エンドレスネーク   作:ぽん

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 とりあえず、僕はさっきのことを掻い摘んで二人に説明した。

 蛇が自分の尾を飲み込んで環になっていたこと。

 五寸釘で何回も刺されていたこと。

 人の手によって殺されていたこと。

 

「とまあ、そういうことがあったんだけどさ、二人とも、そういうことをされたりするような、心当たりとかってないか?」

「そういうことって、蛇の死骸を玄関の前に置かれたりってこと?」

「別にそれだけに限ったことじゃなくても、学校で悪戯されたりとか――もっと酷いことだと、いじめられたりとかさ」

「こう見えても私、クラスの委員長なんだよ? そんなことされるわけないじゃん!」

 

 シャーペンを走らせながら、海月(みつき)は呆れたように言う。

 お前が委員長をしていたとか、初耳なんだが? というか、こんなやつが委員長のクラスなんて、学級崩壊待ったなしじゃねーか!

 

「別にクラスの委員長だからって、悪戯されたり、いじめられたりされないとは限らないだろ? 誰も委員長をする人がいなくて、無理矢理押し付けられた可能性だってあるだろうし」

「別に私はそんなことされてねーよ!」

 

 普通に立候補して選ばれただけだ、と海月(みつき)は口を尖らせる。

 

「お前なんかが、よく選ばれたな」

「まあ私って、クラスの人気者だからね! 委員長に選ばれた時かって、他の二人の立候補者に圧倒的な差をつけたんだよ! ね、ひーちゃん!」

 

 自分で自分のことを人気者って言える人間が、アイドルとか俳優とか以外にも存在したんだな……。自己肯定感高過ぎだろ、こいつ。

 

「私、その時寝てたから知らない」

 

 口の中のモンブランをごくりと飲み込み、日菜海(ひなみ)ちゃんは小さい声でそう呟く。

 クラスの委員長を決める時に寝ていて、注意されないもんなんだな……。まあ、海月が委員長に選ばれるようなクラスだから、そんなものなんだろう、きっと。

 

「でもよ、海月(みつき)。人気者だからこそ、お前のことをよく思ってない一部の層から嫉妬されたりとか、そういうことだって、あるんじゃないか?」

 

 僕は逸れた話をもとに戻す。

 

「確かにそれはあるかもしれないけど、心当たりなんてないよ。ひーちゃんもないよね?」

「ん、私もない」

「なら例えばだけど、告白されたけど、断ったりしたとかはないか? お前たち、結構かわいいんだから、告白されることくらいあるだろ?」

「あ、それならあるよ。結構ある」

「私もある。断ったけど」

「結構あるって、海月(みつき)――お前ってそんなモテるの?」

 

 日菜海(ひなみ)ちゃんは顔も性格も全部がかわいいから、モテるんだろうとは思っていたけど、海月(みつき)も案外モテるんだな。やっぱり、世の中、性格よりも顔なんだな。

 

「私は言っても、ひーちゃんの半分くらいの回数しか告白されたことないよ」

「半分くらいって言われても、日菜海(ひなみ)ちゃんが何回くらい告白されてるのか知らないんだが……」

「うーん……私は週一くらい?」

「え、まじで!?」

「まじで」

 

 週一って、一年で五十回くらい告白されてるってことだよな……。まあ、夏休みとか、冬休みとかもあるから、実際の数はそれよりも少ないんだろうけど、それでも多すぎだろ。

 

「で、日菜海(ひなみ)ちゃんも海月(みつき)も、それ全部断ってるんだよな?」

「そうだよ、だって付き合うとかってめんどくさいじゃん!」

「私もお姉と同じ。そんな暇あるなら、家でゴロゴロしてたい」

 

 理由がそこまで大したことではないどころか、ふざけてるようにしか思えないのが、この二人の悪いところだと僕は思う。せめて、タイプじゃないとか、今は勉強に集中したいからとか、そういうのにしとけよ。

 

