遍く総べては『ちさたき』のために   作:ae.

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たきな視点。
併せて百科事典の方も更新しておりますのでお暇な時にでもどうぞ。



6『私は、私を強くしてくださる方によって何事でも成せる』

「少しの間、百合とペアを組んで仕事をしてもらうことになった」

 

 朝、喫茶リコリコへ訪れた私を待っていたのは、店長のそんな言葉でした。

 疑問に思った私はすぐになぜかと質問しようとしましたが、私がそう言い出すよりも先に、店の奥から出てきた百合さんが

 

「千束が風邪を引いてしまってね。すぐ良くなるとは思うけど、その間私が千束の代わり、というわけさ」

 

 と、答えてくれました。…あんなに元気そうな人が風邪とは。そもそも平和を守るリコリスとしてどうなのか、という気持ちはありましたが…私としてはあの人よりも百合さんと一緒に任務にあたれる方が良かったので、その時は特に何も言わず、ただ分かりましたと返事をしました。

 

「少しの間よろしくね」

「はい、こちらこそご指導のほどよろしくお願いします」

 

 

 

「この上だね。暗くて狭い階段…どう攻める?」

 

 百合さんとの初任務はDAから命令があった、武装組織の制圧任務でした。百合さんがこのような形で、任務中も逐一、私にどうするべきかと問いかけてきます。

 私に対する試験であり、同時に授業のようなものなのでしょう。私は少し考え、答えました。

 

「私が先行します。百合さんは援護を」

 

 すると、百合さんはなるほど、と言った後、こう続けました。

 

「少なくともまだ5、6人程度は上にいる。もし待ち構えているとすれば練度は高くないとはいえリスキーだ」

「私なら問題ありません、制圧できます!」

 

 すぐに私はそう言い返していました。実際、今回の相手はそれほど練度の高くない、言ってしまえば拳銃で武装したゴロツキ程度のものです。訓練を重ねたリコリスであれば、それほど問題なく制圧できるでしょう。少なくとも私にはそれができるであろう自信がありました。

 しかし、彼女は

 

「殺害する前提ならね」

 

 そう言いました。今回の任務ではDAから生きて捕らえるように、とは言われていません。仮に言われていたとしても、彼らは全員悪人。死んでも文句なんて言えない連中のはずです。

 …千束さんといい、なぜそこまで不殺にこだわるのか、私には不可解でした。そんな私の不満げな気持ちが顔に出ていたのか、百合さんはさらに付け加えました。

 

「こう考えよう。殺すよりも殺さずに制圧する方がはるかに難易度は高い。だからこそ学べることはただ単に殺害するよりずっと多いってね」

 

 任務における合理性と、自身の成長。本来であれば前者を選ぶべきなのかもしれません。けれど、それを言っているのはファーストリコリス、それも、全リコリスの中でも模範的な存在。私は、彼女に追いつきたい。彼女に見てもらいたい。

 

「…分かりました。けれど、やっぱり私が先行します」

 

 私の腕なら殺さずに加減できます、と言うと──

 

「いいね」

 

 百合さんはいつもより少し獰猛な笑みを浮かべながら、そう言ったのでした。

 

 

 

 

 百合さんとの任務を終えて数日が経ち、ようやく千束さんが復帰しました。

 

「いやー、ごめんね、心配かけちゃって。でももう大丈夫、見ての通り元気いっぱいな千束です!」

 

 店長と百合さんから、今日からまた二人で仕事をしてもらう、と言われた私は自然と言い返していました。

 

「百合さんと一緒に行動する方が学べることは多いと思います」

 

 これは純然たる事実だと私は思います。千束さんと任務をこなすより、百合さんとの方が成長していると実感ができるのです。確かに千束さんとはまだ数回しか任務にあたっていませんが、彼女の普段の言動や性格から考えれば百合さんより教導する能力に劣るのは間違いありません。

 

「ええ~。そんなこと言わないでよ、たきな~」

「言います。そもそも千束さん、リコリスが自分で自分の体調管理もできないようでは困ります」

「それは悪かったって~」

「百合さんはどう思われますか?」

 

 悪びれもせずそんなことを言う千束さんを無視して、私は百合さんに直接声を掛けました。彼女ならきっと私の言うことを理解してくれるはず。

 実際、百合さんは少し考えている様子でした。これなら──

 

 そう思った次の瞬間には、私は千束さんに腕を掴まれ外に連れ出されていました。

 

「…どういうつもりですか、千束さん」

 

 自分でも分かるくらい刺々しくなってしまった私の言葉に、千束さんは先ほどのような軽い言葉を重ねるばかり。

 結局その日を境に、私は千束さんと再度ペアを組むことになりました。決め手となったのは百合さんが言った、「千束は私よりも数段強い。学べることは私以上にあるさ」という言葉でしたが…強いかはともかく、学べるかどうかは疑問が残ったままでした。

