エンドレスネーク 作:ぽん
期末テスト。
日本で育った人なら、誰もが一度は経験するであろうイベントである。そして、一部の人を除く、大多数の人が嫌いなイベントでもある。一部の人というのは
勉強が得意な人。
頭のいい人。
そんな人たちからすれば、期末テストなんて学校がいつもより早く終わるラッキーなイベントでしかないのだろう。とはいえ、そんなエリートたちにも、僕のような凡人と同じだけの量の課題が出されている。
課題。
期末テストにハッピーセットのごとくついてくるあれである。全くハッピーではない。頼んでもいないのについてくる時点でハッピーセットとは程遠い。アンハッピーセットと言ってもいいのではないだろうか? そんなアンハッピーセットが、僕はとてつもなく嫌いだ。この世で一番嫌いと言っても過言ではないくらい嫌いだ。嫌いな理由を話せば原稿用紙十枚くらいは余裕で超えてしまうのでここでは話さないが、とにかく僕は課題が嫌いなのである。
と、そんなことを話しているうちに、僕の愛すべき妹である
「そういやお前たち、今日はどっか出かけたりしないのか?」
僕はベッドに腰掛けて、既に起き上がって椅子に座っている
「特に予定は無いけど……それがどうかしたの?」
上に座っている
二人は基本的にセットでいる――ハッピーセットのように。だから、
「なら二人とも、僕の課題を手伝ってくれよ。どうせ暇なんだろ?」
「嫌だね! それくらい自分でやれよ、お兄ちゃん」
「そうだよ、お兄。自分の課題は自分でしなよ」
正論である。
だがしかし、ここで引き下がるわけにはいかない。
「なんだよ。お前たちは兄の頼みが聞けないって言うのか?」
「聞けないというか、私はお兄のためを思って言ってるんだよ?」
「私もそう!」
「違う。お前はただ単にめんどくさいだけだろ」
「分かった、訂正する。私はめんどくさいからお兄ちゃんの課題を手伝いません! てかそもそも、最終日まで残してたお兄ちゃんの自業自得だよね」
二人して、兄に対して辛辣過ぎやしないか?
だがしかし、ここまでは想定内である。
「じゃあ手伝ってくれたら、神社前のケーキ屋で好きなだけケーキを買ってやるよ」
「「今すぐ手伝います! 手伝わせてください!」」
即答だった。
ちょろい妹たちである。
「準備するからちょっと待ってろよ」
僕はそう言って、服を着替え始める。寝巻きのままでケーキ屋に行く程、僕は狂ってはいない。
着替え終わったら、今度はカバンの中から課題を取り出し、勉強机の上に並べる。並べてみて思ったが、かなりの量だ。一応、分かってはいたが、こんな量の課題を正攻法でやったら間違いなく今日中に終わらない。多分、徹夜すれば終わるとは思うが、そんな馬鹿みたいなことをしたくはない。課題を最終日まで残してる時点で馬鹿なのだが、それは置いておくとして、そんな今日中に終わらない量の課題をどうやって終わらせるつもりなのかと言えば、単純明快――正攻法ではないやり方で終わらせるだけである。正攻法ではない、せこいやり方。つまりは答えの丸写しである。誰もが一度はしたこと、あるいはしようとしたことがあるのではないだろうか? ちなみに僕はこれまでに何度もしてきた。そのおかげで、徹夜で課題をするという馬鹿みたいなことは生まれてこの方したことがない。もちろん、これからもするつもりはない。
だいたい、妹たちに手伝わせようとしている時点で、答えを見る気しかないことが丸わかりである。あいつらがいくら天才とはいえ、それは中学二年レベルでの話であって、高校二年の問題ができるというわけではないのだから。
「これで全部?」
「ああ、これで全部だ」
英、国、数、理、社、の五教科。科目数でいえばもう少しある。
「こんなにあるのに、テスト前日まで一つもやってないとか、お兄ちゃんはやっぱ馬鹿だな」
「馬鹿なのは事実だけど、そんなこと言ったらだめだよ、お姉」
「
お前たちは、何か僕に恨みでもあるのか? さすがの僕でも、ここまで言われたら少しは傷つくぞ。反論はできないけど!