「でもよ、お兄ちゃん。そんなこと別に、悪戯とか、いじめとかとは、全然関係ないじゃん」

「いやいや、海月(みつき)、ちょっと考えてみろよ。好きな相手に勇気を出して告白したのに断られた。それもめんどくさいとか、家でゴロゴロしてたいとか、そんな理由でだ。それって、十分相手を恨み――悪戯とか、いじめとか、そういったことをする理由になると思うんだ。正直言って、好きな人に振られるのって、かなりショックで、辛くて、悔しくて、悲しいもんなんだぜ。たとえ好きな人だとしても、恨みたくもなるよ」

「何その経験ありそうな言い方。もしかして、お兄ちゃん告白したことあるの? それか好きな人でもいるの?」

 

 海月(みつき)はシャーペンを動かす手を止め、ニヤニヤしながら僕の方を見る。

 

「そんなのいねーよ」

「なら友達は?」

「それもいねーよ――って、おい!」

「お兄ちゃん、可哀想だね……」

 

 海月(みつき)は僕を憐れむような声色で、満面の笑みを浮かべながらそう言った。

 

「言ってることと、態度が矛盾してんだよ。それと一つ言っておくが、僕は別に友達がいないことに関して、なんとも思ってないからな。言いたきゃ勝手に言ってろ!」

 

 友達なんて、いないほうがいい。

 それに――他人に心を許せるほど、他人を信用できるほど、今の僕は弱くはない。

 

「つまんないのー」

 

 少し残念そうな顔をすると、海月(みつき)はまた、手を動かし始めた。

 結局、二人とも心当たりはなしか。まあ、別に二人を狙ってしたことかどうかも、僕の憶測であって、確定しているわけではない。だから、心当たりがなくて当然といえば、当然だ。もしかしたら、僕に対しての悪戯であり――悪意であるという可能性も、決して高くはないが絶対にないとは言い切れない。まあ、そうは言ったものの、僕も心当たりなんてのはこれっぽっちもないのだけれど。

 

「なあ、お兄ちゃん。もう話すことないならさっさと課題しろよ。どうせまだ、1ミリたりとも手つけてないだろ」

「これ食べ終わったら始めるから、ちょっとくらい待てよ」

 

 海月(みつき)に不服そうな顔をされるが、僕はガトーショコラを口に運ぶ手を止めたりはしない。

 

「お兄、英語終わった。だから、ちょっと休憩」

 

 日菜海(ひなみ)ちゃんは英語の問題集をパタンと閉じて、そのままベッドに仰向けに倒れ込む。

 

「え、まじで!?」

「まじで。答え写すだけだし、これくらい楽勝」

「それにしても早すぎだろ! 日菜海(ひなみ)ちゃん天才かよ!」

「私、天才かも?」

「私も天才だけど?」

「うっせぇ、馬鹿。お前は黙って課題してろ」

 

 僕は日菜海(ひなみ)ちゃんに張り合おうとする海月(みつき)の頭を、くるくるとロール状にした英語の問題集で軽く叩く。

 

「私は馬鹿じゃないもん……」

 

 海月(みつき)は叩かれた頭を抑えながら言った。

 

「痛そうなフリをするな」

「フリじゃねーよ! 普通に痛いよ!」

 

 そうなのか。海月(みつき)って、意外とひ弱だったんだな。

 

「僕のガトーショコラ、ちょっとやるから機嫌直せよ」

 

 僕は一口サイズの大きさに切ったガトーショコラをフォークに刺して、海月(みつき)の口元に持っていく。そして、そのまま――パクっ。

 

「ガトーショコラ、んまっ! ありがと、お兄ちゃん!」

 

 ケーキ一口で機嫌を直してくれるなんて、ほんとちょろい妹だ。ちょろすぎて、誰かに騙されたりしていないか、兄として少し心配になってくる。例えば、知らない人にお菓子あげるから家についておいで、と言われたら、喜んでついていくレベルでちょろい。

 

「あ、そうだお兄」

 

 ベッドに倒れ込んだまま、日菜海(ひなみ)ちゃんは言う。

 

「なんだ、海月(みつき)の分のケーキが欲しいなら、全部食べていいぞ?」

「何勝手に私の分のケーキあげようとしてんだよ」

 

 今なんか、何勝手に私のケーキあげようとしてんだよ、という海月(みつき)の声が聞こえた気がするけど、多分空耳だろう。きっとそうだ。僕は何も聞いてなんかいない。

 

「違う、それは別にいらない。そうじゃなくて、一つ心当たり、思い出した」

「心当たりって、なんだよ?」

 

 蛇の死骸を置いた人物のことだよな?

