───年?月??日
ようやく文字を書ける程度には腕と手が動かせるようになったので
久方ぶりに日記を書くことにする。
以前使っていた日記帳はあの時の火事で私ごと燃えてしまったのか手元にないので
とりあえずは置かれていたメモ帳を拝借させてもらっている。
こうして日記を書けているのだから当然だが…どうやら私は死に損なったらしい。
今は窓すらない、隔離された病室のような部屋に閉じ込められている。
日に数度現れる看護師らしき人は私の質問には答えてくれなかった。
おそらく余計な情報を与えないよう口止めされるのだと思うが…
正直聞くまでもなく、下手人が誰かははっきりしている。
胸に繋がったケーブルと、鼓動がないという不思議な感覚。
こんなことができる連中なんてアラン機関…というか、吉さんしかいないだろう。
良い所に上手いこと死ぬことができそうな場所があったので飛びついたのだが罠だったようだ。
余計な事をしてくれたものである。ただ、安易に死にに行った
私も早計だったことは否めないので一旦この怒りは仕舞っておくとしよう。
そのままなら間違いなく死んでいたであろう私をわざわざ治療してまで捕らえたのだ。
相手が吉さんであるならば、その目的は何となく見えてくる。
まさか私にアランの言う才能とやらがあるとは到底思えないし。
そうなった時取れる選択肢を増やすためにも、この身体のリハビリは必須になるだろう。
───年?月??日
左腕が動くようになって数日が経つのだが、
右腕が一向に動く気配がない。というかそもそも感覚がなく、
ただくっついているだけ、といった具合だ。
…これもしかして一生動かないやつでは?
安いもんさ、腕の一本くらい、とは前に書いたが、本当に支払うことになるとは。
だがまぁ、まだ利き腕が残っているだけ良かった方とも言える。
ハンドガン程度ならまだ十分に扱えるのだ。
問題は脚の方だが…こればかりはギプスが外れてみないと分からない。
痛みはあるのでおそらく神経は繋がっていると思うが
せめて片足だけでもまともに動くことを期待しよう。
───年?月??日
今日、吉さんの助手的ポジションである姫蒲さんが私の元へやってきた。
これでアラン絡みであることはとりあえず確定だ。
私が吉松さんは来てくれないのかな? と聞くと姫蒲さんはえらく動揺していた。
…書いてて思ったが、本来なら私は彼女と吉さんの関係を知らないはずなので
あの反応も当然というものか。
ちなみに姫蒲さんは大人っぽい良い香りがした。ミズキに近い感じの香りなので
天然ではなく香水の香りだろう。それでもここ最近は消毒液の匂いばかりだった
のでなかなかうまあじだった。
───年?月??日
足の固定具が外れたので、誰もいないときに一人で
立ってみようと試みたのだが、なかなかどうして上手くいかなかった。
力が上手く入らない感じだ。今までどうやって立ってたっけ、と
我ながら人体の神秘を感じてしまった。それでも動かないわけではないので
リハビリ次第では杖を使って歩くくらいならできそうではある。
途中で看護師に見つかり注意…というか悲鳴を上げられてしまったので
次回からは見つからないよう、タイミングを見計らう必要がありそうだ。
───年?月??日
見て見ぬ振りをしていたのだが、さすがに髪が邪魔になってきた。
私が眠っていた間もすくすく成長していたらしいこの白髪は、
そろそろ私の腰の長さにまで来ている。
ヘアピンとかもないので前髪も強敵だ。
切れるものなら切りたいが、ハサミなんて貸してもらえないだろうし
とりあえず編み込んでまとめてみたのだがやはり長いものは長い。
千束が見たら何と言うだろうか。これだけ長ければいろんな髪型ができる!
