遍く総べては『ちさたき』のために   作:ae.

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12『罪を犯す者は、罪の奴隷である』

「百合、百合っ、百合っ!!」

 

 ようやく…ようやく見つけた百合の姿に、ここがまだ安全な場所じゃないということも忘れて、私は走り出していた。

 ぎゅっと、衝動のままに百合を抱きしめる。隣にはたきなもいて、二人揃って同じことを考えていたみたいだった。

 

「千束…それに、たきなに、フキまで…」

 

 百合が困惑したように言う。久しぶりに聞く、百合の声。百合が生きてる、目の前にいる。やっと会えたんだ。遅くなってごめんね、迎えに来たよ、百合!

 

 ……あ、れ? 百合…?

 

 その身体の包帯は? は? その、ケーブルは?

 

「ッ、千束!」

 

 目の前が真っ暗になりかけたところで、ふわっと柔らかいものに抱き締められた。百合じゃない。でも、落ち着く音。壊れかけていた私を、繋ぎ止めてくれた人。

 

「た、きな…」

「落ち着きましたか?」

「…うん。ありがとう、たきな。もう大丈夫」

「今は、百合さんを連れて一刻も早くここから脱出することだけ考えましょう」

 

 いいですね? と言うたきなに、うん、と返事をして、私は立ち上がった。…百合がいなくなったあの日から、私はたまにこんな風になる。いきなり視界が、世界が真っ暗になって、何も分からなくなる。

 百合を見つけられたから、きっともう大丈夫だって、そう思ってたんだけど…どうやらそう簡単に治ってはくれないみたいだった。

 

 …ここはまだ戦場だ。戦っている最中にもしこれが起きたら致命傷になりかねない。

 頭を切り替えるために外へ意識を向けると、フキとその相棒…乙女サクラの会話が聞こえてきた。

 

「百合さんと話さなくていいんすか?」

「…たきなも言ってたろ。リコリスの任務で来てるわけでもないんだし、今の私達は、言っちまえばただの不法侵入者だ。さっさとここを抜けるのが先決だろ」

 

 それに合わせる顔がねぇよ、と消え入るような声でフキが言って…その直後、銃声が響き渡った。

 

「うおっ!?」

「チッ、まだいやがったのか! サクラ、下がってろ、ブラボー、チャーリー、退路の確保はできたか!?」

『こちらブラボー、地下駐車場制圧完了!』

『こちらチャーリー、建物周辺の確保完了! いつでもどうぞ!』

「了解だ! 千束、たきな、聞いてたな!?」

 

 その会話の間にも、廊下の向かい側から聞こえてくる銃声が徐々にこの部屋に近づいて来ていた。

 脱出地点の地下駐車場は向かってきてる連中のちょうど逆側だけど、百合を安全に連れ出すためには全員大人しくさせる他にない。

 

「急ぎましょう。百合さん、歩けますか?」

「…ごめん、まだ脚に上手く力が入らないんだ」

「たきながおぶってあげて。私は部屋の前を綺麗にしてくるから」

 

 たきなの返事を待つことなく、私は廊下に飛び出した。

 銃声とマズルフラッシュ、独特の火薬の匂い。けれど、私には当たらない。全部視えてる。身体全体をフルに使って、距離を詰めれば…

 

ドドンッ

 

 後は、引き金を引くだけ。いつも通りだ。

 

 そうやって、淡々と目の前の敵を処理しながらも、頭に浮かぶのはさっきの百合の姿だった。

 抱き締めたときに感じた違和感。少しでも強く抱き締めたら、簡単に壊れてしまうんじゃないかと想ってしまうほどに細く、筋肉が落ちてしまった身体に、少しも動かない右腕。

 

 そして、何より――

 

(心臓の、鼓動…)

 

 大好きだった、いつでも穏やかで、優しくて、私を落ち着かせてくれたあの音が、なかった。

 百合の服の袖から出ていたケーブルが、私の考えている事が間違っていないのだと言うことを物語っていた。

 

(よくも、百合をこんな目に…!)