 

()()()()()

 

 日菜海(ひなみ)ちゃんは小さい声で、だがはっきりとそう言った。

 

「うろぼろす? なんだよそれ? それが蛇の死骸を玄関の前に置いた人物――犯人の名前なのか?」

 

 世の中には変わった名前の人がいるんだな。

 

「違う、お兄。心当たりっていうのは、犯人のことじゃなくて、蛇の死骸についてのこと。蛇の死骸が環にされてたんでしょ。自分の尾を飲み込んで。だったら、ウロボロスだよ」

「蛇の死骸について? 犯人のことじゃないのか? だったら、その、うろぼろすってなんだよ。僕はてっきり犯人の名前だと思ってたんだけど……」

 

 まじで、日菜海(ひなみ)ちゃんは何の話をしているんだ?

 

「お兄ちゃん、ウロボロスのこと知らないの? 蛇とか、竜とかが、自分の尾を飲み込んで環になってる絵とか、そういうの見たことない?」

「そんなの見たことも、聞いたこともねーぞ。というか、どうして二人はそんなこと知っているんだ?」

「「一般常識じゃないの?」」

 

 二人は声を合わせて言う。

 ウロボロスが何なのかを知らない僕でも、それが一般常識じゃないことくらいは分かるわ! そんないつ習うんだよ。

 

「で、結局ウロボロスっていうのはなんなんだ? そういうものがあるっていうのは分かったけど、それがどういうものかはさっぱりだぜ」

「ウロボロスってのは、永遠とか、無限とか、不老不死とか、そういうのを意味する古代の象徴の一つで、呪いとか、儀式とか、そういうもの」

「呪い、か」

 

 僕は日菜海(ひなみ)ちゃんが言った――()()、という言葉を繰り返す。

 呪い――つまり、明確な悪意だ。僕たち三人の誰かに対して、悪意を持ってした悪戯、もしくはそれ以上の意味があるなにか、なのかもしれない。

 とはいえ、僕はそんな呪いや、(まじな)いという、オカルトじみたことなど、信じてはいない。神なんて、存在しないし、幽霊もいない。それと同じように、呪いもまた、存在しないのだ。

 

「呪いだか、祝いだか、なんだか知らないけど、別に気にするほどのことでもないだろ」

 

 存在しない――想像上のものを気にする必要など、皆無である。

 

「お兄ちゃん、面白くないよ」

 

 と、海月(みつき)は静かに言う。

 

「うっせぇ、それくらいお前に言われなくても分かってるわ!」

 

 僕も言ってすぐ、言わなきゃよかったって思ったんだよ!

 

「お兄、おめでとう?」

「今、この状況で僕を祝うなよ。恥ずかしいわ」

 

 というか、そのおめでとうは、何に対してのおめでとうなんだ? 僕がスベったことに対してじゃないよな?

 

「お兄、ハピバ」

「スベったことに対して、嫌味で言ったおめでとうを適当に誤魔化そうとするな。僕の誕生日は今日じゃないし、今月ですらねーよ! だいたい、今月誕生日なのはお前たちの方だろ」

「そうだっけ? お姉、誕生日いつ?」

 

 僕の誕生日はともかく、自分たちの誕生日くらいは把握しとけよ。

 

「私の誕生日? 私の誕生日は今月の21だぜ。盛大に呪ってくれよ!」

「言ってることがめちゃくちゃになってるぞ」

 

 盛大に呪ってくれよって、そんなこと言ってる奴は、その時点で呪う必要がないくらい、十分狂ってるだろ!

