今回は少し短めです。
以前に病院で肺に影があると言われ検査して大きな問題ないとわかった事がありました。しかし、それ以来健康面には前よりずっと気を遣うようにしています。
一度自分の体がどうなっているのか不安になると中々安心できませんね。
赤蛮奇はろくろ首。正確に言えば飛頭蛮という頭が体から離れ宙に浮く妖怪だ。そして彼女の弾幕のスタイルは頭と体を分けて、それぞれが弾幕を放つというもの。それは弾幕ごっこではない戦闘においても同じである。飛頭蛮と言う妖怪ならではこの戦い方は彼女だからこそできるものだ。
そんな彼女だからこそ、影狼を体で背負いながらうまく戦うことできた。影狼を背負った体は離れた場所で援護射撃をし、宙に浮いた頭部は敵の周りを飛び回りながら弾幕を放つ。そして相手をわかさぎ姫から離し、頭で敵を足止めし体がわかさぎ姫を回収する。
一人でありながら二人分の役割をこなす。体の一部を切り離し自在に操る彼女だからこその作戦だった。
ただ……今回はその相手が悪すぎた。
「はああああああ!」
決死の覚悟でごっこではない弾幕を放つ蛮奇。
「………」
それに対し先代巫女は、最小限の動きだけでその弾幕を潜り抜ける。迫る弾幕を僅かに体をずらすことでギリギリ躱す。または体を屈めて、または体を反らして。一見するとすれすれのところで避けているが、それでもその姿は危なげなくことごとく躱し続けている。
「……くっ!」
蛮奇は先代巫女に対して攻めあぐねていた。わかさぎ姫の側から動かない先代に対して蛮奇はわかさぎ姫から離そうと弾幕を放つもすべてが避けられてしまう。わかさぎ姫が側で倒れているために先代が避けれない程の弾幕を放つこともできず、場所を変えて弾幕を放っても避けられてしまう。
焦る蛮奇に対して先代巫女は静かに構えたまま蛮奇を見ている。以前の苛烈ともいえる動の体技とは真逆に、ただ静かに蛮奇に対して構えている。嘗ての異変で巫女として致命傷を負ったという先代巫女。それによって前の戦闘スタイルが変わったという事なのだろうか。だが、それでも蛮奇は目の前の人間から放たれる重い圧力に内心で戦々恐々していた。
まるでそれは隙を伺い身を屈める猛獣を連想させる。一瞬でも隙を見せればすぐにでも牙を突き立てられるような気がした。
「~~~~っ!」
それでも蛮奇はひるむことなく歯を食いしばって攻め続ける。今、自分は大事な友を背負っている。そして目の前には倒れている別の友がいる。ならば自分が取るべき選択肢は一つしかない。例え自分だけでは無理でも、もう一人の友が来てくれるまで。守らなくてはならない。蛮奇は必ずひしがきが来ると信じていた。それが彼女の心を支えとなっていた。
「………」
対して先代巫女は、変わらず攻撃を避け続けていた。ただ、彼女は内心で僅かに焦っていた。彼女は嘗ての異変で、巫女として致命的な欠陥が残ってしまった。それは彼女の霊力を著しく低下させ肉体的にも前のような激しい動きが取れなくなってしまっていた。こうして蛮奇の弾幕を避けてはいるが、嘗ての様にその身一つで弾幕を打ち払い相手を倒すことは難しくなってしまったのである。
故に今の彼女の戦い方は超短期決戦。相手の隙を突き一撃で仕留める戦い方しかできない。それもただの一撃ではなく必ず相手を打倒する一撃を入れなくてはならない。故に彼女は油断なく攻め続ける蛮奇に対して攻めることができなかった。このままではジリ貧だ。彼女としても蛮奇がこれほど粘るとは思っていなかった。
(……まずいな。このままでは、間に合わなくなる)
蛮奇が背負っている影狼を見るに、恐らくひしがきはいろはと戦っているだろう。先代は嘗ての幻想郷における博麗の重さを知っている身として、これまで生き残ってきたひしがきの実力を高く評価していた。例えいろはが類稀なる剣才の持ち主だとしても、決して侮れる相手ではない。
(……仕方あるまい)
先代巫女は、自分もまた覚悟を決めて蛮奇を討とうとする。目を鋭くして蛮奇を睨む。今の彼女では蛮奇の手加減なしの弾幕をくらえば決して軽くない傷を負う。下手をすれば倒されるのは自分だ。先代は蛮奇を明確な敵と認識する。そして弾幕の中に、小さな隙間を見つけた。
(ここだ!)