 

 さっきまで抱いていた感情が、裏返っていくのが分かる。

 真っ暗なはずなのに、相手の姿だけがしっかりと視えていた。…きっと、今私達と戦っているこの人達は関係ないのかもしれないけれど、もう誰でもいい気分だった。

 

(百合を…百合を、百合を!百合を!!)

 

 気がつけば、あんなにいたずの増援も、立っているのはたった一人だけになっていた。そして、そ最後の一人が、私に「殺さないでくれ」とう。

 

 百合をあんな風にしておいて? 殺さないで? それって虫が良すぎない?

 

 ゆっくりとそいつの元へ近づと、頭に被っいたヘルメットを取り上げる。銃口を額にピタリとつた。

 

「や、やめてくれ…」

 

 非殺傷弾でも、それこそ頭に零距離で撃込み続ければ殺せる。そうだ、殺してしまえばいい。百合を、たきなを、私の大切な人達を傷つけるやつらは、一人残らず。

 

 なんだ、簡単なことだったんだ。そう思い、引き金を引こうとした瞬間――

 

『千束なら絶対にできるよ。これから君はたくさんの人を救うんだ。私のことだってこうして救ってくれただろう?』

 

 ずっと昔に言ってもらった、百合の言葉が頭を過った。

 

「ゆ、り…?」

 

 たきなに抱き締められたときと同じように、真っ暗だったのが晴れていくのが分かる。

 同時に、以前の私なら絶対に考えもしなかったであろうことをしようとしていたことを自覚して…上がってくる吐き気をなんとか堪えたのだった。

 

 

 ───年?月??日

 ───年─月──日

 

 わたしは いま

 

 このびょうしつのようなへやで

 

 ちさととたきなにだきしめられています

 

 うしろには ふきやほかのりこりすたちもいます

 

 は??????????

 

 なんで??????????

 

 

 ……怒涛の一日だった。

 千束やたきな、フキを筆頭としたリコリス達にいきなりあの部屋から

 連れ出されたと思ったら、即山岸先生の元に連れて行かれ、

 そこで散々自分の身体の現状を聞かされたと思ったら、

 次は大挙して押し寄せたリコリスの子達に大泣きされ…最終的に

 

 「病人なんだから安静にさせろ!」

 

 と山岸先生がリコリス達を追い出してようやく静かになった。

 今日のところはこのまま山岸先生のところに泊まることになるだろう。

 検査入院ですか? と聞いたら馬鹿言うなと言われたので、

 また当分入院生活かもしれないが。

 

 それはそれとして…

 

 ちょっとこのちさたきおかしくない?????

 言葉ではなく目線で会話していることが多々あるし、

 たきなは何かあるとすぐに千束を抱きしめるし!

 正直本編の最後でもここまでは行っていなかったと思う。

 

 やっぱ死んで(死にきれなかったけど)正解だったようだ。

 

 予定は狂ったが、これを見れただけでも価値はあったと言えるだろう。

 なんなら少しだけ生きることに未練が湧いてきてすらいるのだが…

 

 どちらにせよ、千束とたきながずっと近くにいるので、行動は制限されることになるだろう。

 当面は大人しくしつつ、この完成形ちさたきを拝むこととする。

 

 …しかし今日はいろんな意味で疲れた。

 久々に嗅いだちさたきの甘い香りで興奮して眠れないかとも思ったが

 この分ならぐっすり眠れそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 傍らに眠る百合とたきなの髪を一撫でして、一人静かに部屋を出る。そして月明りが射す廊下の窓から夜空を見上げながら、私はぼんやりと考える。

 

 あいつが…真島が言っていた。アラン機関はお前が思っているような組織ではないと。つまりはその通りなのだろう。百合をこんな目に遭わせたのが真島の言う通り本当にアラン機関なのだとすれば、あいつらはこの世界に存在してはいけない連中だ。

 

(吉さんに…会って確かめなきゃ)

 

 その答え次第では――

 

 フクロウのチャームを、砕かんばかりに強く握り締める。手を開けば、彼岸花のような真っ赤な血が、フクロウを染めていた。




ちさたきのために頼んだ。

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