と嬉々として弄り出しそうな気がする。
たきなのツインテールも最初は千束がセットしていたし。
…私がいなくなったあと、千束はどうしているだろうか。
きっと私が死んだと聞かされたとき、千束は大泣きしただろうと思う。
クルミのときもそうだったし、小さい頃飼っていた犬のリッキーが
死んでしまったときもそうだった。あの子はとても感受性が豊かで優しい子だ。
そんな優しい子を泣かせてしまったという事実を、私は正しく胸に刻む必要がある。
それでも、これは必要なことだった。任務中こそ千束とたきなはべったりで
それこそ本編以上に仲を深めていたが、任務外では千束は相変わらず私にべったりで
たきなも千束と私の間に入ってくることはなく、むしろ避けていたようにすら見えた。
おそらく、たきなは私に気を遣っていたのだろう。そして千束も、私が関わりすぎたせいで
姉離れ、あるいは親離れできずにいたのだ。
それらの要因が今一歩、ちさたきが完璧な物になるのを邪魔していた…。
つまりは全て私のせいだったというわけだ。
ちさたきの幸せの邪魔をする者は誰であれ容赦はしない。
そしてそれは当然、私自身も例外ではない。
以前にも書いたが百合の間に挟まるのはよくないことだ。
具体的には死を持って償わないといけないくらいよくない。
私がいなくなったことでちさたきは完成されただろう。
だが、それはそれとしてきちんと死んで…いや、
死に直して今までの清算はするつもりだ。
私は本来、二人のストーリーには存在しない異物なのだから。
───年?月??日
今日、ようやく吉さんと話をすることができた。
やはりというべきかこの男、かなりガンギマッている。
使命のためならばいかなるものも犠牲にできるし、
そのためなら自分や他人を巻き込むことも躊躇しない狂人だ。
てかちょくちょく「君ならば分かるだろう?」とか言ってくるのは何アピールなんだ。
私は間違ってもこの狂人の同族ではない。
殺しの才能を世界に届けるとかいう訳の分からない使命よりも、
私のちさたきを成すという使命の方が遥かに崇高な使命だ。
一緒にするのはやめろ。
…で、そんな話がようやく終わったかと思えば、
次は「君がいながらなぜ千束はああなったんだ」とか言い出す始末である。
知らないよ、そもそもかっこつけて救世主とか名乗った吉さんが悪いのでは??
最終的には急に押し黙って「また来るよ」とか言って帰っていった。
狂人の相手は実に疲れる。今日はリハビリしたらすぐに寝よう。
───年?月??日
食事が流動食から、ある程度固形物の混ざった食事に変わった。
味自体はあまり変わっていないが、食べている感はこっちの方がある。
後はお風呂かシャワーには入れれば文句はないのだが…
こっちは相変わらず蒸しタオルだった。
自分では自分の匂いはよく分からないが、さすがにこの毛量でこれは気になるところだ。
───年?月??日
また来るよという宣言通り、再び吉さんがやってきた。
今回は前回より落ち着いているようだ。初っ端からまともな話をしてくれた。
吉さん曰く、この人工心臓は千束が使っている物のプロトタイプにあたる物らしい。
耐用年数も低いうえに、内部バッテリーが半日しか保たないという発展途上なシロモノだ。
吉さんは私に千束が使命を果たしたなら千束の心臓に加えて私の分の心臓も渡すと言ってきた。
つまり、
「自分を殺せば君自身だけでなくお友達も助かるよ、だから早く私を撃ってね♡」
と千束に交渉するつもりなわけだ。狂人すぎる。
しかし、正直割と有効な手段かもしれない…。
千束自身が助かるだけなら、千束は絶対に彼を殺したりはしないだろうが
仲間の命が助かると言われたならどうだろう。
早くしないとお友達が死ぬぞ、と吉松に言われたとき千束は吉松を撃った。
もし仮にそんな状況に陥ったなら千束は吉松を殺してしまうのではないか。
それはマズい。非常にマズい。
このまま行くとまた私がちさたきの邪魔をしてしまううえに
千束が人殺しをすることになってしまう。
ここから脱出するのが一番だが、この身体ではまだ難しいか…?
いっそ舌でも噛んで、と思ったがアレは苦しいだけで死ねないらしいし、
当然、この人工心臓のケーブルも対策されているだろう。
となれば延空木のごちゃごちゃとした展開に合わせて上手いこと姿を消すしかない。
ついでに完成されたちさたきを拝んでから消える…がベストなんじゃない…?
要は千束とたきなに見つかる前になんとかすればいいのだ。
ここまで来てちさたきを台無しにしてたまるか。地面を這ってでも消えてやるからな。
───年?月??日
リハビリを終えたので今日も日記を書いて寝ることにする。
正直成果が出ているかはイマイチ分からないが…
それでもできる限りのことをやっておくべきだろう。
しかし、今日は外が騒がしい気がする。さっきも私の部屋の前をドタドタと
大人数が移動していく音が聞こえた。少なくとも私が目覚めてからはなかったことだ。
まぁたぶん、寝て起きる頃には静かになっているだろう。
───年?月??日
わたしは いま
このびょうしつのようなへやで
ちさととたきなにだきしめられています
うしろには ふきやほかのりこりすたちもいます
は??????????
なんで??????????