「そんなことはどうでもいいとして、お兄ちゃんはさっさとケーキ買ってこいよ」
「そうだよお兄。課題は私たちシスターズがちゃんとしておくから、早く買ってきて」
と、催促してくる二人。
「はぁ……どうせ、そう言って、ケーキを食べるだけ食べたら課題をやらないつもりなんだろ? お前たちの考えてることなんて、僕にはお見通しなんだよ」
「「…………」」
図星だったらしく、二人は黙って僕から目を逸らした。
課題を始めて、少し経ってから言うならまだしも、課題をする前からそんなことを言うと、ケーキを食べたいということが全面的に押し出されすぎていて、課題をする気がないことがバレバレである。
それに、十三年も一緒に生活しているとこいつらの考えそうなことなんて、嫌でも分かってしまうのだ。
「お前たちは、もうちょっとバレないように工夫するとかできないもんなのか?」
「バレないようにって、な……なんのことかな」
あろうことか、
こんなバレバレな状況で、まだとぼけるなんて、予想外すぎる。予想外すぎて、僕だけでなく、
「まあいいか――ここは優しい兄として、見逃してやるよ」
「とか言って、ひーちゃんのかわいさに
「違う。少なくとも
「またまた、そんなこと言っちゃって〜。お兄ちゃんはツンデレなんだから〜」
ノリがうぜぇ。
そのニヤけている顔をぶん殴ってやろうか。
「ツンデレでもねーし、ツンデレの男キャラに需要なんかねーよ!」
「お兄、メタい。二話からそんなことばっかり言ってたら、この先やっていけないよ」
と、
「
二話ってなんだよ! 二話って!
「私はお兄と違って、そういうことを言っても許される立場にいるからいいんだよ?」
「そんな立場のキャラクターなんていねーよ!」
お前の立場は僕のかわいい妹であって、それ以上でもそれ以下でもない。そして、もう一人の方はうざくて、馬鹿で、すぐに物を投げてくる悪魔みたいな妹だ。顔だけだったら
「私の性格はあれで、あれしちゃってなんかいねーよ!」
というかあれってなんだよ、と
「そんな頻繁に地の文を読むな」
「地の文なんて読んでねーよ! 私はお兄ちゃんの汚い心を読んでるだけだ!」
「僕の心は汚くないし、お前にそんな力もねーよ!」
そんなことばっか言っていると、
「とりあえず、お前は地の文を読むな。どうしても読みたい時は、読ませてくださいお兄様! って言ってからにしろ」
「お兄ちゃんをお兄様って呼ぶくらいなら、自殺する方がまだマシだよ――うっ、想像しただけで吐きそう……」
そう言って、
地の文を読むのをやめさせるという目的は達成されたのだが、しかしなぜだろう。僕は精神的にかなり傷ついた。
「それが力の代償だよ、お兄」
「僕は代償を払わなければいけない程の力なんて持ってねーよ」
「お兄も主人公ならそれくらいの力がないとだめだよ。ルール違反だよ」
「ルール違反って言うなら、
「ん、分かった」
普段は結構マイペースだが、こういう時は聞き分けがいい妹である。
「んじゃあそろそろ、僕はケーキを買いに行こうと思うんだけど、お前らちゃんと課題やっとけよ?」
帰ってきた時に課題が全く進んでいなかったら、お前たちが食べる分のケーキは無いと思え。
「その言い方だと、私たちが自分の課題を全然してないみたいになってるけど、お兄ちゃんの課題だからね?」
「確かに僕の課題だけど、僕たちは一心同体みたいなもんだろ? だから、僕の課題はお前たちの課題でもあるというわけさ」
「そんなことが許されてたまるかよ!」
「まあまあ、そんなこと言ってないで、二人とも買ってきて欲しいケーキでも教えろよ」
僕は巧妙に話を逸らす。
「「ティラミス、プリン、モンブラン、ミルフィーユ、モンブラン、モンブラン!」」
一言一句、順番も一緒とか、この双子怖っ……。
性格とか違うのに、こういうところだけは同じっていうのがなおさら怖い。実はこいつらの双子力は、双子の中でも、かなり高い方なのか?
まあ双子力の話は一旦置いといて、妹たちに言いたいことが一つ。
「どんだけ食うつもりなんだよ、お前ら! 確かに好きなだけ買ってやるとは言ったけどさ、兄妹でも普通、ちょっとくらいは遠慮するだろ!」
僕の財布へのダメージがでかい。
効果はバツグンでさらに急所に当たった気がする。ちなみに四倍の方のバツグンだ。
「遠慮ね、遠慮。お兄ちゃんにはいらないものでしょ。私知ってるよ!」
「お前は僕をなんだと思ってるんだ……?」
「うーん……格下?」
「格下っ!?」
妹に格下に見られていたとか、今まで生きてきた中で、トップクラスの衝撃すぎる事実なんだが……。
「格下が嫌なら、
「妹の
普通は逆だろ。
妹が兄の
まあ、
「それも嫌なら、もう奴隷しか残ってねーぞ、お兄ちゃん」
「奴隷って、僕は人権すらも剥奪されてしまうのか……」
格下がだいぶマシに思えてきた。
「おい奴隷! さっさとケーキ買ってこいよ!」
「はぁ……わかったわかった。買ってきてやるから、お前たちは大人しく課題しとけよ」
「「いってらっしゃーい」」
僕は机の上に置いてある財布と自転車の鍵を取って、部屋を後にする――階段を降り、そのまま玄関に向かい、ドアを開けて外に出た。
同時に――僕は見てしまった。
玄関の前にいる蛇の死骸――