幻想郷に中途半端に転生したんだが   作:3流ヒーロー

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案外決着ってのはあっさりしてるもの

 

 

 

それをなんと表現していいか俺には分からなかった。

 

 

「随分と思わせぶりな登場じゃない博麗の巫女。ひょっとしたらずっと隠れて見てたのかしら?」

 

 

闇が奔る。そうとしか表現できない。実際には何条もの闇が相手を貫かんとしているんだろう。それを、自分は満足に見ることも出来ない。

 

 

「うまく私から逃げてた妖怪がいまして、子ども相手に随分と手間取っているようで驚きましたよ」

 

 

俺には見ることも出来ないその闇を、博麗の巫女は苦もなく迎撃する。人の身ではどう足掻いても打ち落とせないだろう闇を、あの巫女はその拳で、その脚で、次々と砕いていく。

 

 

これが、博麗の巫女か……!

 

 

もちろん唯の生身で遣って退けているのではないだろう。何かしらの能力、または術でもって巫女は自身を強化している。強化した体で相手を迎え撃つ。やっていることは至極単純だ。

 

 

だが考えて欲しい。さっきからルーミアが繰り出す闇の連打はあっさりと大地を削り、岩をも貫いている。貫かれた岩の断片は、まるで大理石のような滑らかな表面をしている。

 

 

おそらく音速に達しているのだろう。繰り出される一発から発生する衝撃波が常に周囲を震わしていく。ヘリコプターが地面から飛び立つときの風を何倍にも強くしたような、そんな衝撃だ。

 

 

その大元を、この巫女は手足で打ち落としているのだ。一体あの体にどんな膨大な力を有しているのか見当もつかない。

 

 

「ふん、ただ遊んでいただけよ。久しぶりのオモチャだったものね。つい時間を忘れてはしゃいでしまったわ」

 

 

「なるほど、ついはしゃいで体のあちこちにそんな火傷を負ってしまうとは、意外と自虐的な遊びなんですね。それとも……遊びすぎた猫が鼠に噛まれましたか?宵闇の大妖怪もヤキが回りましたね」

 

 

「……偉そうに吠えるなよ。人間風情が!」

 

 

「妖怪風情が、ワタシ(博麗の巫女)に逆らわないでくれますか」

 

 

ついにルーミア自身も動き出した。闇を纏い巫女に接近する。対する巫女は小さな球を取り出すと自分の周囲に放る。球は瞬時にバスケットボールほどの大きさに膨らむと、衛星のように巫女の周囲を回り始めた。

 

 

陰陽玉。博麗の巫女の礼装の一つ。闇を纏ったルーミアと陰陽玉を引き連れた巫女が激突する。

 

 

 

 

 

 

 

地べたに這い蹲りながら、俺は目の前の戦いを凝視する。唯呆然と、目の前で起こっている天災のような戦いを見る。

 

 

その戦いに見惚れたわけではない。そもそも見ることすら満足に出来ないのにどう見惚れると言うのか。

 

 

ではこの戦いの原因の一端として見なければならないと思ったのか?否、そもそも偶然にも追われる事となった自分にそんな使命感など無い。

 

 

巫女に助太刀するため?出来るわけがない。そもそも自分が言っても足手まとい、邪魔になるだけだ。ならここにいるよりもとおくに逃げた方が自分のためにも最善のはずだ。

 

 

なのに何故、俺は逃げられないのか?

 

 

全身を震わせながらひしがきは懸命に身を伏せていた。顔は動かすことも出来ず正面を見つめ、しかし恐怖を浮かべガチガチと耳にうるさいほど歯を鳴らしながら涙を流している。

 

 

それはしょうがないと言えた。彼には知識はあっても実際の経験は生きてきた10年ほどしかない。例え大人びているとはいえ子どもである。いや、例え大人であったとしてもいきなり即死レベルの災害に巻き込まれたとしたらあまりの唐突な出来事に唯呆然とするしかないだろう。

 

 

今のひしがきがまさにその状態だった。今すぐにでも逃げ出したい。しかし恐怖による全身の硬直で身動き一つ取ることが出来ない。激闘はすぐに目の前だ。万が一流れ弾が飛んできたら、戦いに巻き込まれたら。そう考えるだけで体が言うことを聞いてはくれなかった。

 

 

目の前で起こっている戦いに背を向ける勇気すらない。震えながら見守ることしか彼には出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

