幻想郷に中途半端に転生したんだが   作:3流ヒーロー

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いきなりの急展開。





人生の転機はいきなり

 

 

人里から東へ。

 

 

舗装されていない道を半日ほど歩き続けた先にある石段を登ると、歴史を感じさせる佇まいの神社がある。どこか神聖な雰囲気を感じさせる境内は、残念ながら人の手が行き届いていないのか枯葉が落ち雑草が生えている。

 

 

神社はしばらく人が住んでいないのか縁側から中に至るまで埃で覆われている。何となく賽銭箱を覗いて見ると中身は予想通りのスッカラカン。

 

 

幻想郷の守護者の住まう場所、博麗神社。

 

 

確かに神社のつくりはしっかりしているがこうまで寂れていると、なんというか、これでいいのかと物申したくなる。

 

 

主のいない神社を前にして、ひしがきは呆然とそんなことを思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

博麗の巫女の負傷。それが一体何所から流れたのかは正確にはわからない。ただそれは唐突にまた急速に広まった。人里は騒然となり人々慌てふためいた。

 

 

事の真偽を確かめるべく博麗神社を訪ねてももぬけの殻で博麗の巫女の行方は知れず。後日人里において有力な力を持つ碑田阿八から現在博麗の巫女は存命、妖怪の賢者の下で保護を受けている事のみが伝えられた。

 

 

巫女の生存の報を受け人里の混乱は僅かに収まったものの巫女の負傷による不在で人里の不安は以前以上にひどいものとなった。

 

 

それもそのはず、巫女のおかげでようやく妖怪の被害が少なくなってきた所だったのだ。そんな時に肝心の巫女がいなくなってしまったとあれば人里は安心して入られない。

 

 

たとえ妖怪の被害の原因がルーミアで、そのルーミアは既に力の大半を封印されてしまっているとしても人に残った妖怪への恐怖はなくなることは無く人里の中に一時ピリピリとした険悪な空気が蔓延した。

 

 

怪我も大分完治しおそらくこれまで以上に里の警備体制は強くなるだろうと考えていた自分に、里の有力者数人が訪ねてきたのはそんな時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで自分に何の御用でしょうか?」

 

 

目の前に座る里の有力者達。それは人里を運営していく上でどれも重要な役割を果たしている人物達だ。俺とも面識のある妖怪退治屋の頭領や農業組合のまとめ役、人里の商いの重鎮である霧雨家の主人…後の霧雨魔理沙の父もいた。

 

 

ここに居ない人里の有力者は寺子屋の上白沢慧音と碑田家の碑田阿八、それを除けばほとんどが今この家に集まっているのだ。家にいた家族は席を外して欲しいといわれ今は外に出ている。今は俺とここに集まった数人しかいない。

 

 

一体、何事なのか。いたたまれなくなった俺は体を堅くして聞いてみた。

 

 

「おぬしに新しい役目を頼みたい」

 

 

少し間をおいて集まった中でもおそらく一番の年長者であり有力者でもある老人、里をまとめる里長が口を開いた。

 

 

「……役目、とは?」

 

 

「博麗の代理を、おぬしに務めてもらいたいのじゃ」

 

 

…………………………。

 

 

…………………………。

 

 

…………………………。

 

 

……何を言われたか理解をするのにしばらく掛かった。そこから更に意味が分からないと混乱し更に沈黙が流れた。

 

 

「おぬしは今後、博麗を名乗り博麗神社に住んでこれまで巫女が行ってきたことをやって欲しい。といってももちろん全てではない。頼みたいのは人里の保護と妖怪の退治、これを頼みたいのじゃ」

 

 

「ちょ、ま、待ってください………!」

 

 

あまりのことに思わず大声で待ったを掛ける。今まで与えられた仕事は断ったことは無い。それはこれが里のために仕方ないことと他にはないなけなしの能力があったからと割り切ってきたからだ。

 

 

その中には自分には手に余ることも多くあった。しかし、今度のそれは手に余るどころの話ではない。自分のちっぽけな命を100回犠牲にしたって務まるはずのない事を引き受けるなんて出来るはずがない。

 

 

「出来るわけないでしょう!巫女の代わりなんて!」

 

 

当然だ。博麗の巫女はこの幻想郷の守護者。人と妖怪のバランスを保ち、幻想郷を覆う博麗大結界を管理する重要人物。

 

 

そもそも博麗の巫女は妖怪の賢者によって選抜される存在。過去に人里からも巫女が選ばれたことがあると聞いた事があるがその出生は謎に包まれていることが多い。

 

 

にもかかわらず人里から代理とは言え勝手にその席に人を置こうなど意味が分からない。下手をすれば妖怪の賢者に目を付けられる可能性だってある。

 

