リコリコ続編感謝。
「大丈夫そうか?」
ミズキに手伝ってもらいながら(というかほぼミズキにやってもらいながら)ヘリの床にせっせとスナイパーライフルを固定していた私へ、クルミがふとそんなことを言ってきた。
「大丈夫さ。確かに万全とは言い難い状態だけど…銃本体は固定しているし、当てる自信ならある」
と、自信満々に私は答えたのだが、どうもクルミはお気に召さなかったらしい。可愛らしい小さな口からはぁ、と溜息を吐いてから「心臓のことだ」と続けた。ああ、心臓か、心臓ね…うん…。
正直言って、今の時点でもかなり違和感はある。まだ時間的にはバッテリー切れまで余裕があるはずだが、それは最低限心臓が動く時間であって、こうして身体を動かせる時間ではないのだろう。だがまぁ…。
「大丈夫だよ」
私としては、もうそう答えるしかない。というか、保ってもらうしかないのだ。
「こいつが大丈夫って言い出したら、もう何言ったって聞きゃしないわよ」
「…千束に恨まれるな」
クルミは再び溜息を吐くと興味を失ったらしく、ヘリの座席に座ってタブレットを弄り始めた。ミズキが「ていうか手伝えよ!」とクルミに向かって叫ぶがどこ吹く風といった様子だ。
…しかし千束に恨まれる、か。
(いっそのことそうなった方が親離れしてくれるのかなぁ)
ぎゃーぎゃー言いながらも手際よく作業を進めるミズキを眺めながら、私はそんなことを思ったのだった。
「不味いことになってるな」
ヘリを飛ばし始めて少し。私のなでなでにも微動だにすることなくタブレットとにらめっこしていたクルミが、呟くように言った。
このタイミングで不味いことと言えば本編の流れ的に一つしかない。
「真島かい?」
「ああ。リコリスが戦ってる映像をバラ撒いてる。ラジアータも抑えられてるな」
はい当たり〜。
「このまま行けば上の連中は、きっとリリベルを使ってリコリス達を処分しようとするだろうね」
「懐かしい〜昔はよく店に来てたもんねぇ」
あの頃は私と千束もよくリリベルに襲われていたっけ。あの連中、窓とか家具とかを平然と壊すので毎回大変だったものだ。千束が、私が作ってあげたお気に入りのぬいぐるみを壊された時なんてそりゃあもうヤバかった。
結局、私と千束がDAの仕事を手伝うという条件で先生と楠木司令が上に交渉し、リリベル達による襲撃はなくなったのだが。元よりDAの仕事をバリバリやるつもりだった私からすれば、条件なんてあってないようなものだったので、一応千束じゃなくて私に多めに仕事を振ってね、とだけ言って二つ返事でオーケーした。
「まるで客みたいに言うな」
「刺客だから客と言えば客…ッ…!!」
私がウィットに富んだ(テキトー)ジョークを返そうとしたその瞬間、思いっきり胸の辺りに痛みが走った。
あっ、ちょっと意識飛ぶっ♡ ちょっと飛んでんじゃねぇよ!
「お、おい! 百合、しっかりしろ!」
「っ…ふー…ごめん。もう大丈夫、ちょっとクラっとしただけだから」
咄嗟に支えてくれていたらしいクルミにお礼を言って今後の展開へ思考を巡らす。
このまま空路を行けば、延空木へはすぐに辿り着くだろう。その後は窓辺で話しているor戦っている千束とたきなを見つけられれば、そのすぐ近くにあの狂人もいるはずだ。見つけられれば後は簡単。この魔法の狙撃銃でぶち抜けばいい。
要は千束が
少々脳筋すぎる気がしなくもないが、手段のエレガントさを選んでいられるほど余裕がある場面ではない。
…後はもう、撃つ瞬間に心臓が暴れないことを祈るしかない。
ちょっぴりフラグが立った気がしたが気の所為だろう。…気の所為だよね??
◆
「待っていたよ」
そう言って微笑む彼を見ても、私に殺意は湧いてこなかった。あんなに憎いと、許してはいけない存在だと…あの夜は確かにそう思っていたはずなのに。今は、まるで鏡でも見ているみたいだと、そう思う。
百合から大切なもの奪っていたのは、私も同じだったのだから。
「私を殺しに来てくれたんだろう? 君達に時間が無い事は私もよく知っているつもりだ」
無駄な問答はよそうじゃないか。そう言って、吉さんはシャツの前を開ける。
「まさか…」
その声が私から溢れたものだったのか、たきなのものだったのかは分からない。けれど私達は二人とも、どうしなければならないのかを理解したはずだった。
彼の胸元には大きな傷跡…手術痕があったのだから。
…どうして、こうも世界は上手く行かないことだらけなんだろう。
大切な人の人生を奪い続けて、次はその人が必死に守ろうとしてくれた
(……百合を、助けよう)
――そして、それが終わったなら彼女の前から消えよう。
私にはもう、彼女の傍にいる資格はない。
鞄を下ろす。その中には、彼女への
マガジンを落とす。そして、入れる。
「千束…?」
たきなに、ゆっくりと微笑む。これから百合をよろしくね。百合にはたきなみたいな純粋で真っ直ぐな子の方が相応しいと思うから。
引き金に指を掛ける。こんな時にも脳裏に浮かぶのは、百合の柔らかい笑顔だった。
(百合)
ごめんね。ずっと…ありがとう。
指に力を入れる。そして――
一発の銃弾が、放たれたのだった。
◆
「……ッ!?」
そろそろかな~と思いながら、スナイパーライフルのスコープを覗き込んで狂人探しに勤しんでいた私の目に飛び込んできたのは、なぜだか殴り合いを繰り広げている千束とたきなの姿だった。
………??????