 

「お兄ちゃんがびっくりするくらい面白くない、小学生でも言わないような、しょうもないことを言うから、それに釣られちまったじゃねーかよ!」

「辛辣ッ! いや、確かにスベったし、面白くなかったし、しょうもなかったけど、そこまではっきり言われると、流石の僕も傷つくぞ……。あと、釣られたのは僕のせいじゃないからな」

 

 お前が勝手に釣られただけなのに、僕に責任を押し付けるんじゃねぇ!

 

「いや、お兄ちゃんのせいだ。何を言われても、私は自分の非を一切認めないからな!」

「開き直りやがった!」

 

 しかも、得意げである。

 開き直った海月(みつき)に、これ以上言っても意味がないことくらい分かっているし、そろそろ話を戻すとするか。

 

「さっきまでの話に戻るけど、お前たちも犯人らしき人物とかには、一応気をつけとけよ。ちょっとした悪戯なら、別に放置してもいいんだろうけど、本当に呪ってこようとしてる奴だったら、また何かしてくるかもしれないしさ」

 

 こいつらと話していて、話が逸れなかった試しがないよな、ほんと。

 

「気をつけるけどよ、犯人らしき人物って曖昧すぎない?」

「それは仕方ないだろ、僕も犯人を見たわけじゃないんだしさ」 

 

 もし、僕が犯人を見ていたのだとすれば、お前たちに心当たりがないかどうかなんて聞いていない。

 

「それは確かに仕方ねーな」

 

 海月(みつき)にしては珍しく、あっさりと引き下がった。いつもなら、そんなの知らねーよとか、見てないお兄ちゃんが悪いんだろうがよとか、わけの分からないことを理由にして、文句を言ってくるはずなのに。

 

「あっ、もしかしたら、犯人は人じゃないかもしれないよ!」

「急に大声を出すな」

 

 日菜海(ひなみ)ちゃんがびっくりして、ベッドから転げ落ちたじゃねーかよ! まあ、怪我とかはないみたいだから、よかったけども。

 

「で、犯人が人じゃないかもしれないって、どういうことだよ」

 

 僕は海月(みつき)に問う。どうせ、馬鹿な答えが返ってくるとは思うが。

 

「私の直感? 予想? なんだけど、実は犯人が動物だったりしないかなって。ほら、タヌキとか、キツネとか、ネコとか、オコジョとか、そういうのこの辺いるじゃん?」

 

 やっぱり、馬鹿な答えだった。

 

「タヌキとキツネはともかく、オコジョはこの辺にいねーよ! あと、動物が蛇に五寸釘なんて刺すか!」

「だったら人間だって動物じゃねーか」

「揚げ足を取るな」

「取られるようなことを言う、お兄ちゃんが悪いんだよ!」

 

 前言撤回。海月(みつき)はいつも通り、わけの分からないことを理由にして、文句を言ってきやがった。まじで、気分屋過ぎだろ!

 

「もう、僕が悪いでいいから、今すぐその口を閉じてくれ……」

 

 こういうのはこっちが大人な対応をしないとな。きりがない。

 

「嫌だね! 口閉じたらケーキ食べれないもん!」

「そういう意味じゃねーよ! 僕は黙れって言ってんだよ! 黙ってケーキをもぐもぐしながら、大人しく課題してろ!」

「課題? 課題なら、もう終わったけど……」

 

 海月(みつき)は数学の問題集を開き、僕に見せつける。

 日菜海(ひなみ)ちゃん同様、所々、わざと間違えて、答えを見ていない風を装っている。

 

「それにしてもお前って、あれだな――」

「なんだよ、あれって。私に何か文句でもあんのか?」

 

 海月(みつき)はあからさまに、不満そうな顔をする。

 

「いや、字綺麗だなって」

「な、なんだよ急に――そういうのやめろよ、恥ずかしいからよ……」

 

 不満そうな顔が一変し、一気に赤く染まる。

 ちょっと褒めただけで、恥ずかしがりすぎだろ。褒めたこっちも恥ずかしくなってくるから、やめてくれ。

 