 

俺の反応とは対照的に里長は静かに応えた。

 

 

「今里に流れている話は知っておるな?」

 

 

「……はい。それはもちろん…しかし、何故……?」

 

 

「うむ、これから話すことは他言無用じゃ。決して他の者には話してはならぬ」

 

 

そう言って念を押した里長はゆっくりを言い聞かせるように話し出した。

 

 

「博麗の巫女が如何にして負傷したかは分からん。碑田家にも問い合わせたが向こうをどうやら知らされておらんようじゃ。しかし、確かなことはこの里にとって重要な巫女が重症を負ったと言う事…それも再起が危ういほどのな」

 

 

再起が危うい。重傷をおったとは聞いたがまさかそこまでだったとは知らなかった。あの時、自分ではとうてい適いもしない力に正面から立ち向かった巫女の再起が難しい。

 

 

一体どうしてそんなことになったのか?疑問は深くなるがその間にも長の話は続いていく。

 

 

「長い幻想郷の歴史でそのようなことが、過去に無かったわけではない。その度に、新たな巫女が選ばれその役目を代々継承してきた。この幻想郷にとって博麗の巫女は要と言っていい存在じゃ。その役目を長く空ける訳にはいかんからの。もちろん巫女も人間。すぐに巫女として役目をこなすわけではなく先代や賢者によってその技を磨いてきた。」

 

 

それはそうだろう。巫女が何所から選ばれて来るなんて知らないがきちんとその才能がある人間を育てなければ重要な役目を担うなんて事は出来ない。

 

 

だからこそ巫女が再起できないのなら今回もその通り次の巫女を選ぶべきだ。

 

 

「……しかし、今だ次の博麗の巫女は選ばれておらん。今の人里の現状を考えればそれはまずい。今のままの状態が続けばどうなるか」

 

 

今の人里は危うい。ほんの些細なことがきっかけで人の不安や不満が爆発してもおかしくない。しかも、それがどんなきっかけでどのような形で現れるかも分からないのだ。

 

 

「……だから、自分に代わりになれと?ですがそれは早計じゃないですか?妖怪の賢者だってこのままにしておくなんて事はないでしょう。次の巫女だって候補くらいあるだろうしもうすぐ選ばれるかもしれない」

 

 

万が一のときに備えて次の巫女候補を用意する。そんな初歩的な用心をしていないとはとうてい思えない。

 

 

「確かに、わし等もそう思っておった。…じゃが悪いことに巫女は選ばれんどころか候補すらもおらんのじゃ」

 

 

「……………は?」

 

 

理解できない。なんだそれは。

 

 

ただ疑問符だけが出た。

 

 

「事実じゃ。どうやら妖怪の賢者にしても今回の件は予想外のことだったらしくての、詳しくはしらんがめぼしい候補を探そうにも今は居らん状態じゃ。これも内密にじゃが賢者の使いから碑田家に伝えられたこと。決して知られるわけにはいかん」

 

 

それはそうだ妖怪が跋扈するこの幻想郷では人間はあまりに非力な存在。自分達を守ってくれる存在が突然いなくなってしまっては人は恐慌する。

 

 

「で、ですが、やはり自分には出来ません。自分ではあまりに非力すぎる。巫女のように里を守るどころか里の人たちを安心させる事なんて出来るはずがありません」

 

 

正式に選ばれた巫女ならば里の恐慌も治まるかもしれない。しかし、里の中から非力な子どもが選ばれたところでそれは逆効果だろう。下手をしたらそれが更に里の現状を悪化させかねない。

 

 

「それに関してはわし等が力を尽くそう。おぬし一人では厳しくとも、わし等がそれぞれの場で里の者たちに言い聞かせればいくらかは納得もしよう。それにおぬしはあの宵闇の妖怪に相手に生き残った。例え巫女の助けがあったとは言えそれは紛れも無い事実じゃ。それを多少色をつけて噂を流せば少なくとも今の里の状態を回避できる」

 

 

「待ってください!!」

 

 

今度こそ悲鳴のように声を上げた。それではいくらなんでも荷が重過ぎる上に里からの期待も圧し掛かる。それらを背負うなんてとうてい自分では出来るはずがない。

 

 

いくら里の現状が悪いからと言ってはいそうですかと受けることは出来ない話だ。

 

 