僅かな突破口を無理矢理こじ開けんと先代が全身に力を入れ解き放とうとする。
「……!?」
が、それは突如横から襲ってきた衝撃によって阻まれる。
「……みんなを…いじめないで!」
先代の側で倒れていたわかさぎ姫が、弱弱しく顔を上げながらも、一撃を先代の無防備な横に放っていた。
「ぐっ……!」
不意打ちをくらった先代は、それでもすぐに大きく横に飛んで蛮奇の弾幕を躱す。だがそれによってわかさぎ姫と距離を取ってしまったことで、蛮奇は高密度の弾幕を先代に放とうとする。
「………くぅっ!!」
先代は以前のような動きもできなければ僅かな時間しか全力で動けない。だがこうなってはさっきのような戦い方は出来ない。ならば無理にでも体を動かして戦うしかない。彼女もまた博麗の巫女だった者。ひしがきと同じく、極限状態での戦いを潜り抜けてきた。本気の構えを取った。
「―――だから言ったでしょう。気を付けてと」
両者の死闘が始まるその時、どこからともなく聞こえた声と共に、蛮奇を四方から弾幕が襲った。そして弾幕が晴れた時、浮いていた蛮奇の頭が地面に落ちていた。それに呼応して、離れていた蛮奇の体も糸が切れたかのように倒れた。
いつの間にか、先代の横には八雲紫が立っていた。
「紫……」
「そんな顔しないでちょうだい。ああでもしないとあなた、体の事なんて考えずに本気で戦っていたでしょう?」
「……私の役目と言っただろう」
「それで体が壊れて寿命を縮めたら、あなた本気で霊夢に恨まれるわよ?」
「………」
「それよりも……まだ、戦う気力が残っているなんてね。感服するわ」
紫は蛮奇、影狼、わかさぎ姫に目を向ける。蛮奇は紫の弾幕によって気を失っている。わかさぎ姫もさっきの一撃で力尽きたのか力なく倒れている。
そんな二人を庇うように、先ほどまで蛮奇に背負われていた影狼が背中に大きな傷を負ったまま、紫と先代の前に立っていた。
「やめなさい。あなた、その傷で戦うつもり?…………死ぬわよ?」
影狼の傷。ひしがきに一応の応急処置を施されたとはいえ決して浅いものではない。すぐに治療すれば助かる傷ではある。だが、戦うとなれば話は大きく違って来る。まして目の前には妖怪の賢者と先代の巫女。
「グルウウゥゥゥ!」
だが、そんなことは関係ない。蛮奇と同じく、彼女の選択は同じ。獣の如き形相で影狼は二人を睨みつける。その姿はまさに手負いの獣。
その不退転の覚悟を感じ取った二人はもはや言葉は不要だと悟った。そして、今度こそ自らの手で沈めんと先代巫女が前に進み出た。
今度こそ、絶体絶命。立ってこそいるが影狼には勝ち目は薄い。仮に勝ち目があったとしても妖怪の賢者がそれを許すはずもない。最初から、彼女たちに敵う相手ではなかった。
だが、
「結ッッ!!」
この勝負は、彼女たちの粘り勝ちだった。
先代と紫を黒い結界が覆った。更に結界が何重にも展開されより堅牢ものへと構築されていく。いろはの時とは違う、相手を蝕む正真正銘の呪いの結界。中にいれば瞬く間に浸食されてしまう。
だが、相手は妖怪の賢者。まして『境界を操る程度の能力』を持つ八雲紫にとって結界の壁など意味をなさない。すぐに隙間から先代と共に脱出し離れた場所へと移動した。
結界が解かれた先に、ひしがきが立っていた。
「フ―ッ…フ―ッ…」
その息は荒く、目は嘗て無いほど怒りに満ちている。射殺さんばかりの殺気と共にひしがきは槍を二人に構えていた。
「ひしがき……」
ひしがきの到着に、影狼は小さく安堵の息を漏らす。だが、すぐに顔を引き締める。目の前にいるのは、この幻想郷においては知らぬ者のいない二人。ひしがきと言えども敗色濃厚な相手なのだ。
「……どうやら時間をかけ過ぎたみたいね。意外だったわ。そこの子たちもそうだけど…あの子相手に、あなたはもっとてこずると思っていたから。」
「…そうか、やっぱりてめぇの仕業か」