「お兄――」

 

 いつの間にかベッドに座って、課題を再開していた日菜海(ひなみ)ちゃんが、ペンを動かす手を止め、神妙な顔で言う。

 

「犯人はこの中にいる!」

「急にどうした!? やっぱり、さっきベッドから落ちた時に頭、打ったりしたのか!? 今すぐ救急車呼ぶから、ちょっと待ってろよ!」

「頭、打ってない――大丈夫。なんとなく言ってみただけだから。私、この台詞も一度、言ってみたかった」

 

 私、見た目は子供だけど、頭脳は大人だから、と続ける。

 

「いろいろと混ざってるぞ、日菜海(ひなみ)ちゃん。最初の台詞はコナンじゃなくて、金田一少年だ!」

「そうだっけ? なら、ジッチャンはいつもひとつ! かな?」

「全然違う! なんだよ、ジッチャンはいつもひとつって、そんなのあたりまえだろ! ジッチャンがふたつになったら、それはもうホラーだよ! それが一番大事件だよ!」

 

 ふたつって、ジッチャン分裂してるじゃん。ジッチャン、プラナリアかよ。

 

「私のジッチャンは4人いる」

「僕たちの家系はそんな複雑じゃない。というか、日菜海(ひなみ)ちゃん。お前はおじいちゃんのこと、ジッチャンなんて呼び方してないだろ」

 

 日菜海(ひなみ)ちゃんに限らず、僕の家族におじいちゃんをジッチャン呼びする人はいない。そもそも、今の時代、おじいちゃんのことをジッチャン呼びする人なんて、滅多にいないだろう。

 

「うん、康史(やすし)って呼んでる」

「おじいちゃんの名前は康史(やすし)じゃない。誰だよ、そいつ」

 

 僕の知り合いにそんな名前の人、いないんだが……。

 

「神社前のケーキ屋の店長の名前だよ?」

「どうでもよすぎる情報! てか、お前、なんでそんなこと知ってるんだよ!」

「左胸のところに付いてる名札に書いてあった。私、一度見た人の顔と名前、忘れたことないから」

「何気にすごくないか、それ。僕なんて、家族の名前くらいしか覚えてないぞ」

「それはお兄が人と関わらないからでしょ。家族の名前くらいしか覚えてないって、さすがにそれは良くないと思う」

「いやいや、他にも担任と委員長の名前は覚えてるって! あとは――」

 

 誰か、誰かいたはず……! 頼むから思い出してくれ、僕の脳……!

 

「お兄、もういい。そこまで頑張らないといけない時点で、覚えてないのと同じだから。でも確か、昔は――」

「ん? 何か言ったか?」

 

 よく聞こえなかったけど、日菜海(ひなみ)ちゃん、最後に何かを言いかけたような……。

 

「ううん、なんでもない」

 

 日菜海(ひなみ)ちゃんはそう言うと、申し訳無さそうに僕から目を逸らし、また、ペンを動かし始める。

 

「それじゃあ僕も、そろそろ課題を始めるとするか」

 

 僕は独り言のように呟きながら、床に置いた生物の問題集を開く。あいつらが机を使っているせいで、僕が問題集を開くスペースが机の上にないのだ。それに、スペースがあったとしても、椅子を海月(みつき)に使われているので、僕は立ってするしかない。それだったら、まだ床に座ってする方がマシだ。

 僕はシャーペンを走らせ、答えを写す。明日のテストで点が取れなくても、課題さえ提出しておけば、留年することはないだろう。いや、一桁とかだったらまずいかもしれないけど、そんな点はさすがの僕でも取らないはず――取らないよな?

 あれ、なんか自信なくなってきた……。確か、中間テストで一番低かったのが英語の22点で、その時は一応、答えを見ずに自分で課題をしたけど、今回の英語の課題は日菜海(ひなみ)ちゃんが全部してくれたもんな……。

 やばいよなこれ。やばいよなあ。

 はぁ、テストなんてなければいいのに。明日が来なければいいのに。

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