「…自分も今の里のことは理解しています。今すぐにでも里の人達を安心させないとまずいことも。けど、だったら何も自分が博麗の代理をすることはないでしょう!貴方達の言うように里の人を説得して噂を流せばいいはずだ。さっきも言いましたが自分は弱い!ルーミア相手に助かったのだって奇跡みたいな偶然があったからです。里のために先陣を切るのはまだいい。他の人たちと協力できるなら出来ることだって多くなるはずだ。けど博麗の代理と言うなら自分は妖怪と対等に戦える存在として里の枠から外れることになる。それじゃまるで……」

 

 

「人柱の様、かの?」

 

 

はっと顔を上げて前を見る。いつの間にか長を含めた全員が自分に向って頭を深く床に付けるほどに下げていた。

 

 

「頼む」

 

 

「……………!!」

 

 

「おぬしの言う通り人は弱い。だからこそ里には博麗の名が必要なんじゃ……!」

 

 

自分よりも長く里を見守ってきた人たち。彼らは今自分の半分も生きていない子どもに人生で最も大きな願いを託していた。里のために犠牲になってくれと言う願いを。

 

 

「…………っ!!」

 

 

そんな事を知る由も無いひしがきはただ目の前に突きつけられた絶望的な状況にただ嘆いていた。どうしてこうなったのかと叫び出して逃げたいのを歯を食いしばり耐える。

 

 

彼らは真剣なんだろう。悪意なんて物は無く、こんな子どもに里の命運を掛けた大役を押し付けるほどに切羽詰っているんだろう。追い詰められているんだろう。

 

 

彼らがその気になれば自分の意志に関係なくその役目を俺に押し付ける事が出来る。こうしてわざわざ自分に頼みに来たのは子どもの俺にせめてもの誠意を見せるためか……それとも決して押し付けたわけではないと自分に免罪符を張るためか。

 

 

ギリッと奥歯をかみ締める。

 

 

いっそのこと押し付けて欲しかった。そうすれば俺もこんなに苦しまなかった。ただ嘆いて恨むことが出来たのに。よりによって自分の善意を利用されるなんて思ってなかった。

 

 

長達が頭を下げたままひしがきが葛藤したまま時間が過ぎた。どれ程経ったか数秒か数分か。

 

 

「…………………………………………………………………………………ワカリマシタ」

 

 

何かを吐き出すように無理矢理言葉を紡いでひしがきは応えた。

 

 

「………………………………すまん」

 

 

長は喜びも悲しみもせずそれだけを応えた。

 

 

後ろに控えていた霧雨の主人と退治屋の頭領が前に出て何かを差し出した。霧雨の主人は布に包まれた細長い棒のような物を。退治屋の頭領は灰色の衣を俺の前に置いた。

 

 

「わし等に出来る、せめてもの物じゃ。他にも何か入用があれば言ってくれい」

 

 

そう言って長は再び頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

背負った荷物を部屋に下ろした後、ひしがきはしばらく縁側に座りこれからの事を考えていた。自分に割り当てられた役割は人里の守護と妖怪の退治。他人の助けは期待できない。

 

 

どうしてこうなった?

 

 

何度目か分からない問いを繰り返す。答えなんて無い。こうなってしまった。だからそれでお終いだ。

 

 

重い息を吐く。

 

 

博麗の代理。それは既に人里にも公表された。今のところは長達の思惑通りに事は進んでいるそうだ。妖怪の賢者がどうするか懸念されたがこの件に関して今のところ動きは無いようだ。

 

 

問題は此処からだ。

 

 

博麗の名前は重い。自分がこれから博麗を名乗る以上力のある妖怪とも対峙することもあるだろう。場合によっては妖怪が自分を狙う可能性だってある。今のままでは生き残れない。そうなったら自分は唯の無駄死にすることになる。

 

 

「……死んで、たまるか」

 

 

この処置が焼け石に水であることは長達も分かっている。長が自分に提示した期限は1年。おそらく1年あれば新たな巫女の選定が終わるだろうと言っていた。その1年を生き残れるかさえ自分では怪しい。

 

 

だが自分はこの1年を生き残らなくてはならない。新しい巫女は探されている。長は1年といったがもしかしたらもっと早くに見つかるかもしれない。

 

 

それまで耐えるしかない。

 

 

1年、1年だ。

 

 

悲壮な決意をして自らを少しでも奮い立たせる。何も絶望しかないわけではないと現状を捉え直す。

 

 

それが楽観的希望的と分かっていてもそうする。

 

 

それが少しでも生きる活力になる為に。

 

 

生き残る。今はただ、それだけを考えていた。

 

 

 

 

 

 




生き残る。


先月医者から肺に影があると言われました。


三日後に精密検査。その三日間は親やずっと会っていなかった友人に電話し他愛ない話をしてました。

精密検査が終わり健康であるとわかったときうっかり泣きそうになりました。

生きてるってすばらしいですね。

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