「乱暴な言葉ね。昔とは大違いですわ。よっぽどその子たちが大事のようね」
「何の目的があって彼女たちを…………いや、一体俺に何をさせようとしている!?」
「何の事かしら?」
「今更とぼけんなよクソババァ。俺絡みじゃなきゃ彼女たちに危害を加える理由なんざねぇだろうが!」
ひしがきが吼える。今までひしがきは八雲紫は幻想郷のために自分を利用していると、そう考えてきた。今までの人間と妖怪の関係をリセットし、新しい時代へと移るためにはそれまでの悔恨を無くすことが必要だ。その矛先として自分が選ばれたのだと。ひしがきは自分の境遇にそう当たりをつけていた。
だからこそ、そう思えばこそひしがきは耐えられたのだ。自分と言う犠牲のもとにこの世界は、自分の好きな物語は成立しているのだと。そう思えば少しは報われるから。現実と物語は違う。それはこの世界で嫌と言うほど思い知らされた。だがそれも、自分が犠牲となれば、物語は現実になるのだと。
だからこそひしがきは霊夢の話が好きだった。彼女の話は、東方の物語は、自分の上に成り立っているという自負があったからだ。
だがこの件に関して、ひしがきは何故八雲紫がこのような凶行に及んだのか全く分からなかった。
「私も聞きたいわね」
そう言って紫たちとひしがきの間に、霊夢が降りてきた。
「……霊夢、藍はどうしたのかしら?」
「さぁ?今頃必死にこっちに向かってるんじゃない?それよりも紫、いい加減説明してくれないかしら?――――ひしがきの中のモノってなに?」
霊夢は無駄な言葉は離さずに核心を突いた。
「俺の、中のモノ……?」
霊夢の言葉にひしがきは予想外の声をあげる。自分の中のモノに、心当たりがあったからだ。呪いの力。そして自分の中に沈んだ先にある物。ひしがき自身疑問に思っていたことが、八雲紫の狙いだったという事なのか?
紫は僅かに眉を寄せる。今の状況は自分にとって予想していた中で一番良くない状況だ。足止めは藍もいろはも足止めに失敗し草の根の三妖の前にひしがきと霊夢がいる。恐らく霊夢は話を聞き出すまでこちらのいう事は聞かないだろう。
「母さん」
答えない紫から霊夢は母である先代巫女を見る。紫とひしがきが思案する中で、二人の親子の視線が交錯する。霊夢の静かな、しかし強い視線を受け取った先代は静かに目を伏せる。
「……紫」
「…何かしら?」
「こうなってしまったら、もういいだろう。この子らも知る権利はある」
その言葉に紫は目を細める。
「………それを言ってどうするつもり?言ったところで、余計に苦しむだけよ。知らない方が、まだマシよ。それに、知ってしまって取り返しのつかないことになってしまったらどうするの?霊夢もあなたと同じ目に遭ってしまうかもしれないのよ」
「……どういうことだ?」
二人の会話にひしがきが割り込む。
「何なんだよ一体!俺の中に何があるんだ!?何でこんな目に遭わなきゃならかったんだ!?」
ひしがきにとって、それは今まで自分を支えてきたものを大きく揺るがす言葉だった。幻想郷は自分の犠牲のもとにあると。その為に、自分の犠牲は仕方ない事なんだと。それが今、根底から覆されるようとしている。叫ばずにはいられなかった。
「……そんなに知りたいなら、自分で確かめなさい。――――藍」
紫がそう呟いた。
ドスッ
ひしがきの後ろで、何かを貫く鈍い音が聞こえた。
「―――か、はっ」
振り向くと、血を吐きながら小さく咳き込む影狼の背後にスキマから出てきた八雲藍がいた。そして影狼の胸から藍の爪が生えていた。
「―――――――――――――あ」
それは誰の口から出た声だろうか。爪が引き抜かれると影狼はゆっくりと前に倒れていく。ひしがきの目が大きく開かれた。
この小説を書くにあたってアドバイスをもらっている知り合いがいるんですが……別の知り合いにこの小説を読んでもらったところ、
「お前、最近大丈夫か?なんか悩んでんのか?」
と本気で心配されました。…解せぬ。