――ぞ……

 

 

「………っ」

 

嫌な悪寒が体にはしる。今までにも異変はあったがこんなことは初めての経験だ。

 

つい先日会った鬼人正邪の顔が頭を過る。

 

何故だろうか?今の自分は彼女よりも強い。まして霊夢やいろは、魔理沙も鬼人正邪には負けないだろう。

 

いくら打ち出の小槌で力を得ようと、鬼人正邪は彼女たちには勝てないのだ。なのに、なぜこんなにも自分は嫌な物を感じているのか。

 

 

―――お前の力……今のままでは惜しい。我らの手に、力がある限り…いくらでもお前も強くなれる。

 

 

あの時の鬼人正邪の言葉。

 

……そういえば、鬼人正邪の言っている力とは打ち出の小槌の力のはずだ。いくらでも強くなれるとは、その力でもって俺の力を増幅させるという事だろうか?

 

だがまて、正邪は小槌に力で自分だけの力を増幅させていたはずだ。なのに俺の力を増すことなんてするだろうか?ただ単に俺を騙すだけの言葉にしては引っかかる気もするが。

 

「………」

 

……仮に、鬼人正邪に他に何かしらの力を得る方法があったとしたら。そして、その力をもってして俺の力を上げようとしていたとしたら?

 

「……馬鹿馬鹿しいな」

 

自分で考えた仮説を一笑して伏せる。そもそも俺の力はそう簡単に他者が増幅できるようなものではない。

 

仮に打ち出の小槌でもこの力を増すことは出来ないだろう。他者を蝕む呪いの力。

 

この力を増幅できるようなモノなど、そんなものあるわけ………。

 

 

 

その瞬間、ひしがきに雷で撃たれたような衝撃が走った。その直後、まるで冥府に突き落とされるような悪寒が全身を虫の様に這いずり回る。

 

 

 

あった。見つけてしまった。

 

 

自分の力を増幅させる方法。アレならば、可能かもしれない。ただ力を増すという点を考えれば、それはむしろ俺にとっては相性は抜群だろう。

 

極寒の冷気に凍えるようにひしがきは顔を青く染め震えあがる。それはひしがきにとって何よりも忘れたいもの。思い出したくもない記憶だ。

 

ありえない。だが、もしそれが真実だとしたら、自分の嫌な予感も、鬼人正邪の言葉も、力を増す術も、全てにおいて辻褄が合う。

 

ひしがきの脳裏に、ある物が鮮明に浮かび上がる。

 

 

 

 

かつてひしがきが見つけた、瘴気を噴く鬼瓦が、記憶の中でひしがきを睨んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




短いですが今回はここまでです。来年はもう少し早く投稿できたらいいなと思ってます。



新しい年が皆様の良いお年でありますように。

それでは皆様良いお年を。

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