 

 

 

「お二人はいつも一緒にどこへ行っているんですか?」

 

 いつものように、喫茶リコリコの閉店準備も終わった頃、私はここ最近ずっと疑問に思っていたことを二人に質問しました。

 お店が終わって夜の仕事もないときには、百合さんと千束さんはいつも一緒にどこかへ行っていました。それが彼女たちの強さに何か関係するのかと思ったのです。

 

「えーっと、一緒にって?」

 

 千束さんはあくまでも答えるつもりはないらしく、わざとらしい言い方でそんなことを言っています。最近薄々思っていたことでしたが、彼女は嘘をつくのが苦手なようです。

 すると、結局百合さんが答えてくれたのでした。

 

「私のセーフハウスだよ」

 

 百合さんのセーフハウス…きっと何もない、さながらプロの部屋なのだろう──

 

「よしたきな、私の家に行こう! 映画見よう!」

 

 その次の瞬間には、私は千束さんに腕を掴まれて…前にもありましたね、こんなこと。

 千束さんは私の言葉にはまったく聞く耳を持たず、そのまま彼女のセーフハウスと思われるマンションまで連れていかれました。

 

 

「はい、上がって上がって!」

「は、はぁ」

 

 彼女の勢いにたじろぎつつも、私は既にどこか諦めている部分がありました。普段の様子や、ちょっとした時間に百合さんや店長、ミズキさんが聞かせてくれた千束さんのパーソナリティ…そこから考えると、彼女はいつも「唐突」なのでしょう。あるいは、この唐突さがファーストリコリスになるには必要なのでしょうか…。

 

 そんなこと考えているうちに、彼女の家の一番広いであろう場所、リビングに着きました。そこで、私は少し彼女のことを誤解していたのかもしれない、と反省することになりました。

 かくして、目の前に広がっていたのは文字通り何もない部屋(・・・・・・)でした。

 

「プロの部屋だ…」

 

 自然と、そんな言葉が口から零れていました。これぞプロの部屋…何も残さず、無駄は一切ない。いつでも放棄可能な場所。

 千束さんもまた、プロだったのです。

 

 …そう、思っていたのですが

 

「ああそっちじゃないよ。こっちー」

 

 すぐに私は彼女に対して抱いた印象を撤回し、即捨て去ることになりました。

 曰く、長く仕事してると色々あるのよ、とのことでしたが…それにしたって、こっちの生活スペースの方は散らかりすぎではないでしょうか。映画のブルーレイディスクに、開封されて放置された食べかけのお菓子…これが果たしてプロの部屋なのかと疑問を隠せません。

 

「ちょおーっと座って待っててね。あ、その辺空いてるとこ座っていいよー」

 

 千束さんにそう言われ、ソファにまで侵食していた雑多な物を除けつつ、座りました。

 少しするとコーヒーが出され、私はお礼を言って飲み始めます。そうこうしている間にも千束さんは何事か準備をしていたらしく、程なくリビングの大きなディスプレイには何やら映像が流れ始めました。

 

「この映画見たことある? 未来から送られてきた人間そっくりの機械が追い回してくるってやつなんだけど」

「いえ、ないです。映画自体あまり…というかほとんど見ませんので」

 

 私が正直に答えると、千束さんは微笑みながら

 

「そうなんだ? じゃあ今度厳選した千束セレクション貸しちゃうよ! あ、それとも今日みたくウチで観る?」

 

 そう言いました。その笑顔はどこか百合さんにも似ている気がしましたが…私としては本当に映画を見るつもりで連れてきたのかと呆れてしまい…口にも出していました。

 

「ん~? そうだよ? あとはたきなと仲良くなりたいからかな? …お、始まった」

 

 けれど彼女は私のそんな態度や言葉にも動じることなく、そう答えたのでした。

 いったい、この人は何を考えているのやら…無理に付き合う必要もない、そう思い始めたとき、私は百合さんが幾度となく言っていたある言葉を思い出しました。

 

『千束と仲良くしてあげてほしい』

 

 仲良く。つまりは良好な関係を築け、ということでしょう。二人で映画を見るという今のこの状況は百合さんの言った良好な関係を築く一助にはなるはずです。

 それに、百合さんがわざわざそう言ったということは私にとっても少なからず良い影響があるからだろうと思います。

 

「ハンドガン程度ではびくともしませんね」

「でしょ? これに追いかけられるとかホラーだよホラー」

 

 こうして私は、百合さんから与えられた任務として(・・・・・)、千束さんと仲良くなることを決めたのでした。





ちさたきのために頼んだ。

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