何合目の激突だろうか。数合だったようにも思えるし何千とぶつかった様にも思える戦いが止んだ。かろうじて見ることが出来たのは、巫女の拳が闇を突き破りルーミアを捕えたことだけだった。

 

 

決着がついた。傍から見てもそう思える一撃が決まった。

 

 

しかし巫女は止まらない。そのままルーミアを地面に叩きつけると取り出した術布のようなものをルーミアの髪に結びつけた。

 

 

「ぐっ……!何を……!」

 

 

「このまま貴方を退治するのは簡単ですが、それだと少々都合が悪いんですよ」

 

 

博麗の巫女は幻想郷の守護者。そして幻想郷とは人間が妖怪を恐れ妖怪が人間に畏れられることによってバランスを保っている世界である。

 

 

ルーミアは特に人間に害する妖怪であり巨大な力を持つ大妖怪。野放しにしておくには力が有り過ぎ人に害を為し過ぎる。しかし、その分退治するには人々の畏怖がありすぎる妖怪である。

 

 

むろんルーミアがいなくなったところで人に害為す妖怪がいなくなるわけではない。だが仮に巫女がルーミアを退治したことによって助長した人間が妖怪への畏れを無くすきっかけとなってしまったらそれはあまりよろしくは無い。

 

 

また、博麗の巫女がいれば妖怪など恐れるに足らずと巫女を旗頭に妖怪撲滅に乗り出す人間がいないとも限らない。

 

 

故に彼女が取る行動は

 

 

「…貴、様ッ!私を!」

 

 

「ええ、封印させてもらいます」

 

 

そういうとルーミアの髪に結び付けられた術布が赤く光り輝く。

 

 

「…っ貴様アァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!人間が私を御するだと!!?どこまでも舐めたまねを!!」

 

 

「別に貴方を見下す気はありません。私がするのは、この幻想郷を守ること。唯それだけです」

 

 

憎悪をそのまま視線に籠めて叫ぶルーミアに、巫女は淡々と応える。周囲を覆っていたルーミアの闇が急速に消えていく。

 

 

「っぐぅ…く!……いいわ、今回は私の負けよ。けれど覚えておきなさい博麗の巫女。私は必ずお前を殺してあげる」

 

 

「………」

 

 

ルーミアは壮絶に笑いながら巫女に告げる。対する巫女は無言。それが最後となり光が一層輝きを増した。

 

 

 

 

…………。

 

 

 

 

光によってようやく閉じることの出来た目をおそるおそる開けると、そこには変わらない姿の巫女と変わり果てたルーミアがいた。ルーミアの体は大人から幼い姿の少女へと変貌していた。

 

 

何よりさっきまでは肌を刺すような妖力が今は驚くほどに小さくなっている。

 

 

あれが、博麗霊夢の時代にいたルーミア。封印され力を失った宵闇の妖怪の姿だった。封印されたとは思えないほど安らかな顔で眠っているルーミアを見届けると、巫女がこちらに顔を向けた。

 

 

「………あ」

 

 

先程から変わらない無表情な顔でこちらを見る巫女。ようやく俺は彼女の顔を正面から見た。

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

お互いに無言。向こうは何を考えているか見当もつかない上にこっちは何を言っていいか分からず言葉を詰まらせる。

 

 

助かりました?はじめまして?いやいやとりあえずまずはお礼を言おう。

 

 

「あ、の…ありがとうございます……」

 

 

「………」

 

 

巫女は何も応えずにこちらを見下ろしている。

 

 

何だろう?彼女は一体俺を見て一体何を考えているのか。

 

 

「あの……」

 

 

それ以上何を言っていいか分からない俺はとりあえず彼女に話しかけることにした。今の自分は体が疲労と恐怖でまったく動かない、動いてくれない。できれば彼女に人里まで連れて行って欲しいところだ。

 

 

すると突然巫女はこちらに向って歩き出した。こっちの目をまるで見定めるように見ながら近づいてくる。

 

 

いきなり近づく巫女に一瞬体が強張る。彼女の目から目を逸らすことができない。

 

 

(……あ、れ)

 

 

意識が遠退いていく。体と能力を酷使しすぎたせいだろうか。意識を保つことが出来ない。

 

 

巫女と視線が交差する。

 

 

深い、深遠のように深いのにどこまでも透き通っている黒い瞳。それは自分の知識の中にあるどんな物より、自分の人生の中で今までに見た何よりも

 

 

(……ああ、なんて)

 

 

 

そこで俺の意識引きずられるように落ちていった。

 

 


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