えっ??? いやこれどういう状況???? なんでこの二人が殴り合ってんの?????
まるで分からない…分からないが見た感じ千束が優勢のように見える。まぁそうなるよねって感じだが。…リコリスは一応格闘技術も教わるものの、射撃技術と比べるとそれほど優先されないのが普通だ。任務の性質上そもそも殴り合う前に速やかに終わらせるのが基本だからである。
だが千束は弾を躱せることや、不殺を守っていることもあって、
…なんて流暢に解説してる場合じゃないっ!
「ミズキ!」
即座に指示を飛ばしてヘリをさっき見ていた場所へ向かわせる。
何にしても今がチャンスだ!
(吉松、吉松は…いた!)
脇腹を押さえた状態で支柱に背を預けていた。その隣にはこちらもこちらでダメージを負っているっぽい姫蒲さんの姿もある。
…わりと最終局面っぽいな? それだけにちさたきがバトってるのが凄い違和感あるけど…
「近づけたけど、こっからどうするわけ!?」
と、ヘリを操縦してくれていたミズキの声で意識を引き戻される。
「ヘリのハッチを開けてくれ。クルミ、すまないが私の身体を支えてくれるかい?」
「それ固定してたときからイヤ〜な予感はしてたけど、やっぱそういう感じね」
続く、ちょっと
(さらば、吉さん)
そうして引き金を引こうとした、その瞬間だった。
「ッ…うッ…!?」
さっきよりも遥かにデカい、刺さるような痛みが走ったのだ。
(ぐあー!!! このポンコツ心臓がぁ!!?!)
なんと視界まで明滅してくる始末。もうダメかも分からんね、となったところをなんとか『ちさたき』を想うことで繋ぐ。
そしてなんとか再度スコープを覗き込んだ私を待っていたのは、吉さんの頭へと銃を向ける千束の姿だった。
(ヤバいヤバいヤバい!!)
もうぶっ放すしかない。千束に当たらないよう、これまで培ってきたスナイパー的直感で着弾地点を調整し…今っ! ここっ! 今度こそここっ!!
「…ぁっ」
次は引く前ではなく、引き金を引いた瞬間。私をこれまでの人生でも経験したことのないような感覚が襲った。
力が入らない。意識が抜けていくような、そんな感覚だ。焦りすぎて心拍数が上がりすぎたのだろう。たぶん、使い切ったのだ。走馬灯は見なかったが、世界が随分ゆっくりに…スローモーションの映像でも見ているかのように感じられる。
ゆっくりと迫っていく銃弾は、確実に吉松の元へと向かっていた。やはり私のスナイパー的直感は正しかったようだ。
そして、私が意識を手放す直前。最後に見た光景は、吉松が私の放った銃弾に貫かれる姿…ではなかった。
(…………は?)
銃弾は、千束が吉松に向けていた銃を貫いていた。
(はああぁあぁ!?!?!!?!)
満足感は一瞬にして何処へと去り。
今度こそ私は、意識を失ったのだった。
◆
白園百合
YURI SIRAZONO
ID:ABCDEFGHI
AGE:18
SEX:female
DOB:12/24
MARKS:A+
confidential
DA支部『喫茶リコリコ』所属のファーストリコリス。幼少期から安定した精神性と、優れた思考力、戦闘能力を誇り、周囲からの信頼も厚く、重要な任務には必ず召集される。
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secret
任務管理番号:XXXXXX-XA
第一現場指揮官として当該任務に従事。施設の制圧に成功するも、致命的な外傷を負い、第二現場指揮官である『春川フキ』へ指揮権限を移譲。
回収地点到達時までの生存は絶望的と判断され、同現場指揮官による指揮の元で部隊は脱出。現場の状況及び報告から『KIA』と認定される。
任務管理番号:XXXXXX-XA 補足
『KIA』と認定されていたが、生存が確認される。外傷の程度と移植された人工心臓のスペックから、以後の任務参加は絶望的と判断されるが、DA関東本部・東京支部の楠木司令官の提言により、ファーストリコリスとして留め置かれる。
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Top secret
任務管理番号:XXXXXX-XB
DA支部、『喫茶リコリコ』に依頼された延空木奪還及び真島の殺害任務において、本来従事者ではないにも関わらず任務に参加。
状況終了事、人工心臓のトラブルからDA直轄の医療施設へと搬送。その後、同支部所属のファーストリコリスである『錦木千束』と、セカンドリコリス『井ノ上たきな』より、 が報告される。
以後、リコリスとしての登録を削除。